晴れ渡る丘にて我らは歌う
ふざけた戦争は終わり
「シャイセ!!!一体何なんだ奴等の空飛ぶ手品は!何を奴はしているのだ!?」
伍長はウィンチェスターを向けながらその空飛ぶファンタジーファシストモンスターへと罵詈雑言をずっと浴びせ続けていた。
空を舞うアドルフィナ一行の光球爆撃により戦車部隊は後退を余儀なくされると同時に歩兵部隊は取り残されてしまい建物や戦車や装甲車の残骸に隠れてやり過ごそうとしていた。
司令部では何とか峠を越え司令官達は無事であったが一部の士官がフリフリドレスの総統閣下とかおべっか使いの頭を引っ付けただけの女性達を見て発狂したり吐瀉物を袋の中に戻したり途中から泣きながら幼児退行したりと大騒ぎでありエリカは笑いすぎて気絶していた。
「このままでは我々はただ討たれるのを待つだけではないか!!樹海の中であるが故に航空支援も呼べんし火力支援もあんなに飛び回るなら…ええいままよ!!」
導火線に火をつけたダイナマイトを天高く放り投げた伍長だが爆風や熱は風よけの加護で防がれてしまう。
「おーほっほっほっ!私のそっくりさんは何やら猿のような戦術を取りますわ!!ブルクドルファさん!あれは後で私のペットとして飼いますわね!!」
「どうぞお好きに、私は勇者様に癒してもらいますので」
「な!?私の夫を何だとお思いなのですか!??」
勝手に色々ほざいている地下壕5人組は四方八方へと爆撃を行いながら兵士達を蹂躙していく。
上空へG95やG36を必死に撃ち続けるも全く当たらずむしろ魔法使いの魔法でそのまま振り注がされて蜂の巣のように撃ち抜かれて撃破される、そうでなくとも風の刃が縦横無尽に飛び交いどれかに命中すると止血が出来ず失血死を免れないのだ。
つまるところ、彼らは何時死ねるか、どのように死ぬかしか選べず戦車の残骸の下に隠れている国家人民軍兵士達は国防軍の兵士達を押し出そうとしたり混乱を極めていた。
その間も伍長は精確に確実にジャブを打つようにウィンチェスターとコルトSAAを当ててはいたがまるでダメージには成っていなかった。
(このままでは敵の爆撃に押し切られてしまう!何とかせねば…いや、そうか!その手が有ったか…取り敢えず空を飛んでいるなら─)
そんな伍長がごちゃごちゃ考えている中突然連続して爆弾が空中で何度も炸裂し正確かつ執拗な機銃掃射をされた愉快な五人組は地面に叩き落とされた。
《何やら見覚えのある顔をしている小バエを叩き落としたがどうなっているガーデルマン!確認は出来そうか!?》
《お見事です大佐、確かに撃墜されています。腕は鈍っていないようで》
《当たり前だ!私をなめるなよ!!毎日牛乳を飲み健全な肉体と精神さえ保てれば何だって出来るのだからな、ハッハッハッ!!!》
《前!前見てください大佐!!前!!!!樹が!樹が迫ってますよ!!!!》
《ぬ!?このっあがれええええええ》
《ぎぃああああああああ!!!!》
基地に駐機中であったトーネードIDSをかっぱらって来たルーデルが雑に叩き落としてしまっていた。
そう、パイロットはあのルフトヴァッフェが誇る魔王ハンス・ウルリッヒ・ルーデル大佐本人である、後部座席は勿論エルンスト・ガーデルマン少佐が勤めている。
危うく大樹にタックルしかけたが何とか未遂に済んだのでエリカによる営倉掃除一週間の刑は免れていた。
「…何だ、意外にアッサリ片付いたではないか。全く無駄に決意させおってからに、おい!そこに居る国家人民軍一等兵!!そいつ等を縛り上げろ!!」
「了解!!」
