45話 ヘタレなりの、けじめ
ゆっくり執筆中
後ろから、近づいてくる足音に気付き、振り向くと。そこには、アイシスさんとブレンさんの姿があった。
「アイシスさん…家に帰ったんじゃ?」
「ええ……。シュン君が、最近よく悩んでる顔をしてるから、相談に乗ってあげようと思ってね~」
何でだろう……本当は自分から、行かないと駄目なのに。敵わないな、本当に。
「シュンさんが、何を言おうとしてるかは、私達は解ってますから」
「やっぱり……解っちゃいますか?」
「旅に出るつもり何でしょ、シュン君」
「はい。奴隷商さんが、王都に戻る時、一緒に行こうかと……」
「そう……ですか」
取りあえず、エプロンネコ亭で話す事になった。内容と言っても、難しい話しは無く。大雑把に今後の方針に付いて、決めていく。
先ず、魔道具屋に付いては、アイシスさんに返す事に決まる。アイシスさん曰く、治療費の変わりに上げる積もりだったらしいが。必要ない事と、これから増える家族の為にと、丁重にお断りした。後、初めてナイトスコルピオンの討伐部位とか乗せる為に購入し、今でもギルドの停留所に停めてある荷台を、売り払って貰う事になった。他にも、味付けに成功にした栄養ドリンクなど、一般家庭に人気がある商品の造り方を教える事や、王都までの道のりで、必要そうな物や、危険な物に付いて教えて貰った。
そして、何処の街に居ても、自分と連絡を取る為の暗号を決める事にした。獣人特有の病気である、闘精錬病の薬を渡す為だ。本当なら、今もっている十二本を、全て渡したいが。何分、こう言った薬は腐り易いから渡せない。
何故だろう、一度話すと次に打ち明けるのが楽になったのか、宿に戻って早速カチュアに、街を出る事を告げた。
「カチュア…今まで、本当に世話になったよ。カチュアや親父さんが居なかったら……俺、立ち直れなかった。本当に、ありがとう」
「そう……行っちゃうんだ、私の方こそ助けてくれて、ありがと……駄目ね。何だかんだで、私が一番シュンとの付き合いが長いから寂しい……わ」
アーレンから今日まで、半年近く俺の帰る場所に、カチュアが何時も居た。そんなカチュアと離れるのは俺も本当に寂しい。このまま魔道具屋の亭主として、この街に居続ける事は安全で過ごせるのかもしれない。でも王都に行こうと思った時、心が弾んだんだ。それが期待なのか解らない。知らない街、知らない人。その中に溶け込めるんだろうか、そんな不安が確かにあった。でも、やって行けるかもしれない。そんな気持ちにさせたのは、今日まで知り合った人達の御蔭だ。だから行く事が出来るんだ!!
今夜は宿屋の食堂で、女将さんと親父さんを含めて、いろいろ話した。アーレンで過ごした日から今日まで、沢山……本当に……沢山あった。途中で女将さん達が抜け、朝日が昇り始める直前まで、カチュアと二人きりで、話した。
明日、奴隷商が来る。それまでに、挨拶周りを終える為に、街を回った。
魔道具屋を営んでいた時に、来てくれた街の住民や冒険者の皆に、別れを告げた。そして、ギルドマスターの所へ行き。挨拶をした時に、アランさんのペンダントを渡す、レイアさんを知っているか、訊ねた。
何と――レイアさんは、とんでもない大物だった……。普通に家に訪ねる事が出来ないので、方法が無いかと頼んでみたら、王都のギルドマスター宛に手紙を一筆したためてくれた。その手紙を渡す時に、力になってくれるか解らないと付け加えられた。
これで残すは、フェイミィだけ、最初のパーティを組み、揉めてから、ブフと戦闘を終えるまで、会話らしい会話は出来なかった。フェイミィの御蔭で俺は強く成れたんだと思う。力じゃなくて、心の方だよ。でも、ちゃんと話そうとすると、緊張するんだよね。いろいろ謝りたい事があるんだ。揉め事? そんなの些細な事――フェイミィをネイルさん達の変わりにしようとした、自分が許せないんだ。それは、前から思ってた事……フェイミィは謝ってくれた。だから次は、俺の番なんだ。
