41話 謎の男・・・シュンドラン
今回は、長いです。
ドルデ荒野に入って、もう3日目の朝を迎えた。
「ねぇダン。昨日通った場所じゃない?」
「そんな訳無いだろう! メディの勘違いだ!!」
「そんな、訳無いって。出発する時、シュンドランさんが、このまま真っ直ぐだって、言ってたよ?」
「ほら! メディの勘違いだって!」
「私は、メディと同意見よ。私達、迷ってると思うよ」
初めて訪れた場所は、確かに迷い易いが。荒野や砂漠の様に、景色の変化が解り難い場所に慣れていない。4人は、日が暮れるまで馬車を進めながら、同じ様な押し問答を繰り返していた。
慣れないのは、道だけではなく。戦闘も場所が変わっただけで、悪戦苦闘していた。
ゴブリンの強さは、今まで戦ってきた奴と差ほど変わらない。ただ、地形と時々吹く風と土埃がゴブリン達の味方に成っていたからだ!
流石の、あの黒服2剣の男、シュンドランもドルデ荒野に入ってからは戦闘に参加した。その実力は、背中の剣を抜き、1振りでゴブリンを斬るが、斬るっと言うより、力任せに叩き付けるっと言った感じだった。だが、斬ったゴブリンを、他のゴブリンに向かって吹き飛ばすっと言う戦いを見たダンとグエンは、自分達には出来ない、その純粋な力技に魅せられ。ますます憧れの対象となり、率先して世話を焼き始めた。
フェイミィは、そんなシュンドランを見て、ダンとグエンとは逆に不信感が強まった。パーティーメンバーの、リーダーはダンだ。本当なら、ダンに言うべき事なんだが、グエンと同じくシュンドランに憧れている、ダンに、如何伝えるべきか悩んでいた。ドルデ荒野に入る前にグエンに伝え。その結果が、ギクシャクして、お互い口数が少なくなっている。下手にダンに伝えると、同じ事に成りそうで怖くて、伝えられずにいる。
「フェイミィ? やっぱり何処か悪いの? ランディールを出てから変よ?」
焚き火をじっと見つめていたフェイミィに、メディが話し掛けて来た。ランディールを出て、ずっとフェイミィを気に掛けてくれる。そんなメディになら、自分の思ってる事を打ち明けても良いと思うが、皆の輪を壊す事が怖くて、また呑み込んだ。
「そ…そんな事ないよ…」
「そんな事あるって。1年も一緒にパーティーを組んでるんだから、解るわよ! ダンとグエンに解らなくても、このアタシにはね!!」
横に座って、とことん訊くよ! っと言う体制で。フェイミィの口が開くのを待った。
ダンとグエン…それに、あの男の方を見たが、こちらに来る様子は無かった。
「あの…ね。私……前にドルデ荒野に行けそうだった事があるの…でも、その時の私は、母さんを助けたくて必死だったの…それで、冷静で居られなかった私は…パーティーを外されたの…でも、それは私を思って言ってくれたのは…解ってた…それだけドルデ荒野が危険だって事も…マルチナさんに教えられたわ…だから、あのシュンドランって人が私達を、あんなに軽々しく連れて行くのが、私には信じられないの…だから…だから―――」
「気をつけた方が良い?」
コクコクっと頷くフェイミィの頭を撫で。
「そうかぁ~。フェイミィも、そう思ってたんだ…しかも、アタシより先に…」
「!! メディも…変だって思ったの?」
自分と同じ事を思ってた仲間が居た事で、胸の支えが取れ、楽になった。
「アタシの場合は、あの男がアタシとフェイミィを見る目が変だったのよ…何て言うか……そう、品定めをしてる見たいな感じだった!」
気持ち悪いっと体を掻いて見せた。
「私達は、これから如何すれば良いと思う? 何かが起こってからじゃ、遅いと思うの私は」
「そうね…ダンは昔から、これだと思う事には、真っ直ぐ突き進んじゃう所があるからなぁ…幼馴染のアタシが言っても多分聞かない……いや絶対聞かないわ」
「「……」」
良い考えが思いつかず、お互い焚き火を見つめ、黙り込んでしまった。
解っているのは、あのシュンドランと言う男は、間違いなくパーティーメンバーが束になっても、勝てない事だけだ。もし、ダンとグエンが、シュンドランを信じていなければ逃げる事は出来るが。シュンドランに憧れてベッタリな状態な今は、逃げる事が難しい。
まだ敵とも味方とも解らない今の状態は、動き難く考え難い。解ってるのは怪しいっと言う事だけ。
