61話 戦いながら相手と会話なんて・・・・・・
バッカスがドンドン近づくに連れ、シュンは痺れが少しずつ引いて行くが、今度は焦りでポーチに上手く手が入らず。
「くそ……間に合え……」
「ほう、俺の本気の一撃を受けて立ってられるとはな。ガキ、名前は何と言う」
「……シュン……ただのDランク冒険者だ」
「Dランク？ 不思議な事を言う！ Dランク冒険者なら最初の一突きで死んでおるわ」
「なり立ての冒険者だからね……」
「これで最後だ、寝返る気は」
「ない！！」
「ぬお！ 目が……ガキがああ！」
上手くポーチから取り出した、魔法玉を地面に叩き付け、強い光を発光させ一目散に距離を取ろうと走りながら、ポーションを一口飲んだ瞬間にビンが割れ。
「逃がすか！」
「く！」
目がまだ眩んでいる筈なのに、追い付き攻撃してきた、ビンに当ったのは不幸中の幸いだろう。完全に油断していた、もし身体に攻撃が来ていたら、間違いなく避けられずに貫かれていた。
「貴様は、ここで倒す！ 今、逃すと脅威と成って、俺の前に現れられては困るからな！！」
「う！ く！ くぅ、くは！」
槍と水槍の連撃をリべレーションソード1本で、何とか防いで見せるが、直ぐに対処が追いつかず、削られていき。痛みでシュンは片膝を付かされ。
「これで、仕舞いだ小僧！！」
「くううううう！」
動こうにも、動けない身体を無理やり動かそうとするが、身体は想いに答えてくれず、覚悟を決める時間も無く、槍が迫ってくる。
「ぐぅ！」
「ディラン……」
「ちっ、邪魔が入ったか！」
騎士養成所で共に鍛えあった、ルームメイトのディランが、俺の前に立ち剣事斬られ倒れた。それから間も無く、ファルクスが追い付きバッカスと剣激戦を繰り広げていく。
「ディラン……何で」
「お前と……ファルクス様が……要なんだろう……盾くらいしか出来なくて……悪いな」
急いで、メイル式ポーションをディランに飲ませ、自分も最後のポーションを飲んだ。ディランのケガは深かったが、飲ませたポーションが良かったのか、傷口だけは塞いだ。
シュンもケガは、ある程度まで治ったが、それ以上は回復していない為、ヒリヒリしたりと身体に違和感を残している。
「助けてくれた事には、感謝してるが、頼むから命を捨てる事だけは、辞めてくれディラン」
「わーたよ……早く行け……ファルクス様が……待ってる」
ディランはヨロヨロと歩き始めようとした時に、仲間に見つけて貰い、後方まで下がった。シュンは無事に仲間に保護して貰えたディランを見て、ファルクスの下へ急いで行き。戦いに参加した。
「でいやあああああ！！」
「シュン！ はああああ！！」
「ふぬううううう！！」
シュンの一撃でバッカスを押していき、その勢いを終らせない為に、ファルクスも続く。
押してはいるが、その攻撃はバッカスの身体に届かない。全て槍で防がれている。攻防が成り立ち拮抗し始めたが、バッカスに分があり、二人の攻撃は軽い一撃でしかなく、届いても重厚な鎧に阻まれ、軽い金属音だけが響き、バッカスの攻撃は少しでも掠れば血が流れる程、危険な綱渡りを二人は強いられている。
「小僧どもが！！ 調子に！ のるなああああ！！ 」
「はっ！ ちっ！ ぐぅ！」
「せい！ く！ ぬう！」
バッカスの攻撃に慣れて来てはいるが、それは向こうも同じで二人の攻撃に慣れ、拮抗が崩れ始め、徐々に押され始めた。
戦いが始めて、どの位経ったのだろう。三十分かもしれないし、一時間かもしれない。ただ解ってるのは、周りの戦が終りつつある事だ。
