76話 ダンジョンの街ダージリン(後)
アルフレッドと言うオッサンに肩を組まれギルドを出て、そのまま御馴染みの店、エプロンネコ亭に連れ込まれ。
「ガ八ハッハ、そうか兄ちゃんはダンジョンに付いて訊きたくてギルドに来たのか。まぁダンジョンに入っても特に注意する事はねぇぜ」
って言われても……一般常識が欠けてるから知りたかったんだけど。つーか何でエプロンネコ亭で飯食ってるんだ俺、オッサンは酒飲んでるしよ。
「って言われても俺には解りませんよ?」
「まぁ~ガイドを付ければ何とかなるって」
「そう言えばガイドって、どうやって探すんですか?」
ガイドを付ける方法を訊く為にもギルドに行ったんだ危ない危ない忘れる所だった。
「そうだな、今のご時勢だとガイドを専門にやってる奴何ていねぇからな。ギルドで声を掛ける事に成ると思うが、お前さん一人だけってなら無理かもしれねぇな」
「無理ですか?」
「ああ、ダンジョンってのはソロで潜るもんじゃねぇ。最低でも三人から五人のパーティーを組むのが普通だ。外のクエストでもパーティー組むのも普通だろう? 兄ちゃんだってパーティ組んで仕事してたんだろう?」
……返事出来ないな……パーティー組んだのって。フェイミィとゴブリン討伐。カノンさんと護衛依頼。他に在ったかな……思い当たらない、王都で戦ったけどアレをパーティーと呼ぶんだろうか……ファルクスさんと一緒にバッカスと戦い。バッカスと一緒に鎧騎士と戦った。治療だってドロシーさんと協同して当たったけど。そもそもパーティーって何だろう。
ゲームならパーティーを組むと恩恵があるんだけど、この世界でパーティーを組んでも何にも無かった様な気がする。相手の体力的な何かが見える訳でもなく、経験値的な何かが入ってくる訳でもない。パーティーって何なんだぁぁぁぁ。
「ええ、まあ。ペアで仕事してましたよ」
「はぁ? ペアだとペアってーとツーマンセルだろ? つまり二人組みって事だろ? お前出身何処の国だよ?」
「ええっと、に……フェルニア王国です」
あぶな日本って言いそうになったよ。
「フェルニアだあああ? 何で此処に来たんだよ。フェルニアなら未踏破のダンジョンが沢山あるじゃねえか? そっちの方が儲かるだろう。それに初めてなら初心者用のダンジョンだって在るじゃねえか?」
「お世話になったエルフの人に勧められたんですよ」
「そうか。まぁ~何にせよ、ツーマンセルしか経験ねえのか。なら望み薄だな」
「えっと、それは如何いう事ですか?」
「如何言うって兄ちゃん……本当に冒険者かよ。初歩の初歩じゃねえか。パーティーを組むのは冒険者になったら誰もがする事だぜ。しかもペアとか御話にならねぇ」
アルフレッドが言うには、パーティーは最低三人っと言うのは不測の事態に陥ってケガをしても一人がケガ人を運ぶか治療に当たり、もう一人がその護衛をするんだそうだ。そうやって生存率を上げるのが初歩らしいのだが、シュンはソロ活動の方が多くてパーティーとしての役割が余り解らなかった。周囲警戒は当たり前だけど確かにソロだと限界がある。その限界を助けてくれるのが危険察知スキルがある。それにアルフレッドが言ってるパーティーのメリットそれは荷物にある。
魔物を倒した時の討伐部位を持つ者、テントや食料を持つ者、回復薬を持つ者と分ける事にある。ポーションなど小さい物は、ポーチ等邪魔に成らない様な所に入れたりするが、それでも限界がある。その為に予備の回復薬を納めたリュックを用意するんだそうだ。
なるほど、だからパーティーを組んでる人達の中に一人だけ大荷物を持ってる人が居たんだ。他にも五人パーティで一人一人が袋を提げて歩いていたのは、戦闘に成ったら直ぐに地面に置けるようにって事だったのかな?
