25話 周りとの温度差
ゆっくり、じっくり執筆中です
師匠と呼び姉さんと呼べる双子のエルフ、ネイルさんとメイルさん、そして兄と呼べるアランさんが、この世から去って泣きに泣いた。
クルワルの森で魔物に何度も襲われたが、その時の俺には、その魔物が何なのかすら覚えていなかった。
無事に森を抜けると、ランディールから派遣された兵士が見張っていた。その兵士は昨日カチュアの保護をお願いした兵士達で、仕切っている隊長さんにいろいろ訊かれたが、邪神はネイルさんとメイルさんが倒した事だけを伝え。兵士達は脅威が去った事で歓喜したが、今の俺には、その歓喜の声は不愉快だった。
「坊主!? 何処へ行く!!」
その場から去りたくて歩いてランディールに向かおうとした時、隊長に声を掛けられた。
「ランディールにあるギルドの、マスター宛の手紙を預かってるから、渡しに行く」
感情の篭ってない、平坦なトーンで告げた。
隊長に言われ兵士達が乗ってきた馬車に乗せられ、数人の兵士を残し、ランディールまで乗った。道中、何人かの兵士に邪神との戦いに付いて話し掛けられたが、まともな返事をしなかった。俺からして見れば、何にも知らない癖にと言う思いが、俺の感情を強く支配していた。
夕暮れと共にランディールに着き、税金をとられギルドの場所を教えて貰い、俺はギルドに向かった。
「新規登録の方ですか?」
受付の女性に、そう言われるとネイルさんとの出会いを思い出してしまった。
「いえ、ネイルさんとメイルさんからの、ギルドマスター宛ての手紙を預かってます、それを届けに来ました」
「分かりました、少々お待ちください」
受付の女性がギルドマスターに手紙を届けに行った。その間、俺はアーレンのギルドを思い出していた。
「お待たせしました! ……どうかなさいましたか?」
「ぇ? あ、何でもないです」
「そうですか? ギルドマスターが、お会いしたいと言ってますので、こちらへどうぞ!」
俺は泣いていた様だ、頬をツーっと涙が流れてた。
受付の女性の後に付いて行き、2階にあるマスターの部屋まで案内してもらった。
「失礼します、お客様をお連れしました。」
「おう、入ってくれ」
「失礼します」
部屋に入ると書類の山に囲まれ、書き損じの紙がそこら辺に丸めて捨ててあった。その書類の隙間から眼鏡を掛けた、若い男が椅子に座れと書類の山を退かしながら言った。俺は、そこに座った。
「汚い部屋で、悪いんだが、話を聞かせて貰えないか? ……手紙には、謎のフード男とアランと言う男が、アーレンを乗っ取り支配していて、街の住民は死人ととして、生活をしていると」
手紙を、もう一度見直しながら間違いないか? と訊いてきた。
「間違い、ありません」
「そうか、なら対処をしなくては!!」
「あ!? その必要はないです」
「何故だ!? この手紙には解決した事は、書いてないぞ?」
「ネイルさんとメイルさんが……倒しました……」
身体が声が振るえ、涙を流しながら、答えた。
「ん!? ……そうか……すまないが、話しを聞かせて貰えないか? 国や他のギルドに、連絡をしなくては成らないんだ」
俺の気持ちを察してくれたのか、社交辞令なのか分からないが、“すまない”何て前置きをしてくれたのは、この人が始めてだった。道中一緒だった奴は“どうだったのか?” “どうやって”、の質問攻めばかりで、俺への配慮が何一つ無かった。その配慮の御蔭で上手く口が開いてくれた。
俺は、邪神がアーレンを滅ぼした事、アーレンに住む人を守れなかった事で絶望したアランさんの心を利用した事、それに立ち向かい、戦って勝った事で、アーレンに住む人達の魂が解放された事を話した。
「そうか……あの2人が……話しを信じてない訳じゃないが……報告のために、アーレンに調査員を派遣させて貰う、それとシュン! お前の事も決めないと行けないんでな」
「俺、名乗って……あ! 手紙か! 俺の事ってどう言う事ですか?」
「手紙には、お前をDランク冒険者としての推薦状が書いてある、この話しを受けるか?」
「え……あの……俺は……」
在り難い話しだが、今の俺には、素直にYesと答える気には成れなかった。
「そうか……しばらく、この街に居るんだろう? その気になったら何時でも来い!!」
「はい」
俺は、1人で外に出て、街を腑抜けたまま、徘徊した。
「マスター、あの青年は、何者なんですか?」
「剣聖ネイルと、大魔導師メイルの弟子だそうだ!」
