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微睡みの中

昔を振り返る

君塚は透の魔法により無理やり久しぶりに与えられてしまった睡眠の中でふと透の事に関する記憶へと記憶の海を泳がされていた。


幼い頃弟妹の面倒は悠里が見ていたのだ。

両親は仕事の方が優先と考える人物であり子どもの世話については病気などの非常事態を除いて基本二の次と考えるような性格であった。

親戚も基本関わりが薄く祖父母は父方母方どちらもこの醜く煩わしい子ども達の面倒を見ることを拒んでいた。

だが幸運な事にこの三兄妹にはこれ以上の不幸は起きず心情や環境はともかく経済的には自由な状態であった。


長男として弟妹の面倒を見ることが非常に多く物心付いた頃から既に朝食の支度や弟妹の幼稚園の送迎等をさせられていていつも寝かしつける事さえ悠里は担当していた。

そしてそれを当然とずっと思い続けていた彼は二人のために服を買いに行ったり食料の買い出しさえさせられ周囲の大人達の支えも有り何とか二人の小学校入学も無事果たされた後、二人の面倒を見ることを彼はやめなかった。


悠里は透が困ってるならそれを助けた、例えば教科書を忘れることの無いように自分の使っていた教科書をいつでも取り出して貸せるようにしていたりいじめられているなら庇ったり慰めたりしていた。

妹杏奈には登下校時に必ず共に付き添い可能な限り彼女の要求には沿い続けていた、流行りの玩具やゲーム、スマートフォンも両親に掛け合い何とか許可してもらい購入してもらった。

そして二人の


しかし成長するにつれて悠里が小人に見える程弟妹は才能が開花していった。

透は1年生なのに運動部を複数掛け持ちしつつ2年生に成る頃には運動部の全ての部活動で主将を務めて学校の女子生徒達の人気を集めていた。

杏奈も非常に才覚に恵まれ学校で常に学校で授業の点数は1位で偏差値も非常に高く約束されたエリートコースに向かっている才女として祝福されていた。


そんな2人に悠里は徐々にだが見えない所からふてくされ始めた。

彼は2人に比べて凡人でありテストの成績も凡で偏差値も平凡、運動神経とさほど良くないと地味な学生生活であった。

そしてトドメは子ども達に対して両親が以前のような無関心ではなく、関心を示して干渉しだしてしまった事でそれは悠里以外の子どもに対して向けられた着飾るべき勲章としての誇示であった。

周囲も悠里を蔑むようになり透や杏奈とは疎遠になって悠里は孤独に成っていった。


更に悠里は大学でも目立たず後から入学してきた透や杏奈は平凡な会社員として平凡に過ごし平凡に死ぬのだろうと…。


だが唯一平凡では無かったかもしれないのはエリカであった。

彼女は幼馴染で面倒を見ることも有った可愛らしい少女であったがある日手酷く恋人に振られてしまい自殺しようとしていた。

だが悠里が駆け付け説得の末何とか彼女を思いとどまらせてその条件に恋人に成った次第ではあったが何とか別れるため色んな手を尽くして彼女の新たな恋人を探してほうぼうかけまわるも敢え無く撃沈した。


そんなこんなで君塚悠里は現代社会の中を暮らしていたがやはり無理が祟ってしまい車に撥ねられ死ぬという転生テンプレを果たしてしまう。


そして平原の国摂取の君塚悠里は誕生し今に至るのだ。



そして過去について一気に思い出した君塚は目を覚ますが身動きが取れなかった。

下着姿の透がぎゅっと抱き締めながら寝かせていたのだ。


「んっ、おはよう兄さん。疲れは取れたかな?」

「おはよう透、次回からは無理やり寝かしつけるのはやめてくれ。ちゃんとこれでも必要な睡眠時間は確保しているんだから」

「駄目だよ兄さん。この間なんてどうでも良い宴会に呼ばれて5時間しか寝れてないじゃないか…7時間は必要だよ?最近は誰とも添い寝してないみたいだし…」

「添い寝は流石に最近はしねぇよ…」


透は直接見てはいないが君塚の就寝時間をキッチリ確認しておりどのような過ごし方をしているのかさえ把握していた。


「そんなに寝れたら上等だ。7時間も寝たら俺は明日から権力の座から降ろされるって」

「なら私がその憂いを払えるから一緒に寝よ?兄さんの健康の為でも有るし転生者でも病気にかかったらひとたまりも無いんだから。もし兄さんが良かったらさっきみたいに安眠の祝福を使って短時間でも必要量の睡眠を取らせることも可能だけど」

