75話 ダンジョンの街ダージリン(前)
「にいちゃん右から来てるぜ♪ ……て、もう倒しちまったか……相変わらず早いねぇ」
「もう、ここに来て三週間経ちますから。気配と足音で何となく解るようになりました」
「ほほぉ、獣人でも無いのに足音で解るのか……だが過信はするなよ。万が一に同業者を殺っちまったらお尋ね者に早や代わりだからな」
アルフレッドと言う獣人のオッサンが狼耳をヒョコヒョコ動かしながら周囲の音と臭いを嗅ぎ分けながら、俺に話しかけてくる。俺はその忠告を静かに聞いて頷いた。
「周囲には何も居ない様だぜ、今のうちに魔力結晶を回収しちまいな」
俺は、その言葉を聞いて一つ一つ魔力結晶を拾ってポーチの中に収めて行く。
魔力結晶……それは、ダンジョンで倒した魔物が跡形も無く消えた時に現れる結晶だ。魔力石と同じ様に中に納まっている結晶だ。質の悪い魔力結晶でも高品質の魔力石の三倍は魔力が収まっている……しかし魔力石と違って加工する時に手間が掛かる為、一般の家庭に復旧するのが難しいと言われている。
品質の違いとしては、宝石の様に綺麗に色濃く透き通った物ほど純度が高く。色が濃くても透き通って居なければ純度が低いとされている。ちなみに空になるとガラス玉の様に無色になり砕け散る。
「十五階まで来ても、魔力結晶の純度は変わらないんですね……」
「まあな。純度が上がるのは二十階からだぜ。何にしても、にいちゃんなら直ぐに辿り付けそうだぜ」
魔力結晶を全て回収しポーチに入りきらなくなり。
「ポーチがパンパン何で。そろそろ帰りましょう」
「お? そうか、んじゃ帰還結晶を使うから近くに来な」
シュンが近くまで来ると、アルフレッドはポーチからアメジスト色の帰還結晶を使い、ダンジョンの入り口の近くまで転移した。
「うお!? 何度経験しても、びっくりしますね……」
「その気持ち分かるぜ、俺も慣れるまではそんな感じだったからな」
帰還結晶はダンジョン専用アイテムで、魔力が入って無い無色透明の結晶を手に入れ、潜っているダンジョンで手に入る魔力結晶の魔力を透明の魔力結晶に移すことで精製される。
階層ごとに取れる魔力結晶により帰還出来る階層が決まってしまうので使う際には何処でも良い訳ではないが、継ぎ足す事が出来るので階層が増える度に魔力結晶を帰還結晶に移す事で帰還範囲を広げる事は出来る。
精製する際の注意点は、移す魔力結晶は一つのダンジョンからでないと精製出来ない事。昔他のダンジョンと併用しようと精製した者が居たらしいが、その際大きな爆発を起して大惨事になったらしい。
そして、無色透明の結晶は手に入り難い。入手方法は一つだけで、ダンジョン内で魔物が落とすらしい。
ダンジョンから定期便の馬車に乗って一番近い街に戻り冒険者ギルドで手に入れた魔力結晶を換金しアルフレッドに分け前を渡す。
「何時も悪いなにぃちゃん」
「俺は今の所お金に困って無いんで良いんですよ」
「んじゃ。また明日な兄ちゃん」
「はい。明日もお願いします」
ガイドの普通の取り分は、その日の成果の二割から三割が普通なのだが。シュンは五割渡している。本当は一泊の宿分を引いて全額渡しても良いのだがアルフレッドは『流石にそれは、受け取れねぇ』っと言って何とか半額で受け取ってくれた。
お金に困って無いからって言う理由だけじゃなく。今のアルフレッドにはお金が必要だからだ。
その理由は定番な借金では無く、これから産まれて来る子供の為に必要となって来る。普通の出産なら今までの生活と貯金で何とかなるのだが、逆子で帝王切開で取り出さなくては行けない状況に陥りそうなのと、奥さんが傷が残るのを強く嫌がっている為に上級ポーションを買う為に一生懸命働いている。
元冒険者のアルフレッドは奥さんの為に、何度も何度もダンジョンに潜ってソロで狩りに行こうとするが奥さんに止められ、ガイドの仕事と実家の酒場で必死に働いているが、給金は余り良くない様だ。ガイドはダンジョンに潜る者が望まないと仕事に成らず。今の現状は皆先輩や知り合い等と言った縁で十分廻っていてガイドを不要として廃れはじめている。偶に他所の土地から来た者がいる時にガイドを付けるが、冒険者をしながらガイドもしている者に仕事を取られてしまう。どんなに街で一生懸命働いてもガイドで貰える取り分の三割の方が大きく直接戦闘に参加しないので慣れた者に取っては簡単な仕事なのだ。アルフレッドは周囲警戒をしてくれているが別にしなくていい。ダンジョンの罠や魔物の説明をするだけで良い。
何故狩りがダメでガイドが良いのかは、ハッキリ言って仕事が取れ無いからと言う奥さんの自論だ!! 奥さんと会った時は凄く睨まれたし、あの人に何かあったら許さないって言われたが、正直ウサギ族の奥さんが怒っても可愛いと思った。
だが同時に悲しませたくないと強く心の中で誓った瞬間でもあった。
さて、そんな俺とアルフレッドが出会ったのは、この“ダージリン”と言う街に三週間前に訪れ冒険者ギルドでガイドを探している時に遡る。
