メロンソーダ
ねえ聞いてよ、由美。
浦安に遊びに行ったの、家族で。
うん、それで?
それでね、お父さんたらさ、迷子になっちゃたの。四十にもなって。おかしくない?
おもしろいね、亜樹ちゃんのお父さん。
それでどうなったと思う?
どうなったの?
何時間も探し回って、やっと見つけたの。お父さんたらいつも携帯置いてきちゃうから。
えー、ホントに、大変だったね。
そうなんだよ。でもうちのお母さん、ぜんぜん怒らないのね、ボーとしてるっていうか、堂々としてるっていうか。
すごいね。
メロンソーダのお客様。
来たっ!来た!
レモンティーのお客様。
はい。
えっ、亜樹もう全部飲んじゃったの?速すぎでしょ。
わたし大好きだもんメロンソーダ。
それより聞いて聞いて聞いてよ由美。
その後マサルの奴がさ、お父さんを怒ってんの。生意気でしょ。
なんか弟さんとお父さん、立場逆だね。
でもね、みんな死んじゃったの。
えっ、なにそれ?
死んじゃったの。みんな。事故でね。
うそでしょ、ちょっと大丈夫なの、亜樹?
大丈夫。私も死んじゃったから。
両手で机をたたくような音がして、ファミレスの中は一瞬だけ真っ暗になった。
亜樹はいなくなってた。
水滴の付いたコップだけが、テーブルの上には残ってた。
「亜樹・・・・・・。」
嫌な夢。
自分の部屋。ベッドの上。午前四時。
「 あたま、もげちゃったの。」
耳のすぐ近くで、それは聞こえた。




