72話 亭主代理ゲット
魔力を視認する事が出来るように成ったのは良いが、最後の難関である魔力操作が残っている。シュンは、久しぶりに魔道具屋アイルに帰り、店のドアを開けると、商人ギルドの紹介で派遣して貰ったルーミーさんが、切り盛りしていてくれた御蔭で休業する事無く、お店は無事に営業してくれていた。
「お帰りなさいシュンさん」
「ごめんね。お店の事、全部まかせて」
「いえ、マユ様から事情は聞いてますのでお疲れ様でした。不足している品を、此方の紙に纏めましたので、補充して頂けたらと思います」
で、出来る人だ! 本当に出来る人だ。ルーミーさんの御蔭でお店が潰れずに済んだよ。って言うか、俺を使いに使いまくった、ギルドマスター二人に何を請求してやろうか……。報酬の事は、何一つ言ってないんだからね!! 覚えてろ!!
「お店で残ってるのは、アイシス式ポーションと……ん?」
「どうなさいました?」
「いや、ポーションのビンが普通のビンだから――」
「ええ、ポーションが切れそうだった時に、マユ様にお願いしてランディールに在る魔道具屋さんから、分けて頂けないかと、使いを出しましたらポーションと味付けされた栄養ドリンクを、それぞれ二百五十本ほど頂けたので出しました、勿論お客様にも説明しまして納得頂けたうえで、お買い上げになって貰いました」
マジで出来る人だわ……。ルーミーさんが店主すれば、絶対お店が安泰な気がする……間違いない。
シュンは、部屋の奥にある作業場で、メイル式ポーションを造るべく作業に集中する。ここで、魔力を見ると言う事も同時にする。
今まで魔力を見ずにやって、桶の中で動く葉っぱの動きだけで作業をしていたが、魔力が見えると全然違った。
揺れるはずの葉っぱが、全く動かず水面と桶の真ん中で、綺麗に保ち。桶の水が綺麗な緑色に変わって行く。
そうか、ポーションは魔力で出来てるから、水に色が付くのか。見えなかった時は、ただの水にしか見えなかったのに。そう言えば、アイシスさんは俺の造ったポーションとかを見て、『ムラッ気があるわね』とか『良いできよ』って言ってたのは、魔力が見えてたのか! もっと早く気付いていれば……。今は悔やんでる場合じゃない。
たしか、魂を定着させる方法は、魔力を常に一定に放出してムラ無く塗るだから。右手で魔力を放出して、それを左手で伸ばして行く感じ何だけど……。妖精がその動きを見せてくれたから間違い……でも実際にやるとしたら。急には出来ない。
ネイル式ポーションを造りに造り、知らないうちに魔力の限界に挑戦していた様で、途中で意識を失う。次に起きたのは、次の昼に変わっていて、毛布が掛けられていた。ルーミーさんが見に来て、掛けてくれたのだろう。
錬金術を行い、ネイル式ポーションをビンに詰め。陳列棚に並べて。今度は栄養ドリンク改を造り、解毒薬各種も順調に造り終わり。
「そろそろ休憩になさいませんか?」
「何時も店の事を任せて済みません」
「いえ、仕事ですから」
仕事以外の事はしてくれないのね……とか一瞬思った俺って、酷い奴だな。
「戻るなり作業場に閉じこもってばかりですし、外の空気でも吸いに散歩とかどうでしょう?」
「そう……ですね。済みませんが、後の事お願いします」
ルーミーさんの言う通り、部屋に閉じこると息が詰るし。街をぶらつく事にして、店を見て回るが。勇者を送リ出す祭りが終ったら、あんなに沢山あった店が無くなっている。
今まで、いろいろあり過ぎて、ゆっくり街を散歩するなんて久しぶりだな……。商人ギルドの赤字覚悟のセールとか見たかったな。
魔法玉を購入した場所に行ってみるが、あの亭主も勇者の追っかけの様で、その場所には別の店が開かれている。いろいろ見て回ってみるが、本当に目新しい物は無く。お粗末なポーションと出来の良いポーションの値段が逆だろうと思える店は、ちょいちょい残ってる。
勇者グッズは、未だ健在なんだな……。ファンがいっぱいで、羨ましい事で。街で擦れ違う人の服には勇者のプリントが入っているし。子供に至っては、親に我が侭を言ったんだろう。木で出来た勇者の剣とか鎧、そしてマントまで着て歩いている。ちょっとした広場では、勇者ごっこをして、どっちが悪者か喧嘩してる子達も目に映った。
同じ異世界人でも、まるで住んでる世界が別の様な気がしてくるよ。芸能人と一般人みたいな?
何処か休める場所が無いか探すと、丁度テラスがある喫茶店があり立ち寄った。
「紅茶を一杯頂けますか?」
「コーチャで宜しいんですか?」
「え? 何か不味い事でも?」
「あ、いえ、コーチャを飲むのは貴族様しか居ないので、お高いですよ?」
ああ、そうだったね。ハーブティとかは、一杯銅貨二枚で飲めるのに、紅茶になると銀貨一枚だ。
「紅茶で大丈夫です」
銀貨一枚を渡して、椅子に座って紅茶が来るのを待った。
本当はミルクティが好きなんだけどね……しかもロイヤルの方。紅茶の茶葉って何処で売ってるんだろう? 今度マユさんにでも頼んでみるか。
紅茶を受け取り、魔力操作について考え始める。
魔力を塗るって、如何やって練習するんだろう。って息抜きの為に来たんだ、考えるの辞め! はい終わり! 終了!!
