65話 年間報告……謁見の間にて
シュンが目を覚ますと、マユ伯爵家のゲストルームのベッドの上だった。身体中に痛みが走ってはいるが、動けないほどじゃない。
「あれから……どれだけ時間が経ったのかな……」
ドアをノックする音が聞こえ、返事をすると執事が部屋に入ってきた。
「御身体の方は大丈夫でしょうか?」
「ええ。痛みはありますが、動けない程ではないです」
「御嬢様から、伝言を御預かりしてます。『私は、このまま年間報告に行きますから、貴方は御休みなさい』っと」
「!! マユさんが発ってから、どれくらい経ちましたか?」
「それ程経っていませんが、追いつく前には王城に着いてると思います」
「それでも……俺いきます!」
シュンは体を起して着替え。今度こそ相棒を手放さない様、背中に掛け、何時もの黒い服で屋敷を出て、フェルニア学園向かう。
「皆のもの集まったか」
王城の謁見の間で、玉座に座ったテイラー王を、ギルドマスターのバートランとマユ、フェルニア学園の学園長ドロシーが膝を付いて、王を見上げている。
病で臥せていたと言うのは本当なんだろう。何処か顔色が悪く、その声には覇気がない。今にも倒れそうで、本当なら年間報告を中止させる所だが。この行事は代々受け継がれているから、行なっているのだろう。
いつも通りの年間報告を執り行い。それぞれの現状を伝え。一人一人手に持っている書類を、経理や人事を担当を纏める者に渡して行く。
冒険者ギルドは、今年受け入れた新人の数と、それぞれのランクの数、そして、兵士や騎士として国に仕える者の書類を渡す。
商人ギルドの方では、王都に店を持った者の数と問題点を纏めた書類渡す。
フェルニア学園は、新入生の数を纏めた書類を渡す。
「これにて、年間報告を終わりとする」
テイラー王が玉座に立つ前に。
「お待ち下さい、テイラー王よ!」
「何だ? ドロシー」
「一つ、ここで明らかにせねば、成らぬ事があります! それは、今の王の身体に障る事ですが、構いませんか」
テイラー王は、確かに自分でも体調が悪いのは自覚している。だが、自分よりも長く生きている、ドロシーが、この場でその様な事を言うのは珍しい、余程の事なんだろうと察し。
「……それは、何だ」
「フェルニア国を、転覆せし者がおります」
「!?」
テイラー王は絶句し、椅子に深くもたれ掛かる。その様子を心配する場に居る者達に御構い無く言葉を続ける。
「彼の者は、他の国と取引をし、自分が実権を握った際に、この国の貴重な資源である魔力石を渡す積もりです」
「何を言っている貴様!! 父上の身体に障るだろ!!」
「そうです! お父様は、御身体が悪いのです!! 場を弁えなさい!!」
「黙れ小僧共!! 君等がしっかり勤めていれば、この様に成らなかったのだよ!」
第一王子と第二王女は、ドロシーの威圧に押され黙った。他の出席者も同じく畏縮する。
「ふん!! この程度の威圧で畏縮するとは、たかが百年で此処まで落ちてしまったのだね」
バートランとマユは、ガウマン公爵の方を見て。
「ガウマン公爵!? 随分と汗が酷いようですが大丈夫ですか?」
「きょ、今日は暑いですな?」
「そうですか? もう直ぐ、アクアリア様を祀る時期なので、私は少々肌寒いですよ?」
「じょ女性は冷え性の方が多いからでは?」
ガウマンの顔は、汗でびっしょりで、ハンカチで顔を拭いているが、顔だけでは無く服も汗でビショビショになっている。視線もマユに合わせる事は無かった。
「我がフェルニア学園の方針である、実戦経験を踏ませる為に設けた、ギルドと連携して生徒用に用意されたクエストに手を加えた輩が居てね。どうやら我が学園の生徒に魔法石を密輸させた者が居て困っていたのだよ」
ドロシーがガウマンに目を向ける。ここまで露骨にやれば、謁見の間にいる、全ての者が理解し。ガウマンに視線を向けた。
「その様な輩が……早く捕まるといいですな!!」
まだ。白を切るガウマンを弁明する者が無く。視線を送ってる者は見守ることにした。三人の言う事が、もし本当なら、下手に庇い立てすれば自分が危ないと理解し、何も出来なかった。
