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救ったはずの仲間が、俺を忘れていた。〜追放ヒーラーは“存在を削る回復魔法”で世界の裏側に立つ〜 ―未記録層と界喰いの神話―  作者: 白銀レン


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第14話 排除命令

 町に、雨が降り始めた。


 さきほどまで晴れていた空が、何の前触れもなく曇り、細い雫が石畳を濡らしていく。


 自然ではない。


 調整だ。


 俺は空を見上げる。


 水滴が頬を打つ。感触は、ある。


 まだ、世界に触れている。


「来る」


 ミアが呟く。


 広場の中央。


 空間が歪む。


 円環の紋章が、三重に展開する。


 今度は三人ではない。


 六人。


 そして、その後方。


 リゼ。


 外套の裾が、雨を弾いている。


「上位審議、終了」


 彼女の声は、前回よりも低い。


「アルド・レヴァイン。あなたは調停仮説を保留。危険度は依然S級」


 S級。


 危険の格付け。


「排除命令、発令」


 静かに告げられる。


 空気が、凍る。


 周囲の人間は動いている。


 だが、俺たちの層は切り離されている。


「観測から、実行へ移行」


 六人の執行官が同時に書式を展開する。


 固定。


 封鎖。


 分断。


 今度は町全体ではない。


 俺を中心に、半径十歩ほどの空間が切り取られる。


 外界との接触が断たれる。


 雨音も、遠い。


「ミア、下がれ」


「いや」


 即答。


 俺の手を握る。


 消えない存在。


 唯一の錨。


「アルド・レヴァイン」


 リゼが一歩前へ出る。


「最後に確認する」


 その瞳は、冷たいだけではない。


「干渉を停止する意思はあるか」


 停止。


 削らない。


 守らない。


 選ばない。


 目の前の死を、受け入れる。


 俺は、考える。


 井戸の子供。


 街道の御者。


 ガルド。


 フィーナ。


 守れたもの。


 守れなかった可能性。


「ない」


 短く答える。


 迷いは、ある。


 だが。


 止まらない。


 リゼは目を閉じ、わずかに息を吐いた。


「記録」


 その一言で、六人の執行官が動く。


 書式が重なる。


 俺の輪郭を、直接縫い止める。


 削る前に、固定する。


 存在そのものを、保存状態へ。


「今度は固定ではない」


 リゼの声。


「凍結」


 時間ではない。


 存在の凍結。


 動けなくなる。


 思考も、緩慢になる。


 削る余地が、なくなる。


 結晶は、ほとんど砕けている。


 削れば、今度こそ消える。


 ミアの手が、震える。


「アルド」


 凍結が進む。


 視界が、歪む。


 だが。


 今までと違う。


 俺は削るだけではない。


 負債を受け取った。


 転移させた。


 ならば。


 凍結を削るのではなく。


 凍結が成立するための“前提”。


 俺が危険因子である、という評価。


 その評価に至る連鎖。


 干渉回数。


 削除規模。


 観測結果。


 それらを。


 ――なかったことに。


 だが、それは広すぎる。


 世界規模だ。


 結晶が悲鳴を上げる。


 もう光はない。


 それでも。


「……削る」


 凍結の“完成”を。


 結果を。


 成立を。


 凍結が完成した未来を、削る。


 世界が、軋む。


 執行官たちの書式が乱れる。


 凍結が、止まる。


 だが。


 代償が、即座に来る。


 視界が、消える。


 音が、消える。


 体が、透ける。


 今までとは違う。


 消滅に近い。


「アルド!」


 ミアの声だけが、かろうじて届く。


 リゼの目が、初めて大きく見開かれる。


「存在確率、急落」


 彼女が呟く。


 俺の輪郭が、霧のように崩れる。


 雨粒が、俺を通り抜ける。


 石畳が、透ける。


 消える。


 意識が、薄くなる。


 それでも。


 町は守られている。


 凍結は成立していない。


 人々は、自由だ。


 それで。


 それでいい。


 ……いいのか。


 最後に、ミアの顔が見える。


 泣いている。


 その表情だけが、はっきりしている。


「消えないで」


 声が、遠い。


 俺は、答えようとする。


 だが。


 声が、出ない。


 世界が、白に染まる。


 完全な空白。


 記録の外。


 未記録層。


 落ちる。


 どこへ。


 わからない。


 ただ。


 消えた、のではない。


 “外れた”。


 そんな感覚だけが、残っていた。


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