幕間─高地の国の愚かな日
いつもの始まり
会議室では様々な諸将が昔を懐かしみながらこの歪な光景を目の当たりにしていた。
「以下の者はここに残りなさい。カイテル、ヨーデル、クレープス、それとブルクドルフ」
そして指定された4名を残して実務的な装飾の部屋から将軍達は退室していく。
先のノイエベルリン市街地での功績(本当は聖女姫君パーティーの尋問で爆笑してしまい腹筋が攣って政務が不可能に成ったエリカの代行)により1日臨時総統としてアドルフ就任した。
笑い事には出来ない政治的大問題がたった今発生しているがノイエベルリン戦役を経た将兵にとって笑いのツボを全力で押してるような行為であった。
退室した将軍達は堪えきれず外で大声で腹を抱えて笑っている中怒り心頭の総統閣下による彼らへの叱責が行われる事に成った。
「私は命令した筈だぞ!東方軍集団には確かに攻撃を禁ずる命令をした!!」
東方軍集団は今や左遷職でありカイテル達を遠ざける為に4人衆は東方で師団長を務めさせられ中央の参謀本部とは縁遠い任務をさせられている。
東方は確かに神聖皇務庁と国境紛争が絶えない地帯で高地の国の要衝ではあるが近年は完全なる軍事的優位により国家人民軍の部隊が最前線に配備され国防軍の出番はほぼ無くなっていた。
だが今回上がってきた報告は参謀本部を驚愕させ議会側の内閣とエリカ率いる帝国行政府の対立が発生してしまうのである。
『高地の国国防軍、神聖皇務庁を急襲す』
『高地の国国防軍、国家人民軍の部隊を撃破し議会粛清へ』
ふざけた内容の記事を『フェルキッシャー・ベオバハター』という正体不明の三流新聞が全国規模で号外を配り国家全体で衝撃が走り戒厳令が敷かれている。
「一体全体何がどうしてこうなったのだ!笑い事では無いぞ!!国防軍が国家人民軍の東部方面部隊を撃破して挙句の果てには私もある程度煩わしいと考えているが議会粛清だと!?陛下はそんな大それた命令を貴様らへ直接下していたのか!私さえも知らされずに!?」
ヨーデルとクレープスは驚いた表情をした後総統へと目を向け発言する。
新聞にはレオパルド2A8では無くT-72Mが攻撃している構図の写真が貼られた新聞が発行されているが
「総統閣下…そのような事を…」
「我々も初耳でございます。既に部隊の所在確認は行いましたが全て白でした」
東方軍集団の部隊所在確認は完了していてカイテル元帥がたまたま駅舎で配られていた号外を目にしてすぐ事実関係を確認した結果である。
だが既に帝国全土に知れ渡った以上戒厳令は敷かれ非常事態宣言も発令済み、経済は再び破壊され資本家達は国防軍へとヘイトを向け始めるだろう。
自分達の地位や女帝へと使える国防軍の体裁を守らなくてはならない以上帝国全土に染み渡った混乱の収束を彼らは任務にせねばならなかった。
「ならなんでこんなふざけた内容の報道が行われている!こんな、こんな面倒な事が起きてしまうなど…!!」
ヒトラーはただでさえ悩まされている現状へ追い討ちをかけるように更に面倒な報せが飛び込んできた。
「総統閣下、報告です。神聖皇務庁南方に新たな国家が誕生し我々へ宣戦布告したそうです、今陛下にもお伝えしましたが名前は…その…」
「何だ!?しっかり言い給え!!」
尻込みした官僚にしっかりと軍人として発言するようにヒトラー臨時総統は求めた。
「親衛隊騎士団領ブルグント、だそうです。首魁は…閣下もよくご存知のハインリヒ・ヒムラーです」
「…は?今何と??ブルグント、だと、それもヒムラーが??」
「はい。ハインリヒ・ヒムラーが転生者として紛れ込んでいて自国を保有し我々へ宣戦布告したとの報告が─」