「俺の方からも問題がありまして、不振人物を捕らえ尋問をしたのですが、そいつ等は闇魔法で操られて、リアラ第三王女を暗殺する様にと暗示を掛けられていたのですが?」
「そ……その様な輩が居たのなら、何故報告をしないのだ!! 貴様の報告が無いから!! リアラ第三王女が亡くなられてしまったのだぞ!!」
周りが『そうだ、何故報告しなかったんだ』と野次を飛ばし。
ガウマンはニヤリと笑った。今までは、下手な事を言えば、増す増す自分に嫌疑が掛かるかもしれなかった。だが、今回のバートランの発言は、ギルド側の不手際である。本来なら王族に関わるような大切な案件は、報告するのが義務なのだが、それを怠ったのだから。
「馬鹿か、バートラン! それを切るのが早すぎんだよ」
周りからの野次の声以上にドロシーが張り上げ。バートランは、怯みながら謝罪した。
「貴様は!! 冒険者ギルドのマスターとして、相応しくない!! この場で裁かせて貰うぞ!! 皆の者!! それで良いか!!」
話しを摩り替えるべく、ガウマンがここ一番と声を張り上げた。
「お待ち下さい!! 私は生きています!!」
謁見の間の扉が開き、リアラが入ってくる、その後ろに、剣を提げているシュンもいた。
「「「……な!!」」」
全ての者が驚き息を呑んだ。
リアラは、玉座に座るテイラー王の前に行き顔を見せ。シュンは三人の下で立ち止まる。
「お父様、私はドロシー学園長先生の御厚意で、フェルニア学園で暮しておりました。私を殺そうとする者が、頻繁に襲い掛かって来るので、死んだと偽装したのです」
テイラー王は、死んだと思っていた愛娘が生きていると知り、喜び涙が流れた。
「お父様、ドロシー学園長先生が仰る事は本当です、ですから三人が言う事を最後まで聞いて欲しいのです」
アランを失ってから、塞ぎこんで引きこもり。昔から城を抜け出す事意外、我が侭と言う我が侭を言わなかった、レイアが初めての我が侭と言える御願いをしたのだ。王としてでは無く、一人の親として。
「あい、解った」
周りはその言葉を聞き、謁見の間で静寂が生まれる。
「シュン、良いタイミングでレイア様を連れてきたね。御蔭で助かったよ」
「マユさんに置いてかれたので、お城に入るのにレイアさんが必要でしたから」
「バートラン、さっきの続きを続けるんだよ! 皆、最後まで聞いてくれるからね」
「お、おう」
周りの目が、ガウマンに向かうが。
「どこに行くんだ、ガウマン公爵殿?」
ガウマンが扉から逃げ様としたが、その前にバッカス軍団長が立ちはだかった。
「す、すこし、模様したくなりましてな」
「少しなら我慢すれば良かろう!!」
バッカス軍団長に腕を掴まれ、謁見の間の中心にまで連れて行かれ。全ての視線で動きが取れぬように監視される事となり、バートランの話しが再開する。
「ギルドで捕らえた、暗殺者と誘拐犯に尋問をし、供述を取った所、数名を残し皆がガウマン公爵の屋敷に招かれ、ある部屋に通された所で意識を失ったと言っておりました!!」
「言い掛かりだ何の根拠ががる!! その者が嘘を言ってるに違いない!!」
「ギルドには、真実かを調べる、真実の水晶があるのをお忘れですか? ガウマン公爵」
「……」
「その事に付いて述べよ、ガウマン公!」
黙ったガウマンに、テイラー王が問いただす。
「それは濡れ衣だ!! 私の屋敷に入っただけで、私は何もしておらぬ!! そうだ、その者が勝手に我の屋敷に侵入したのだ!!」
「そう言い張るか。なら、何故その者が暗殺をする様な暗示を、貴方の屋敷で掛かるのです?」
「そ、そんな事は、知らん私の家の者が勝手にしたのだろう、私は裏切られたのだ!!」
「誰にだね?」
バートランとの押し問答では埒が明かないと、ドロシーが入った。
「そんなの、知らん。我の雇った者の中に、よからぬ輩が居たんだ……そうに違いない!!」
「そんな訳は無いだろうね。何故ならガウマン公爵の屋敷には奴隷しか居ないのだから。裏切れる訳がないんだよ。しかも不当にも、闇の奴隷商が使う刻印を刻まれているのだから、裏切るような行動を一つでも取れば、刻印に刻まれた魔法が発動して死ぬのだから」