「いやだけどこれ以上は」

「良いから良いから、兄さんのためなんだから」


無理やりにでも自分が世話をしようとしている透だが君塚は必死に払い除け何とか執務室の机に戻った。

だが透はずっと抱き着いたままであり幕僚達から上がる報告が尽く透に筒抜けになっているが叱っても離れないので仕方ないからこのまま政務に取り組むことにした。


「…で何だこれ、ふざけているのか?魔法使いの送致に関する件、ウラソフからか。魔法使いというと転生者と違うのか?」

「へー、やっぱり居たんだね魔法使い。流石に生で見るのは始めてだけどさ」

「知ってるのか?」

「うん。神堂の下級妃の中に魔法使い殺しのギフトが有ったからそれで何となく居るのかなって」

「そうか、また後で学園生リストのチェックが必要に成ったな」

「うん、まぁ居るんじゃない?最もギフトの出力はアイツのせいでめちゃくちゃ落ちてるし今の彼女が使えるかは知らないけどね」


そして流れ込んでくる情報は今までの情報を壊し続ける恐怖映像そのものであった。


「何じゃこりゃ…こんなのと俺達は遠くない内に相手をさせられるのか?」

「うーん…私ならコイツ片手間で叩けるけど兄さんの軍隊守りながらとなるとなぁ…」


亜音速の領域まで即座に達してすぐ10km先の国内軍部隊を制圧しにかかる所、そして矢避けの加護で弾幕を無効化する点、更に爆風も彼女を避けて通る風よけの加護、そして多方面制圧の光弾弾幕。

単体でこのような性能の怪物がもし徒党を組んで前線を練り歩くならその有様は最悪の中の最悪の予想をよぎらせてしまう。

戦車や装甲車はまたたく間に制圧され折角分厚くした装甲を持つ意味が無くなるだろう。


「こんなものをわざわざ龍の国から送り付けてきてくれるらしいぞ透。見に行くか?」

「うん。私も一度無様に負けて捕らえられたのにこんなにもいきってる魔法使いを一回見に行きたいー」

「どうしてそんな事を言うんだ透。彼女は必死に戦ってたんだぞ、多分」


そして2人は仲良く輸送されてきた捕虜を確認する為に王国の─書類上廃駅にされている─貨物駅へと到着すると車内に居た忌々しそうな表情のクレマンスがプラットフォームへと突き落とされ顔面を強打する。



「離せ!この非文明人が!!私を誰だと思っている!?私はイル・ド・レオンの大魔法使いのクレマンスである─がぅっ!」

「やれやれ、散々手を焼かせやがってこのくそアマ…離してやったぞ?お前の言うとおりに─おや!同志摂政様じゃありませんか!!これはこれはよくぞこちらへ!!よっと」

「があっ!」

「いちいちうるせえんだよ。少しは黙ってな!!」

「がはっ」


降りてきた兵士はクレマンスの頭部を踏みつけた後悲鳴を上げた彼女の顔面を激しく蹴り飛ばした。


「一体どうした?捕虜への虐待は人道に反する行為だぞ。曹長、座学研修からもう一度やり直した方が良いか?」

「閣下、コイツに人権が有ると思っているんですか?こんな殺戮兵器に配慮が必要ですかね??何もしなくても俺たちの仲間が一人輸送中に殺られたんですよ、魔法らしいですが首を捩じ切られてね。コイツは手足を縛っても口さえ動けば相手を攻撃出来るんですよ、だからこそこうやって弱らせないと閣下も危のう御座いますから、ね!!」


