目に青葉 山ほととぎす トラブル発生? 2
Side徹
「会長……徹、すうが……」
言葉を選びながら、葉月が俺を呼ぶ。普段は会長と呼ばれた時に気がつかない程気にしていたのか。
「菫……どうかしたか?」
葉月がスマホをいじっている。メールを送るつもりなのだろう。口外したくない時は、いつもメールを送ってくる。
『菫の机の中に、多分盗聴器が取り付けられている。すぐに外すとマズイから今は放置している。黒木の個人情報を今は調べている最中。徹でも調べられる範囲で調べて貰ってもいい?』
俺はメールの文面を確認してから、メールを保存する。
「ああ。サンキュー」
俺は手短に答えた。俺の机にも仕掛けらているかと思って確認したが、俺の机にはない。
その後、俺は葉月から菫と担任の話を聞いた。
「変だな。菫だけってのは。すうの話を聞いた後にどうして俺にも聞かないんだ?」
葉月も俺を見て頷く。菫にだけっていうのがやけに気になってしょうがない。
「それにね。セクハラ的な発言もしたって……」
葉月は言葉を選んでいるけれども、黒木の事だ。具体的には言わなくてもそういった関係があるんだろ?的は言い方をしたのだろう。
ってか、俺達そう見えるのか?それはそれで嬉しいけど……そんな段階は程遠いのが現実。
今回の問題の元がそんなに底が浅くていいものだろうか考えてしまいたくなる。
その程度なら、証拠を見つけるのは簡単だけども、そうじゃないのなら逆に厄介な話になる。
問題はすうの机以外に教室内に盗聴器が仕込まれているかどうかなのだが……。
「……で、葉月は教室内にあると思うか?」
俺の質問に葉月は即答をしない。その事が事の深刻さを物語っている様な気もしてきた。
一瞬だけ背筋が冷やりとしたものを感じる。今日はまだそんなに寒い訳じゃない。
「今は何とも。早くて放課後にチェックできるかなぁ位。それにターゲットがすうなのか、徹も込みなのか……それすらも全く分からないもの」
そりゃそうだよな。すうの盗聴器だって、黒木の仕業とは限らない訳だし。
今の時点では全く何も分からない。黒木って、高等部からだっけ?それとも大学部からの人だったか?
まずは黒木の経歴から調べる必要がありそうだ。
「葉月、俺も調べるけど、黒木の経歴調べる事ができるか?」
「もちろん、なんなら……昼休みに入ろうか?」
サラリと葉月は言っているが、校内のデータにハッキングかける気かよ?
俺はそこまでは望んではいないんだけど……な。葉月の奴も……菫には甘いなぁ。
そう言う意味では俺達は同じ穴のムジナだと気が付いて苦笑する。
「今更でしょう?何を言っているんだか」
「それは……まだいいよ。お前の事だから、尻尾を掴まれる事はない事は分かるけどな。睦月君が仕込んだんだろ?」
「うーん、そこはノーコメントで。兄貴の立場もあるからさ。兄貴にとってもすうは別物だからすぐに動くわよ」
葉月はニヤリと俺を見て笑う。葉月の兄貴の睦月も結構いろんなことをやらかしていたからなぁ。
元クラッカーが今は……IT企業の社長なのだから世の中分かったものじゃない。
しかも、社長の癖に本人は自宅警備員♪なんて嘯いているから性質が悪いったらありゃしない。
そういえば、睦月ってば、兄貴を自分の会社に引き込もうとしていたな。とりあえず院に進むから断ったらしいけど。
「とりあえず、昼休み後に一度報告するよ。それでいい>」
葉月はそう俺に告げて、スマホを操作する。
葉月は初等部からの生粋の新聞部。校内外の人脈はとにかく広い。
とりあえず、葉月に任せて、そこから考えようと俺は思った。
俺の方も、生徒会ルートを使って黒木の事を調べる為にスマホを操作するのだった。
昼休みが終わる直前、葉月がA4サイズの紙3枚位の紙を畳んで渡してきた。
午後の授業を聞きつつ、その内容を見る。
最初の一枚目は、大学部までの経歴。俺たちとの接点は申し訳ないが何も見えてこない。
よく見ると、高等部は外部生だったことが始めて分かった。
交流行事の時にも係っていない事だけは確実に分かった。
ここまでは俺の生徒会ルートでも同じことは調べた付いていた。
次に2枚目を見る。それには、個人的な性格等が書かれている。
この情報は新聞部ルートで聞き出せたものだろう。この短時間でここまで調べられるのだから本当に凄い機動力だ。
これも、ざっと見た感じだと特にないと思って見逃しそうになった一点があった。
それは……思い込みが激しい傾向があるという項目。具体例がないので判別しにくい。
これが良識的なものか、病的なものか見極めすら今の情報だけでは判断がつかない。
ここの部分に絞ってもっと詳細に調べた方が良さそうだ。
最後の紙は、葉月の個人的見解が書いてあった。
担任との接点は一切なく、過去にも接触は見られないとある。
そんな中でありえる可能性は三つと書かれている。
担任……もう黒木でいいや。あいつが何かを切っ掛けに菫に興味を抱いた。
これは……ある意味で仕方ないかもしれない。やり方はかなり問題だと思うが。
次にあり得るのは、兄貴……薫に対して、ネガティブな感情があってそのはけ口がまずは弱者である菫に向かっているというもの。
それなら、いずれは俺にも向かってくることだろうと葉月は見ている。それならば、それもありうると俺も思う。
最後が……一番厄介だ。どこかで菫を見かけて、恋愛感情を抱いていて接近してきている。
葉月のレポートはそこで終わっていた。葉月らしいと俺はその手腕には惚れ惚れとする。
残念だが、葉月にはそれ以上の感情はない。俺が好きなのは……菫ただ一人だけだ。
菫の机の中のモノの犯人が黒木なら、立派なストーカーと言えるだろう。
兄貴が絡んでいるのなら、それは完全な逆恨みで……盗聴器の犯人は別にいると考えた方がいいだろう。
新学期が始まってもうすぐ一ヶ月……黒木の事をよく知らないから、どっちなのか判断もつかない。
兄貴を含めて、更に調べた方が良さそうな気がしてきた。
俺は何が最短の解決方法なのか考えてしまう。
確実に分かる事は、菫の安全を確保すること。その事は忘れてはいけない。
頭を空にして俺は考える……何が一番早く解決する方法なのか。
菫が傷付かずに(知っている今も既にNGだけど、それはそれとして)、全てを闇に葬り去る方法はないのだろうか?
唯一出来た方法は使いたくなかったが、俺は躊躇う事もなくスマホを操作する。
今の時間から自由に動けるのは……あいつ兄貴だけだ。
多分兄貴が何かを掴んでくれるようにと俺は祈りながら兄貴にメールを送った。
次回は薫目線でお送りします。