ガウマンは間者が紛れる事を恐れる余りに、闇の奴隷商に大金を払い、自分のメイドと執事に奴隷刻印を刻みつけてしまっている。闇奴隷の契約は、傍から見ると奴隷には見えないが、戒めが強く制約以外の事をすると刻印が働き激痛が走り、命を落とすとされている。
一方通常の奴隷には、“身に着けなくて成らない物”がある。
犯罪奴隷には首輪を付けられ。アクセサリー系のネックレスや腕輪等は、本人の希望または、主人の趣味で決められる。
これが奴隷契約の決まりに成っている。制約を破ればそのアクセサリーから、強い刺激で苦しめるが、死ぬ事は無い。
それと“過度な体罰は法で禁じられている”が、それを守る者は殆どいないのが現状なのが、心苦しい所だ。
「……」
「ガウマン公爵、この招待状に覚えはありませんか? 私貴方の主催した社交界に出席したのですが? 勿論、貴方の演説も聞きましたのに、覚えて御出ででないのですか?」
ガウマンは黙り、視線を窓や扉の方ばかり気にしだしている。
「帝国からの援軍はきませんぞ! ガウマン公!! 私の懐刀であるモンド上級騎士と帝国にいる友人であるベルセ殿が、進軍を止めていますから!!」
「ぐ……」
ガウマンは観念したのか、その場に座り込み項垂れた。テイラー王は、静寂した謁見の間を見渡し。
「これで、終わりの様だの」
「テイラー王、まだですぞ! 俺は、ガウマン公爵の差し金でと言ったのは数人と申しました!」
「他にも居るのか?」
「これは、テイラー王にも覚悟いる話ですが宜しいか?」
テイラー王は、暫し黙り込み。
「言ってみるが良い」
「はっ。そこに居られる、第一王子マルクス様と第二王女アルフィス様も、ガウマン公爵と同じく、レイア様の暗殺を企てておりました!!」
「嘘だ!!」
「ありえないわ! 何処にそんな証拠があるのですか!!」
さっきまでの、ガウマンとの遣り取りと、同じ事を繰り返すのが億劫になっている三人は、威圧で二人を黙らせ。王は深く息を吸い。気丈に振舞おうと。
「……それは、真か」
「残念ながら……僭越ながら我がギルドの方で調べさせて戴きました。それと、申し上げ難い事なのですが、冒険者ギルドのマスターの中に二人に加担した者が居りますが、尻尾がまだ掴めておらず、調査が難航しております」
「二人の事は後に回そう。今は、そこのガウマン公を裁かねばならぬ」
王は、言葉を失いつつ近くに居る兵士に、牢へ連れて行くよう促し。第一王子あるギルファーと第二王女であるアルフィスは、抵抗するがそのまま、扉の向こうへ消えていった。
「どうした? ガウマン公? 全てを話す気になったのか?」
ガウマンは、行き成りスッと立ち上がり。
「ハハハハ。この国はもう終わりだ!! 私が国を導かねば滅ぶぞ!! 外交の席に着かぬ者には解るまい!!」
ガウマンは、突然笑い出し、演説を始める。その言葉には思いの丈が詰っているのを、皆が理解する。
「ある国は武力に秀でて!! ある国は魔道具の開発により発展し!! ある国は多神と交信できる神官がおり!! それぞれには、多くの鉱石や資源があるばかりか、ダンジョンの攻略を着々と進めている中で!! 我が国は何だ!! 武力も魔道具もダンジョン攻略も!! 何も進まぬでは無いか!! そんな我が国が出来る事と言ったら何だ!! 青臭い子供を召喚する事しか出来ないではないか!! 魔物と戦うのが怖い当たり前だ!! 賊と戦う時は、人を殺したくない?! そんな悠長な事を言う青臭い子供に頼り切っているこの国が可笑しいのだ!! そんな子供の我が侭に振り回される何て、私には我慢できない!! 何が勇者だ!! そんなのに頼る国なんて、いっそう滅んでしまった方がマシだああああああああ!!」
ガウマン公爵の身に着けている、指輪やネックレス等の小物が黒く光、謁見の間を包んだ。
お金が貯まらない自分に絶望中
何時になったらPC買えるんだか
1000文字打つのに四苦八苦してます




