ちいさい事はイイことです!【『最強ゴーレムの召喚士』として書籍化】
遊森謡子様企画の春のファンタジー短編祭(武器っちょ企画)参加作品です。
●短編であること
●ジャンル『ファンタジー』
●テーマ『マニアックな武器 or 武器のマニアックな使い方』
詳しくはコチラ→http://shinabitalettuce.xxxxxxxx.jp/buki/index.html
満月の光も明るい月夜
ぽっかりと天井が開いた、召喚用のその部屋で
独自のレシピを駆使する
ひとつめの素材は天葉樹から集めた朝露
ふたつめの素材は真っ赤な薔薇の花
みっつめの素材はカラカザの花の蜜だけでできている蜂蜜
大きな鉄鍋にすべてを入れて、じっくり煮込んで水分を飛ばし
鍋の底にほんのわずかに残ったひとさじを冷まして、一息に飲み込む――
そして、呪文を唱えるのです!
「お い で ま せ ま せ ストーンゴォレムゥゥゥ!」
前に付き出した両手の先から、不思議な紫色の煙がむくむくと湧き出し、やがてわたしの眼前に具現したのは!
「あいや! 呼ばれて飛び出ましゅた! すとんごれむ、でしゅ! 御主人ちゃま、なんなりとお申しちゅけくだちゃい!」
キリリとした表情、角張ってカッチコチ石製の肉体はまさにストーンゴーレム!
だがしかし!!
「小っさ!!」
わたしのひざ丈のストーンゴーレムは、キリリとした表情(※あくまで表情)のまま首をコテッと右に傾ける。
「御主人ちゃま?」
「そして、なにゆえ幼児言葉か!?」
ツッコミを入れると今度は左側にコテッと首を傾げる。
くっ!!!
可愛いだなんて思わないぞ!
い、今は一刻を争う時なんだ。
もう一度召喚魔法を行なって、今度こそ実働に耐えうるストーンゴーレムを出し、召喚試験の実技に望まねばならんのだ! 卒業試験の一つなのだよ!!
その為には今回出したこいつを、物理的に消さねばならない。
幸いこの召喚部屋には、それ用の大槌も置いてある。
キリリとした顔をキョトンとした顔に変えて見上げてくるストーンゴーレムを、ぶ、物理的に、破壊……。
「できるかぁぁぁ……orz」
「御主人ちゃま! どうちたでしゅか! 大丈夫でしゅか!?」
膝をつき両手を地面について項垂れた私に、すとんごれむタンが寄り添って優しく背中を撫でてくれる。
な、なんて力加減を弁えた優しいゴーレムなんだ……(ホロリ)
「なんでもないよ、うん、大丈夫」
すとんごれむタンがソッと差し出してくれたハンカチで涙を拭い、地べたから立ち上がる。
「ハンカチ、洗ってから返すね」
「ご心配はいりましぇんよ、御主人ちゃま」
そう言って、すっとスマートな仕草でハンカチを取り上げたすとんごれむタンは、若干背伸びしながら私の手を取ると、手に付いた土をハンカチでぱっぱと払い、優雅な仕草でハンカチを持った手をその小さな背中にまわしたかと思うと、手を前に戻した時にはハンカチは無かった。
「………」
「なんでしゅか? 御主人ちゃま。 わたくしの背中がどうかしましゅたか?」
すとんごれむタンが、その小さな背中を検分する私に戸惑った声をあげるが、どうしたのかと聞きたいのはこっちなのですが。
ハンカチどこ行ったの?
「さぁ御主人ちゃま、どうじょわたくしめの身も心も、貴女の下僕としてくだしゃい」
すとんごれむタンに促されて、まだ召喚の儀式の総てが完了していないことを思い出した。
う、うむ、あとは すとんごれむタンの体に私の名前を刻み込めばいい、んだよね…物理的に。
手の中に名前をゴーレムに刻み込む為の釘を持たされ、書きやすそうな綺麗で傷ひとつない小柄な石の背中を向けられた私の心中を想像してくれたまえ。
私が書きやすいようにと、私に背中を向けて両足を前に投げ出してぺたんと座った小さな すとんごれむタン…このすべすべの背中に……。
「で、できない……orz」
またもガックリと項垂れる不甲斐ない私に、すとんごれむタンは立ち上がると私の両手をそっと取り上げ顔を上げさせ、正面から私を優しく抱きしめて(ゴツゴツと固い感触が残念です)、短い腕でぽんぽんと慰めるように叩いた。
「大丈夫でしゅよ、御主人ちゃま。 わたくしめの痛みを案じてくだしゃって、すとんごれむは嬉しゅうごじゃいましゅ。 しょれだけで、御主人ちゃまにわたくしの命を預けられましゅ」
「す、すとんごれむタン……」
ぎゅうっと冷たく固い小さな体を抱きしめる。
こんな小さくって可愛い すとんごれむタンをどうして傷つけられようか!