つまり収納魔法が無い人は大変だって事か。周囲警戒は二人で出来るし。ああ、でも俺が受けたのって近場のクエストだし本当の意味でパーティー組んだのって無いな。護衛依頼は周囲警戒するだけで御金貰えるし……何事も無ければ食糧だけの消費で終わるし。
「つまり何だ、兄ちゃんは若しかしてソロで潜ろうとか考えてたのか?」
「え、あ……はい。ガイドを付けてダンジョン内の事を訊こうと思って……」
「はぁ~。本当に舐めてるとしか思えねぇな。あの強さを見てなかったら、俺は兄ちゃんを怒鳴りつけてる所だったぜ」
「強さですか?」
「ああ、俺を組み伏せたじゃねぇか、もう忘れちまったのか?」
「いえ、忘れて無いです、でもあれは――」
「わぁてるよ。あれは俺が悪い……だがよ初めて来る奴の強さを確かめるのは、ある意味常識だぜ? 特に一人で来る奴はよ。俺が現役だった頃に居たんだよ、そう言う馬鹿がな」
「そう言う馬鹿ですか?」
アルフレッドが酒を仰ぎ一息付いてから口を動かした。
アルフレッドの言う馬鹿とは、外のクエストと違って依頼書を必要としないから、誰かに仕事を取られる事も期限に追われる事も無く自分のペースで稼げるため手軽に感じ、一人でダンジョンに潜る奴の事だ。
確かに最初の階層は強く感じさせないゴブリンが待ち構えている。だからこそ手軽に感じ易い。外だとゴブリン五対倒して初めて報酬である銅貨五十枚が貰えるが、ダンジョンの場合はゴブリンの落とす魔力結晶一つで銅貨五十枚貰えるのだ。そしてダンジョンと言う決まった場所で狩れるから尚更ダンジョンの方が稼げるのだ。そこで思いもしない出来事で命を落としてしまう。それは罠だったりと色々ある。その中で一番多いのは階層ごとで強さが違う事らしい。
シュンにはアルフレッドの言ってる事は多少解るが……。
「兄ちゃん誤解してると思うから言っておくぞ! 階層ごと強さが違うってのは魔物の種類が違うって訳じゃないんだぜ!」
「え? 俺はてっきりゴブリンからオークに変わるとか思ってるんですけど?」
「それが間違いだ! いや間違いって訳じゃないが……なんつーかアレだ。地下一階のゴブリンと地下二十階のゴブリンの強さは別物だ! 先に言っておくが地下二十階まではゴブリンしか出ないぞ」
「うへぇ~ゴブリンしか出ないんですか……流石に飽きますって……それ」
「まぁ~誰もが通る道だぜ! 殆どのダンジョンはゴブリンかグリーンウルフが多いはずだぜ」
どれも嫌ってほど戦いましたよ……。
「兄ちゃん顔に出やすいな、うんざりした顔がクッキリ出てるぜ」
ポーカーフェイス……ポーカーフェイス……って出来るかーい。
「兄ちゃんがどんなゴブリンを狩ったか知らないが、そいつら如何だった? 同じ強さだったか?」
「え? 多分……あ、いや遭遇した場所で少し違うかも知れない……どうだったかな?」
アルフレッドの言葉で今まで戦ったゴブリンの強さを考え始めるが、ゴブリンの強さ何て考えた事が無い。でもアルフレッドの言ってる事は理解出来ない訳じゃない……。
最初にアーレンで出会ったゴブリンは強かったかも……でも、それは俺が剣を振るうのが素人だったからかも知れない。ならランディールでは如何だ? あの時はフェイミィが倒して漏れてきたゴブリンを倒しただけだから、強いのか解らなかった。ドルデ荒野で遭遇したゴブリンは如何だろう……強かったのかな? 最初は戦い難かったけど地形に慣れたら直ぐに倒せた様な……。王都で受けたゴブリン討伐は……ん~ん同じだ、全然強く感じなかったな。森とか草原で戦ったからかな……何時も通りって感じだった気がする。ん~解んないな~今度からそれを踏まえて戦うしか無いな。
「如何やら思い当たる所が無いようだな」
「はい……森や草原では気になりませんでしが、荒野で戦った時のゴブリンには少しだけ苦戦しました。と言っても直ぐに慣れたんで、強さに付いては解りません、それに最初に戦った時は剣に慣れてなかったので比較は出来ません」
「なるほどなぁ。一応合格だ! 兄ちゃんのガイドは俺が引き受けてやる」
「え? でも俺ソロですよ? おっさ……アルフレッドさんが言ったじゃないですか、ソロやペアは御話にならないって」