頭部に再度A-545の銃床をぶつけて黙らせる。


「がっ!…はぁ、はぁ、今に見ていろこの猿共が!!文明の叡智さえ─」

「どっちが猿だこの食人族が!!」

「! 待て!」


ついにカッと成ったであろう兵士が持っていたA-545で腹部から大腿部にかけてフルオートで掃射しクレマンスは複数箇所に被弾した。 


「っ…こひゅー、ご、ごぽ…はぁ…ひぃ、ひぃ」

「なんてことだ、おいなんで今撃ったんだ!まだ彼女に確認しなくてはならない情報が!!くそ、透!」

「うん!分かってるよ兄さん!!」

「がふっ…がっ…」


急いで止血魔法をかけて応急処置を施したが曹長、そして彼の部下達がクレマンスに向けて銃口を外さず取り囲むように部隊を展開した。


「どいてください閣下!!そいつを撃てません!!!」

「駄目だ、ここをどかないぞ同志諸君。捕虜への虐待行為は見過ごせないしましてや私刑での処刑は非合法極まりない軍隊としてあるまじき行為だ。憲兵!憲兵!!」

「動くな貴様ら!武器を置け!!」

「…閣下は前線を知らぬからそれを守るのですね…どれほど人知の及ばぬ生き物が恐ろしいか、閣下にはわからんのです…」


そして憲兵隊により武装解除された後彼らは恨めしそうな視線を君塚とクレマンスへと浴びせ続け車両へと乗せられ後方へ移送された。


「…そいつは大丈夫か?まぁ死なないとは思うが念のためだが確認しておかないとな」

「うん。大丈夫だよ、これなら何とか内臓も手足も治したから。頭蓋骨も割れてたけど何とか処置も完了したし」

「全く…油断も隙も無い奴らだ。今回の件、司令官のウラソフには咎が無いが実行した彼奴等には少しは罰を受けてもらう事に成るだろう。これでは懲罰部隊を作成するのがそこまで遠くない日になりそうだ」


気絶したクレマンスを抱えて2人は車に乗り総司令部直属の尋問用倉庫に彼女の身柄を移して目が覚めるまで待ち続けた。

途中透が電気ショックを与えて目を早く覚させようとしたが魔法防御が自動的に作動し魔法が強制的にキャンセルされてしまった。


「成る程、こりゃ厄介なこと極まりないな。あの兵士達の言うことも間違っている訳では無いようだが、しかし虐待するのは恐怖に呑まれてしまったようなものだ」

「うん、自動キャンセルも正直必要最低限って感じだし相手の魔法を半永久的に使用不可とかにする訳でもないからそこまででもないかな。それよりも…」


透はクレマンスに向けて目配せをして大剣を展開していざというタイミングで力を振るえるように準備する。


「ああ、分かってる」


君塚もGSh-18のセーフティを外しチャンバーチェックを実施し弾倉の残弾も確認した。


「ねぇクレマンスさん、貴女起きているんでしょ?さっさと起きなよ、さもないと」

「俺達はお前を攻撃しないといけなくなっちまう」


二人の底冷えた寒い殺意がクレマンスに向けられる。

それは鋭利な刃物のような細く薄く尖って一点しか向けられる予定の無い殺意。


「…分かった、私は貴方達に捕らえられているのだ し正式に降伏するわ。但し身代金の為にも精々私を丁重に扱いなさい、百合の国の乙女達はきっと私の為に必死に亜麻の布を売り捌いているでしょうから」


クレマンスは降参し自身の価値を最大限盛って行く方向で会話を望んでいた。

そのエメラルドグリーンの瞳には決して慈悲を乞うようなものではなく、むしろ君塚達に対して赦しを与えようとする顔であった。


「一応先に言っておくが君に対して身代金を要求するような事は起きないとだけ言っておく。我が国は基本的人権尊重国家だ、人に値段を付けて売買なんて野蛮なならず者国家しかせんよ」

「うん。申し訳無いけど君であろうと一般市民であろうと人身売買はこの国では禁じられているから駄目だね。その代わり…」

「その代わり…?」


人質として身代金を取らない平原の国の人間に訝しみを感じたクレマンスだがすぐに逃げ出したくなる未来を告げられた。


「その代わりお前は暫く研究施設に送る。その魔法とやら、西方で見かけられるそれとは違い過ぎるからな。神経系や血管以外にも何やら細い管が通っているようだしそれをチェックさせてほしい」

「ひっ…い、嫌よ!やっぱりあなた達は皆蛮族─」

「はいそこまで、だめだよーそんな事を考えちゃ。私達も文明人で貴女たちも文明人なんだからさ、ね?」


クレマンスは冷や汗をかいて逃げようとしたが即座に瞬間移動した透に抑え込まれてしまった。

クレマンスは深く絶望し平原の国の貴重な研究資源にされてしまったのである。

そして魔法は現実へ

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