でも、それをしなければ、召喚の儀式は完成せずに数日後には、すとんごれむタンが還ってしまう。
すとんごれむタンを傷つけるくらいなら、このまま還してしまった方が……。
「御主人ちゃま!」
何かを感じ取ったのか、すとんごれむタンが焦ったような声をあげる。
「御主人ちゃま! 御主人ちゃまっ! わ、わたくしは御主人ちゃまと一緒がいいでしゅ! ご、御主人ちゃまは、わたくしめを、き、嫌いでしゅか…?」
私の胸に顔を埋めていた顔を上げた すとんごれむタンは、涙なんか出るはずないのにまるで泣いているようだ。
だから、私の胸がキュンキュン言ったって、それはもう仕方のない事だよね。
「嫌いじゃないよ!」
すとんごれむタンの言葉を即否定すれば、すとんごれむタンの泣きそうな雰囲気が和らいだ。
「よかったでしゅ……。 御主人ちゃま」
か、可愛い、やっぱりこんな健気で可愛い子を傷つけるなんてできないよ!
決意を新たにしていると、不意にすとんごれむタンに名前を問われた。
「名前?」
いやでも、もし名前を名乗って、あまつさえはこの舌っ足らずな感じで名前を呼ばれたりなんかしてしまったら……これ以上情が移って離れ難くなってしまうに違いない。
だから、頑なに名乗るのを拒絶した。
すとんごれむタンがショボーンとしてしまうけど、これは仕方がないんだよ!
そうして名前ですったもんだしていると、召喚部屋のドアがコココココッと連打された。
『受験ナンバー27番アイリレイア=セルベント、時間です。 ゴーレムと共に闘技場へ移動しなさい』
ドアの外から掛けられた声に、短く返事を返す。
うぅぅ……どうしよう。
まさか、すとんごれむタンを連れて行くわけにはいかないよね、すとんごれむタンを戦わせるなんてできないし。
すとんごれむタンが還ってからじゃないと、新しい召喚はできないし。
ウンウン悩んでいると、不意に釘を持っている方の手を握られ、ガリガリと……。
「え、え、えぇぇぇぇ!!! ちょ! すとんごれむタン! 何してっ!!」
すとんごれむタンが、私の手を握り自らの胸に私の名前を刻み込んでいた。
ゴーレムとはいえ若干の痛覚があるというのは知っている。 それよりも何よりも、自分で名を刻むのは……あ、私の手を使ってるから禁忌に触れないのか!?
慌てて手を振り払おうとしても、強い力のせいで振り払えない!
小さくてもストンゴーレムなんだね、なんて感心している間に、私の名前がすとんごれむタンの胸に書き上げられた。
最後の一文字が書き上がると、すとんごれむタンが一瞬発光し、私にも すとんごれむタンとの契約が出来上がった感覚がはっきりとわかる。
「あぁぁぁぁぁ………orz」
「さぁ、行きましょう、御主人ちゃま!」
項垂れる私を、意気揚々としたすとんごれむタンが引っ張っていく。
威風堂々と円形闘技場に立つ すとんごれむタンと、混乱したまま呆然と立ちすくむ召喚士の私。
審査の為に揃っている教師陣も、見物に来ている生徒たちも、すとんごれむタンを見てざわついている……嗤っている者まで居る。
くそっ! あの笑った戦士科の男子どもめ、しっかり顔を覚えたから闇討ちにしてくれる。
「さぁ、御主人ちゃま。 どうじょ、わたくしめに命令を」
周囲の様子など意に介した様子なく、すとんごれむタンは小さい体ながらも恭しい仕草で私の前に跪き命令を促す。
う…うぅぅ……こんな所まで来ちゃって、もう引くに引けないよぅ。
闘技場の向うには対戦相手の生徒と彼女の召喚した立派なゴーレムが立っている。
うぅぅ…すとんごれむタンの10倍はあるよぅ、拳をひとつ貰ったら終了だよ。
「御主人ちゃま、どうか、わたくしを信じてくだしゃい」
煮え切らない私を根気強く促す すとんごれむタンの前に膝をついて、その手を取り、クリクリとした真っ黒の丸い目を見る。
「お願いだから怪我しないでね。 負けていいんだからね、だから、お願い無事で帰ってきてね」
「あいっ! 怪我などせじゅに御主人ちゃまの御許に戻りましゅ」