「へぇ、ここがネイルさんとメイルさん、そしてドロシー学園長が潜ったダンジョンが在る街か……ぷは」
街に入ろうとすると門の上の方に看板が在り、そこにはダージリンと書いてあった。
「紅茶の名前かよ。ダージリンの茶葉が取れるんだったら、茶葉を調達出来ると良いな」
長くは無い列が動いていき、自分に順番が回って来た。
「ようこそ、ダージリンの街へ。身分を証明する物を見せて貰おう」
ギルドカードを渡しながら門番の質問に笑いを堪えながら答えるのには、少し苦労したが難なく街に入る事が出来た。
質問されたのは、この街に来た目的何だが、ギルドカードを見せるとダンジョンが目的だと、門番も直ぐに理解をして、『ダンジョンに潜るのか?』と『どの位のペースで潜るのか』と訊ねられた。俺は取り合えず、『ダンジョンに潜るのが初めてだから、ガイドを付けある程度までは毎日潜ります』とだけ答え。馬車を預けられる宿を紹介して貰い宿を取った後ギルドに直行した。
そのままダンジョンに向かう事は出来るが、先ずはダンジョンに入る前の注意事項などの説明を聞く事だと思う。ゲーム等で説明書を読む前にプレイする事は在るが、ここでは命など関わる場所で一歩間違えれば知らないうちに何か遣らかして捕まってしまうかも知れないからだ。
なのに……何なんだあああ!!
ギルドのドアを開けた瞬間だれも居ないって、無用心にも程があるよ。偶々なのかも知れないと思い、暫く待ち、そして在る物が無い事に気付いた。
くどい様だが、ギルドにはクエストボードと言う物が在る。ボードが無いなら壁に貼って在ったりする。前者はアーレンとランディールで、後者は王都だ。因みに壁に貼ってあったり机の上に置いてあっても依頼書が纏まって在れば、それを総称としてクエストボードと言うらしい。
そう、このギルドにはクエストボードが無い。壁や机を見ても受付のカウンターを見ても何も無い。別に建物を間違えた訳でもない。ちゃんと看板には『ダージリン冒険者ギルド』と書いてあった。字を読み間違えて無ければの話だが……。
「本当に誰も居ないし、誰も来ないな……」
何度か声も掛けたが返事も無い。二階以上は基本立ち入り禁止で、資料室等には職員の同行か許可を得られないと入る事が出来ない。
ギルドだし待ってれば来るだろうと思い机に突っ伏して待った。
「二十四時間営業のギルドが機能して居ないとか驚きだよ」
何気なく言葉が出てしまったが反応は無い。
二時間は待ったかも知れない。さっきまで明るかったが夕暮れ色に染まり諦めて帰ろうと思った頃合いに、微かだけど足音が聞こえた。
変則的な音でギシっと偶に床の軋む音が何とか拾える程にだ! もし床が痛んでなければ足音は聞こえなかっただろう。
その足音は少しづつ俺の背後に近づいて来る。
何で足音消して近付いて来るんだ? そう言えば以前ネイルさん達が言ってたっけ? ギルド内だからって気を抜いちゃダメだって。
物取りや新人を騙したりする奴が居るかも知れないと。全員が善人とは限らない。ギルドカードの発行をする時は、一応調べたりするが、それでも発行される時はある。それに発行した後に道を間違えてしまう者も居る。
一度発行すると指名手配されるか、余程の事が無いと取り消される事は無いって。
近付いてくる気配が俺の背後に来た瞬間に闘気を纏って一瞬で後ろを取り、手首を掴んで膝に蹴りを入れ、体勢を崩させ床の上に組み伏せた。
「いてて、折れるぅぅぅぅ腕が折れちまう…… 俺は敵じゃねぇから放してくれ………」
その言葉をすんなり信じた訳では無いが、武器を携帯しておらず戦意も無いから、取り敢えず手を放して離れた。
「俺はアルフレッドって言うもんだ」
「俺はシュン」
いきなり立ち上がって名乗られ反射的に名乗り返してしまった。
「門番のダチに聞いたな……いてて……今日ダンジョンに潜りに来たルーキーが居るってよ……会ってみたらルーキーじゃ無かったけどよ」
組み伏せる時に痛めた所を摩りながらギルドに来た理由を話して、シュンの警戒心を解こうとするが、シュンの目は未だ疑いの眼差しを向けている。
「ダンジョンに潜るのは初めてですけどね」
「ああ、確かにな。外のクエストでしっかり稼いでたってのは、さっきので証明してもらった訳だし。ダンジョンが始めてってのは頷けるな」
「何でダンジョンが初めてだってのは頷けるんですか?」
「それはな……まぁ~座って話そうぜ。怪しむのは分かるが、少なくとも敵意は無いし、今の兄ちゃんの疑問だって答えて遣れるんだからよ」
アルフレッドと言う狼耳のオッサンが先に席に付いて、向かい側に座るように手で促す。
「分かりました……で! おっさんは俺の何に頷けて、どんな疑問に答えられるんですか?」
「お!? おっさん! 俺は、まだ二十九の御兄さんだっつーの」
俺の実年齢と一つしか変わらないじゃないのかよ……パッと見で三十後半かと思った……ああ、確かに良く見ると二十代に見えなくは無いな。老けて見えるのは傷痕が原因かな……耳も片方が切れてるし……こう言うの何て言うんだっけ? 猛者? 歴戦のなんたら?