「メディ……私達に今できる事は、あの男を警戒する事だけ…」
力強く握り拳を作り悔しさを見せた。
「そうね。アタシ達で見極めましょう…それと…昨日から同じ場所をグルグル回ってる気がするわ」
「うん。それは、私も思ってた。それに付いては、早めに考えよう」
今の状況を変えるためにも、2人だけの作戦会議が静かに始まった。
馬車がカタンと弾んだ。
「!? ん…あ…」
「起きましたか。すみません、馬車を扱うのは久しぶりで……」
ランディールを出たのが、お昼ちょっと前。それから、馬車が弾む衝撃で目を覚ますまで、寝ていたらしい。
日が落ち始める今まで、休まず馬車を走らせてくれている、ブレンさんには感謝だな。御蔭で、疲れが少し取れた。
「ありがとうございます。ブレンさん変わります! 疲れてる所、申し訳ないのですが。フェイミィ達を連れて行ったって言う男に付いて、教えて貰えますか?」
「はい」
俺はブレンさんの隣に座り、手綱を握った。俺を起さない為に、あまり速度を出さなかった様だ。本当か如何か解らないけど。ランディールの馬は馬車を引きながら2~3日は、走る事が出来るって言ってたっけ。
荷台から、書類を取り出して、馬車が動いている時は何だかんだで、音が大きくて声が届き難い為、シュンの横に座って説明を始める。
「私達が解ってるのは、フェイミィ達がエプロンネコ亭で黒服の男と話をしている所を目撃されたのが、5日前の夜で馬車を借りて街を出たのを門番の方が目撃しましたが、その黒服の男は確認されませんでした。その4日前の昼頃に、ドルデ荒野に向かうフェイミィ達と擦れ違ったっと、戻ってきた冒険者達が目撃しました。その時に黒服の男が一緒に居たのが確認されました。それと、冒険者達が擦れ違った近くの村の宿に泊まった事も解りましたが、その後の足取りは掴めてません」
えっと…フェイミィ達が街を出たのが5日目の夜って事は…もし……もし、本当にドルデ荒野に向かってるとしたらだよ。既にドルデ荒野に入っても可笑しくない。不味いな、ドルデ荒野は、道らしい道が無い。それに風が絶えず吹いているから、早めに追い付かないと足跡が消えちゃう。本当に手が付けられなくなる。
「ブレンさん。その、黒服の男の情報は無いんですか?」
「それが…何も解って無いんです……」
悔しそうに、書類をくしゃりと握ったブレンさんと、その書類を見て俺も、自然と手綱を握る手に力を籠めた。
「ん? ブレンさん、その書類…2枚目がありますよ?」
「え? ああ本当だ。慌てて持って来たので…誤って指名手配の書類を持ってきてしまったみたいですね」
「指名手配? ですか?」
ブレンさんは、2枚目の書類を読んでくれた
「隣国の『ゴルドン帝国』にあるギルドから届いた書類です。数年前から、各地で多くの子供達を浚って、闇の奴隷商に売るっと言う事件が多発してまして。その中の犯人の1人が、元Bランク冒険者のブフっと言う男らしいです。20代半ばで、見た目に反して、かなりの腕力があるそうです」
「へぇ~。闇の奴隷商ね…そんなのが在るんですか?」
って言うか…王都の名前の前に隣国の名前を先に知ったし…
「はい。公に奴隷を買う事の出来ない、盗賊や貴族達等を相手に売る事を目的にしてます…あと人体実験を目的にと…非人道的な事を目的に。………記録に残さず誰にも知られずに取引をするのが、闇の奴隷商だそうです」
訊いといて……奴隷って言うだけで、俺には充分それが、非人道的だと思うのは。世界いや、日本と言う国で生まれ育った、俺の価値観だからだよね。何に対して線引きをするのかは、人の心と育った環境の違いか。俺は果たして、この世界の価値観に馴染めるんだろうか……俺の世界では、ありえない事をこの世界では当たり前にあるのと同じ様に、俺の世界でやって当たり前の事がこの世界では、駄目なのかもしれない。それが何か解らないけど知らない間に、俺がこの世界で罪を犯してしまうかも知れない……。
首を振って雑念を捨て
「ブレンさん、馬車をこのまま走らせます! 荷台で寝てください!」
馬には申し訳ないが、休まずに走って貰う事にした。本当に申し訳ないと言う気持ちで手綱を握りなおし。日が落ち暗い中、暗視スキルを使い馬を急がせた。
