42話 初めての対人戦と手加減
すみません、今回も長いです。
ダンの落とした剣の音が、戦いの始まりを告げ。お互いの距離を詰めた。
「魔道具屋が、俺の剣を弾ける訳がねぇだろぉおおお!」
渾身の1撃で、シュンに斬り掛かった。シュンはその剣撃の力を利用して、後ろに飛んだ。その瞬間、咄嗟に左手で、ダンを掴み、フェイミィ達が居る方向まで、一緒に飛んだ。
「うわ!」
「何て馬鹿力! まぁ、御蔭でフェイミィ達の近くまで、下がれたし」
30メートル近く在った距離を、半分位まで減らせるとは思ってなかった。ダンを掴み損ねてたら間違いなくダンは、シュンドランと言う男に殺されてたろう。
「えっと。君はフェイミィ達の所まで下がって」
ダンの返事を待たずに、シュンは走った。向こうがこっちに向かって走ってきているからだ。そして、シュンとシュンドランと言う男との斬り合いが始まった。
シュンドランは、相変わらず力任せの剣術で、シュンは業で応戦していく。パワーとテクニック。間逆の戦い。
今にも剣を真っ二つにする様な剣術が、シュンに迫る、1撃ずつ丁寧に捌いていくが、まだ相手の攻撃のタイミングが掴めず、此処!! と言う隙を作れず防御と、軽い1撃だけしか放てずにいる。ただ攻防だけが激しさを増していく。
フェイミィ達の目には、その剣戟の太刀筋が見えず、その激しくぶつかり合う、金属の甲高い音だけが聴こえた。
「ダンの馬鹿! …馬鹿よアンタは…アタシ達の為に無理しちゃって…勝てないなら逃げなさいよね……」
「…ごめん…俺…リーダーだから…」
フェイミィ達の所まで、逃げれたダンを泣きながら強くメディが抱き締め。ダンも安心し涙を流す。フェイミィとグエンは、ホッとして気が緩み。安心感で4人だけの時間が止まりつつ在った。
「安心してる場合じゃ有りませんよ! 貴方達は、どれだけの人に迷惑を掛けたと思ってるんですか!! それに、シュンさんが今、戦ってるんです!! 気を引き締めてください!! あの男以外にも問題が有るんですから!!」
ブレンが、4人の緩んだ気持ちを現実へと呼び戻した。
「「ブレン兄さん」」
「ブレンにぃが、何で…此処に」
「グエン、忘れたのですか? 私が元冒険者だった事を」
「私、聞いてないよブレン兄さん」
「その話は後です。急いで馬車に乗って待ってなさい! …残念ですが、貴方達に出来る事は何も有りません…悔しいですが、私にもです」
でも、6人ならと言いたそうな、フェイミィ達の気持ちを察し。ブレンは何も出来ない事を先回りして告げ、シュンに声が届く所まで向かい。
「シュンさん! こっちは大丈夫です! 何時でも行けます!!」
「解った! 先に行ってくれ! 俺も後から行く!!」
「駄目です! 貴方を置いては行けません! 貴方には返せない程の恩がありますから!!」
「解った! ギリギリまで待ってくれ!! それで無理なら無視して行ってくれ! それ以上は足手まといになるから!!」
その、言葉に返事をし、急いで馬車まで戻った。
シュンドランとの激しい攻防の中、声を張り上げ会話をした。防御だけなら、この男との戦いは楽勝だ、早いと言ってもネイルさんとの模擬戦以下。重いと言ってもナイトスコルピオンより遥かに軽い。そして、全てに置いて、あの忌々しい邪神の手加減より劣っている。
負ける要素は無い。ただ、殺すだけなら容易い…ただ、人を殺すだけじゃ根本の解決にならない。捕まえて全てを吐かせる。それが良いと決めて実行をしようとして、苦戦をしている。
「おい! なんだぁ? さっきの会話わよぉ!? 俺と戦って会話が出来るガキ何て、気持ちわりぃなぁあああ!」
「く!!」
仕切り直す為に、攻撃を弾いての後退。その度に飛ばされる距離が、イメージとズレている。何度も練習して、何度も実践で使っている業だ。相手の力を利用して飛ぶ時は、感覚で調整していて細かい距離までは、未だに調整出来ない。