本当は、自分で呼び出すのが、当たり前なんだけど…アイシスさんにお願いして、フェイミィを呼んでもらった。夜の静かな場所。他人が見たら、愛の告白? に見えるんじゃないだろうかって言う場所だ。
俺は月を見て、勇気を貰う。昔から、何かあると月を見上げるのは癖だ。別に月が好きって訳じゃない。ただ、月明かりが優しくて、ホッとするんだ。
ため息が漏れた時に、後ろから足音が聞こえ振り向くと。そこには、お洒落な服を着ているフェイミィの姿だった。今まで、安めの鎧やボロボロになっても良さそうな、雑な服を着ている姿しか見た事がない。だけど、今日のフェイミィは、とても美しくて、まるで絵に描いた様な姿だ。
「どうしたの?」
呆けている俺に、フェイミィは笑って訊ねてきた。
「え? あ、何時も鎧とかの姿だったから……見惚れてた」
「ふふふ……ありがと」
「俺……フェミィに謝らないといけない事があるんだ」
「それは、私のほうだよ? あの時は、勢いで謝ったけど……ちゃんと謝らなきゃって――」
「いや、それは良いんだ。お願いだから……俺の話しを、ちゃんと聞いて欲しい」
俺は、フェイミィに求めてた事……異世界から来た事以外、隠してた事を打ち明けた。フェイミィがエルフだから、ネイルさん達の変わりに居て欲しいって、甘えようとしてた事で、フェイミィをドルデ荒野に連れて行こうとしてた事。そして、上手く行けば、俺の旅に巻き込もうと考えてた事。ドルデ荒野で、狂心苔を手に入れていた事を隠してた事。それを、話していれば、浚われずに済んだのに…と。俺の弱さを全部……全部打ち明けた。
「本当に……ごめん。俺が弱いばかりに、フェイミィに迷惑かけて、ごめん」
シュンは、心の底から謝り。フェイミィは、反応に困っているのだろう、う……そう……なんだ……と返事をするだけだった。
「……うん……シュン君の気持ちは、解った……でも、シュン君は、もう気にしなくて良いよ。終わった事だしね。最初、剣聖様と大魔導師様の変わりにって所が、畏れ多いと言うか、複雑な気持ちになったけど。良く考えて見れば、当たり前だよね。……私が母さんに、亡くなった母さんを重ねた様に……シュン君は、私にそれを求めたんだよね……びっくりしたのは、シュン君が剣聖様と大魔導師様の弟子って事だけだよ。そっか~、だからあんなに強かったんだ」
ちゃんと受け止めてくれた、フェイミィに『ありがとう』と聴こえるか如何かの、声で小さく呟いた。
「それと奴隷商が王都に帰る時、俺も一緒に王都に行こうと決めたんだ」
「そっか~……行っちゃうんだ。私もね今じゃないけど、王都に行くんだよ」
「え? 王都に?」
「王都にある学校に入る為だよ」
「が!? 学校??」
「うん、王都にあるフェルニア学園はね、様々な職に就くための学園なの。王国騎士や宮廷魔導師、魔道具の研究とか、他にもギルド職員に成る為の学園なんだよ。ファラ姉さんとブレン兄さんは、そこで知り合って恋人になったんだって。最初は、母さんの病気を治すために、お金を稼いでたけど、シュン君の御蔭で学費とか払えそうだから、決めたんだ。勿論、王都にあるギルドで依頼を受けながら、授業料払わないと卒業まで持たないけどね……」
「そう……なんだ」
「うん。お互いまた逢いましょう。もちろんシュン君がこの街を出る時は、ちゃんと見送るから」
フェイミィが、学園の事を話す時は、本当に嬉しそうに話してた。将来に付いて、心が躍っているんだろうか、本当に嬉しそうで、その笑顔がとても可愛くて、抱き締めたく成る程だった。