「ヒムラー、おのれぇ!!」
沸点に達したヒトラーは持っていた鉛筆をへし折った上で机に投げ捨て叫んでしまった。
「チクショウメエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!!!!ベルリン陥落の直前にいきなり私を裏切って西側へ逃げようとした裏切り者の分際で、どの口がほざきおるのだ!!」
いつの間にか廊下も静まりかえり新たな敵の存在を扉越しに何とか聞き取ろうと必死に成っている将校団を放っておき先に事実確認を取る。
「ヒムラーの奴が狂気に飲まれた挙句ライヒに宣戦布告してきただと!つまりその国家人民軍の攻撃はやはり…」
「…はい。間違い無くヒムラーの手によるものかと。彼曰く堕ちたライヒに対する綱紀粛正の為の聖戦であるとか…ついでに総統閣下のせいで以前の第三帝国が滅んだ件での報復も兼ねているとか」
私怨も兼ねての高地の国への宣戦布告であり、それは前世に連なる怨恨が全力で爆発しまくっているからこそ発生してしまった結果である。
「今すぐ親衛隊シンパもしくは親衛隊出身者全員呼べ!!そして一人一人じっくり尋問せよ、帝国内に奴らは既に侵入してるに違いない!終わるまで私にも陛下にも報告は不要だ!!分かったな!!」
「ハイル!!」
そして官僚が退室しむせた臨時総統は一旦息を整えた。
「廊下に立っているものは全員戻れ、大至急国家非常事態宣言を再度改めて発動せねばならなく成ってしまったからな」
ぞろぞろと戻って来た将校達は改めてこの話をヒトラーから聞かされた。
その結果目の前の伍長の因縁で新たな敵が生み出された事に対して侮蔑と怒りの眼差しが向けられた。
そして着席が全員済むと得意の演説で何とか場の空気を取り戻そうと
「諸君!私達の偉大なるライヒに迫りくる裏切り者達が宣戦布告してきた!!敵は我らの同胞にして盟友の国家人民軍へと攻撃を行い多数の犠牲者を出して我らの仲を引き裂こうとした!奴らは強大ではあるが我らはその一歩先を行く軍隊を持つ新たなライヒである!!そして─」
大半の将校は演説を聞いていたがカイテル元帥は極力目立たぬようにそっと胃薬を飲んだ。
武装親衛隊出身者の取り調べ期間中まで東部戦線がもつかどうかは少なくとも判断しかねるものであり平原の国の国内軍を増援部隊として確約出来たらそれこそ心強いが多分無理だろうし大体他の連中の戦力も信用ならない程度しか考慮していない。
そして演説後エリカの許へヒトラーは向かっていた。
「陛下、大変面倒な相手が参りましたな。…まさかヒムラーが歯向かう、いや挑んでくるなど予想出来ませんでした。どれ程恥知らずなのかあいつは…帝国を、我らの帝国を築いたのは他ならぬ陛下でございますのに!」
「いやまあそうね、…え?ヒムラー?あのハインリヒ・ヒムラー??全国指導者の??」
「はい。あのヒムラーで御座います。あれが何故か転生者として今回の大会に参加していたそうです」
きょとんとした表情でエリカは目の前の伍長を眺めていた。
そんなに年代が離れた人物もこの転生者サバイバル大会に参加してしまえるのだと。
「…ふざけないでちょうだい。私は確かに貴方たちを利用し貴方たちでこの国を築き邪魔者を須らく打ち破ってついに悠里に再会した。でもあくまで私はナチスじゃないのよ、貴方たちに極力配慮はしてるけど。敬礼とか無理に強いてないし過去への批判については自由判断させてるし…」
「はい。ですから私もその点のご配慮については癇癪しております。ですがそうではない、独立的な勢力と呼ばれる者としてヒムラーは─」
