34話 アーレンの爪跡と病気
ゆっくり、のんびり執筆中です。
ブレンさんに少々待つ様に言われ、少し待たされた俺は、辺りを見回した。大通りとは違い、ボロ屋が立ち並んでいるが、そのどれもが何とか家として機能している状態だった。
「酷い状態でしょ・・・」
と、後ろからブレンさんに声を掛けられた。
この区画の殆どが、アーレンの調査に赴き帰って来なかった、冒険者達の家族が暮しているそうだ。皆それぞれ働いては居るが、良くても朝から晩まで働いて銅貨40枚~60枚だそうだ。ギルドの方でも、月に何度か、食事を振舞ったりしているらしいが、ギルドだって赤字経営をしていて、潰れる危機まで追い詰められていたそうだ。
アーレンの件が片付いた事で、ランディールは、徐々に活気は戻ってきてはいるが、この区画にまでは、その恩恵は未だ届かない。
ブレンさんに背中を押され、フェイミィの母が居る家の中に入っ―――。
「あらまあ、いらっしゃーい、こんな汚い所に態々来てくれる何て嬉しいわ。フェイミィの事よね!? ブレン君から聞いてるわ。さあさあ、何時まで立って無いで椅子に座って、そうだわ! お茶よね、今、淹れるから待ってね。フェイミィとは、どんな関係なの―――」
ええ!? マシンガントークで、反応すら許さない犬耳のお姉さんは誰!! 目線でブレンさんに助けを求めた。
「義母さん、シュンさんが困ってますよ! いっぺんに話されては、返答に困りますよ」
えぇ!! 義母さんだってええ!! どう言う事!? フェイミィの御母さんって病気じゃないの? 命に関わる病気だから、フェイミィが頑張ろうとしてるんじゃないのおおおお!!
「ごめんなさいね。私がフェイミィの母『アイシス』です」
うん、元気じゃん、元気過ぎるほど。病気とは無縁に見えるけど? 本当に病気なの? と視線をブレンさんに向けた。ブレンさんは、苦笑いをしながら頷いた。その目は笑っておらず真剣だったから、本当なのだろう。
俺は、アイシスさんとフェイミィの事で話したが、病気の事で揉めた事は伏せた。ブレンさんに助けられながら、アイシスさんのマシンガントークに、負けないように話して行くが、気圧され後半は完全に聴きて側にってしまい、日が暮れるまで、フェイミィとグエンに出会ってから、現在に至るまでの事を聞かされ、2人の初めて使った魔法の話になり、失敗して壊れてしまった物まで持ち出して来た。親馬鹿ぜんかいだよ・・・、でも2人は血が繋がって無いけど、しっかり愛され、愛してるって事は解った。
身体に障っては悪いので、退散しブレンさんと、エプロンネコ亭に行き詳細を訊く事にした。
「病気とは思えない程、元気で驚いたでしょ? ですが、本当に病に侵されてるのです。その病の名は『闘精練縮病』 と言います」
「とうせいれんしゅくびょう?」
「はい、獣人族特有の病気です。獣人は多種族とは違い、産まれて自我が芽生えると同時に闘気を扱える様に成ります。義母は闘気が上手く練れなく成っているのです」
ん? 闘気って練れなくても、普通に生活しても大丈夫じゃないの?
「あの、ブレンさん闘気が練れなくても、普通に生活する事が出来るんじゃ?」
「ええ、確かにヒューマンであるシュンさんは、生きて行けます。ですが、獣人にとっては、別なのです。獣人にとって『闘気は生きる為に必要』な物なのです」
「生きて行く為に・・・ですか?」
俺は、ネイルさん達みたいに、他人の闘気を感じたり見る事出来ないからな~。感じる事が出来れば、何か判るかも知れないけど。
「この事に関しては、未だ解明されてませんが、誕生に関わってると伝えられています。闘気が練れなく成ってしまった獣人は、3年以内に命を落とすと伝えられています」
「3年いない・・・」
「ええ、義母は2年前に患いました・・・いつ急変するか・・・本当に解りません」
ブレンさんは、ここまで淡々と語ってくれたが、とうとう抑え切れなくなって、カップを強く握り締め悲しい表情を浮べた。
確かに、俺には解らない。闘気だって上辺だけしか解っていないし、多種族の事だって知らない、人間に獣耳が生えてるか、エルフ耳が生えてる程度の認識しかしていない。
「メイル様が、御健在でしたら薬を調合して戴けるのに・・・」
「ブレンさん、以前に最近知れ渡ったって言ってましたが。その薬を調合出来る人、メイルさんの他に居ないのですか?」
「ええ、それに関しては解りません・・・ただ以前メイル様が数人に新しい調合薬を教えた事があるそうですが、欲に駆られ、貴族に召抱えられる手段に使われたり、独占しようとした者ばかりだそうです。それ以来、メイル様は、誰にも調合方法を教える事が無かったと聞いています」
流石の優しいメイルさんでも、そうなるよね。でも、世界中を探せばきっと居るんだろうな。メイルさんの意思を受け継いで、命を救う事だけに頑張ってる弟子が・・・良い事は伝わり難く、悪い事は直ぐに伝わるもんだし。でも、どうやって探せば良いのだろう? アイシスさんの症状の進行具合は解らないけど、時期的に末期何だろうから、余り時間は使えない。あ! 方法が、あるかもしれない!!