今までの支えが取れたからなのだろう、お互いにスッキリした表情で、これからの事を話した。俺は、取り合えず、アランさんとの約束を守る事にした、と伝え。後の事は、約束を果たしてから決めると、言った。そして、余り遅いとアイシスさんが心配するからと、フェイミィを家まで送った。
最後の最後に挨拶する人達が居る。それは、アーレンの人達だ。初めての繋がりが生まれた場所。俺が異世界に来ての初めてが全て詰ってる思い出の街。片道一日半で着く場所だから、奴隷商が滞在している間に行こうと決めている。
そう今日、その奴隷商が来た。ブレンさんから、昼過ぎに奴隷商が来て、ギルドマスターと今話していて、俺を呼んでるらしい。なので、急いで向かった。
「しつれいしま~す」
「おう。入れ」
「……」
綺麗な女性と、護衛をしている騎士なのだろうか。如何にも騎士っと言う鎧と風貌の男がいた。
「ふふ。奴隷商が男だけだと思ったのかしら?」
「え? ……いや、綺麗な人だな…と」
確かに、来るのは男の人だと思った。しかも、すんごく、お腹の辺りがメタボってる人だと思った。
「御世辞でも嬉しいですよ。将来が楽しみですね。きっと、立派な女性転がしに成りそうで……ふふふ」
御世辞じゃないんですけどね……。
「あの……自分が呼ばれたのは? 王都に帰る時に、御一緒しても良いのかと言う事ですか?」
「ああ。それも在るが。もう一つある。前は出した報酬とは別で、今回は帝国側からの報酬だ。ブフを捕まえた事での懸賞金だな。手紙には、生かして捕まえた事により、帝国の方でも、さらに何名か捕まえる事が出来たと感謝を込めて。懸賞金に少し色を付けたとな」
「は……はぁ」
護衛の騎士が俺に、袋を渡して来たが……持った感じ硬貨が二、三枚しか入ってない気がする。ケチな国なんだな……と思った。別に良いけど。
「はっはっは。シュンお前、今、二、三枚しか入って無いって思ったろう。開けて見ろ」
「赤いお金?」
騎士の人が、笑顔で説明してくれた。
「それは、朱金貨っと言って、一枚に付き、金貨百枚の価値があるんだよ」
って事は、朱金貨一枚と金貨二枚はいってるから。金貨にすると、金貨百二枚……すげぇぇぇ!!
中身の大金に驚いて、口がポカンと開けぱなしに変わった。
「自己紹介が、まだったな。俺は、王都で王国騎士をしている。ファルクスだ」
「え……あ。はい、冒険者兼魔道具屋を営んでる、シュンです。こちらこそ、名乗るのが遅れて、すみませんでした……」
深く頭を下げ、顔を上げ。
「私は、王都で奴隷商をしている、マユ・サカキよ。爵位は伯爵です」
「え? マユ? サカキ?? ってまさか?」
俺と同じ日本人? いや、それにしちゃ…見た目が日本人じゃない…。
「ふふふ。名前と家名が不思議? 私の血はね、勇者の血が混ざってるのよ」
ですよねー。その見た目で日本人ですって言われたら、ビックリだよ………えええええええ伯爵!! 初めて会ったよ。伯爵様が、奴隷商? 不思議だ…。
「今、貴方が思ってる事を当てましょうか? 何で貴族の私が、奴隷商をしているのかって」
「う……」
図星つかれたし。
「今回の件に関わる事だから、話すけど余り他人には話さないでね。面倒事になるから」
面倒なんだ……じゃあ話さない。って言うか聞きたくないなぁ。
「それはね、闇の奴隷商が使ってる契約魔法が、特別なのよ。どう特別かは、教えられないけどね」
話したし……断る前に話された。しかもアバウト過ぎる。
「解りました。他言はしません。それと、王都に戻られる際、自分も同行して、宜しいでしょうか伯爵様?」
こんな、話し方で良いのかな?
