64話 買っといて良かった? 良くなかった?
鎧騎士に、大釜を砕かれ収納魔法から、他の武器を出す暇を与えてもらえず、攻撃を避けながら、後ろに後退していく。
鎧騎士の攻撃からは闘気と言うモノが感じられず、闘気では無く。“魔力を身体に纏っている”魔力を纏う事の出来る者は、限られてくる。
魔力を扱う事に長けてる種族か、“魔族”。
「強い……くぅ!」
鎧騎士の攻撃は、鋭く正確だ!! こちらの急所を完璧に捉え、剣が迫ってくる。重量型の鎧の割りには速い。鎧騎士からは、何も感じられない。攻撃する時、多かれ少なかれ気迫を込めて、声や息使いが聞こえる筈なのだが、それさえ聞こえない。聞こえるのは鎧が擦れる音だけ。
「剣さえ、あれば」
魔法は使いたいが、場所が悪すぎて使えない。近距離のスタンは効くか解らない。エアカッターは外せない。
バッカス軍団長やメイルさんの様に、近距離様の魔法を覚えてれば……。
「何してるんだ小僧!! そんな奴、さっさと倒せ!!」
「「「そうだそうだ」」」
野次が飛んで来るのが腹立つ。お前らの為に戦って無いって言いたくなる。
「……!?」
鎧騎士が、何故か俺に群がり五対一となり、避ける事しか出来なくなった。
全部で五体か……逃げ回って見渡した限りだと。俺の目の前にいる五対以外はいない。倒すのは五対!! でも如何やって? 避けるので精一杯の俺に、如何しろと? 武器はない。使える魔法は使い所が難しい……。
「く……」
「でかした小僧!!」
「我等の最大魔法で、その騎士を倒す!!」
何を?
「「エアカッター!!」」
「ファイアポール!!」
「フレイムボール!!」
「「「「ファイアボール!!」」」」
「「サンドボール」」
うそ! ばかああああああああああああ!!
「マユさああああん伏せてええええええええ!!」
シュンは急いで、マユの下へ走り、マユはシュンの指示通り伏せ、マユが保護した人もマユの近くに居た者も真似して伏せる。
「苦手なのに……やるしかないか!」
シュンが魔法を避けたのは、結界が張られ密封した空間での魔法の使用だ。シュンが使うか迷った魔法は幾つもある。どれも威力が強い訳じゃないが、何が原因で“粉塵爆発の様な現象”が起こるんじゃないかって恐れて使わなかった。
なのに馬鹿貴族達は自信満々にやってしまった。馬鹿が放った魔法は、見事に鎧騎士に命中して、特大の大爆発が起こった。
炎や火の魔法は風魔法に寄って威力を高め、土属性の魔法は砕け爆風と共に辺り構わず砂の刃となって飛び散った。
「く……? ……如何やら……爆発は収まった見たいです……マユさん、無事ですか?」
「ええ。シュンの御蔭で、服が汚れるだけで、済みました!」
シュンが放った魔法は水の防御魔法のウォーターウォールで上手く、四隅にいるマユさん達を守る為に張った、壁際だったから一面だけ張っただけで、結界の様な形となっていた。
何とか爆風を遣り過ごしたが、屋敷に張られていた結界と、シュンの張った防御魔法の後ろ一部を残して何も無くなった。生き残ったのは、マユとシュンそして、運良くシュンの魔法の範囲に居た数人だけに成ってしまった。
鎧騎士は、鎧を汚しただけで、何も無かったかの様に動き出して向かって来た!! シュンは、槍を出して、鎧騎士を迎え撃つ!!
