77話 地下二十五階
アルフレッドのガイドの御蔭で地下十六階までは迷う事も無く進み、罠に付いて知る事も出来た。罠は定番な物から、そんなの有りかよ~って言う物まで存在するらしいが、地下二十階未満の罠は全て強引に力で解除できるらしいが、二十階以降の罠は手順を踏んで解除しなければ成らないらしい。
そんな俺が掛かった罠は三つある……どれも定番過ぎて面白みに欠けるが最初は驚いてパニックってしまったのが恥ずかしい限りです。
一つ目は、おっさんの話の途中で何気なく入った部屋に閉じ込められた事だ。あの時は本当に焦ったよ、だって今まで部屋なんて無かったからドアを開けて入ってしまった。
それでも一応警戒してドアを開けっ放しにして入ったのに、入った瞬間にバタンとドアが閉まり四隅から丸い球体が現れ、ゴブリンが四体出現し戦闘する事になった。
普通は倒したらドアのロックが外れてドアが開くのだがドアが開く事は無かった、パニックになって扉を押したり引いたりしてもドアはピクリとも動く事が無くて、おっさんが開けてくれるまで自棄になって扉をバンバン叩き続け部屋から出た俺は、おっさんの説教を受ける事に成った。
そして最後に、あの部屋からの脱出方法を教えて貰った。
あの部屋は“中へ入る時は手前に引いてドアが開く”が、“中から外に出る時だけ引き戸に変わる”んだってさ。
俺は「何だそれ、そんなの有りかよ」って喚き立てたが、おっさんに「ダンジョン何だから、そんなの当たり前だぜ」と豪快に笑われたよ。
二つ目は、いつも通りゴブリンを数体まとめて倒し魔力結晶を集めている時の事だ。一個一個丁寧ひ拾い上げポーチの中に収めていると、一個だけ形が違う魔力結晶が在り拾い上げようとした瞬間に光だし、その光からオークが現れ強制的に戦闘する事になった。
これには流石のおっさんも焦ったらしいが、この罠なだけは何時起きるか解らないんだそうだ、共通点は魔力結晶の形が違う事、だから形だけで判断するしかないらしいが、こればかりはガイドでも読めないんだってさ。そうそう滅多に起きる事じゃないらしく、新人は珍しい結晶だから高く売れると思い拾い上げようとした時に罠が発動し命を落とすらしい。
俺も危うく餌食に成る所だった。オークを倒すのは簡単なんだが、ゴブリンとの連戦でゴブリンと戦う感じでオークと戦ってしまい、急には上手く立ち回れなかった。
今までは出来ていて当たり前の事だから気にしなかったが、ダンジョンだと全てを怪しまないと行けないと思わされた。
通常の外での場合だと、感知してから視認し距離を詰めて戦闘に入る事が多いし、不意打ちでも何処か頭の片隅に何処から来るか解らないと思う程の空間に成っているが、ダンジョンの場合は一本道に成っていて基本は前後と曲がり角に気を付ければ充分たりていた。
だからこそ、頭の何処かで安心しきっていたのだろう。本当に瞬時の頭と身体の切り替えが重要だって勉強になりましたよ。
三つ目は、典型的な床がパカっと開く落とし穴に嵌りましたよ……しかも棘棘が下で待ち受けているタイプの奴。おっさんが「待て!」と手で静止してくれたんだけど、歩いている時の重心までは止まる事が出来ずに、おっさんの手を摺り抜けるような感じで落ちてしまったが。おっさんの待ての一言で身体を止め様とする仕草と同時に剣に手を掛けていたのが幸いし、リべレーションソードを壁に突き刺して大事を回避する事が出来た。
そんな罠を潜りに抜けて地下二十四階まで辿り着いた。ここまで来るのに一ヶ月かかり、一階から二十階までゴブリンのみを相手に戦い続け、地下二十一階から別の魔物が出ると訊いて内心ワクワクしながら、地下に降りる階段を下ったのだが……出会い頭にゴブリンと戦う事になり、げんなりした顔で相手取る事になり。闇の日までは日が有るのに、おっさんに言って帰還結晶を使ってダンジョンを出て街に帰った事もある。
そんな感じで自分のペースでダンジョンを攻略して行く事が出来るのもアルフレッドが帰還結晶を所持しているのが大きい。帰還結晶を持っているのは大金を注ぎ込んで空の結晶を購入するか、相当の幸運の持ち主でダンジョンで手に入れるかだ。なければ階層ごとに置かれている帰還用の大型の結晶を使用して戻らなければならない。これは先駆者が置いてくれた物で、盗難防止のために態と大きい結晶を作り置いてくれたが『貴重な代物で十階層ごとにしか置かれていない』だから携帯できる帰還結晶を持っている者は、引っ張りだこになるはずだが……時代が流れると必要とする者が減ってしまった。
他にも先駆者達の用意してくれた物は在る。入り口にある転移結晶で行きたいフロアの結晶を嵌めて使う事により途中から攻略可能になる。そして、一番使われている階層は二十階で、そこでの稼ぎは効率が良く安定して稼げるために二十階から人でごった返し攻略と言うより観光になっていた。