可笑しいな……ここまでズレるのは、出来る様に成って間もない頃いらいだ。良くあんな雑な闘気と剣気で……どう考えても腕力だけの力にしか思えない。でも見た目は普通だ! ん!? あれ、ドルデ荒野に入る前に、ブレンさんが何か言ってた様な……
「あ! そうか…このパワー。あんた! 帝国で指名手配されてる……『ブフって言う男』だな!? 見た目に似合わない腕力を持つ、元Bランク冒険者…だったけか!?」
ブレンさんが馬車で読んでくれた、手配書の内容を思い出した。
「手配書が!? ちっ…大金は諦めるしかねぇか。だげど、テメェを殺ってから、トンズラさせてもらうぜぇえ!!」
手配書の事を知り、焦りと不安がブフの攻撃の手数を増えた。シュンは、その攻撃を落ち着いて防ぎ、無傷で捉えるチャンスを狙って行くが、なかなか狙えずに困っている。
ブフとシュンの戦闘を離れた所から、見ているブレンの耳が、ピクピクっと動いた。
「如何したのブレン兄さん!?」
「あの男…帝国のギルドから、指名手配されている、ブフみたいです」
「「「「指名手配!?」」」」
ブレンがリュックに手を掛け中から、指名手配所を取り出し、フェイミィに渡し、4人が書類を覗き込み内容を確認した瞬間、体が恐怖で震えた。
あの男に自分達がされそうになった事は、記載された通りの内容で、巧みに騙し闇の奴隷商の所まで行こうとしていた事だ。
そして、何よりも体を振るえさせたのは、あの男が『元Bランク冒険者』だと言う事だ。
そんな強い奴と、ずっと行動して無傷だった事が、奇跡だと思えた。連れて行くだけなら簡単だったはず。何時でも縄で縛るチャンスは在った。もし縛られていたら今頃、闇の奴隷商に売られていたに違いない。
Eランクに取ってはCランクすら遠いのに、Bランクと言ったら想像すら付かない。
フェミィは、1度だけパーティーを組んだ事があり、ギルドの前で震えていた、あのシュンが、指名手配されている元Bランク冒険者と普通に戦っている事に衝撃を受け、手から手配書を放し2人の戦いに見入った。
「ありえない…シュン君は…Dランクのはず…じゃ?」
ブレンの袖を引っ張って訊ねる。
「ええ。彼はDランク冒険者です。それは、彼の担当をしている、私が1番良く知ってます。ナイトスコルピオンを倒したのも、デザートライオンを倒し、狂心苔を手に入れ。義母様の病の特効薬を調合してくれたのも、こうして、僅か3日と半日を掛けて、貴方達を助けるため、必死に馬車を走らせてくれたのも。全ては、フェイミィ…貴方と仲直りをする為にやった事だって事も全部知ってます」
フェイミィの頬に手をあて、今までシュンが行なった行動を全て話した。その動機も。
「私と…仲直り…私が悪いのに…わたしが…勝手に…うう…それなのに…母さんの病気まで…」
堪らず涙が溢れ出し拭う事無く、シュンの戦いを見つめ、自然と手が祈る様な形に成っていた。
「彼は本当に純粋な方です。純粋過ぎるほど優しくて、見てるこっちの方が不安で堪りませんよ…シュンさん」
ブレンも自然と涙が溢れ出す。傍で母親が薬を飲んだ事を知り、グエンも安心で涙を流していた。
「何なんだよ、この糞ガキはよおおおおお!!」
何度も剣を振るっているが、簡単に弾かれ出来た隙に軽い攻撃を入れて来る。まるで挑発でもしてるかの様に、ブフの服を斬り、皮の鎧を1枚1枚剥いでいる。
ん~参ったな~、本当に参った…どうしよ。殺すのは簡単なんだけど…したくないんだよ…それに、あの感触はもう味わいたくない!! それに、フェイミィ達を売ろうとしたって事は、売る伝手があるって事だよね…吐かせれば、少なくとも何かしらの情報が得られる訳だし。本当に参ったな…エアカッターだと死んじゃうし……手加減って難しいなぁ…良くある首に手刀でっとか考えたけど…無理そうだな…やった事ないし。闘気を中途半端に使ってる相手に闘気を纏った一撃を加えると、簡単にボキっと逝きそうだし…難しい相手だな…ネイルさんの言った通りだよ。そう言えば、手加減に付いて聞いた事あったよね?