解ったのは、鎧騎士に魔法が効かない。あれだけの大爆発が起こったのに、鎧が汚れただけって言うのは在り得ない。邪神なら在りえるかもしれないが、邪神じゃないのは確かだ。魔力以外は何も感じないからだ、気迫も威圧も感情さえも感じられない。
「はああああああああああ!!」
槍での攻撃も上手く闘気が乗らず槍気には成らないが、槍の造りが良かったのか壊れずに何とか立ち回れている。
ぐん! カツ! コツ! ギュン!! ガツン! コツツン!! 鎧に攻撃しても、全く刺さらず切れずに鎧に当る音だけが、響き渡っている。
「槍気にならなきゃ駄目か……」
剣気や槍気は、武器の強度を高めるだけでは無く、威力も高めてくれる。良い武器になれば成る程、闘気が乗り易く、威力も高い。逆に悪い武器は闘気が乗り難く、流す闘気が武器の許容範囲を超えれば壊れ易い。
シュンが直面してるのは、武器が悪い訳じゃない、ただ単に武器が馴染んでいないだけ。五体の攻撃には、もう目は慣れ情報を集めるだけ集めていく。槍気が使えれば倒せてたのかもしれないが、無い物強請りはしない。
この世界に来て身に付いた、弱音を吐こうが、泣こうが、諦めようが、どんなに下手でも相手を観察し、どんなに醜かろうが勝とうと観察する事! それが生き抜く事だと。
こいつら、やっぱり定番の無人騎士だな……でも確証は無い。確かめる為にも、兜を飛ばすしかないか。
「確かめさせて貰う! はああああああああああああ!!」
鎧騎士の振り下ろされた剣を避け、槍を下から上へと振るい、兜だけ狙い弾き飛ばし。兜が宙を舞い。カランカランと地面に落ちて転がる。
「やっぱり、無人騎士か」
兜を飛ばされた騎士は、何事も無かったかの様に剣を振るい、兜は自然と元の位置に戻った。
そして、少しだが魔法を放つ隙を見つけられ、試しにエアカッターを放つが、盾に当り防がれ――。
「ん? もう一回、エアカッター!!」
盾に当るとエアカッターは消え。鎧騎士は一瞬止まり、鎧騎士の魔力量が上がった。
可笑しい、魔法を吸収しエネルギーに変換できるなら、何であの大爆発を吸収しなかったんだ? 俺が思いついたのは、一度に複数の魔法は吸収出来ない。それか、許容範囲を超えた魔力も同じく吸収出来ない。どちらも定番か……。
闘気は如何なんだろうか……果たして、本当に剣気や槍気は通じるのか?
シュンは自然とダガーを出現させ、左で構え剣気を纏わせ、態と盾に攻撃して傷付けてから、鎧全体に攻撃してみる。
「ふぅ~。よかった闘気系の攻撃は効くのか」
盾に傷が付き、鎧にも細かい傷が無数に付いている。それから、傷が付いている鎧騎士に向かってエアカッターを連続で放つ。そして鎧騎士は盾で吸収し傷を癒した。鎧にもエアカッターを当てて見ると、吸収せず、普通に弾かれた。
成る程、厄介無いのは盾だけって感じかな? 盾で魔力を吸収し鎧の傷を癒す。と言う事は、大爆発したあの魔法は効果が無かった訳じゃ無いみたいだ。確かに爆発に巻き込まれてダメージは受けたが、盾で吸収もしてたから、破壊と再生が繰り返されていたって訳かな? 実際に検証して見ないと解らないけど。そんな大魔法はレベルが高すぎて使えない。
俺が倒せる方法は、闘気での戦闘一択だ!!
槍と薙刀に闘気は纏えない。打撃武器の棒とトンファーも同じ。今の俺に闘気を纏えるのはダガーのみ。槍を収納しダガーを二本を構え、気持ちをさらに引き締め。鎧騎士との戦闘を繰り広げ行く。
ダガーはリーチが短い、だから剣術よりも深く懐に飛び込まないと決定打に成る攻撃が決まらない。だからこそ危険、だからこそ超接近戦には有利!! それに持ち込む為には、速度だ!! 速さで翻弄し、速さで懐に潜り込み、速さで手数を増やして攻撃をする。
「もっとだ! もっと早く!! もっと、もっともっとだああああああああ!!!」
シュンを纏う闘気を殆ど足に回し、今まで経験した事のない速度で五対の鎧騎士を翻弄していく。背中に回る度に、数え切れない程の無数手数で斬りつけ、敵が振り向く前には、別の鎧騎士に狙いを変え、後ろに回って同じ作業を繰り返す。そして少しずつだが、亀裂が入り始めて行く。
