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救ったはずの仲間が、俺を忘れていた。〜追放ヒーラーは“存在を削る回復魔法”で世界の裏側に立つ〜 ―未記録層と界喰いの神話―  作者: 白銀レン


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第19話 記録院の敗北

 界喰いの分体を未記録層へ“返した”その夜。


 町は静まり返っていた。


 表面上は、平穏。


 だが、空気の奥に緊張が走っている。


 侵食は終わっていない。


 それは、俺にも、グレイスにもわかっていた。


 屋根の上。


 俺とグレイスは向かい合って立つ。


 ミアは少し離れた位置で夜空を見上げている。


「分体の出現間隔が短い」


 グレイスが言う。


「通常の侵食ではない」


「俺の削除履歴が鍵だ」


「可能性は高い」


 淡々とした口調。


 だが、焦りは隠せない。


「上位は?」


「リゼが報告中だ」


 つまり、まだ動かない。


 記録院は“観測”に重きを置く。


 だが。


 侵食は待たない。


 その瞬間。


 町の中央塔が、音もなく欠けた。


 削れたのではない。


 “喰われた”。


 塔の上部が、ごっそり消える。


 石片すら落ちない。


 空白。


 グレイスが即座に跳ぶ。


「来るぞ」


 空間が裂ける。


 今度は分体ではない。


 それよりも大きい。


 人型。


 だが、内部が空洞。


 虚無色の瞳が二つ。


 口元が歪む。


「こんばんは」


 無邪気な声。


「いっぱい増えた」


 俺の背筋が凍る。


「分体、統合体へ移行」


 グレイスが低く呟く。


 双剣を抜く。


「排除対象、拡大」


 統合体は笑う。


「削らなかったね」


 俺を見て言う。


「えらい」


 その瞬間。


 地面が消える。


 広場の一角が丸ごと空白になる。


 露店ごと、人ごと。


 悲鳴が上がる。


 今度は、一般人にも見える。


「な、何だ!?」


 空白は、視認可能な侵食へ変わっている。


 世界が、破れている。


 グレイスが突撃する。


 剣が虚無を斬る。


 火花のような粒子。


 だが、再生速度が速い。


「物理干渉、有効率一割以下」


 彼女の声に初めて焦燥が混じる。


 統合体が手を振る。


 執行官が三人、現れる。


 記録院の援軍。


「固定展開!」


 三重の陣が広がる。


 空白を囲む。


 だが。


 陣が、内側から喰われる。


 固定文字列が消えていく。


「無効化!」


 執行官の一人が叫ぶ。


 次の瞬間。


 彼の上半身が、消えた。


 血もない。


 ただ、欠ける。


 残された下半身が崩れ落ちる。


 広場が凍りつく。


 記録院が。


 消された。


 グレイスが一瞬、動きを止める。


 初めての光景。


 固定が効かない。


 凍結も通じない。


 削れば餌。


 物理も通じない。


 統合体が、くすくす笑う。


「君たち、記録好きだよね」


 琥珀色の瞳が、揺れる。


 グレイスが低く呟く。


「……敗北」


 その言葉は重い。


 記録院が、力で押し負けた。


 世界の守護者が。


 俺は前へ出る。


 削らない。


 抱えるだけでは足りない。


 再編。


 統合体の内部を見る。


 未記録層の粒子が渦巻いている。


 削られた因果。


 俺が削ったものも、含まれている。


「……俺のせいか」


 統合体が首を傾げる。


「うん」


 あっさり肯定する。


「でも、君だけじゃない」


 声が、低くなる。


「いっぱい削った世界」


 削り続けられた歴史。


 戦争。


 隠蔽。


 なかったことにされた出来事。


 それらが、堆積している。


 統合体は、叫ぶ。


「喰べるしかないじゃん」


 広場の半分が、空白へ傾く。


 人々が飲み込まれそうになる。


 時間がない。


 削れば餌。


 抱えれば限界。


 再編だけでは、規模が大きすぎる。


 グレイスが叫ぶ。


「撤退を!」


 執行官たちが後退する。


 だが、町の人々は逃げられない。


 俺は、決断する。


 未記録層への接続を開く。


 統合体の核へ。


 抱え込む。


「やめろ!」


 ミアの叫び。


 だが、止まれない。


 統合体の粒子を、強制的に分離する。


 未記録層へ押し戻す。


 世界が軋む。


 胸が裂けるようだ。


 抱えきれない。


 統合体が笑う。


「もっと大きくなれるのに」


 粒子が暴れる。


 俺の体が透ける。


 再び、消えかける。


 グレイスが目を見開く。


「アルド!」


 統合体の体が、不安定になる。


 核が露出する。


 今しかない。


 グレイスが跳ぶ。


 双剣が交差。


 核を断つ。


 統合体が崩れる。


 黒い粒子が未記録層へ吸い込まれる。


 空白が閉じる。


 静寂。


 広場は、半壊。


 だが、全滅は免れた。


 俺は膝から崩れ落ちる。


 息が荒い。


 胸の奥が、ほとんど空だ。


 抱えすぎた。


 グレイスが立っている。


 周囲には、消えた執行官の痕跡。


 彼女が低く呟く。


「記録院、敗北」


 それは認めざるを得ない。


 初めての。


 完全な。


 敗北。


 夜空が、不気味に静かだ。


 遠くで、鐘が鳴る。


 今度は、警鐘。


 界喰いは、終わっていない。


 むしろ。


 始まったばかりだ。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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