何が嬉しくて、こんな辺鄙な所に来たんだが。俺好みの帝国美人はイネェし。あっち行っても勇者勇者勇者と嬉しそうに噂しやがって、何が勇者だよ。勇者が居るだけで金に成るのかよ。帝国の方がマシだつぅーの。夢ばっか見やがって! 本当にムカつくぜ! 儲け話の一つも転がってねぇしよ。ガキを奴隷商に売り飛ばすのは本当に、良い儲け話だったぜ……。噂話をチョイと利用してやりゃあ、ガキは直ぐ騙されてくれるしよ…本当、良い儲け話だったぜ。
「くそ! あと少しで、帝国貴族の仲間入りだったのによぉー」
ドンとテーブルを叩き付けた音を聞き。何だ!? と見てくる奴等を睨みつけて目線を背けさせた。
たくよぉ、折角の酒場に来たってぇのに。本当に儲け話も転がってねぇ。指名手配された御蔭で、仕事も出来ねぇしよ。行き難い国だぜ…王都ってのはよぉ。帝国みたく金で身分が買えりゃあ、良いのによぉ。
折角また、良い獲物を手に入れられると思って、剣を2振り買っちまったんだっけか……。こんな、ド田舎で面が割れてねぇから、浚ってやろうっと思ったんだが。目ぼしいガキがいねぇ…貧弱で弱そうなガキじゃ、運び賃の方が高く付くしよ……お!? いるじゃねぇか、威勢の良いガキが、しかもエルフの女付きじゃねぇか。こりゃあ良い値段に成りそうだ。ドルデ荒野を抜けた先の小さな村に確か、闇の奴隷商と繋がりが在る奴が居るって、逃がしてもらう時に言われたな。
さて、どうやってドルデ荒野に連れて行くかだけど……!? はっはっは、こりゃ好都合だ。ドルデ荒野に行きてぇ見たいだ。こりゃあ、簡単に稼げるぜぇ。エルフの女を売ったら、数年は楽して暮せるぜぇ。
「なんだあ! お前らドルデ荒野に行きてぇのか?」
「え!? あ、はい。そうです、如何しても行きたいんです」
ほう、高く売れそうにねぇガキが、リーダーか。
「何なら。俺が連れて行ってもいいぜ?」
「本当ですか?」
うし。ここまで、くりゃあ、楽なもんだぜ。後はボロが出ねぇ様に、黙ってりゃあ上手く行くぜ。おっと、調子に乗ってる場合じゃねぇな。手配書が、このド田舎に回ってるとは思わねぇが。念の為だ足がつかねぇように、なるべく人目を避けるか。
ガキってぇのは、どいつも変わんねぇな。質問ばっかでよぉ、馴れ馴れし過ぎるんだよ。お前らが金に成るから、仕方なく付き合ってるんだよ。特に、エルフの嬢ちゃんと、ヒューマンの嬢ちゃん。2人合わせて金貨100枚は行けそうだ。
くそぉ! ドルデ荒野に入ったのは良いけどよ。うぜぇんだよ! 金貨10枚のガキ共。金貨60枚と40枚を見習えってんだよ。おっと、イケネー、嬢ちゃん達を見てると…つい、ニヤケちまう。
朝、出発をして日が落ち始める頃。未だゴブリン以外の魔物に遭わず、飽きてきたグエンが堪らず、訊ねた。
「ねぇ、シュンドランさん? 何時になったら、デザートライオンと遭遇するんですか?」
「おい! グエン、そんな事を訊くなよ。このまま真っ直ぐ行けば、良いんですよね? シュンドランさん」
うるせぇなぁ。知るかよ、デザートライオン何て。ささっとドルデ荒野を抜けて、お前らを売り飛ばして、大金手に入れてぇんだよ。
「真っ直ぐだ。俺の言う事には、間違いねぇよ」
焦るな…このままの調子で良い…キレたら大金がパァになっちまう。傷付けたら半額だ。キレるな俺。
「ねぇ、ダン! あそこの岩山まで、行って見ない?」
「駄目だ! シュンドランさんは、真っ直ぐだって言ってるんだ!」
「良いじゃん。1回だけだから。行ってくれたら、後は何も言わないから。ねぇ良いでしょう?」
ダンが、渋々承諾してくれて、馬車の進行方向を変えたのを、確認し。メディが目線で合図し。フェイミィがコクリと頷く。
岩山に着き、メディとフェイミィが在る場所に向かった。それを見たダンも、今の状況を何となく理解したが、グエンだけは見向きもせずに、シュンドランと話をしていた。
「在ったわ……」
「やっぱり…アタシ達は、同じ所を回ってたのね」
2人が確認したのは昨日の夜に、目印として傷を付けた岩山だった。2人は、ドルデ荒野に入ってから、全く進まず、目と鼻の先の距離のである、同じ場所を何度も何度も、グルグル回っていた。
「メディ……私達…」
「ええ…4日間も同じ場所を回ってた事になるわ…」
2人は、堪らずその場で、ペタリと座り込んで項垂れた。
ダンが2人の近くに歩み寄り、声を掛ける前に、メディが先に口を開いた。