「くそっ!忌々しい面を…いや私の面だから…ええぃ!!もうどうとでもなれ!チクショウめえええええええええ!!!!」
伍長は的確に指示を出して目をぐるぐる回しながら倒れているパンチパーマなアフロヘアーの聖女達を拘束しそのまま後方へ送り届けていた。
ちなみにシュタイナー大将の攻撃で今回のノイエベルリン市街地奪還は果たされていたが勇者の攻撃は間に合わず、そもそも1個師団程度でゼーロウ高地まで突進しようとしたなど最早噴飯物でありライヒを侮るにも程が有った。
勇者はその後樹木陣地の最奥部にて籠っている所を制圧され無事警官隊や憲兵隊の厳重な拘束により連行され帝国内の最初の反乱は平定された。
ただ今回の件で国家人民軍の抜本的な改革と軍事教練の再実施、そして国防軍との合同軍事演習の頻度の向上が確定した。
「陛下!このアドルフ、一番槍と大将格の捕縛という大命を果たしましたぞ!」
そしてエリカは伍長を迎えに行ったが彼女の顔付きは一転して非常に険しい物であり伍長が敬礼するが答礼よりも先に胸ぐらをガッと強い力で掴みかかった。
伍長と同じ位の身長の彼女はヒールを珍しく履いていた為
「な、何をされるのですか陛下!?」
「…ふむ、なるほどね。ならそのマヌケな反応は伍長、貴方で間違いは無さそうね。全く油断も隙もない…」
「かはっ、ぜぇ、ご乱心召されたのかと思いましたぞ」
「そこまで怯えるほど私の未来に暗雲は籠ってないわ伍長、ただファンタジーと言えば成り代わりとか侵食とか有るじゃない?そう言うのが気になったのよ」
「それはまた杞憂を…」
そしてエリカは伍長を放り投げるとエルフやドワーフ達を見ながら処遇を考えていたがふと思い出したのですぐにレーダー提督へ連絡を取った。
「ねぇレーダー、あなたの所に人魚とかいないかしら?それとか空を飛ぶ魚とか…」
『陛下…そんなの居るわけが無いでしょう。それより元提督達の昇格をして頂きたいのですがそちらは』
「あなたねぇ…そんなに小さな艦隊でどれだけ提督抱える気なの?提督の価値のデフレが起きるわよ、今のところ提督への再昇格は無しよ。全く…」
『は、はぁ…かしこまりました陛下』
そうして海軍不遇時代が再度継続が確定したが帝国の心臓部は安定化はした。
だがこの事件以降大陸西部でのファンタジー化は進行していき政情の不安定化や東方世界からの干渉、更には東方世界に潜んでいた転生者達が息を吹き返し文明社会へと宣戦布告する事になるのだがこれは別の話。
その後工兵隊の尽力によりノイエベルリン市街地は復興され樹木は全て伐採した後に焼却処分、エルフ等の亜人種については東方世界への追放と略奪した財産の没収、そして捕らえられていた市民である奴隷達の解放を厳命した。
帝国は秩序を取り戻したが代償は大きく帝国の経済の要であるノイエベルリンがこのような不本意ながらも壊滅してしまい通貨のライヒスマルクの信用回復には時間を要していた。
その間にも東方の神聖皇務庁の干渉が発生しており聖女部隊の軍事演習と称した小競り合いや帝国議会の権力闘争により国内には混乱が起きていた。
更に高地の国を筆頭として西方諸各国を激しく悩ませる新たなる国難が高地の国を待ち構えている。
それは科学ではなく魔法がより発達し西方世界よりも未発展かつ非文明的な東方世界から転生者達が帰還し始めていたのである。
彼らは西方世界の近代化されてしまった文明社会を見て─嫌悪すべき現実的な世界が君塚とエリカにより敷かれ鉄道は各国を結び奴隷は廃止され魔法は無く冒険は絵本の中だけで警察が治安を維持している、まさに自分達が今忌み嫌う過去日本等で良く見受けられた効率的な官僚国家がそこには有った。
