55話 101年前の出来事 中編
前方の方から、悲鳴が聴こえ、そして恐怖で逃げ様とする者が走って来るが、状況を把握できて無い者に阻まれ、ごった返していた。作戦結構予定の、十時間前の出来事の事で陣形を整える前で、全勢力が密集している状態だった。
「フハハハ! 我が眷属よ、狩りを楽しむが良い!!」
「くぅ……。貴様は……まだ此処に来ないはず……」
「何を言っておる。自分達の都合よく事が運ぶ訳が無かろう、それとその情報は、我自らが教えてやったのだ!! 誰も我の流した情報を、疑いもせず信じ、我の眷属の格好の狩場となったのだ!! さて! 我は高みの見物でもするとしよう」
邪神と思われる美少年は、姿を消し何処かへ去ってしまう。
「パトス殿……」
「マードック……無事でしたか。如何やら生き残ったのは、我ら二人だけの様ですね」
「パトス殿……済まないが、私も此処までの様だ!」
「何を言うのですか! マードック殿!!」
「あの狼に、噛まれると肉体だけは無く、精神も一緒に傷付けて仕舞う様だ。それと上級ポーションを飲んでも、まったく回復する事が、出来ないのだ……済まない……情け無いが、私が渡せる情報が、これが……限界の……」
「マードック殿……マードックどのおおおおおおおおおおおお!!」
マードックが倒れ、彼を抱き起こすも。彼には在るべき片腕と足が無く、大量に血を流し息を引き取った。代表で生き残ってる、パトスに情報は少なくとも、自分が掴んだ情報を渡すべく、耐えていたのだろう。マードックの思いを無駄にしない為にも情報を渡すべく、パトスは走り出した。
何処でもいい、誰でもいい……情報と戦況を統制しなくては……このままでは、虐殺されて終ってしまう。
「誰でも……誰でも――!!」
★
「メイル!! 各国の代表が集まってるのは、何処だか解る?」
「解ってるの!! だいたいの見当はついてるの!!」
「私が前衛で行くから、いつもの様にお願い!! はあああああああ!!」
メイルは、ネイルの後ろをつかず離れずについて行く。
★
「我が眷属よ、良い食事であろう。闘気と魔力に溢れ尚且つ恐怖が染み込んだ極上の一品になるよう、手間を掛けたからな」
「バウゥゥ」
「うあああああああああ」
「くくくるなあああああ」
「ガウウウウウウ」
至る所に、青い狼が食い散らかした後が残り、あたり一面、真っ赤に染まっている。
★
「!!」
「これは、酷いの!!」
ネイル達が見たのは、各国の代表者が居たであろう場所には、判別が付かない程、無残な姿に変わった、代表者達の姿だった。
「これじゃ戦えないの」
「いえ、邪神を見つけて戦えば、誰かが気付くはずよ」
「「誰!?」」
後ろから足音が聞こえ振り向くと、黒髪の男女が2人の姿があった。
「俺は、フェルニアに召喚された勇者、キョウスケ・ニノミヤだ」
「私は、カナエ・カトウ」
「そう、私は冒険者のネイル・アーダシアでこっちが妹の」
「メイルなの!」
ネイルは、さっきの考えを勇者達に話した、統率者がいない現状では混戦としても下の下であると。逃げる場所も撤退の合図も出来ない今、出来る事は邪神を見つけ、その位置を皆に気づかせて、戦うしか方法がない事を。そして、それを知らせる手段は、いち早く邪神と剣を交える事だと。勇者もそれに賛同して、行動を共にする事になった。
ネイルと恭介が前衛でメイルと香苗は後衛で、狼を殲滅しつつ、各国の陣を回った。世界に自分達の名が広まりつつある、ネイル達よりもフェルニアの勇者のネームバリューが此処では役に立ち、何とか立て直したが遅すぎた。もっと速く睨み合わずに指揮系統がしっかりしていれば、こんなに被害が出なかったのかもしれない。
生き残った者は近くの者と組、四人で一組のチーム作り、狼を迎え撃った。一組で狼の動きを止め、近くの班が側面や後方から、攻撃をすると言う初歩的な戦法で、確実に一匹ずつ仕留めていった。これも彼等の戦闘経験が成せる業だ。戦闘に参加していない冒険者や兵士なら、狼の動きを止める事も攻撃を通す事も出来なかったろう。だからこそ、悔やまれる。強いがゆえに、自分が最強だと慢心する輩の傲慢さで、戦況が混乱している事に。
「召喚されたのは、二人だけ? 私達は四人だと聞いたんだけど?」
場が少しだけ安定し出して、疑問に思った事を、二人に投げかけ。
「後一人は、フェルニアの騎士達と一緒に戦ってる……あと一人は俺達が見捨てた」
「見捨てた? それはどう言う事?」
