69話 勇者より医者が欲しい!!
夕方にドロシーが戻り、アリールさんを診る為に、王城に入り。レイアに案内され、アリールの眠る部屋に入った。
彼女の傍まで行くと。痩せ細り慎重に抱き上げなければ、ポッキリと折れてしまいそうな程危うく、今すぐに治療を開始しなければ、何時亡くなってしまっても可笑しくなかった。いや、今の状態だけでも奇跡だと誰しもが思うだろう。
「確かに闘気が微弱ですが流れてますね」
「そのようだね、魔力の方は確かに感じられない」
シュンとドロシーは、手早く検診を始める。レイアの許可を得たが、テイラー王の許可を得ていない為、非公式で彼女を診ている。何時、誰が来るか解らない、時間との勝負だ!
確かに、闘精練病とも魔力衰退病とも取れ、どちらでもない状態だ。どう調べれば良いんだろうか。闘気の方は薄っすらと見えているが、魔力の方は何も感じない。エルフのドロシーも、同じ様に思っているのだから、間違いは無いだろう。
「ドロシーさん、如何思いますか?」
「どうって? 私も君と同じ様に思うんだが? 闘精練病であり魔力衰退病でもあるが、どちらでもない」
やっぱり、そうですよね。仮に、どちらでも在ったら、両方とも末期症状なんだけど。
魔力衰退病なら、魔力が無い状態が末期。闘精錬病なら眠りに付きながら、暴走して闘気を練っているなら末期症状で獣人なら、そこから自我失って獣に先祖返りする所だが。彼女はヒューマンだ。
寝ながら闘気を練ると言う所は、ブレンさんから教えて貰った。アイシスさんが魔道具屋に来なかった日は、それが原因だったと。
仮に闘精練病だとしたら、なぜ目を覚まさない? アイシスさんは二年前に発祥しても、目を覚まし生活を送っていた。それは獣人だから? ヒューマンの彼女には、目を覚ます事が出来ないのか? でも獣人は闘気が無いと生活が出来ないと教わった。ヒューマンは、闘気を練れなくても生活は出来る。
解らない……何も解らない。合ってるのか間違ってるのか解らない。もっと情報が欲しい。
「レイアさん。アリールさんが、この様な状態になった頃の話しって聞けますか?」
「すみません……その頃の私はアランの事が遭ってから、部屋に閉じ篭ってしまって……」
ああ、そうですよね。最愛の人が帰って来なくて、部屋に閉じ篭ってたんだっけ? 参ったな。
「あ! お姉様の専属メイドだった彼女なら、何か知っているのかもしれません。今は、私のメイドをしているので、呼んで来ます」
アリールさんの御付をしていたのに、倒れたら別の人に付けられるって如何いう事なんだろう? てっきり最後まで付くモノだと思ってたよ。
俺は後ろを向いて、ドロシーに彼女の身体を診て貰っている。幾ら治療の為とは言え、断りも無く女性の裸を見るのには抵抗がある。
「こ、これは! シュン!」
「は、はい!」
「一つ解った事がある! こっちを向くなよ」
「す、すみません」
解った事があると聞き、咄嗟に振り向きそうになるが、ドロシーさんが静止してくれて、何とか踏み止まり。そして、ドロシーが服を着せている時に、丁度リアラがメイドを連れて来た。
「お待たせしました、彼女が御姉様の専属メイドをしていた」
「コニーと申します。以前はアリール様の専属のメイドとして働かせて戴いておりました」
「始めましてコニーさん。早速で悪いのですが、アリールさんが倒れてから、今の状態に成るまでの話しを聞かせて貰えませんか?」
勇者召喚の儀式に付いては秘密である為、話して良いのだろうかと考えてたコニーに向かって、レイアが大丈夫と頷いて見せ。
「畏まりました、私はアリール様と一緒に、勇者召喚の儀式に必要な魔法陣まで赴き、彼女をずっと見守って居りました」
勇者召喚の儀式が始まってから、長い詠唱を唱え魔法陣が光だし勇者が現れ。その直後にアリール様は倒れたと、その時は魔力の使い過ぎで、直ぐに回復すると主治医が言っていたが、その通りにならず。彼女の魔力は衰退するだけだった、急いで魔力回復薬を飲ませるも、吐き出してしまい。飲ませる事が叶わなかった。そのまま寝込んでしまい何時しか魔力を失い、今の様に闘気を出しているんだと。
つまり何も解んない、お手上げ状態って訳ですね……、でも薬を吐き出すって所が気になる。もし薬が完成しても飲んでくれないんじゃ意味が無いし。
「話してくれて、有り難うございます」
「いえ、私の様な専門知識が無い者が言っても、あまり御役に立てなかったと思いますが」
「いえいえ、薬を吐き出すって情報が無かったら、きっと原因が判って薬を飲ませる時に、そこで躓くかもしれませんでしたので、充分に助かりました」
話し終えたら、コニーさんは仕事が残ってるのだろうか、そそくさ戻ってしまい。また部屋の中は三人になり。
「シュンいいか?」
「あ、はい」
「先ほど彼女の身体を調べた時に判ったんだが」
ドロシーが言うには、彼女の闘気は態と弱々しく出ており、闘気が身体を循環しているのかもしれないと。自分の身体を使って、闘気がどの様に動いてるか説明してくれている。
その様子を注意深く見ると、頭、首、肩、心臓、腹、腕、足と言う感じで、指の先から足の先まで、同じ箇所をグルグル回っている中で一箇所だけ少し強めの闘気が在るそうだ。