「弟子ですか!? 2人の弟子にしては……」
「腑抜けてるか! そりゃあ、誰だって腑抜けるだろう。師匠を失ったんだからな……」
「そうですが師匠の勇士を、その眼で見たのなら、その背中を追い駆けようと、気丈に振舞うのが、当然じゃないですか!!」
「ふむ、マルチナは厳しいな!」
「私の考えが普通です! 師の弟子の扱いなんて所詮、剣を素振りさせて、ある程度振れたら、魔物と戦わせ、弟子が死なない様に、ある程度見ててやるだけじゃないですか!」
「なるほど、俺は君が、何故Cランク冒険者止まりになったか理解したよ。それと、あいつの実力は知らないが、このままDランクで登録させるのは危ういな」
ギルドマスターの部屋で、マスターと受付の女性マルチナは、アーレンへの調査員の派遣と、他への連絡の手続きの準備をしつつ、シュンに付いて話していた。
俺は、疲れて地面に座って、待ち行く人達を見て幸せそうに歩いてる人ばかりが目立ち、見ていられなくなって俯いてしまった。
しばらくすると、一人の足が俺の前に止まり、顔を見上げた。
「シュンじゃない! 無事で良かったわ!!」
「カチュア……」
「宿取ってないんでしょ? 家に来て、お父さん達がお礼したいって言ってたわ」
俺はカチュアに促されて、宿に案内された。
「ここが、私の家である宿屋よ、さぁ、入って、お母さん! 私を助けてくれたシュンを、連れてきたわ」
「お帰りカチュア! 本当に!? 君がそうなのね? 歓迎するわ」
「お母さん、シュンの元気が無いのよ……取り合えず部屋を用意してあげないと……」
「そうね……でも食事が先かしらね」
俺は、言葉を交わす事無く、屋根裏部屋に案内された。
「シュン……ごめんね、部屋が空いてなくて」
「いいよカチュア、雨風が凌げるだけで充分だから」
「部屋が空いたら、そっちに移動してもらうから」
「カチュア、訊いて欲しいんだ、アーレンの事を」
カチュアにアーレンの事件の解決、爺さんと婆さんが、カチュアが生き残ってくれた事を、喜んでいたと話した。
「そっか~、お祖父ちゃんとお祖母ちゃんが……教えてくれて、ありがとう……シュン、ゆっくり休んで、お金は要らないから」
カチュアは、祖父母がちゃんと逝けた事を喜び、薄っすらと涙を浮べた。
俺は、ベッドで横になり眼を瞑ると、ネイルさん達の戦いと別れを思い出し寝付けなかった。メイルさん直筆の魔法書を出し、ページを開く事無く眺め、修行の日を思い出していく。すると本の隙間から、手紙が二通落ちてきた。確認すると、ネイルさんとメイルさんからの、俺宛の手紙だった!
シュンへ
無理な修行ばかりさせて、ごめんなさい、私達には、時間が無かったのよ、解って頂戴。
本当だったら、ゆっくり時間を掛けて、貴方を鍛えたかった、それこそ剣聖である、私の全ての技と業を貴方に伝えたかった、私が教えたかった、技と業の基本は充分に教えたつもりよ、後は貴方が、それを活かして、貴方だけの剣術に昇華させて欲しいのよ、情けない師匠で本当に、ごめんなさい。
シュンがくれた手紙は、本当に嬉しかったわ。シュンが私の弟子であり、弟である事を誇りに思うわ。
ネイル
シュン君へ
ちゃんと魔法を教えられなくて、ごめんなの。私と姉さんに時間が無いの。
魔法に付いては、昔愛読してた魔導書と、私が書いた、手帳と本があるの。それをちゃんと、読んでなの。それさえ、読めば他の本なんて要らないの。調合書もあるから、魔道具も作れるようになるの。
後ご飯は、慌てないで、ゆっくりちゃんと、噛んで食べるの。エルフの耳は、気に成ってもジロジロ見ないの、失礼なの。身嗜みは大切なの、ボサボサの髪で外を出歩かないの、そんなんじゃ女の子にモテないの。
姉さんはきっと、恥ずかしがって、書かないと思うから書くの。私と姉さんは、シュン君に恋してたんだと思うの。
私達の恋は、叶わなかったけど、シュン君は、ちゃんと叶えるの。
メイル
「ちゃんと…………叶ってましたよ……メイルさん…………う……うう」
俺は、ネイルさんの剣と、メイルさんの直筆の本を、抱いて泣きながら眠りについた。
今回から、新章ランディール編に、入りました。
まだまだ、不慣れですが、頑張って執筆して行きたいと思います。
これも、多くの方に読んで頂き、お気に入りや、評価して下さった御蔭です、本当に有り難うございます!!
これからも、異世界ってスゲェェェ!!(仮)を宜しくお願いします。




