表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
救ったはずの仲間が、俺を忘れていた。〜追放ヒーラーは“存在を削る回復魔法”で世界の裏側に立つ〜 ―未記録層と界喰いの神話―  作者: 白銀レン


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

10/27

第10話 救わなかった罪

 広場の中央。


 黒外套の三人は、等間隔に立っていた。


 円環の紋章が淡く光り、足元に薄い書式が展開する。


 今度は隠すつもりがないらしい。


「排除ではないのか」


 俺は問いかける。


 中央の執行官が答える。


「段階的措置。拘束の再試行」


「前回は失敗した」


「記録済み」


 淡々とした声。


 ミアが小さく囁く。


「三人同時。固定と観測と補正」


 役割分担か。


 俺は周囲を見渡す。


 人々は変わらず、日常の動きをしている。


 俺たちの周囲だけが、別の層に切り取られている。


「アルド・レヴァイン」


 中央の執行官が告げる。


「あなたは過去二十四時間で三度の干渉を行った」


「守っただけだ」


「結果は同じ」


 右の執行官が前へ出る。


「干渉は連鎖する。小規模でも累積すれば世界規模に至る」


「至っていない」


「未至達は無罪を意味しない」


 論理的だ。


 感情がない。


「なぜ削る」


 中央の執行官が問う。


「死を恐れるからか」


「死なせたくないからだ」


 即答する。


 それは、揺らがない。


「死は記録だ」


 左の執行官が言う。


「死があるから選択が重くなる。選択があるから歴史が生まれる」


「その歴史のために、死を許せと?」


「許すのではない。受け入れる」


 受け入れる。


 その言葉が、胸に刺さる。


 昨日。


 井戸に落ちた子供。


 削らなかった。


 運よく助かった。


 もし、助からなかったら。


 それも、受け入れろというのか。


「昨日、削らなかった事象がある」


 中央の執行官が告げる。


 心臓が跳ねる。


「井戸落下事象」


 観測されている。


「干渉せず。結果、生存」


 淡々と続ける。


「削らなかった理由は何か」


「……」


 答えられない。


 怖かったからだ。


 削れば、薄くなる。


 自分が消えるのが。


「自己保存」


 右の執行官が言う。


「あなたも、結局は自分を守る」


 否定できない。


 守りたい。


 だが、消えたくもない。


 その矛盾が、喉を締める。


「アルド」


 ミアが小さく呼ぶ。


「聞かなくていい」


 だが、聞こえる。


 言葉は、刺さる。


「あなたの行為は選択を奪う」


 中央の執行官。


「死ぬ可能性を削ることは、生きる覚悟も削る」


 ガルドの言葉が蘇る。


 覚悟が、嘘になる。


「あなたは善意で干渉する」


 左の執行官。


「だが善意は、記録に優先しない」


 円陣が広がる。


 今度は三重。


 固定。


 観測。


 補正。


「拘束開始」


 足元が硬直する。


 空気が固まる。


 呼吸が浅くなる。


 削るか。


 削れば、また薄くなる。


 削らなければ、固定される。


「アルド」


 ミアが強く手を握る。


「今度は、削る場所を選んで」


 場所。


 拘束そのものではない。


 拘束が成立した“前提”。


 俺が危険因子である、という評価。


 そこに至る因果。


 ……だが、それは広すぎる。


 結晶が悲鳴を上げる。


 ひびが光る。


 もう、限界だ。


 削れば。


 俺は、さらに薄くなる。


 それでも。


 井戸の子供。


 街道の御者。


 ガルド。


 フィーナ。


 守りたかった。


 守りたい。


「……削る」


 呟く。


 中央の執行官が反応する。


「干渉値上昇」


 俺は目を閉じる。


 拘束の“成功”ではない。


 この町で、俺が初めて干渉した事象。


 街道の魔狼。


 それを。


 ――最初からなかったことに。


 結晶が砕ける音。


 視界が白に染まる。


 広場が、揺らぐ。


 魔狼の襲撃が消える。


 御者は最初から無事。


 俺が削った最初の因果が、消える。


 連鎖が変わる。


 俺を観測する理由が、わずかにずれる。


 円陣が乱れる。


 執行官たちが一瞬、揺らぐ。


「観測誤差発生」


「基準点喪失」


「再計算――」


 拘束が緩む。


 俺は膝をつく。


 指が、はっきりと透ける。


 腕が、半分ほど霞む。


 広場の人々が、ざわめく。


「……誰かいるか?」


 視線が、俺を通り過ぎる。


 存在が、曖昧になる。


 ミアが、必死に支える。


「アルド!」


 彼女の声だけが、はっきり届く。


 執行官たちは後退する。


「対象、存在確率不安定」


「現時点での拘束は非効率」


「撤退。上位判断を仰ぐ」


 三人の姿が、書式とともに消える。


 広場には、何も残らない。


 俺は地面に膝をついたまま、息を荒げる。


 魔狼の襲撃は、最初から存在しない。


 御者は無事に通過しただけ。


 俺が初めて削った事象が、消えた。


 だから。


 俺が観測された“きっかけ”も、わずかに揺らいだ。


 だが代償は。


 自分の腕を見る。


 半透明。


 向こうの石畳が、透けて見える。


「削りすぎ」


 ミアの声が震える。


「もう、限界」


「……まだだ」


 かすれた声。


 まだ、ここにいる。


 だが。


 広場の子供が、俺の横を走り抜ける。


 ぶつからない。


 避けられていない。


 ただ、触れられない。


 存在が、薄い。


 守ったはずの町が。


 俺を、必要としていない。


 救わなかった罪。


 削った罪。


 どちらも、胸に残る。


 空を見上げる。


 青い。


 何も変わらない。


 だが。


 俺は、確実に消えかけている。


 ミアだけが、強く俺の手を握っていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