01 朝活ついでに顔面国宝を救います
「さ〜て、本日の死亡予定は〜?」
前世の国民的アニメのノリでメモを確認する。
朝、王子暗殺未遂(毒矢が私に命中して死亡/1回目)
昼、魔獣襲撃(踏み潰されて死亡/2回目)
夜、毒ケーキ事件(王子用なのに何故か私が食べて死亡/5回目)
の三本です。
過去の死亡フラグをまとめたメモを片手に、ぶつぶつ言いながら校門へ向けて歩く。
すれ違う生徒の顔は、どれも解像度が低く輪郭が曖昧だった。私は勝手にこれをNPCエコモードと呼んでいる。
その時、レオンハルト王子が黄色い悲鳴を引き連れ、仰々しく登校して来た。
もちろん、メインキャラの顔は今日もバリバリに4K高画質である。
「ギャー! レオンハルト様! 今日も顔面国宝です! 同じ空気を吸えるだけで神に感謝……ハッ!」
思わずいつもの推し堪能タイムに入る所だった! 油断は禁物。何故なら彼は、トラブル引き寄せほいほいだからだ。
私はレオンハルトの横を猛ダッシュで駆け抜ける。
NPCが突然走り出したところで、レオンハルトも護衛も取り巻きも気に留めない。
NPCステルス万歳。
(ループの知識から、学園までの並木道のどこから毒を塗ったナイフや吹き矢が飛んでくるか知っている。何せ、何回も巻き込まれたからね!)
案の定、その木の上には暗殺者が潜んでいた。
幸い、前世は田舎育ち。木登りならお手のものだ。
しかもNPCの貴族令嬢がスカートをまくって木に登ったところで、誰一人として気に留めない。
当然、暗殺者もこちらに気づかない。
「よっ、と。……って、思ったよりこの木……ひっ、高っ! 無理無理無理! でもここで失敗すると私が死ぬ!!」
ぜいぜい息を吐き、震える手で枝を掴みながら、なんとか暗殺者の真上の枝に忍び寄る。
その時、ちょうどレオンハルトが木の下を通ろうとしていた。
暗殺者が不敵な笑みで毒矢を構える。レオンハルトが野性の勘で振り向いた――その瞬間。
「落ちろ! 顔面国宝を汚す不届きものめがァァァ!」
私は木にしがみつきながら、思いっきり暗殺者の脳天に踵落としを喰らわせた。完全な不意打ちだ。
「が……っ!?」
不可視の踵落としを喰らった暗殺者は、哀れそのまま木の下へ落下した。護衛達が「曲者だ!」と暗殺者を素早く組み伏せる。
(ふぅ……危なかった……)
最初のループでは、何が起きたかも分からなかった。
レオンハルトを狙った毒矢が、たまたま後ろを歩いていた私の喉に刺さって――私は、たった三秒で死んだのだ。
声も、息も、何も出ないまま視界が暗転した。
(何はともあれ、まずは定時前の朝活、一件落着だ!)
木の上で安堵の息をついていると、不意にレオンハルトの視線が一瞬だけ、こちらをかすめた。
(……え?)
背筋に冷たいものが走る。
今まで一度もなかった。
過去のループで、彼が私の方を向いたことなんて。
「殿下、曲者の連行を完了致しました。ずいぶん間抜けな暗殺者でしたね」
レオンハルトの配下の騎士が彼に耳打ちする。
「……今、誰か俺を見ていなかったか?」
「え?」
騎士が私のいる木の上を探るように見た。
「いえ、何の気配もないようですが……」
「……そう、か。気のせいならいい」
レオンハルトは、何かを捉えようとするようにしばらく怪訝な顔をしていたが、すぐに前を向いて護衛に指示をしながら校舎へと歩き出した。
(一瞬、目が合った……?)
何度もループしたけど、こんなことは一度もなかった。私がシナリオに介入したせいで、レオ様の野性の勘がブレた? ……いや、まさかね。
私は身震いしながら、脳内でタスクリストを確認する。
「さて、お次はパーティーホールの「裏口」の鍵を常時解錠ね」
夜会生存ミッション――目標は一つ。
『悪役令嬢に爆発を起こさせない』。
「……いや、無理なら全力で逃げるけどね!」
その為には裏口の鍵を事前に開放しておき、逃走経路を確保しなくてはならない。
「逃走経路の確認は社畜の基本中の基本。そして、あの3人が暴れた瞬間、私はローストビーフを皿ごと持って秒で脱出する!」
素早く木から滑り降りると、私は会場となるパーティーホールへ足を向けた。