「ええ、構いません。この街を発つのは、4日後です。何せ急いで来たので、皆を休ませたいのです。それと、今から、奴隷の刻印を刻まれた子達の解除をしたいので、案内を頼めますか?」
これなら、アーレンに行けるな。
「はい。自分も早めに皆が開放されるのが、嬉しいですし。それに、余った日にちの間に、アーレンの人達に、挨拶と花を手向けに行けますので」
アーレンの単語を聞いて、ファルクスさんが俺に訊ねてきた。
「シュン! 一つ良いか? アランの事を知っているか? 俺はアランとはフェルニア学園からの友人だったんだ」
「え! アランさんの……知ってますよ……短い間でしたが、御世話になった方の一人ですから……」
マユさんを、魔道具屋に案内して、皆を解放していく。因みに刻印は、身体の何処かに入ってるため……その解除場は、男子禁制の場所となり、ファルクスさん、ブレンさんと俺の三人は、魔道具屋のカウンターで、終るのを待ちながら、店番をしていた。開放されて行くたびに、嬉し泣きや歓喜の声が、店中に響き。その度に、三人笑顔で頷きあった。
ちなみに、ファルクスさんが、店に貢献してくれた。買ってくれたのはポーションと、栄養ドリンク改だ。色んな人が来てくれる中で、栄養剤が飛ぶように売れていたから、興味を持った様で、試しにどうぞ? って飲んで貰った。その反応だけで、造った甲斐があったと、嬉しくて小さくガッツポーズを作った。ランディールの人以外でも受入れて貰えたのは、今後の自信に繋がる。
夕方になった頃に全ての開放が終わり。今日の夕食は、お別れ会が始まった。故郷に帰る者。此処に居座る者。旅立つ者。将来を見据えて頑張る者。それぞれの、新たな旅立ちを祝いあった。
明日の朝、日の出と共にファルクスさんと、アーレンに向かった。
最初はアーレンの街でお世話に成った場所に、花を手向け。黙祷を捧げ。帰りに、アランさんの眠る墓に寄った。
「ここが……アランさんが眠る墓です。俺が埋葬しました」
「そうか……墓が在るだけ……まだましだ……本当なら墓なんて貰えない様な行いをしちまったんだ……あいつは」
邪神に騙され利用されたとは言え、アランさんは罪人になったんだ……真相を知っている俺だから……ちゃんと、伝える事が出来る。
俺が、ファルクスさんから聞いたのは、邪神に憑かれた、哀れな騎士と……。だから、俺はファルクスさんに、最後の最後まで、勇敢な騎士でしたと、本当の最後を伝えた。自分で邪神に憑かれた身体を奪い返し、自分で俺の剣に刺さり、自害して邪神を倒した英雄だと。
その時の話しを聞いて、『そうか……』と言いながら、涙を浮かべているファルクスさんの姿は、何処かアランさんに似ている気がした。
本当に、アランさんの友人……親友何だと思った。
そして今日、俺はランディールと別れる日となった。
見送りは、別にいいって言ったのに、アイシスさんを含め娘、息子の、フェイミィとグエン、狐耳のミラン(15歳)、狼耳のシャアニィ(6歳)と家族が増えた。男は、グエン一人だけだ……肩身が狭そうだ。他にも、ブレン夫婦まで来ている。
奴隷から開放されて、帰る場所がある子達は、俺がアーレンに行ってる間に、ギルドの護衛付きで旅立った。今まで働いてくれた看板娘達には、ちゃんと給料に色を付けて渡したので、宿や旅先での飲食やお土産とかには、困らないと思う。みんな、本当に良い子達だった。だって、帰ったら、お礼の手紙が在ったんだよ。涙がでたよ。感謝される様な事、してないのに……。
「じゃあ、そろそろ行くね。みんな元気で」
「あ! 待ってシュン君」
フェミィに呼び止められ。
「シュン君に、良い旅路と幸多からん事を」
頬にキスをして来た。
「え……あ……」
「えっと……これは……エルフ族の慣わしと言うか……おまじないと言うか……昔からある事で……新たな旅立ちをする……大切な人にする事なの……何でも、旅立つ人が困難な状況や迷った時に、夢に出てくるらしいんだけど……本当かどうかは、解らないんだ……」
頬を赤く染めながら、慣わし? 見たいな事の説明をされた。
「うん。きっと効果はあると思うよ。またね、フェイミィ」
「うん。また、逢いましょう」
効果はある。だって、何度も夢の中で、ネイルさんと、メイルさんに助けて貰ってるんだから。あれ? アランさんも夢に出て助けてくれた様な? まぁ~いっか。
皆に手を振り、馬に跨って、奴隷商のマユさんの所に赴き、「お待たせしました」と別れが済んだ事を告げ。ランディールを発った。
最後に、振り向いて見た、ランディールの街は、特別に美しく見えた。
10月から、新章向けて話しが進んでいきます。
こんな感じの作品ですが、異世界ってスゲェェェ!!(仮)を宜しくお願いします。
次話『いざ! 王都へ!!』を投稿します