「もう……おっさんで良いよ。つまり何だ、俺がゴブリンの話しをしたら普通はどれも同じだって即答するが、兄ちゃんは深く思い出してまで考えたんだ。そこまで素直に話しを聞く奴なら遣っても良いと思ったんだ」
「えっと……有り難うございます、アルフレッドさん」
「おう、それに俺だってダンジョンで稼ぎたかったし良いって事よ」
「え、でも元冒険者なら普通に復帰できそうな……」
「事情があんだよ! それよりガイドの報酬は手に入れた魔石の三割の金額だからな忘れんなよ」
「はい!」
こうして、トントン拍子にガイドを雇う事が出来た俺は、闇の日が去って直ぐにダンジョンに潜った。初めてのダンジョンと言う事で緊張もしたし、楽しみで前日は寝付くのに苦労もした。それと、初めての失敗談もしっかり手に入れた。
「ここが地下ダンジョンの入り口だぜ! 暗いから足元に気をつけろよ、直ぐに一階に着くからな」
そうなんだ、まぁ俺には暗視スキルが在るから暗くても大丈夫。
「ぬあああああああああ、目があああああああ……目があああああああああ」
「どうした兄ちゃん!?」
「まぶしい……」
まさか最初の入り口だけ暗くて、一階に着いた途端に昼間の様に明るく成ってるなんて思いも寄らなかった。
しかも徐々に明るく感じる様な事が無いのが無性にムカついた。
アルフレッドに散々笑われ目が治るまで説明を聞くと。ダンジョンの出入り口は暗闇だが後は昼間の様に明るいらしい、罠などで急激に暗くなったりするが基本は気にしなくて良いと教えてくれた。
何故ダンジョンが明るいのかって言う疑問にも答えて貰えた、それはダンジョンに出現する魔物に関係するらしいが憶測に過ぎないから、明確な答えじゃないと付け足された。
目が治り記念すべき初ダンジョンの一階を見ると。
「わーお。壁とか人工的に作られた様に良く出来てますね。俺てっきり洞窟とかを想像してました」
ブロックやレンガを積み重ねた様に綺麗に整備されて出来ていて、まるでゲームの世界を思わされた。
そんな綺麗に出来ているダンジョンの壁をベタベタ触りながら感心しているとアルフレッドに「何してんだ?」「早く行くぞ!」などと先へ行く様に促された。
分かれ道が来るまでは一本道と成っていて、昔遊んだ事がある緑で出来た迷路を思い出した。あの時は幼稚園児で家族と逸れて寂しくて泣いてしまい、親に保護されるまで大変だったな。
その時の思い出に浸っている時間を与えては貰えず、アルフレッドに次の角からゴブリンが来ていると言われ剣を抜いた。
「うお! ゴブリンだ! 何か俺の知ってるゴブリンと色が違う」
見た事があるゴブリンは緑色と茶色だ! 緑はアーレン、ランディール、王都で戦った奴だ。茶色はドルデ荒野で戦ったゴブリンの事だ。だがこのダンジョンのゴブリンは赤色のゴブリンだ。
あの時エプロンネコ亭での話を思い出し。取り合えず観察してから戦ったのだが。
「弱いですね……今まで戦ったゴブリンの中で一番弱いかもしれないです」
「だろうな、地下一階だから一番弱くて当たり前だぜ……っと話してる間に魔力結晶が現れたぞ、ささっと拾っちまいな」
「本当だ! ゴブリンの姿が消えてポツンと宝石みたいなのが落ちてる」
ダンジョン攻略はこうして何事も無く着々と進んで行き。アルフレッドのガイドを頼りにして地下十五階まで進んだ。
最初は怪しいオッサンだと思ったけど、今じゃ頼りになるオッサンだと本当に思う。だけど、オッサンをガイドとして付けれるのは地下二十五階まで、そこからはガイドを付ける事は出来ない。ガイドを付けられるのは安定している二十五階までだ。理由は地下二十六階からは闇の日に成る度に道が変化するらしい。その話を聞いて俺は「闇の日に二十六階とかに居たら如何なるんですか?」と訊ねた所。言葉に出来ない現象が起るらしい。地震の様な揺れと共に地面が動くらしい。
「さて、ポーションの補充も出来た事だし寝るか」
今日までの流れを思い出しながらポーションを補充したり、味が付いている栄養ドリンクと栄養剤を造り収納してからベッドに付いた。