時間が無いからって焦るのは駄目だと自分に言い聞かせ。無理に魔力操作に付いて考えるのを止めるが、また同じ様に考え始め、そして強制的に辞めるを繰り返す。
駄目だこりゃあ。無限ループに入っちゃう。ちびっ子でも見て和もう。
勇者ごっこをしてる子供達を見て、昔の自分を重ねる。
昔あんな事したな、なんたらレンジャーごっことか本当に懐かしい。外で遣ってる姿を、思い出すだけで恥ずかしくなるな。ああ言うのは、子供の特権だね。
「御茶の御代わりは如何でしょう?」
「お願いします」
銀貨一枚をさっと渡し、二杯目を飲みながら。広場を眺めながら、寛ぐ事が出来た。
「あれ? シュン? 何してるのこんな所で?」
「ああ、カノンさんお久しぶりです」
初めて受けた護衛依頼から一度も会ってなかったから、結構久しぶりな気がする。相変わらずカノンさんの髪は、綺麗な金髪で癖の無い髪だな。
「ちょっと休憩してるだけですよ」
カノンは、シュンの向かい側の椅子に座り。
「何飲んでるの?」
「紅茶ですよ」
「コーチャ何て飲んでるの? よく頼めたね。高くない?」
「美味しいですよ、飲みます?」
そう言って、店員さんに彼女の分もお願いしますと言って、自分の御代わりも頼んだ。
「ギルドに顔を出してないのに……そんなに稼げてるんだ」
「ギルドには顔を出してますけど、カノンさんに会えないだけですよ」
冒険者ギルドに訪れる事は確かにある。だけど用があるのは、ギルドマスターと牢屋だけで。受付とかに顔をだす事は無いから。数人の冒険者と擦れ違うだけで、冒険者が多く集まり易い場所は通らなかったから、なお更だ。
「美味しい!」
「でしょ!」
テラスで、紅茶を飲んでるカノンさんの姿は、綺麗だった。写真が存在するなら残したいと思える程に。
「ところで、カノンさんは何故ここに? 冒険者ギルドのある区画からは、少し離れてますよ?」
「これを買いに行く為よ」
カノンがテーブルに置いた物を見て、シュンは一瞬硬直する。それを見て、知らないの? と言う顔で、話しが始まる。
「このポーションは、凄く効き目があってね。直ぐ売り切れちゃうんだけど、今日行って見たら、新しく補充されてたから買っちゃった」
「そう、ですか……」
それ、俺が造ったんですとは言えず。カノンさんの絶品するアイシス式ポーションに付いて、聞かされ続け。何でも値段は普通のポーションと変わらないのに、効き目良し、見た目良しで女性冒険者に人気なんだそうだ。蓋が犬耳で可愛いから試しに買ったら、効き目も良かったから気にいちゃったんだって。
造った本人としては、アイシス式とメイル式で造ったポーションが見分けが付けられなくて、そうしたんだけど……思わない効果が在った。それに使い終わったビンには、調味料を入れたりと再利用しているらしい。
「本当はエルフの耳が付いたのが欲しかったんだけどね……銀貨五枚は、ちょっと手が出にくいのよね。何でも、効き目が犬耳ポーションより、ずっと良いんだって、もしもの時の為に一つは欲しいわね」
お客様の生の声をここで、聞く事になるとは思いもしなかったな。
「後は別のお店でね、可愛いぬいぐるみを売ってるお店が在ってね、そっちにも行ったんだ、クマの縫いぐるみが可愛くて」
カノンが小さいクマの縫いぐるみを取り出して、見せてくれた。何でも今の流行りらしい。
女性って流行に敏感だな……。
本当はもっと大きい縫いぐるみが欲しかったらしいが手が出ないらしく唸っていた。その姿を見て微笑ましくて幸せな時間を感じた。
「でも。本当に大きくて可愛かったんだよ! 私と変わらない大きさで、金貨十枚だよ! 何時に成ったら買えるかしら」
確かに高いね。…………使える。練習に使えるかも。
「カノンさん、そのお店って何処に在ります?」
「シュンも縫いぐるみ買うの?」
「ちょっとね」
なになに? 好きな子にプレゼント? とか言って、ニヤニヤしてるよ。恋バナも好きですよね……女の子……ん? カノンさんは女の子? お姉さんぽいから、二十代前後に見えるけど……訊くか……いや、辞めよう、女性に年齢を聞くのは……超怖い気がする。
何とかはぐらかして、お店を聞き出し。御茶の代金を払って、喫茶店を出た。カノンが『紅茶ごちそうさま』と言ってたけど。内心では此方こそ、お買い上げ有り難うございます! と言いたかった。
カノンさんが、言ってた縫いぐるみ店に着き。百六十cmは在りそうなクマの縫いぐるみを見つけ。他の縫いぐるみとセットで買い。
魔道具屋に戻るが帰り道で、“デカイクマの縫いぐるみ”をおんぶしてる姿を見て、周りから恥ずかしい視線を浴びながら帰る羽目になった。
何とか視線に耐えながら、魔道具屋に戻り。ルーミーさんに日頃のお礼を込めて、クマの縫いぐるみを渡した。流行ってるからと言う理由で、買ったんだけど……喜んでくれるか不安だったが。
「わ、わ、私にですか! ……ありがとうございます……」
と頬を赤く染めて、喜んでくれたので、取り合えず成功したと言えるかも知れない。
在庫は、それなりにあるから。デカクマちゃん……正式名称は、亭主代理を魔力を出しながら塗ると言う作業の、相手役として使う。
何で亭主代理かって言うと、購入時に名前を縫い付けますよ? って言われ、咄嗟に思いついたのが、それだったからだ。
亭主代理を使って、ずっと練習をし始めるが、魂を肉体に定着させると言う行為が、凄く過酷な事だと痛感しながら、ひたすら、亭主代理を相手に繰り返した。時折、商品補充の為、一日開けたりとするが。出来るまで続けた。