仮にバッカス兵を打ち負かし全員で掛かっても瞬殺される事だけだ、それ程、この男は強くて危険な存在だ。Sクラスの力は、それ程までに掛け離れている、例え疲弊していても、Aクラスの兵を瞬殺してしまう程だ。数は力と言うがそれは強者の時代まで、Sクラスの強者が減った現在は、圧倒的な力に皆、恐怖し誰もが立ち向かう事を忘れてしまった。
その危険人物と渡り合えるのは、シュンとファルクスだけであり、その二人が敗れれば、この戦は負けとなる。
「闘気が雑になっとるわああああああ！！」
「！？ ぐは！」
「ファルクスさん！！」
ファルクスは咄嗟に防いだが、全身を纏っているはずの闘気は足まで纏えておらず、踏ん張れずに吹き飛ばされ。
「騎士の心配とは余裕だな小僧！！」
「くうううう！ はあ！ はあ！ でいあああああ！」
「ぬおおおお！」
襲い掛かる二槍をリべレーションソードとネイルさんの剣で、弾き懐に潜り込み剣を振るい続けるが、闘気が上手く剣気になっておらず、鎧を傷を付けるのが精一杯だった。
「馬鹿め！ 二刀流なんぞ出来る訳無かろう！ 剣気は常に一振りのみと言う常識を知らぬのか！ 愚か者目！！」
「ぐううう！！ うるせえええええ！！」
確かに、剣を振るう時は、一振りだけしか纏えない。だけど、防ぐ事は出来る。この剣ならどんな攻撃でも、防げる気がする。おっちゃんの職人の技が！ ネイルさんの想いが！ 詰ってるこの剣なら、きっと出来る。なら、俺は攻撃をする時にのみ剣気を注げば良いんだ！！
「うおおおおおおおおおお！！」
「小僧が吼えても、何も変わらぬはああああああああああ！！」
バッカスの二槍を弾き、攻撃に移る剣のみに剣気を注いで攻撃するが、バッカスはそれを冷静に防ぎ、攻防を繰り広げていく。その攻防の剣戟戦でシュンは、Aクラスの壁を越えつつあり、その剣速は増す増す早くなり、バッカスの顔色を変えつつあった。
「調子に乗りやがって！ はああああああああ！！ ふん！！ っは！！」
「っは！！ っは！！ そこだああああああああああ！！」
バッカスの攻撃を絶妙なタイミングで合わせる事に成功し、大きく槍を弾き無防備な状態にさせ、リべレーションソードに剣気を注ぎ込んだ渾身の一撃を振り下ろす。
「ぐぬううううううううう！！ 小僧の癖に何と言う重い一撃を！！」
今まで多くの敵と戦い、無防備になってしまう状況は、何度も経験している。バッカスは、とっさに槍で受け止める癖を身に付け、シュンの攻撃を受け止めて見せたが。今まで対人戦で経験した事の無い攻撃を受け、片膝をつけた。
リべレーションソードの重さは片手剣の割りには両手剣並みに重く。その重さと体重を乗せ剣気と身体強化した攻撃は、ネイルでさえ驚いた程だ。
「！？」
「はああああああああ！！」
バキっと音と共に槍が折れ、バッカスは急いで横に転がって回避した。
「俺の槍を折るとは、やはり俺の目に狂いは無かった。貴様を倒さなければ、この先に勝利は無い様だな」
バッカスは槍を捨て、ウォーターランスを二槍造りだし構えた。ファルクスは、何とか体勢を立て直し、シュンの下に戻っていたが、凄まじい攻防戦に言葉を失っていた。そしてやっと声が出て――。
「シュン……君は……」
「そこの騎士もそうだ！ あの騎士……アランとか言ったか、アイツと同じくアーレンに飛ばせば良かったぜ、そうすれば貴様も邪神に葬って貰えたんだがな」
「何だって！！ 貴様がアランさんをアーレンに！！ その噂は、本当だったのか！！」
「ああ、アヤツは事ある度に、騎士道だとか、ほざきやがるから、飛ばしてやった！ 第三王女のお気に入りだからな」
「お前が！ お前が！ アランをおおおおおおおおおおおおおおお！！」
