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押し花

『今日は、フォレストは、正常です』

 電光掲示板にビカビカ輝く文字。巨大な電光掲示板にちらりと目を向け、ツヅリはフォレストへ向かう。本の森。自分からすべてを奪った、緑の中へ。



「あなたがフォレストを利用することは無理です。フォレストは点数が10点以下の人間を入れることを認めていないからです。速やかにお帰りください」

 白い帽子に、白いエプロン、黒地のドレス。ハウスキーパーのような制服を着た司書は、カードリーダーで引っかかったツヅリを見て、冷然と告げた。彼はここの常連だ。良い意味でも悪い意味でも。ツヅリが何かしでかすたびに、いつも余波を受けるのは本の管理を実質上一手に引き受けている、数十人の司書たちである。

「もう一ヶ月たっただろう。入れさせてくれても」

「期間は関係ありません。パブリックライブラリーが許可を出していないブックカード者を入れることは禁止されております」

 フォレスト。俗称「本の森」。

 先の、パブリックライブラリーとは、図書館、図書室、書店等出版物すべての出荷、在庫を管理し、内容を検閲する、上位組織グランドパブリックの手足である。政治を行い、民間の意見を聞き入れ、反映する。そのグランドパブリックの指示を具体的に実行する、パブリック機関の一つである。内容の検閲は不適切な用語のみとされているが、現在それが強化されるとの噂は出版業者、ライターの人間なら誰でも知っている。実際はどうなのか、と尋ねられるとまだ決まっていないから明確な答えは出せない。

 話は戻して。フォレストとは、民間人が利用できるような物ではなく、本来は企業や特定の分野の人間――――それこそ出版社とか――――専用の図書館である。一部は鍵がかけられ、そこから先はグランドパブリック、パブリックライブラリーが必要と認めた、ライブラリースタッフのみの立ち入りしか認められていない。

「わかった。出直す」

 ツヅリはそこへの侵入を何回も行っている。その結果の減点や処罰により、最近はフォレストに何の障害もなく入ることが難しくなってきたほどだ。おまけに司書の目もきつい。ますます目的の達成は難しくなっているようだった。しかしそれでも、フォレスト使用のためのブックカードを取り上げられていないのは、ひとえに昔の……神童としてぶいぶい言わせていた時代の名残だろう。



 昔、ツヅリは本を作り出した。

 彼女と会話をしてて思いつき、作り上げた本である。それはとんでもない発明として世間に広まり、あっという間にどこぞの首脳と出会って握手したり、世界中の発明者やマスコミがこぞって家に押しかけた。しかしそのとき、ツヅリの情熱は失われていた。本への感情はもうそのとき失せていた。

 彼にもいろいろあった。何より今までの生活と変わりがないであろうと思っていた出来心の発明は、彼を取り返しのつかない道に引きずり込んだのだ。確かに、彼の親は金銭の面で得をしたかもしれないが、昼夜問わず押し寄せる取材の声、周りの人の羨みやねたみ、息子の学校での対応に追われ、精神的な面では多大な苦労をかけたに違いない。実質彼の両親は今は白い病院で、付きっきりの治療を受けている。その金はツヅリの発明から得た金だ。彼らは、おそらくそのことを意識できないほどには、もう壊れてしまった。

 人をまるで押し花のように、永遠に本に閉じこめる。見た目は人であるのに、そこからの歩みを止めて本として内側に閉じこめる。その人を開けば、見ることの出来る内容はその人の今までの回想。


 押川ツヅリが開発した人体版は、余命短い人間の、死を伴わない美しい救済策として世間に受け入れられた。



ちょっとした小話小説を。

シリアスな話になるかと思いますが、必ずハッピーエンドにしてみせるので……。

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