「これで、ハッキリしたわ! あの男は、信用出来ないって事がね」
「ま、待てよ。何で、そうなるんだよ。シュンドランさんだって、気付かないって事には、成らないのかよ?」
「ドルデ荒野でナイトスコルピオンを、ソロで倒せる人よ? そんな人が気付かない訳ないじゃない! それに、ちっともデザートライオンを探す気が無いじゃない」
メディが告げた事を認めようとしないダンに、フェイミィが付け加え。今まで、信じていたダンの心に疑念が生まれた。
「メディ…グエンが心配だわ…ダン気持ちは解るわ…でも、全て信じるのだけは、辞めた方が良いわ」
「そうね。早く戻りましょう。ほらぁ…ダン行くよ」
ダンの背中を叩いて、歩かせた。
「あれ? みんな何処へ行ってたの? …え!? ダンさん?」
近くまでグエンが歩いて来た。その後ろから、まるで刃物の様な鋭い視線が飛んできた。余りの鋭さに恐怖で震えたが、此方に歩いてくるシュンドランを見て、慌ててグエンを自分達の後ろに隠した。
「なんだぁ、その眼は? もしかして、気付いちまったか?」
「き…きづいた…て、何をですか?」
震える体を押さえ込み、震える声でダンが、答えた。
「そりゃあ、俺が偽者だって事にだよガキどもおお! まあ、そのお譲ちゃん達は好きだぜ!! 何せ大金に化けるんだからよ」
「!?……大金?」
隠す気が無くなったのか、本音を漏らしていき。ガキは嫌いだの、1人1人を指しては、金貨10枚、10枚、40枚、60枚と言って呼んでいる。その言葉と視線のすべてに鋭さがあり、今までに感じた事がない殺気で、4人の身体を恐怖で縛り付けて、動きを封じていった。
「さて、お前ら死にたくなければ、大人しく、そいつで縛りな」
ほらよ、っと縄を投げ、剣を抜いて脅しを掛けて来る。
「あぁ…あぁ…みんな…逃げろおおおおおおおお!!」
ダンの必死の雄たけびで、恐怖で動けなかった身体が動き出した。心が追い付いてないグエンは、フェイミィに手を引かれ走った。
「あれ? ダンは!?」
「あ!! メディあそこ!!」
フェイミィが指した先は。自分達が居た場所から、動かずに剣を抜いて時間を稼ごうとするダンの姿だった。
「なんだあ? お前は逃げねぇのか? テメエとネコのガキは生かしてやろうと、思ったのによおお?」
「俺が…リーダーだから…俺が…お前の正体に気付かなかったから…俺が…俺が…」
震える手で剣を握り、怯えた眼でシュンドランを睨みつける。
「俺が俺が、うるせぇえな。金貨10枚じゃなければ、生かしてやるんだがな! 金貨60枚を逃がす訳にはいかねぇんだぁ。ささっと逝っちまいな!」
眼にも留まらない速さで剣を振るわれ、今まで体験した事が無い恐怖で反応が出来ず。覚悟を決め咄嗟に目を瞑った。その時、ふわっと風を感じた。
「……」
覚悟を決めて、目を瞑ったのに刃が自分に届く事は無かった。目を開けると、目の前には自分と背丈が同じ位の少年が黒い剣で、シュンドランの剣を弾いていた。
シュンドランは剣を弾かれ、隙を見せまいと慌てて後ろに距離を取り。仕切り直す為に、その少年に喋り掛ける。
「なんだ、テメエは!?」
たった一太刀だが、子供に止められる程、温い太刀筋じゃない事は放った本人が解っている。シュンドランの額からは、汗が流れ始めた。今まで、何度も殺し合いをしたが、自然と剣に引っ張られる様な弾かれ方をした事が無い。経験した事が無い現象に、冷や汗と不吉な予感を感じさせた。
「えっと…ただの魔道具屋? …ですよ?」
やべぇ超重たい剣だよ…どうしよ…1歩でも間違ったら、剣と一緒に斬られそうだよ。ネイルさん直伝の業が無かったら死んでたよ…絶対!
ダンには、シュンドランが、強そうに見えない少年から、距離を取り。それから、攻めて来ないのかが、理解出来なかった。
ただ、目の前の少年が、自分の命を助けてくれた事だけは、遅れて理解した。思考に心が追い付いた途端に、心が緩んで手に握っていた剣が、地面に落ち。ドサっと音を鳴らした。
それを合図として、戦いが始まった。
この調子で書いていたら・・・いったい何話で完結するんだか・・・と思いつつ執筆してます。
それでも自分のペースで、のんびり執筆して行きたいと思います。
こんな、私の作品、異世界ってスゲェェェ!!(仮)を宜しくお願いします。