「ファルクスさん！！ ファルクス落ちつけええ！！」
シュンの言葉は届かず、ファルクスは怒りで我を忘れ、攻撃を振るい続けるが、軽く往なされ反撃されるが、防御とも呼べない行動で無理やり避け、装備してた鎧がファルクスを助け、捨て身の攻撃を繰り返し。ファルクスの身体は徐々に削られ、体中から血が流れ始めた。
「貴様、今の自分の姿を見て見ろ！ その姿の何処に騎士道がある！！ やはり力が全てでは無いか！ 力なくして、他国と対等に渡り合えると思えるのか！？ 力なくして守りたい者を守れると思うのか！！」
「俺の親友の命を奪う様な事をした、お前がそれを言うなあああああああああ！！」
「ほざくな小僧！！ 貴様も力で俺を倒そうとしてる矛盾をどう説明する！？」
「あああああああああああああああ！！」
「まるで獣だな！ 碌な話も出来ぬか！ 我が国は、極端にSクラスの力を持つ者が少ない！ 魔法はエルフに劣り。身体能力では獣人に劣り。天使族の様に自由に空は飛べず。寿命が短い！！ まして、共和国の様に魔道具の開発も出来ず！ 帝国と連邦の様にダンジョン攻略も出来ず、そして研究も遅れている！！ そんな遅れている国を立て直す為にも力が要るのだ！！ 何故！ それが解らんのだ、こぞおおおおおおお！！」
「ぐあああああああああああ！！」
「お前の様に、国の現状に目を背け！！ 騎士道だとか子供の様に喚く事しか出来ないのが、小僧だと言ってるのだああああああ！！」
「……！？」
フェルクスは重い一撃を受け意識を失った。シュンは、本心を語ったバッカスの言葉を聞き、ある矛盾を感じた。それは、アランさんが何故、アーレンに飛ばされたかだ。
第三王女のレイアさんのお気に入りだから。殺さなかった？ いや違うアランさんは強かった。俺は何度も手合わせして貰った事がある。ネイルさんとの修行をする前だからハッキリ覚えてないけど。だけど、あの動きは間違いなく、ネイルさんと肩を並べられる程だったと思う。バッカスは、強者を残したいと思ってる。じゃあ、レイアさんを暗殺しようとしたのは？ 内乱を起したいから？ いや近隣諸国と対等に渡り合える為にしたいなら、戦力が少しでも欲しい筈だ。そして鍛えたいはず。俺が忍び込んで覗き見たのは、戦力増強のプランで、そこには、騎士や兵士を鍛える事にある。
「どうやら……俺は……いや俺達は勘違いしていた見たいですね」
「ほう、そこの小僧よりガキの方が頭が回るようだな！ だが、武器を交えた以上、戦いで語って見せろ！！」
「解りました！！」
シュンとバッカスは、倒れているファルクスさんから離れ、戦闘を再開し剣戟戦が始まるが、御互いに殺気は無く、武で語りだす。
「貴方は、悪意でアランさんを、アーレンに行かせた訳じゃない！！」
「ほう！ その理由は何だ！！」
「それは、アランさんが強者だからだ！！」
「そうだ。奴は強かった！！ それこそ俺の後釜に相応しい程にだ！！」
「なら何故行かせたんですか！」
「奴が頼んできたのだ！ レイア様のお気に入りのアーレンの様子が変だから行かせてくれと！！」
「やはり貴方は、レイアさんに暗殺者を送て無いな！！」
「そうだ！！ だが！！ 反論をした所で誰が信じる！！ 戦などしてる場合では無いと言うのに！！」
「そうですか！！ 解りました！！ 貴方を倒して！！ 全てを白日の下に曝け出しましょう！！」
「ふん、ガキが！！ 良いだろう、貴様に俺の本気を見せてやる！！ 死ぬなよ！！」