シュンは、循環と心臓を結びつけ。闘気は彼女を守る為に動いてる物だと仮定し、考え直してみる。勿論だが、シュンの持つ知識は乏しい。調合に関しては、メイルの残した書物のみ。現在医学に関しても、知っている物は少ない。その知識は、テレビで覚えた物で曖昧に覚えてるだけ。だけど、心臓なのは確かなのかもしれない。
「ドロシーさん、彼女は心臓が悪いのかもしれない」
「何!? 君は何故そう思うのかね?」
「心臓は身体中に血を巡らせる為の器官だからです」
どうやら、俺のこんな中途半端な知識よりも、この世界の医学は進んでいない様で。ドロシーさんの反応が若干だが薄く、もっと話せと目で訴えている。俺は頑張って、無いに等しい知識を振り絞って説明する。
「食べた物は、血となって身体中の栄養となります。それを満遍なく送り出す為には、“心臓が必要不可欠”なんです!」
「シュン? 何を言ってるの? 心臓と言うのは、私たちの心が詰っている場所よ。だから、ドキドキしたりするのよ?」
そう来たか……。心拍数を如何やって説明すれば良いんだろう。如何しよう……そんな知識ないよ。自律神経とか言っても解らないよね……俺、緊張しやすくて、ドキドキを抑えるため、少し調べたけど、そんな深く、調べた訳じゃないから……。
「ごめんなさい、俺にもっと知識があったら、レイアさんに説明が出来るのですが……」
アイシスさんの時もそうだけど、本当に医者って凄い。解り易く伝え、患者と家族に説明して安心させたりするのだから。それに引き換え俺は、中途半端な物言いで、混乱させている。
「そうですか……でも、もしシュンが言っている事が、本当なら御姉様は治るのですか?」
「何とも言えませんので、原因のヒントが少し掴めただけですから」
「そうだね。ここで吟味しても、意味が無い。シュン! 詳しくは学園で聞こう」
一旦部屋を出て、フェルニア学園に戻る事になる。
シュンが思う事が確かなら、アリールさんは闘気を使って血液を送り出す為に、カテーテルと同じ事しているのかもしれないと。
じゃあ魔力は何処から来ているんだ……。闘気はザックリ言うと感情と言っても良い。闘気を使い過ぎると弱気になる。なら、魔力は何? 以前魔力を極限まで使ったら、夢枕にたったメイルさんに、使いすぎると死ぬって言われた……魔力に付いて知らないと、この問題は解決しない。
「くそ……メイルさんが居れば……」
「シュン、気持ちは解るが。その様な事は言わない方が良い。それは彼女達が頑張って命と引き換えにしてまで、邪神を倒した事を否定する事に繋がる」
「すみません」
そうですよね……本当に駄目だな。ネイルさんとメイルさんに逢いたいよ。そんな、気持ちで今は溢れている。だけど、立ち向かわないと、アランさんと約束したんだ夢の中で。やろうとした事を頑張るって。
学園に着き、夜中の学園長室で、ドロシーに向かって心臓の役割に付いて、一生懸命説明するが、リアラさんと同じ事を言われる。『心臓には心が詰っているから、ドキドキしているのでは?』と。
シュンは、出来る限り話した。何とか無理やり納得させるのに、朝まで掛かってしまい、一旦、考えを纏める為にも休む事にし。今は使われていない教員用の仮眠室を借りて眠る事にする。
「絶対、納得してないよね……ドロシーさん」
心が何処に在るのか何て、上手く説明できないよ。脳に記憶を司っている海馬とか何とか言われても、確かに解らないよね……俺だって解らないもん。魂が在るとか無いとかだって、アーレンで皆の魂が天に帰る姿を見るまで、俺だって信じられなかったし。
説明するのは勿論だけど、もう一つの問題も解決させないと、さっきの説明が無駄に成る。
魔力は、如何やって生まれ、如何やって使われているかだ。だけど、如何やって調べれば良いのだろう。
シュンは、魔道書を全てだし、魔力に付いて調べる。メイルさんの愛読書にしていた魔道書から、メイルさん直筆の魔道書の基礎編から手を付け調べていく。
こう言う基礎ぽい話しは、基礎編の頭にあると思って居たのだが、如何やら基礎編には、魔力を感じる事に付いて書いて在るが。望むような事は書いてなかった。取り合えず出来る限り読み、手掛かりに成る物を探さないと。
俺の考えてる事は、魔力の回復だけど。その治療には薬だけじゃなく。治療が必要だ! 薬で全てが治るとは限らない。そう思っているのだが……この世界の人達は如何なんだろうか……。応急手当は在ったけど……最終的にはポーションだとかの薬を頼って終る。
ポーション下級は、軽い傷なら瞬時に回復する。質が良い物だと、深めの傷を負っても傷口を塞いでくれる。
ポーション中級は、深めの傷は瞬時に回復する。自然回復力を暫く上げてくれる。
ポーション上級は、複雑骨折でも瞬時に治す。
ポーション奇跡級は、如何なる状態でも瞬時に回復すると伝えられている。製造方法不明。
ポーションの級ごとでも、質の良さで良し悪しで決まり、回復量が違う。
だからなのか……みんなケガに関しては、ポーションがあれば、助かると考えてしまうのかもしれない。
それでも、病気に関してはだけは、ちゃんと診察して、薬を調合して治すって手段を取っているのに。身体の器官を詳しく知ろうとしないようだ。
それは、俺にも言える事だけど……それは、俺がいた世界では、ちゃんと医者がいて見てくれるから、安心しての事だ。
「この世界には、勇者より医者の方が必要みたいだね」
俺は、メモを一通り取ってから、眠りについた。
年内にアランの思い人編を終わらせたいですね。