「ぶつぶつと、気持ちわりぃガキだな! くそおおお!! とっと死ねよ、こらぁあああ!!」
来る剣だけを捌きながら、考え事していたが、ぶつぶつっと独り言になり始め。ブフの言葉がシュンに届かなくなった。来る剣だけを捌いているシュンを見て、逃げるチャンスと思って逃げ様とするが、その隙を突くかの様に剣が襲い、ブフの逃げ道を絶っている。
そして、シュンはネイルとメイルとの遣り取りを思い出し始めた。
シュンは、何時も絶妙な手加減をしてくるネイルに、ふっと思った疑問である。手加減に付いて、ネイルとメイルに訊いた事がある。何で、そんなに『手加減が上手い』のかと。
疲れで闘気が不安定だった時や、今もてる闘気を一箇所に濃く集めたり、その闘気を腕や足に移動させて、速度や筋力を上げて模擬線で意表を付こうとして、頑張った。だが、どれも簡単に往なし。常に一定のダメージで攻撃を入れてくるのだ。勿論くると解ってる攻撃だから、それに合わせて闘気を集めて防御するのだが、どれも見事なほど一定だった。
その答えが。
「シュンが、ちゃんと闘気を纏えてるから、闘気の量が計り易いのよ」
「ちゃんと纏えてる?」
今まで一生懸命にやってたから、全く解ってない。それに、最初から使えてたから尚更わからない。
「闘気を纏って剣を体の一部として捉えて、剣と身体に闘気を纏わせるってシュンが、今まで当たり前にやってる事だよね?」
「はい。そうすれば、体の強化と剣の強化が一緒に出来て便利じゃないですか」
当たり前だよね? 剣だけに闘気を纏わせてたら、身体強化できないし。身体強化して、剣だけ闘気なしだと、すぐ折れちゃうだろうし。
「その何気なくやってる事が出来る人って、実は少ないのよ。それが出来る様に成れるとしたら、獣人を除けば、Aランクかそれに近いBランク位の冒険者ぐらいかな?」
「何でですか?」
俺のステータスは、贔屓目をしても高いとは思えないんだけど?
「それは、『剣気ばかり気にしてる』からよ。これは、私の師匠の受け売りだから、本当かどうか怪しかったけど、シュンを見て確信したわ、『闘気はレベルじゃない』って、だからシュンがもし、人と戦う時は気を付けなさい! 少なくともAランク以下と戦う時は特にね。多分だけど簡単に殺せるわよ」
「ぶっふーーーーーーーーー」
人を簡単に殺せると聞いて、堪らずお茶を吹いた。
その後もネイルさんの講義が続く、闘気を纏うって事は身体強化の基礎だけど、獣人を除けば殆どの種族は、剣気など武器に纏わせ、その漏れた剣気が闘気となって何時の間にか身体を覆っているらしいが。俺だけ、自由に闘気を使って剣気を使っていた。しかも、レベル2から使えるのは、1撃だけのはずなのに、何時の間にか普通に、2撃3撃と連撃で使っていた様だ。ネイルさんに指摘されるまで俺自身も気付かなかった。
女神様から貰った説明書にツッコミ入れったっけ。連撃できるじゃんって。
長い講義が終ってから、手加減の仕方に付いて、やっと聞き出すことが出来た。
1つ、闘気を纏っている相手の場合は、相手の闘気が守っている箇所、主に鳩尾に倍の闘気の量で攻撃する。
2つ、闘気の質や量で勝てない場合は、戦意削いで量や質を低下させる。又は0にしてから、普通に攻撃する。
3つ、何れも叶わないなら、諦める。
だったっけ?
諦めるって何だよ!! それと、ネイルさん言ってたっけ、闘気が上手く使える相手か、逆に使えない相手ほど、手加減が楽だって。それで、一番難しい相手は、中途半端な奴だって言ってたな。
今まさに目の前にいる、ブフがそうだ。纏っている様で纏ってない闘気。迂闊に攻撃して気絶しなかったら、間違いなく、俺が死ぬ。何せ、剣術のレベルが違いすぎるから、隙を作って攻撃するので精一杯な俺に対して、向こうは堂々と剣を振れるんだから。闘気と言っても防御に優れてる訳じゃないんだ。どんな刃物で斬られれば、血が出るし刺さる。
なら…メイルさんなら如何だ。
「相手を捕まえる方法? 私の場合は魔法なの…でも、今のシュン君で使えそうな魔法は無いの」
……無いって言われたよ、でもメイルさんの場合も聞き出せた。
その方法は、土魔法で、足を止め土魔法のストーンボール、ウォーターボールの威力を弱めて、気絶させる。
…確かに、両方使えない…頑張ったのに、出なかった魔法だよ。メイルさんが一生懸命、ウォーターボールを教えてくれたのに、全く出来なかったんだ。あの時のメイルさんガッカリしてたな…。
俺が使える魔法って言えば、エアカッターか、スタンって言う電気ショックくらいだし……!? ん!? んん!? あるじゃん、魔法!! そうだ、スタンだ!! 今まで、すっかり存在を忘れてたよ。エアカッターが便利過ぎて、本当に忘れてた。