出てこない単語を考えていると。
「あ~、兄ちゃん本題に入って良いか?」
「え? ああ、すみません。どうぞ」
答えが出る前に意識を引き戻され、アルフレッドが話を始める。
「先ずは、兄ちゃんが何でダンジョンが初めてなのが解ったってのが、兄ちゃんの疑問の答え何だぜ」
「ふぇ?」
「ダージリンは勿論、ダンジョンで潤ってる街や村には休業日が存在する」
「休業日? ギルドって休みが無いんじゃ?」
「ああ、普通はそうだな。だがよ、ダンジョンには『闇の日』と言うのが在る! 月が満ちる日とされている、簡単に言うと満月だな――」
「満月の日は魔物が強くなるって言う奴か」
「人の話は最後まで聞けよ兄ちゃん。強くなるんじゃねぇんだよ。“消えんだよ”!」
「消える? って何がです?」
「次の階へ行く“階段”がだよ! 階段だけじゃねえ、ダンジョンに入る“入り口”も、出入りする為の“魔力結晶も使えない”だから、闇の日の前日から『ダンジョンに入るのは禁止』されているんだぜ」
「そう……だったんですか……ん? あれ? 何でギルドが休業日何ですか? しかも鍵開けっぱなしだし、それに攻略済みとは言え、踏破する為だったら普通に闇の日が来るんじゃないんですか?」
余りに無用心なギルド。攻略されているとは言え、ダンジョンは一番奥まで進むのが普通のはず。奥に行けば行くほど魔物は強くなって行き、手に入る物も高価な物になるはず何だが、どう考えても“月は週に一度は満月になる”っと言う事は、『決まりで攻略は出来ない』って事だ。
「ダンジョンに入れないのは解りましたが、俺の疑問の答えは含まれてないですよ」
「兄ちゃんの疑問はギルドに人が居ない事だろ? それはな、ダージリンのギルドは『ダンジョン専用ギルド』だからだ! 詰りダンジョンが闇の日はギルドは休業な訳だ」
「それでも、疑問が一つ残ります! 何で鍵が掛かってないかです」
「それは、ギルドの決まりだからさね!」
「「!?」」
アルフレッドと会話をしている時、不意に二階から女性の声がして振り向くと、ローブを着た女性が階段を降りながら話しに入って来た。
「マスター……シャルファール」
「この人が、このダージリンのマスター……ですか」
てか、ギルドに居るとは言え、俺ってギルドマスターに出会う確立高くね?
「話し声が聞こえるから来て見れば、闇の日に来た運の悪い冒険者君にレクチャーしている、アルフレッドの姿があるじゃない」
クスクスと笑いながら、俺達が丸いテーブルに向かい合って座っていたが、シャルファールが同じ席に付き、三人で向かい合わせに座る事に成った。
「さて、運の悪い冒険者君の疑問に私が答えようさね、鍵の件は『ギルドの理念である街の住人の安全』のため。と言う事で“避難場所”の一つとして使う事に成っている為に施錠は禁止されている。アルフレッドが言った通り、ここはダンジョン専用ギルドと成っているから、普通のクエストは一切ない。ただし、外敵の襲撃など住民に被害を与えるような出来事には、“強制的に参加”して貰う事に成っているのさね。因みに君が心配の一つとしている、金銭を狙う輩が来るかも知れないと言う考えには、こう答えよう。私の前を通らないと金銭が手に入らないと」
「なるほど……」
「さて、一つ誤解を解いて置こうさね。君が心配している、最下層までの道のりの際に闇の日が来るから、ダンジョンの攻略が出来ないと言うのは誤解さね。ガイドが付けれる地下二十五階まで行けた者には、攻略を許される決まりと成っている。だから二十五階まで行き攻略する気が在るなら申請書を出すと良いさね」
「わかりました」
「うん、と言う訳で今日は帰ってくれると嬉しいんだが、他に知りたい事があるなら、アルフレッドに訊くといいさね。何せ元ここの冒険者だから、君の疑問には答えられると思うさね」
どうやら追い出したくて説明してくれた様で、アルフレッドに肩を組まれギルドの外に誘導されギルドをでた。
本当に遅い投降になってしまいました。
このまま不定期投降は何時まで続くのだろうか……
気持ち的には一年で完結させる積もりで執筆していたので、6月に終わらせる気満々だったのですがヤバイです。本当に思うように執筆出来る様なりたいです。




