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救ったはずの仲間が、俺を忘れていた。〜追放ヒーラーは“存在を削る回復魔法”で世界の裏側に立つ〜 ―未記録層と界喰いの神話―  作者: 白銀レン


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第27話 空の裂け目

 三日目の夕暮れだった。


 丘の上の訓練は順調とは言えないまでも、形になりつつあった。


 再編までの時間は短縮され、未記録層への接続も安定してきている。


 だが。


 空が、耐えきれなくなった。


 最初に気づいたのはミアだった。


「アルド」


 短い声。


 振り向く。


 西の空。


 夕焼けの雲が、一直線に裂けている。


 いや。


 雲ではない。


 空そのものが、割れている。


 白い亀裂が、ゆっくりと広がる。


 音はない。


 だが、胸が圧迫される。


 未記録層の気配が、地上へ滲み出している。


「部分顕現、予定より早い」


 リゼが即座に陣を展開する。


 執行官たちが散開。


 グレイスが剣を抜く。


「来る」


 亀裂の向こうに、影が見える。


 巨大。


 輪郭が定まらない。


 山のような塊。


 中心に、虚無色の瞳。


 界喰い本体。


 完全ではない。


 だが、分体や統合体とは比較にならない。


 亀裂から、黒い粒子が降り注ぐ。


 町の屋根が、ゆっくりと消え始める。


「第一段階!」


 リゼが叫ぶ。


 俺は胸を開く。


 均す。


 粒子を一点に集めさせない。


 降り注ぐ侵食を、拡散する。


 黒が薄くなる。


 だが。


 本体が、こちらを見る。


 巨大な瞳が、俺を捉える。


 ――見つけた。


 直接、頭の中に響く。


 圧力が桁違いだ。


 足が震える。


 存在が削れかける。


「アルド!」


 ガルドが肩を支える。


「立て!」


 名が、響く。


 輪郭が戻る。


「第二段階!」


 グレイスとガルドが同時に跳ぶ。


 亀裂から伸びる黒い触手。


 それを斬る。


 火花のような粒子が散る。


 だが触手は再生する。


 早い。


 あまりにも。


 町の塔が、半分消える。


 人々が逃げ惑う。


 時間がない。


「核を露出させる!」


 リゼが陣を重ねる。


 固定と凍結の複合。


 本体の一部が鈍る。


 触手の動きが一瞬、止まる。


「今だ!」


 グレイスが核へ跳ぶ。


 黒い塊の中心。


 淡い白い点。


 そこが核。


 双剣が交差する。


 核に亀裂が入る。


 だが。


 本体が笑う。


 ――削る?


 挑発。


 削れば餌。


 削らなければ町が消える。


 核の亀裂が、広がる。


「アルド!」


 リゼの声。


「第三段階!」


 俺は前へ出る。


 胸の奥が、裂けそうだ。


 未記録層の冷たさが暴れる。


 削らない。


 喰わせない。


 均す。


 核に触れる。


 圧倒的な堆積。


 削られた歴史。


 戦争。


 隠蔽。


 消された命。


 それらが渦巻く。


 飲み込まれそうになる。


 界喰いの声が響く。


 ――全部抱えれば消えないよ。


 誘惑。


 甘い。


 抱えきれない重さ。


「……分ける」


 呟く。


 核の堆積を分解する。


 一点集中を崩す。


 未記録層へ返す。


 だが完全には返さない。


 均す。


 粒子が散る。


 本体の形が揺らぐ。


 巨大な瞳が歪む。


 ――やめろ。


 初めて焦りが混じる。


 触手が暴れる。


 ガルドが弾き飛ばされる。


 地面に叩きつけられる。


「ガルド!」


「気にするな!」


 立ち上がる。


 血を吐きながらも、剣を構える。


 グレイスが核を押さえる。


「急げ!」


 俺の輪郭が、薄れる。


 存在確率が急落する。


 ミアが泣きながら叫ぶ。


「アルド!」


 名が、響く。


 リゼも叫ぶ。


「アルド、均衡を保て!」


 二人の声が重なる。


 輪郭が、わずかに戻る。


 均す。


 さらに。


 堆積が崩れる。


 本体の輪郭が、縮む。


 亀裂が閉じ始める。


 ――覚えてるよ。


 界喰いの声。


 ――また削る。


 最後に、巨大な瞳が細くなる。


 そして。


 亀裂が、閉じる。


 空が戻る。


 静寂。


 町は半壊。


 だが。


 消えていない。


 俺は膝をつく。


 視界が揺れる。


 胸が空洞だ。


 ほとんど、残っていない。


 グレイスが息を荒げる。


「部分顕現、強制退去」


 リゼが空を見上げる。


「成功率四割、達成」


 予定より早い。


 だが。


 本体は消えていない。


 ただ。


 退いた。


 ガルドが肩で息をしながら笑う。


「……でかすぎだろ」


「七日目はもっとでかい」


 俺が呟く。


 空は青い。


 だが、ひびは完全には消えていない。


 亀裂は、薄く残っている。


 本体は、見ている。


 七日目。


 それが、本当の戦いだ。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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