バッカスの二槍の水槍が一つになり、分厚く成る訳出なく圧縮され、水槍の中で巡る魔力が凄い勢いで巡りだし、地面に軽く触れただけで地面に深めの穴が空いた。高純度魔力が水槍の先端に集まって威力がとてつもなく上がっていた。
成る程、魔力で攻撃して、身体能力を闘気で上げるのか、そうすれば、闘気で剣気だとか身体強化だとかで、闘気と剣気のバランスを考える必要ないのか！ だけど、今の俺に出来る事は、闘気を圧縮して戦う方法だけだ！！
ある意味、バッカスは魔力を圧縮して威力を高めるのと、魔逆で闘気を圧縮して戦う感じと逆になる。ネイルさんは、魔力と闘気を両方混ぜた境地に至ったのだから、遥か先にいる。
「ほう、ガキ……いや、シュンと言ったか、お前は強者なのだな！！ 俺と違う方法で、常識の壁を越えて見せたか！」
「俺はこれより遥か先の超越者を知ってますから、強者なんて呼べませんよ？」
「そうか、更なる強者を知っているのか！！」
「でいやああああああああああああ！！」
「はあああああああああああああ！！」
シュンとバッカスの戦いは、この場に居る全ての者より速く、そして全ての者を置き去りにして行った。バッカスの繰り広げられる攻撃をギリギリで避け、シュンの攻撃もバッカスはギリギリ避けていく。その攻防を何十、何百と繰り返すが、その時間は数分間程度の時間内で行なわれて行く。
バッカスの水槍は、伸縮自在に伸び縮みをし、まるで青い水の如意棒を彷彿させ、ときおり水槍から、水の弾が放たれたり、水槍を二槍に戻して攻撃し、一本の槍に戻したりと変幻自在に変化させて見せる。
シュンの攻撃は、リべレーションソードを主軸に使いサンクションズソードで攻撃をして行き、スムーズに剣気を移動させて、まるで二振りに剣気を纏わせている様に見せる程、見事な闘気操作を見せた。攻撃を弾いて防ぎ、不利に成りそうになったら、弾いて自分で後ろに下がり、水弾が飛んできたら、避けたり剣で弾いたりと見せ。
二人の戦場には、武器がぶつかり合う音だけが響いた。その音の響きだけで、この場に居る者達は戦いを辞め、自然と二人の戦いを見る為に集まりだした。目で追えない程の戦いだからこそなのか、男だからなのか、強者に憧れる者は自分も何時かは、ああ成りたいと想い、二人の戦いを刻み込むかの様に見守っていく。
「はぁ、はぁ。すぅ～。どうやら御互いに、限界の様ですね」
「そう……だな。俺の水槍も随分と……薄くなっているしな……作り直す前に貴様の攻撃が届きそうだ……だが、忠告してやろう。自分の限界が近い事は、言うな、不利になるぞ」
「そうですね。気をつけます」
シュンはサンクションズソードを鞘に納め、リべレーションソードを左手に持ち替えて構え直し。バッカスは、短くなった水槍を薄く伸ばし、通常の槍の長さに戻し構え直した。そして同時に――。
「「はああああああああ！！」」
ぶつかり合う直前に、バンと言う音が鳴り響き二人の場所を一瞬だけ光が包んだ。
「ぬお！！」
「僕からも忠告を一つだけ、僕は冒険者ですから、騎士道の様な正々堂々なんてしませんよ」
「ぬあああああああああああああ」
シュンは右手でポーチから目晦ましの魔法玉を出し、地面に叩き付け、発光した光によってバッカスの動きが止まり、その隙を衝いてスタンを放ち気絶させた。
見えていた者が居たら汚いだの言いそうな、結末でこの戦いは、シュンの勝利で終った。
起きたら、バッカスに怒られるかな？ でも、もう剣を振るえる程、力が残ってなかったんだよ。
むむ、完全に進まなく成っちゃった。どうしよどうしよ。ストックは、まだあるから、余裕があると思いたいです。
そんな私の作品、異世界ってスゲェェェ！！（仮）を宜しくお願いします！！