「私達のせいじゃないわ……アイツが勝手に……って、そんなの関係ないじゃない!」
確かに今は、見捨てられた勇者の事を考える余裕はない。ネイルはメイルの方を見るが、メイルは黙って、何かを考えている。発明や調合の事を考える時は、ぶつぶつと何かを独り言を言っているが。それ以外の事で真剣に考える時は、額に手を当てる癖があるからだ。そして、メイルもSランク冒険者で、この場で意味の無い事を考える事は無い。だからこそ、ネイルは待つ事にした。勇者達が何か言っても、待って欲しいと伝える。勇者達もまた、ネイル達が頼りになっている。強いと言っても実戦経験が浅く、何よりもこの世界に来る時に、神と名乗る者からスキルセットを渡されただけなのだから。実際、彼等は模擬戦で騎士団長やSクラス冒険者の様な、本物の強者に勝った事が無いのだから。黙って従う事しか出来なかった。
戦況は、狼を何とか減らしてはいるが、何処から共無く出現して襲ってくるのだ。それは狼が生き返ったでは無く、何処からか出現したと言う事だ。出現場所には共通生が無い。だが、何かを見落としてないのか、メイルは考えている。そして、ある共通点が見付かった。
「勇者は四人で合ってるの? しかもこの場に居ない四人目は男で間違い無いの? 特徴とか教えて欲しいの!」
「何でよ、関係ないでしょ! そんな事……」
「いいから教えなさい!!」
香苗に代わって恭介が口を開く。
「俺達と同じで黒い髪で長かった……顔は整ってて、この世界でも、かなりの女にモテてた。身長は俺と大差無かったはずだけど……」
今、この戦況で狼が一番減って時間が経ってる所は……!!
「ついてくるの!!」
メイルは走り出し、ネイルと勇者達は遅れまいと追い駆けた。
「すごい……魔導師の中にも剣術が得意な人がいるのかよ……勇者いらねえじゃん」
メイルが狼と擦れ違いながら、ウィンドエッジで、斬り捨てていく。ネイルは、メイルの援護をするべく、ファイアボールを放ち、御互いの役割を交代した。
「見つけたの!! エアバースト!!」
「メイル待って、あれは女の子よ!」
黒髪の長い女の子の前で、風の塊が出現し大爆発を起した。その爆風で近くに居た者まで、吹き飛びそうになり、多くのものが踏ん張っている。あっちこっちで、誰の仕業だとか、叫んでいるが、メイルの耳には届いていないのか1点を見つめている。
「メイル、説明して頂戴! 幾らなんでも、仲間が密集してる所で爆発魔法は、正気を疑われるわ」
「姉さん、見るの!」
「「あれは!!」
勇者達が見たのは、黒髪の少女は見えない壁を作り防いでいる。威力は調整済みで、彼女の近くに居た者は爆風で、彼女から距離をとる形と成り、みんな彼女を自然と見る形となった。
「何故……我だと解った?」
「黒髪の勇者は四人召喚されているけど、女性は一人だけなの!」
「ほう、だが黒髪は珍しくは無いだろう?」
「黒髪は目立つの、実力者なら尚更なの。貴女の防具は、統一されてる兵士の鎧じゃないから、解ったの」
「黒髪の冒険者だから解ったと?」
メイルは黙って頷く。
「ハハハハ!! これはこれは、我とした事が迂闊だったな。見付かったなら、相手をせねば失礼だからな」
少女だった姿が、黒髪の美少年の姿に変わった。
「「大輔!!」」
「「ダイスケ??」」
「俺達が、見捨てたた……四人目の勇者だよ」
「おお、そうかこの身体の持ち主の名はダイスケと言うのか」
「「「「持ち主?」」」」
邪神に付いて謎は多く、その身体も謎のままだった、今、初めて憑依する者だと知らされた。だが、知っても記録を残せるかは、不明だ。邪神の声が届いた者が生き残らないと。謎のままに終ってしまう。
「この者は実に素晴らしい肉体と、興味深い知識を持って居てな。力が漲っておるのだ。行くがいい、フェンリル!!」
青い狼を数百体を召喚し、戦場を駆けさせ。そして、右手に鉄の塊が出現し形を形成して行く。
「あれは! 銃!」
「ジュウ?」
「俺達の世界の武器だ」
その銃を二丁創り、乱射して行く。銃から発射される弾は、勇者達のしる弾とは違い、魔力や闘気で出来た弾だった。だが、その威力は計り知れず、盾を持っている者が防いでも、盾ごと貫く。
「任せるの!!」
メイルは自分のポーチから、魔法玉を出し次々と投げて行き、乱射された弾を魔法玉に眠っている無数の風の刃が、相殺させて行く。
「ハハハハ。まさか似たような事をして防ぐとは面白い。ならこれなら如何だ!!」