意識を目の前のブフに、集中し始めた…。
「ぷは、ははは。何その姿。くっくくくく、まるで変態じゃん」
何時の間にか上半身裸になっている変体! もといブフの姿だった。
「はぁ…はぁ…。てめぇえが、やったんだろうがぁボケエエエ!!」
そして、何時の間にか最初に使っていた豪華な片手剣が、安っぽそうな剣に変わっていた。顔を真っ赤にし、今まで1番の闘気と剣気を纏っている。そう、ブフはここに来て、シュンと同じ、剣を体の一部として、闘気を纏う事に成功していた。
何だよ…出来るなら最初からしてよ。そうすれば、あれこれ悩まずに出来たのに。
「いい加減しねやあああああああああ!!」
本当に、これで最後だと言わんばかりの、剣撃が襲う。その攻撃に対して、相手の剣が纏っている倍以上の闘気を、リべレーションソードに注ぎ込み完全に剣気のみとなった状態で、相手の剣を迎え撃ち、相手の剣を斬った。
ブフの斬られた剣が、地面に刺さるまでの間に、ネイルさんとメイルさんの講義の、最後の言葉を思い出した。
『闘気、それは魔力に似た何か。身体強化や剣を強化する剣気は方法の1つにしか過ぎないわ。未だ解明されていない、未知の業なのよ闘気って。シュン君が言う闘争心って何? 争う気持ちだけで、闘気が纏えるなら、誰でも纏えるはずよ。実際に剣術レベルが高くても、剣気や闘気を纏える人は、意外と多い様で少ないのよ』
『そう言った矛盾は、この世界には沢山あるの。だから私達は、冒険者をしてるの』
『『私達は、世界の矛盾を明らかにする探求者なの』』
ガラ空きになった、ブフの腹部に手を添え。スタンを入れた。
「がががががががきききききき……」
完全に気を失ったブフの足を掴み引きずりながら、フェイミィ達が乗ってた、馬車まで運んだ。途中で、縄を見つけブフを縛り、助けた少年が所持していたであろう剣も回収した。
探求者か…本当に良い師匠に巡り会えてたんだな…こんなに大切な事忘れてたなんて…駄目な弟子ですよね。女神様…名前を探す事意外にも、いろいろ在りそうじゃないですか。本当にもっと話したかったな。
馬車を走らせ、ブレンの所まで行き馬車を停めた。
「シュンさん、お疲れ様です」
「うん。お疲れ様、ブレンさん。あ! それと、これ君の剣だよね、駄目だよ相棒を手放しちゃ」
ダンに拾った剣を渡す。ダンは、緊張した顔で「有り難うございます」と堅苦しく礼を延べるが、メディとグエンも、何故か緊張している。フェイミィは、涙の後が残ったまま、笑顔を浮べているので、涙の後が凄いよ? って教えてあげたら、慌てて顔を拭いだした。
「じゃあ、奴が出る前に帰ろう、ブレンさん目印はちゃんと付けて来てくれた?」
「はい、バッチリです」
「奴って?」
フェイミィが、顔を拭いて涙の後を消し終え話に入って来た。
「ん? ナイトスコルピオン」
「「「「ええええ!?」」」」
急いでブレンさんが、岩山に突き刺した槍を目印に向かって、馬車を走らせるが、日が完全に落ち始めた。
ああ、こりゃあ間に合わないや、後ろから蠍の尻尾ぽいのが地面から現れ、凄い勢いで追い駆けて来てるよ。
「ブレンさん、そっちの馬車は、誰かに任せて、俺の馬車の御車を変わって下さい。こいつに死なれたら、生かした意味が無いんで」
ブレンが、フェイミィと変わり、馬車が平行に動いている中、ブレンが俺の馬車に飛び乗った。
ええええええ!! 馬車を停めたのに。なんつぅうか、アクション俳優並みに格好良かったよ、ブレンさん。
「じゃあ。俺、降りますんで、砂煙が無くなったら、迎えに来てくれると嬉しいです」
ブレンさんが頷いてくれたし、やるか。弱いと良いけど。
「ぐへ」
さっきのブレンさんが、格好良過ぎたから、馬車から飛び降りたんだけど、着地失敗して転がった。
馬車はドンドン離れて行き、蠍の尻尾がドンドン近づいて来る。
「本当、弱いと良いな…」
リべレーションソードに手を掛け、抜刀の準備とエアカッターの準備をし。詠唱が終る頃と同時にナイトスコルピオンが顔を出した。
「にゃんで3匹も居るのおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
そう顔を出したのは、最初に倒したナイトスコルピオンより、小さいのが2匹と、遥かにデカイ1匹だった。
いろんな方が読んでくれたり、評価してくれたり、ブックマークにしてくれたりと、嬉しさでいっぱいです。
いろいろと、解り難い所がある私の作品ですが、
これからも、異世界ってスゲェェェ!!(仮)を、宜しくお願いします。




