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救ったはずの仲間が、俺を忘れていた。〜追放ヒーラーは“存在を削る回復魔法”で世界の裏側に立つ〜 ―未記録層と界喰いの神話―  作者: 白銀レン


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第12話 固定される町

 森を抜けると、町の空気がわずかに変わっていることに気づいた。


 風が、止まっている。


 いや、正確には。


 “揺れない”。


 広場に戻ると、人々は動いている。会話もある。子供も走っている。


 だが、どこか不自然だ。


 井戸の水面が、さざ波を立てない。


 旗が、同じ角度で揺れ続ける。


「固定」


 ミアが小さく呟く。


「さっきの人」


 リゼ。


 観測だけではない。


 実験だ。


 俺は広場の中央に立つ。


 違和感の正体はすぐにわかった。


 同じ会話が、繰り返されている。


「三頭だけだったんだろ?」

「ああ、大したことない」


 さっき聞いた言葉と、寸分違わない。


 御者が同じ動作でジョッキを持ち上げる。


 泡の弾ける位置まで同じ。


 時間が、ループしているわけではない。


 “範囲内の事象が固定されている”。


 同じ動きが、許容範囲内で微細に再生されている。


 変化が許されていない。


「町ごと、実験」


 ミアの声が震える。


 固定。


 因果が動かない。


 つまり。


 俺が削ろうとしても、動かない。


 試されている。


 削るかどうかではない。


 削れるかどうか。


 広場の端で、悲鳴が上がる。


 だが音程が、さっきと同じだ。


 同じ高さ、同じ長さ。


 子供が井戸に近づく。


 足を滑らせる。


 同じ角度。


 同じ軌道。


 落ちる。


 水音。


 さっきと同じ。


 大人が駆け寄る。


 縄を投げる。


 引き上げる。


 生きている。


 まったく同じ。


「……固定されてる」


 俺は理解する。


 井戸の事故が、再生されている。


 結果は生存。


 だが。


 もし次の再生で、縄が切れたら。


 変化が許容されたら。


 固定は解除されない限り、外からの干渉を拒絶する。


 削れない。


 削れば、固定そのものに干渉することになる。


 代償は。


 想像するだけで、胸が軋む。


「アルド」


 ミアが見上げる。


「これは、あなたへの問い」


 守るか。


 消えるか。


 固定を破れば、俺はさらに薄くなる。


 破らなければ、町は実験台のまま。


 リゼの声が、どこからともなく響く。


「観測開始」


 姿は見えない。


 だが、見られている。


「対象は選択する」


 冷たい声。


「固定を受け入れるか。干渉するか」


 井戸の子供が、三度目の落下をする。


 水面が同じ形で割れる。


 大人が駆け寄る。


 だが。


 縄の結び目が、わずかに緩い。


 微細な変化。


 固定は完全ではない。


 揺らぎがある。


 次は。


 助からないかもしれない。


 俺は拳を握る。


 削れば、俺は。


 だが。


 守ると決めた。


「……固定を、なかったことに」


 ミアが息を呑む。


「それ、大きい」


「わかっている」


 結晶に触れる。


 ほとんど光が残っていない。


 ひびは蜘蛛の巣のようだ。


 それでも。


 詠唱する。


 ――固定は成立しなかった。


 世界が、軋む。


 重い。


 今までとは比べものにならない。


 固定という“法則”に干渉する。


 因果ではない。


 構造だ。


 視界が白に染まる。


 耳鳴りが爆発する。


 胸の奥で、何かが砕ける音。


 広場の景色が、乱れる。


 人々の動きがバラける。


 旗が不規則に揺れる。


 井戸の水面が、自然な波を立てる。


 子供は、今度は井戸に近づかない。


 固定が、解けた。


 俺は膝をつく。


 腕が、肩まで透ける。


 足も、地面が透けて見える。


 感覚はある。


 だが、存在が薄い。


 ミアが必死に抱きとめる。


「アルド!」


 広場の人々が、こちらを向く。


 一瞬だけ。


 視線が合う。


「……誰だ?」


 誰かが呟く。


 だが、すぐに興味を失う。


 俺は、存在していない。


 固定は解けた。


 町は自由になった。


 だが。


 俺は、ほとんど残っていない。


 遠く、空間が歪む。


 リゼが姿を現す。


 驚きはない。


 ただ、静かな観察。


「固定を破った」


 淡々と。


「干渉規模、上位判定」


 俺を見る。


 透けた体を。


「存在確率、臨界値付近」


 その声に、わずかな揺らぎが混じる。


「そこまでして、守るか」


 問い。


 俺は、笑う。


「守ると、決めた」


 声が、かすれる。


 リゼは、しばらく黙っていた。


「観測終了」


 そう告げる。


「上位審議へ移行」


 つまり。


 次は、実験ではない。


 排除。


 彼女は一瞬だけ、ミアを見る。


「未登録因子、要監視」


 そして。


 消えた。


 広場は、普通の町に戻る。


 風が吹く。


 人が笑う。


 誰も、俺を見ない。


 ミアだけが、俺を抱えている。


「アルド」


 涙を浮かべる。


「もう、削れない」


 俺は空を見上げる。


 青い。


 何も変わらない。


 だが。


 俺は、ほとんど存在していない。


 守った。


 町は、無事だ。


 それで。


 それで、いいのか。


 視界が、ゆっくりと暗くなっていった。


本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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