今度は、無数の剣を創造し出現させ、発射した。
「なら、私がああああ! はあああああああ!!」
ネイルがメイルに襲い掛かる無数の剣を剣で捌いて見せた。
周りに居る者は、ネイルとメイルの神業に魅せられた。後方の方ではフェンリルとの戦いが未だ続いているが、何処から共無く襲い来る剣や弾が襲い掛かり、気づく前に倒れていった。
「ほう、剣のみで防ぐか! 次はこれだ!! ッハ!!」
一振りの剣を出現させ振った。その軌跡にそって、斬撃が飛び地面を抉りながら、冒険者や兵士を薙ぎ払った!! その光景を見て、多くの者が絶望と恐怖で身体を支配され、動けなく成る者が出始め。戦場は混沌とし始め。生存者が2割を切り始めた。
邪神が振っていた剣が、四度ほど振ると剣が折れた。
「ふむ、どうやら、このレーヴァティンとやらは、我には馴染まぬ様だな」
剣が折れ、攻撃が止んだ瞬間、多くの者が一斉に斬りかかり、魔導師達は持てる力を全て使い、援護する。
「「「うらあああああああああああああ!!」」
「鬱陶しいわ、人間ごときが、グングニル!!」
槍を出現させ、突き殺そうとするが、一突きで砕け壊れた。他の者は、急いで創りだした銃と、無数の剣で迎え撃つ。
メイルは、また何かを考え始め。ネイルはメイルを守って見せた。勇者の二人は、戦闘慣れしていないのだろう。ここまで来て怖気づいているが、否定をする者は居ない。現に怖気づいてる者も多いが、それよりも、そんな奴に構ってる場合では無かった。だが、メイルは、勇者の一人恭介を、引っ叩き。自分の質問に答えさせる。
「あの、邪神が使う武器が、何なのか教えてなの!!」
「あ…あれ、俺の居た世界の聖剣とか……そう言うのだと思う……」
「じゃあ、その剣の属性は? 狼は?」
「し……知らねぇよ……ゲームとかでしか、知らないから……」
「彼は知ってる見たいだけど? それは、どうしてなの?」
「あいつだって、俺と同じ位……ゲームが好きだったから……同じ位だと思うけど……」
「じゃあ、そのゲームって言う奴で、狼とか使うのは、何なの? あの邪神が創った剣と槍が壊れたのは、相性が悪いからだと思うの!! だから、槍と剣と相性が悪いのが何なのか、思い出すの!!」
邪神の攻撃は、銃撃と無数の剣を放つ攻撃が主で、時折、電撃で鉄の塊を高速で放ったりと、ネイル達の常識を全て覆すものだった。そして、全体の1割を切り始めた頃。
「思い出した、あれは確か、北欧神話伝説オンラインのボスキャラで、悪心ロキだ。確かにフェンリルって言う狼を操ってて、グングニルって言う槍とレーヴァティンって言う剣を、オーディンって言う爺さんから借りて倒す奴だったはず。それでも一定のダメージを与えないと、剣と槍が出現しないんだ」
「その一定のダメージって何なの?」
何を言ってるのか解らないが、取り合えず一通り聞かない事には、何も解らないから、急かさない様に訊ねた。
「雷魔法で攻撃しないと駄目なんだ。他の魔法は魔力の壁で通じないんだ」
「剣は如何なの?」
「剣は雷魔法で、魔力の壁を壊さないと通じなかった様な……すみません、これ以上は解りません」
「いいの。試すしかないの! 姉さん!! 行くの!!」
「試すって、雷魔法は存在しないんじゃ……」
ネイルは頷き、メイルは恭介の言葉を無視して詠唱を始めた。
魔導師と剣士達は、次々と挑むが誰も、邪神に傷を負わせる事が叶わなかった。
「我、放つは我が道を阻む者に鉄槌の裁きを、その力は全ての者を無に帰し、汝らの肉体と魂を母なる大地に帰す、その力は時には風、時には水、我が魔力でその裁かれし者を示す、サンダーボルトおおおお!!」
「ぬあああああああああああああ!!」
邪神に、雷が落ち悲鳴をあげ、放っていたフェンリルが消滅して行くが。サンダーボルトが静まる瞬間。
「姉さん!!」
「はあああああああああ!!」
「ぎゃああああ」
ネイルは、雷撃が静まると同時に邪神に向かって、持てる闘気を全て剣と身体に纏わせ、攻撃して行く。
「効いてる……効いてるぞ!! 俺たちも彼女に続けええええええ!!」
誰かが、叫びそれに呼応しあって、残る全勢力が続いた。
いや~参った参った。参りました残酷な描写の許容ラインが判りません……。
本当に、数ある作品の中から、見つけ出して読んでくれている。皆様に感謝してます。御蔭で頑張れてます。
そんな私の作品、異世界ってスゲェェェ!!(仮)を宜しくお願いします!




