63話 妖精
「くすくす。おはなしできた?」
舌足らずな子供の声がする方に振り向くと。
草の隙間から、“手乗りサイズのコビト”が現れテクテク歩いて近づいて来る。子供を小さくした感じで、足音にピコピコと言う効果音が似合いそう。
「妖精?」
「そうだよ」
「もしかして、君がアランさんに逢わせてくれたの?」
「ん~ん。みんなだよ」
「でも、如何して?」
「さっきまで、しあわせと、たいせつな、おもいでで、いっぱいだったから」
のんびりと、一音一音丁寧に喋る妖精が言うには、アーレンで亡くなったアランさんの魂は、未だ消えておらず、ここに呼び寄せたんだってさ。
それが出来る条件は、呼び戻される者が、妖精が暮す森で行なっていた事を、繋がりがある人間が行なう事が儀式なんだってさ。本当は妖精に、対価として貢物を贈らなければ成らないのだが、アランさんを想うレイアさんの気持ちと、俺のアランさんとの楽しい思い出が、幸せに溢れていたから、無償で行なってくれたんだって。
俺が、『もう一度アランさんに会いたいと言ったら会える?』と訊ねると『むり~、あらんの、たましい、もうない』と言われ、アランさんの魂は、天に帰れたと言う事だろう。
「アランさんに会わせてくれて、有り難う! 妖精さん」
「うん」
「じゃあ、そろそろ帰るね」
「まって~……これ! あげるの!!」
妖精が俺に、小さな紅色の宝石を差し出した。
「いいの? 大切な物じゃないの」
「うん、たのまれた!」
「誰に頼まれたの?」
「う~ん、わすれちゃった」
「そっか、忘れちゃったか、じゃあ仕方無いね」
「うん」
宝石を貰って妖精と別れた。
「バイバイ!」
「ばいばい、また、きてね~」
今日は、久しぶりに、魔道具屋アイルに戻り、ぐっすり眠り明日の朝に備える。
シュンは、バッカス軍団長と戦い、急いで戻りレイアの捜索と忙しかったが、まだ終っては無い。大臣のガウマン公爵の件が残っているからだ。明日の朝に、その事を踏まえての会議がフェルニア学園の会議室で行なわれる。
毎度毎度思うんだが……。何で俺が呼ばれるんだか、意味が解んない。手伝いはするが、そう言う偉い人関係は、偉い人が何とかすれば良いと思うよ。だから、この席には、俺要らないよね? 絶対に要らないよね? まぁ……ケーキが出るから良いけど……居るだけならね。
ここでの議題は、ガウマン公爵を失脚させるだけでは無く、ガウマンの計画から恩恵を貰って利益を得様としている貴族と、その背後で構えてる国をハッキリさせる事にある。
そこで未だに、“中立を言い張っている貴族”である、マユ=サカキ伯爵が貴族関係に付いて調べる事になるが、商人ギルドのマスターとして行く事が出来ない為、護衛が付けられない。
「はいはい、俺に護衛をしろって言うんですよね?」
「解ってるじゃねえか」
「どうせそう言う事だろうって思ってましたよ」
「お願いしますね、シュン」
「んじゃ、俺の方から他のギルドにこの結果を伝えとくぞ!!」
バートランさんて、意外と豆に他のギルドと連絡を取るよね、その御蔭で祭りが実現出来た訳だけど。贅沢な事を言うと成果が、七割くらい何だよね。本当なら、祭りの期間中に別働隊で、ガウン公爵の兵と一戦交える予定だったんだよね。
だけど、攻めては来なかった。憶測でしか無いが、ガウマン公爵の兵達が、バッカス軍を攻めに行き、その背後から協力国の兵が攻めて来るであろうと予想していた、とバッカスの懐刀である、モンド上級騎士が話してくれた。
今の会議室には、マユ、バートラン、ドロシー、シュン、そしてバッカスとの連絡係であるモンド上級騎士だけである。モンド上級騎士が、ガウマン兵の動きを話す。
その動きを遠くから観察している、密偵からの報告を整理すると。不明な点が一つ残った。それは、リアラさん暗殺の偽情報を流した日は、バッカス同様、領地に兵を集め戦の準備を始めた所までは、同じだったが、暫く全く動かず、そして直ぐに解散してしまったと。
最近は、貴族達を招いて日夜、社交界が開かれているそうだ。
「バッカス軍団長さんとの戦いは終ってないのに、何で社交界何て開いてるんですか?」
「俺に聞くなよ、貴族連中の考え何て解るわけ無いだろう!! そう言うのは、伯爵様なら解るだろう?」
「私にだって解りません」
マユさんが貴族の社交界について教授してるが、あんまり良く解らなかった。
「バートラン!! 暫し他ギルドへの報告は辞めるんだね。それと、この場にいる全ての者も、同じで決して他言無用だ。勿論、私も含めてね」
「私は、バッカス軍団長に報告させて貰いますよ」
「駄目だ! バッカスには、こう報告して貰うよ。王城で行なわれる、ギルドと学園の年間報告の場にて、終らせると」