「ブレンさん!! 調合出来る人見付けられるかも知れません!!」
俺の一言で、ブレンさんの俯き掛けていた顔が上がった。
「本当ですか!?」
「ええ、見付けられる確立は凄く低いですけど、人手を使う事に成りますが・・・大丈夫でしようか?」
「すみませんが、お金は治療費だけに・・・使いたいのですが・・・そのギルドの職員と言っても、収入は多少良い程度なので」
「その事でしたら、材料の狂心苔と鎮静花は、俺が所持してますんで大丈夫です。他にも必要な物があったら言って下さい。出来る範囲で協力します」
俺は、狂心苔と鎮静花が詰められているビンを出して、ブレンさんに見せた。
「狂心苔!! ドルデ荒野で採取なされたのですか・・・何でそこまで・・・仲直りしたいからって言う理由だけで、誰もそこまでしませんよ・・・」
狂心苔・・・それは、デザートライオンの強さの証明でもあり、力の源でもあった。デザートライオンの尻尾に生えている狂心苔は、デザートライオン同士の争いを避ける為の物でもあった。縄張り争いに成った際、お互いのボスが、尻尾に生えている狂心苔の大きさと量で勝敗を決める事で、無駄な争いを回避していたのだ。
だが、それは昔の話で、魔物ランクがAだった頃の話。
現在のデザートライオンは、力の源でもあった狂心苔が生える前に、狩られて行き強さを失った。住処も緑豊かだった草原から、荒野へと生息地を変え何とか生きて来たのだが、食用肉としての価値がデザートライオン達を更に追い込んでいった。
かつては、採取できて当然だった狂心苔は、今では希少種の分類に入り、1gで金貨1枚の価値が付いているのだ。
そんな、デザートライオン達の事を知る者は、この世界で何人いるのだろうか。
シュンも、当然知らない。知っているのは狂心苔が、高価な物である事だけだ!
「確かに・・・普通はしませんね・・・俺は、アーレンで世話に成った人が居ました。たった2ヶ月近くしか居ませんでしたが、その人達に何も返せず別れました・・・だから世話になった人達に、恩返しする時は早めにする事にしました・・・また、何も返せずに別れてしまうのは・・・もう・・・嫌なんです」
素直な言葉だ、この言葉に嘘偽りは無い。
「そう・・・ですか。それでも、私は納得できませんが・・・」
「それだけです」
これ以上の会話は、押し問答に成りそうだ。
「では、シュンさんの言う、調合を出来る人を探す方法を、教えて貰えますか?」
「ええ、良いですよ。一つだけ確認しますが。本当にメイルさんが、調合方法を知っていたんですよね?」
「ええ、間違いありません、噂はいろいろ聞きました。その中で、本当に成功した話は、メイル様だけです」
これなら、行けるかもしれない。メイルさんの特徴を知り、弟子にしか解らない事を暗号化すれば、来てくれるかも・・・ただ・・・確立はかなり低い。メイルさんの口癖で、ネイルさんが言ってた。
『親密に成れば、何時もメイルは、その言葉を使うわ。御蔭で人集めに使わせて貰ってるわ』って、その言葉を、上手く調合出来る人に伝えられるかだけど。
「今は、方法が思い付いただけで、詳細は後日お伝えします。ざっくり言うと、メイルさんとネイルさんと、親しい人だけが知っている言葉を文章にします。ですから、人手が必要です」
「解りました。そう言う事でしたら、ギルドの情報網を使って見ます。ギルドマスターなら、きっと了承してくれると思います」
それにしても・・・フェイミィと仲直りしようと頑張ったんだけど・・・難しい方向にばかり進んで行っちゃうよ。
俺は、ブレンさんと別れ、宿に戻る事にした。
本当、上手く進まないな・・・女神様の名前探す旅なのに、何してるんだろ俺・・・物語の主人公なら、きっと目的の攻略方法の兆しの一つや二つ見つけたり、ヒロインとドキドキしたりするんだろうけど。本当に何も無いな俺。元の世界でも、駄目駄目だったけど、こっちでも駄目駄目なのかな・・・思い描いた通りに進まないよ。友達が欲しい・・・ただ、それだけなのに。
宿屋に着いた俺は、夕食を終え、さっさと部屋に戻った。その時、カチュアが何か言ってた様だけど、フェイミィの母親アイシスさんの、『闘精練縮病』の事とブレンさんに言った、メイルさんと親しい人を呼ぶ為の暗号を考える事で、頭がいっぱいだった。
俺は、メイルさんから渡された本を、読み続けて、良い暗号分が無いか考えた。そして!!
「え!? これって、アイシスさんの・・・」
闘精練縮病に付いて載っていた。獣人は闘気を扱った事で知恵と心を手に入れ進化した種族である。闘精練病を患うと、闘気が練れなく成るだけは無く。自我を失い、獣として先祖返りをし、やがて脳または、心臓の機能が停止する、病気である。初期症状は、闘気が練れなくなり、次第に感情の喜怒哀楽を失って行き、1度深い眠りに付き、目覚めた時には獣として先祖返りをし、やがて脳または心臓の機能が停止する。
治療方法は!! せめて、症状を遅らせる方法でも良いから・・・・。
俺は更に本を読み漁っていった!!
本当に、読者の皆様が御目を通してくれているだけで、何とか執筆出来てます。
ランディール編も、後半戦が始まりました。
次の旅先を何処にしようかと、迷いながら執筆しています。
次話投稿は、日曜日の朝8時を目指して執筆して行きたいと思います。
これからも、異世界ってスゲェェェ!!(仮)を宜しくお願いします。