「良いか兄ちゃんここに出てくるのはオークだが、最初のゴブリン同様に弱いが違うのはゴブリンの落とす結晶より高い。贅沢しなけりゃ結晶一つで四日は暮らせる」
試しに戦うことができ、確認の為軽く戦うが言われた通り十九階層のゴブリンの方が強かった。動きは遅く繰り出す攻撃力も見た目より全然軽く鼻歌混じりで相手しても勝てるぐらいだ。だが二十一階から徐々に見た目に近くなり攻撃に重さが増していき、二十四階からは見た目には想像出来ない速度で攻撃が繰り出され地面や壁を破壊してきた。
やがて二十五階に辿り着き。
「シュンこの階はテストだ! 二十六階からは一緒に行けねぇからよ、俺を安心させてくれ。たかがガイドとして一緒に居たけどよ、最初からずっと一緒にここまで来たんだ。お前が強いのは解ってる……だけどよ罠とかの危険がある。お前はソロで行く以上はそれが心配なんだよ」
いつも兄ちゃんと呼ぶアルフレッドが名前で呼んだと言う事は、本当に心配してくれているからだと直ぐに理解できた。
俺には兄と呼べるアランさんがいるが、此処で兄貴と呼べるアルフレッドを手に入れたんだと。
「分かりましたアルフレッドさん、次の闇の日が終わったら始めましょう」
二十五階を攻略したら、そのまま最下層を目指す事にし、ギルドで手続きを済ませ残った日にちをゆっくり休む。
そして、久しくステータスカードを出し見る。
「…………」
そっと体に戻しもう一回――。
「……………………」
二度三度と出し入れを繰り返し終いにはペラペラ振ってから、今一度見てから、枕に口を当て。
「もんがもんがああああ!!(なんじゃこりゃああああ!!)」
そこには!
シュン
人間/15歳/男
としか現れない。魔力操作も闘気も使えるのは確認済みだ。
属性魔法は平気に使えるし、何が如何なっているのか解らない。何が原因でこうなったんだろう。
ステータスカードに不安が残るが、地下五十層を目指す事には変わりは無い。理由は単純に師匠が通った道だからでもあるが、ダンジョンに付いての経験値がこの先で必要になるかもしれないからだ。
そして、今日から二十五層からの攻略が開始された。と言っても二十五層まではアルフレッドと一緒だ。
「兄ちゃん解ってるよな?」
「ああ、ちゃんと二十五階をクリアして安心させて見せますよ!」
その言葉を聞いてアルフレッドは笑顔を浮かべ攻略を開始する。分かれ道からオークが五対近づいてくる足音が聴こえ、剣を抜き魔法を詠唱し出会いがしらの先制攻撃を決めあっさりと倒す。
「そんな速さじゃ直ぐにバテちまうぞ!」
事ある事にアドバイスが飛んでくる。これはガイドとしてでは無く先輩冒険者としてのアドバイス。
そして、順調に罠を潜り抜け魔物を倒し地下二十六階へ通じる階段に辿り着き。
「に……シュン合格だ、ここまでの道のりでは問題はねぇ。だが、この先何があるのか解らねぇ。だから無理だと思ったら直ぐに戻って来い! いいか絶対に戻って来い!」
「え!? これ??」
「あげる訳じゃねぇからな。戻って来たら一番に俺の所に来て返しに来い! どうせガイドの仕事ねぇからよ」
「あ……ありがとうございます! 絶対に返しに行きます!」
「兄ちゃんが五十層に着く頃には、俺のガキが産まれてる頃だと思うから楽しみしてろよな!」
「あははは、楽しみしてます」
アルフレッドから帰還結晶を受け取り、シュンはアルフレッドに今日取れた結晶を全部を渡した。物語なら俺はこのまま次へ向かっているんだろうが、アルフレッドの知り合いが迎えに来るまで、その場で話し込んだ、かつては冒険者だったアルフレッドは地下四十一階まで行った事があるそうだ。その時までの道のりで経験した事、魔物の事を聞き。アルフレッドさんの仲間が向かえに来たのを確認し俺は下へ通じる階段を一歩一歩を降りていく。
この階段を師匠達が下り、アルフレッドも下りた。多くの冒険者達が何度も下りたであろう階段。みんなは何を考えて下りたんだろう。名誉のため? お金のため? 強さを手に入れるため? 俺はネイルさんとメイルさんが下りたであろう階段を下りながら、自分を見つめ直す。それは、一人ぼっちになった事でっ不安や恐怖が込み上がって来たため、逃げ出そうとする気持ちを振り払うために。
ここに来る前の自分なら逃げ出した事だろう。召喚される前の自分なら階段に足を掛ける事も出来なかったかもしれない。召喚された直後なら簡単に足を掛けているかもしれないが、それは遊び感覚で事の重さを把握していないからだ。
今なら歩ける。今なら本当に強くなれる気がする……いや本当の強さを知る事が出来るかもしれない。
階段を下りきった頃のシュンの顔は、何処か大人び始めていた。
のんびり更新になりそうです。