今まで、聞き専門に成っていたドロシーの口が開き。間者の可能性を述べる。そして、決まったのは、冒険者ギルドでは、街の治安維持の為に、一定のメンバーに街の見回りを、バッカス軍団長の方には、ガウマンへの牽制を、フェルニア学園の方はリアラさんの保護を、マユさんは貴族達の中でガウマン公爵に同調または、賛同している者の中で危険な者を見つけ出す事を、シュンはマユ伯爵の護衛をする事に決まったが、その情報は、年間報告の場まで秘密する事になり、その日まで会う事は禁じた。
あの会議から、二十日過ぎ。マユさんは伯爵令嬢として、上手くガウマン側の貴族と繋がる事は出来たけど、未だに例の社交界には御呼びが掛からない、それでも充分過ぎる程の情報が入って来ているんだけど、俺には解らなかった。
あの貴族と、この貴族の関係性って言われても、全然解んないよマユさん! 俺には欲望の塊にしか見えないよ。
「それにしてもシュン。その服がやっと板に付いてきましたね」
「え? そうですか? 窮屈な服で嫌ですよ」
最初は何時も通りの服で、護衛する積もりだったんだけど、『その服で、貴族の護衛は駄目よ!』と言われ、高そうな服を着せられた、しかも鎧までチェンジさせられた。最小限だけ守る軽装だったのに、城の兵士たちが着る中量装備だよ。着る事は少ないけど。
取り入る為に、あれこれとムカっと来る事をさせられた。届け物なんて自分の私兵にでも遣らせれば良いだろう。それか、冒険者ギルドにでも頼めば良いだろう!! 何で、貴族が他の貴族の為に運ばなきゃ成らないんだ! しかも中身は見るなよって。
届け終る度にマユさんは、貴族達から婚姻の話しを聞かされるらしく、帰りの馬車の中では何時も荒れていて怖かった。
今日は、例の社交界と言うモノに招待され、ガウマン公爵の用意した屋敷でパーティが開かれ、楽器を演奏しその曲に合わせて踊り、テーブルにある料理を立食し、メイドと執事が忙しそうに働いていた。招かれた貴族の殆どは、婦人や子供を連れて来て紹介している。その様子は、小説やアニメ、ドラマや映画等で表現される、貴族の社交界そのものだ。
俺もマユさんの護衛として、社交界に参加しマユさんの邪魔に成らない様に、隅っこで料理を摘みながら、社交界を見学していた。本当に沢山の貴族が、楽しそうに話している。
なのに……。
今現在、俺の目の前には――ガチャガチャと甲冑の音を鳴らしながら、片手剣と盾を装備した騎士が剣を振るっている。社交界の場には、沢山の血が流れ、参加者の多くは助けを求め叫び、『私は、子爵だ』『金ならくれてやる』『私の下で働く気は無いか』等とアホな事言って、命を落として行く。
「マユさん!! これって!?」
「ええ、ここに集められた貴族は、ガウマン公爵に取って邪魔な貴族達みたいね」
ガウマンは、最初の挨拶から姿を見せず、ガウマンに近しい者は社交界に参加していないそうだ。そして、出席者が全員揃いある程度の時間が経った頃、扉が突然閉まり、社交場の天井付近に黒い球体が無数に現れ、そこから、“顔まで覆っている完全な重装備騎士”が現れ、殺戮が始まった。
勿論、扉から出ようとした、だけど部屋全体に結界が張ってあり、開ける事が出来ず、窓から出ようにも、窓は高位置に在り、窓から脱出する事も困難となった。
「マユさん、隅っこの方で待ってて貰って良いですか?」
「ええ、でも剣もなしで、シュンは戦えるのですか?」
「ええ、得意じゃないですけど」
何時もの二振りの剣は、本来なら収納するんだが、マユさんの目の前で収納するかを躊躇い、屋敷に置いて来ている。『その剣は見栄えが悪いから、見栄えの良い剣にしなさい』と言われ執事さんが、煌びやかな剣を渡して来た。そして、その剣は見事、会場入りする際に没収されている。
今ある武器はユニップで買った趣味武器しかない。ダガーが四本に、薙刀が一、槍が一、六角形の棒が一本、トンファーが二、大鎌が一。ポーチにもダガーが一本あるがポーチも置いて着ている。
重装備の騎士相手に、打撃武器とリーチの短いダガーは不利になる。ここは、槍か薙刀か大鎌になる。
「収納魔法!?」
「ええ、人前で使わない方が良いって忠告されてたので……すみません」
俺は、大鎌を出し向かって来る騎士に向かった。
「初めて使う武器……上手く使えるか知らないけど、要するに体重移動が重要なんだろおおおおおお!!」
騎士に向かって全体重を乗せ振り放ったが、騎士の盾に阻まれ。
「う……そだろ……」
大鎌の刃が、粉々に砕けた。闘気を使って身体強化は出来ても、鎌に闘気が乗らなかったのが原因なのか、相手の盾が特殊だったのか、簡単に壊れてしまった。
気に入ってたのに!!
鎧騎士が、シュンに狙いを定め剣を振るった。
何とかスマフォで確認して修正出来たので投稿します。
フリックって難しいです