「はああああああああ!!」
そして、とうとう2体の鎧騎士を破壊する。それと同時に、二本のダガーも折れてしまう。ユニップで気に入って購入した武器はどれも、半人前の弟子の作品だから安く売られているが、そこら辺の鍛冶屋でも新人が使う物としては充分な出来前なのは保障済みだ。ただ使う者と対峙する相手のレベルが武器の許容レベルを超えていただけの話し。
ラスト二本のダガーを出し、三対の鎧騎士に同じ作戦で戦って行くが、またしても二対を破壊した時に、ダガーが折れ、もう剣系の武器は無い。薙刀を剣と呼ぶのか槍と呼ぶのか……。
薙刀を出し、最後の一体と対峙するが――。
「!? 何が……」
最後の一体に倒した鎧騎士が集まり形を変えた。今まで普通の人間と同じサイズだった、鎧騎士が三メートル程に巨大化し、そして――。
ドンっと言う地面を蹴った音共に、サイズに見合わない速さで、襲い掛かってくる。
「く!!」
薙刀で受け流すが、重さが尋常じゃない。受け流した刃が地面に衝突し、地面に深めの切り傷を付ける。そして、シュンの反撃は鎧に傷つける事なく。空しい攻撃の音を響かせていく。
「くぅ! 闘気が……」
薙刀がボロボロに傷付き今にも折れそうな所を、上手く使って攻撃を防いで行く、そして、少しずつ感じを掴み。
「これでどうだああああああああああああああ!!」
薙刀に闘気が乗り、槍剣気と成って、鎧騎士に回転して攻撃を放つが、鎧騎士の盾に阻まれ、ぶつかり合い御互いの力が燻り合ってい、地面を凹ませて行く。そして、ボロボロの薙刀が堪えきれずに壊れ、シュンは盾で吹き飛ばされ結界に衝突し反動で前のめりに倒れた。
「う……かてぇえな……ゴホ……」
吐血し体中からは、避けている時に掠った傷が広がり、血が流れ始める。鎧騎士は今まで見ていた、マユ達に狙いを変えて歩きだし。
「待てよ!! お前の相手は、俺だあああああああああ!!」
シュンは吼え、槍を出し。構え全身全霊を掛けた突きを、鎧騎士に放つために走り出す。
「はあああああああああ!! でいやあああああああああああ!!」
薙刀で掴んだ感覚を失う前に、全て込めた闘気を圧縮し槍に槍気を乗せ、回転を加えた突きを鎧騎士に放つ。そして、その攻撃も鎧騎士は反応して盾で防ぐ。
「こんな所で……負けられないんだああああああああ!!」
衝突しあって、シュンが押し始め。
ピキピキピキパリーンと砕ける音が響いた。
鎧騎士の盾が砕け、シュンの槍も砕け散る。シュンは、ぶつかり合った力の反動で吹き飛び、鎧騎士は重さで、その場に踏み止まり、シュンに向かって止めを刺す為に歩いてくる。力の源でもある盾を失ったからなのか、その歩みはゆっくりで、ぎこちなかった。
さっきの突きに闘気を全部乗せて放った為に、反動で身体に痛みが走り動けずに鎧騎士を見つめ。
「やっぱり……使い慣れない武器を使うと……こうなるのか……身体中が痛いや……」
ボロボロの体で立ち上がろうにも力が入らず、動かせるのは腕だけ。シュンは右手を鎧騎士に向け、指鉄砲を作り、護衛依頼の時に造った魔法を放とうとするが、手が震えて狙いが定まらずにいる。
「……焦るな……これで終らせないと……」
左手で手首を掴み、魔力を集中させ圧縮し。何も考えず鎧騎士に向かって放つ。
「これで……終わりにしよう……ぜ!」
シュンは発射と同時に意識を手放した。
シュンが放った魔法の玉は一筋の弾となって、鎧騎士の体に当り鎧騎士は粉々に散り、貫通した弾が結界を貫いて、結界を破壊してみせた。
少しの静寂が生まれ、何も起らないと解り。
「やったあああ! 生き残ったぞおお!!」
「私……生きてる……」
生き残った者は歓喜の声を上げる中、マユはシュンの下へ走っていく。
「シュン最後の魔法は……お疲れ様、貴方が居てくれて本当に良かった。今は、今だけは休みなさい」
意識を失ったシュンの頭を撫でながらマユは言葉を掛けた。
何とか、出来ました。PC欲しいっす。PC壊れる前に大きい買い物してしまって……やばいです……