元気に応えてくれる すとんごれむタンをギュッと抱きしめる。
「あ、あの、御主人ちゃま…」
珍しくもじもじと何か言いたそうにする すとんごれむタンを促せば、なんだか照れたようすで口を開いた。
「お願いがあるのでしゅ。 勝ったらわたくしに名を授けてくれましぇんか」
召喚士が召喚した召喚獣に名を授けることは、召喚獣に対する無上の贈り物となる。
だから、よっぽど強い召喚獣や、いい働きをする召喚獣でないと名を与えられることはない。
そもそも、名を強請るゴーレムが居るなど聞いたことがないのだけど。
勿論私は一も二もなくその願いを聞き入れた、むしろ今つけてあげてもいいくらいなんだけど、すとんごれむタンは首を横に振る。
「ご褒美は、結果と引換でなくてはいけないのでしゅ。 では御主人ちゃま、貴女に贈る一つ目の勝利を取って参りましゅ」
キリッとした顔を作り、私に背を向け闘技場の中央へ歩み出す すとんごれむタン。
あぁ、あの小さな背中を抱きしめて引き止めたいっ。
私は拳を握りしめてその思いを耐え、一心に すとんごれむタンの無事を祈る。
「召喚士はゴーレムを前へ!」
審判の合図で二体のゴーレムが闘技場の中心に立つ。
審判の すとんごれむタンを見る目にも哀れみが混じっているが、すとんごれむタンは小さな体に威風を纏わせて見上げるほど大きなゴーレムと対峙する。
開始の合図と共に すとんごれむタンがそっと自分の胸に刻まれた文字を撫でると、ゴゴゴッという地響きに似た音がし、みるみるうちにその体が巨大化していった。
ポカーン
誰もが口を半開きにし、見上げる。
闘技場の外壁よりも大きくなった すとんごれむタンは、己の腰の高さになった相手ゴーレムを切れのあるローキック一発で撃破した。
シュッ
ドガッ―――ドーンンン……ガラガラガララララ………
ポカーン
呆気無く決まった決着にほうけていた審判は、すとんごれむタンに見下ろされてハッと意識を取り戻し、すとんごれむタンの勝利を告げた。
それが他の人間の意識も引き戻し、途端に会場内が湧く。
「一気にあそこまで巨大化するゴーレムなんて聞いたことがないぞ!」
「ありえねぇ! あのサイズであの蹴りの早さ! ゴーレムの動きじゃねぇ!」
「え、え? くしゃみしてたら終わってたって、どうゆうこと…」
「ところでなんで胸に召喚士の名前彫ってあんだ? 普通背中だろう?」
騒ぐ周囲のなか唯一ほうけたままなのは召喚士である私だけだった。
ズシンズシンと、重い足音を響かせて すとんごれむタンが近づいてくる。
ズズズン……
私の前に恭しく跪いたその姿勢は すとんごれむタンに間違いない。
「傷を得ること無く御前に戻りました。 まずは一つ目の勝利をお贈りいたします」
あぁぁぁ、舌っ足らずな言葉が流麗になってる……。
ではなくてだね、そうだよ、名前をあげなくちゃ!
「名はゆっくり考えて下さい、わたくしの御主人ちゃま」
からかうような口調でそう言うと、すとんごれむタンはシュルシュルと縮みはじめ、みるみるうちに元のサイズに戻った。
あぁぁ、これでこそ私のすとんごれむタンだわ!
思わず抱きしめて頬ずりする。
石だからゴリゴリと痛いけど我慢する。
無事卒業試験をクリアした私は、あの日会場に来ていた王宮勤めの召喚士長の勧誘を受けて王都の召喚士として勤めるようになり、すとんごれむタンの半端ない強さを当てにされ、ガンガンこき使われてあっちこっち地方へ走り回る日々を送っている。
「御主人ちゃま、今度は山賊の討伐でしゅか。 わたくし、頑張りましゅね!」
可愛いウチのゴーレムはいつでもやる気満々。
小さくて可愛い時と大きくてたまにからかってきたりする時のどちらが本当の彼なのか分からないけれども。
目下の悩みは、大きくても小さくてもどっちも私に過保護で彼氏の一人もできないことだったりする。
ギブミー・彼氏! 行き遅れ確定だよぉぉぉ!!
な、なんかまともな武器だったかな…?
インパクトが薄くてすみません。