「分かっているわよ。なら、その者たちを討伐するだけよ。だからまぁ、あなた一人だと荷が重いだろうし私が戻って今すぐ親衛隊騎士団領とやらの征伐をやるわ。貴方はこのまま総統の任を解くので伍長職に戻りなさい」
「は!陛下のご意思のままに」
そしてすぐさま退室し着替えを終えるとアドルフは伍長として勤務を開始した。
帝国を築いたのはエリカだ。帝国を育んだのはエリカだ。エリカはこの帝国を50年以上守り抜いてきた。帝国と共に有ったのは彼女である。
エリカは運営の手違いにより他の転生者達とは全く異なる50年前の世界へ転生させられてしまった。
だから彼女は藁にもすがる思いでギフトに頼った。戦乱の地と化している高地の国で生き残らんと必死に縋り、そして彼女はいつの間にか高地の国を統一し帝国を築き大陸に一大勢力を建てた偉大なる女帝として名を刻んでいるのだ。
それにヒムラーと言う野心を滾らせた狂人が挑んで来ているのである。
ならば後輩に教訓を与えてやるのが先達としての務め、帝国を蝕まんとする悪に対して更なる悪意で迎え撃つのが正義というもの。
「いい度胸ね、養鶏家如きがこのライヒに挑戦状を叩き付けてくるなんて滅多な事ではないのよ。なら」
叩き潰して轢き潰して嬲り殺してやる。
黄金の正義の名の下に、裁きの鉄槌を下すのだ。
「さて、その前に装備の拡充が必要だわ。それにお色直しもね」
野獣のような眼光は敵を射抜かんとするように、それとも新たな獲物を狩らんとする肉食獣なのか。
銀縁の眼鏡をかけ、ゆっくりと座りコニャックを一口飲んでいた男は飲み終わると椅子にしていた奴隷の顔面にそのグラスを投げつけた。
「ぐうっ」
(全く、私達の理想をあそこまで穢せるのは感心さえできる悪夢の仕立て屋だな。どのような発想が出来ればライヒをあのようなユダヤ資本主義的な歪んだライヒを描けたのだ)
ヒムラーは目だけを動かし窓の外を見下ろす。そこには「ルーン文字」を描かれたT-72M1戦車とMPi-AK-74Nを構えた親衛隊員たちが高貴なプロイセンを感じさせるものの泥臭さが入り混じる赤きプロイセンの様式を守りながら整列している。
(そして私に与えられたギフトがよりにもよって『ボリシェヴィキの兵器群』とは……神とやらもずいぶんと悪趣味だ。だが、この忌まわしい鉄屑どもを使ってでも私は真のアーリアの純血を取り戻さねばならん。あの第三帝国まがいの退廃的なユダヤ主義的な帝国を打破せねば─)
そう思うと余計腹を立ててしまい奴隷の頭部を蹴り上げ火達磨にして遊ぼうかと思ったがそれよりもしなくてはならない事が有ったのですぐに頭を切り替えて支配領域における浄化や統制を行う事にした。
各地に派遣した親衛隊隊員達の巡回で反逆者の死体を燃やし尽くす事で彼らの統治の正統性を確立して神聖皇務庁南方から東方の未開人の土地を制圧して自分達の神聖なるアーリア人を─
「失礼します全国指導者閣下、報告が」
「ああ、そこに置いておけ」
「かしこまりました」
しかしこの将校団は余りにも共産主義的であり中には国防軍の将校達も左派的な思想を見せヒムラーへの不忠が見え隠れしている。
ロドモ発電所から送電される電気しか存在せずその電力も限定的な電力でしかなく奴隷達の監視にしか使えていない。
反乱鎮圧・抑止の為の警官隊も無駄に割かれて今も尚人員を無意味に損耗させているし更に高地の国と呼ばれる国の諜報員や特殊部隊の存在が彼を煩わせる。
「ふむ、成る程。もうその時が来たのか。なら、動くか」
生存圏を巡る争いが始まる。
そして悪意と正義がぶつかる




