ジキルとヘイド
「ワミ!例のお役人さんが入ったわよ!」
バーの広場でお酒を男性客と飲んでいたワミに耳打ちする女マスター。
「どこにいる?」
「奥のVIPルームに通したわ」
「わかった」
ワミが立ち上がり、すかさず女マスターが男性客の隣に座り酒を注ぐ。
ワミはバー広場から廊下を通り、VIPルームに向かう。
VIPルームを開けると、少し不安げなどことなく女慣れしていなそうな男が座っていた。
「ジキルさんでしたか?」
「はい、そうです。あ、あの私は何てお呼びしたらいいのでしょうか?」
真っ直ぐな目でワミを見つめるジキル。
「ワミ―でいいわ」
「ワミ―さん?実は僕はこういう場所はあまり慣れていなくて」
(あら?おかしいわね?この役人は他のバーで出禁になるほど素行が悪いけど金払いはいいと聞いていたのに)
ジキルは両手を膝の上で握って下を向き顔を赤らめていた。
(どことなく純粋そうなただ慣れていないだけの好青年のような……)
「ワミ―さん、ワミ―さんのような清楚な人がどうしてこのような場所にいるのですか?もし、僕の助けになれることがあればなんでも言ってください」
「清楚だなんて、そんなキャラかしら」
「周りにいる女性とは雰囲気が違うんです。その、育ちの良さのような、生まれがここではないようなものを感じるんです」
ワミ―は軽く口を開け優しく微笑んだ。
「よくわかったわね。そんなこと、誰にも言ったことがないのに」
「何があったんですか?」
「実は、半年前にさらわれてここで働かされているんです。目標額を稼ぐまで私はここで働き続ける契約になっています」
ジキルは息を吞み、心配そうにワミーを見つめた。
「ワミーさん、ここから逃げませんか?」
「逃げるって言ってもどうやって?」
「僕でよければ……僕と……結婚してくれませんか?」
「えええ!け、結婚!?」
「悪い話じゃないと思います。結婚が決まればその借金も肩代わりして一括で払います」
ワミーは驚き、「私でよければ……」と顔を赤らめる。
ジキルはテーブルの上に置いてあったお酒を一気に飲み干すと、前髪を垂らして下を向いた。
「ジキルさん?大丈夫ですか?少し飲みすぎまし……」
ワミーがそう言いかけると、ジキルは頬を真っ赤にして強引にワミーを押し倒した。
「きゃっ!」
ワミーが叫ぶと、ジキルは「初めてじゃないんだろ!?こういうところにいるってことは抱かれたことくらいあるだろ!」
「あなた、誰!?」
ワミーが恐怖のあまり声を張り上げる。
「俺はあのおどおどしたジキルが、役人だからと外には出さずに抱えた行き場のないストレスが作り出したヘイドさ」
「ヘイド!?ジキルさんは!?」
「そんな人は今は居ない」
「は……」
「誰かー!!!!」
ワミーの口を塞ぐヘイド。
支配人がドアを開け、持っていた壺でヘイドの頭を殴る。
ヘイドは倒れ、ヘイドの周りが血の海になった。
バーのオーナーがすぐにドアを閉め、ズボンのポケットから財布をだし、三㎝ほどの札束をワミーに渡した。
「ここは私がなんとかするからこの金で故郷に帰りなさい。家柄もいいから、警備でもつけてくれるでしょう。警察に言ったっていい」
オーナーはそう言うと、ワミーは目に涙を浮かべ「ありがとうございます!」と札束を握り、一目散にバーから逃げ出した。
なんとか故郷に帰ったワミーは周囲に彼らのことを伝え、今は幸せに暮らしているのであった。