異世界ファンタジーの醍醐味である異世界で冒険者ギルドに所属して依頼をこなして金を稼いで屋敷と美少女エルフ奴隷を購入しイチャイチャハーレムを築くという典型的なファンタジーもの成り上がり街道を完全に否定する電化され警官が市街地を車に乗り巡回して軍隊は後装式ライフルや戦車に乗り戦場へと向かう。
騎士も農民の民兵も、傭兵や冒険者達が全く介在しない現代的な国軍がまるで自分達の尊い夢を否定するように、転生者達は怒りを以て西方世界の政府達を睨みつけた。
東方世界の民からして見れば西方世界の国々は聖女と呼ばれる者達以外は魔法を扱う事さえ出来ない猿であり、治癒魔法を扱う専門家の勤務している聖堂や施薬院ではなく病院と呼ばれるよく分からない腹部を切り裂く手術という儀式やカビから煮出した薬品を投与する謎の施設に通うらしいと認識していて東方世界の薬草を頭ごなしに否定するか特定の品種の薬草を暴力的な安価で買い叩く以外には魔法文明を見下す動きしかしてこなかった。
最近では魔法的動力無しに大空を舞う飛行機なる物が飛び回り竜使いや飛行魔法の既得権益を侵さんとしている、物流も馬車ではなく長距離なら鉄道、短距離なら車と馬や魔法使いの介在する隙間さえ無く庶民が実権を握るような悪夢の文明圏なのである。
そしてその影響の余波はまだ平和維持部隊の駐屯する龍の国にも及んでいた。
0750
「…今日も俺は一体何をさせられているんだ」
パイパー大佐の部隊は今日は龍の国に設立された新しい小学校の警備を行っていた。
殆どシグルーン女王の政権に臣従する貴族達で構成された龍の国ではあるものの龍の国内部にも未だ反乱分子は存在しておりそれらに対する警戒と新倉の赤軍の活動を抑止しなくてはならなかったからである。
少なくとも龍の国のテクニカル部隊ではT-72AやT-80の相手は厳しいだろう。
「おはよーございます、軍人のおじちゃん!!」
「あぁ、おはよう」
「おはようございます!おじさま!!」
「おはよう、早くしないと予鈴が鳴るぞ」
「おはよーございます!」
「おはよう」
パイパーはレオパルト2A8のハッチから顔を出しながら自分はどうしてこんな異国の地で子供たちの通学を見守っているのか自問自答しかけていた。
そんな時だった。
0759
突然背後の学舎からオレンジ色の光と爆風がパイパーの部隊を襲った。
「!? 何だ!敵襲が!?」
そう僚車が叫んでいたがその僚車に向けて魔法陣から次々と光球がトップアタックで飛んできて戦車部隊は散開せざるを得なかった。
「散れ!散るんだ!!くそっあそこは完全な民間施設だぞ!?何を考えてりゃ、反乱軍でさえこんな真似は」
「大佐!そんな事を言ってる場合ですか!奴らが来ます!!」
「RPGではないぞ!ありゃ何だ!ビーム兵器か!?」
校舎の崩れゆく瓦礫の上で杖を持った女性が再び大量の光球を放ち、戦車の天板を狙い撃ちにしてくる。
「対戦車ミサイルかよ!?どんな奇術師がこんなふざけた真似を!??」
「司令部!司令部!!こちらキロリーダー!最悪の報せだ!!学校が攻撃を受けた!!早く増援を寄越してくれ!!!」
《了解したキロ。そちらへ増援部隊を向かわせる、到着予定時刻は推定10分》
「10分!?全滅しても知らんぞ!!シャイセ!!!」
これから始まる大ゲーム
色とりどりの武具防具
観客達は大歓声
今日は殺戮めでたいな
戦え、戦え、人の子よ
走れ、追いつけ、刃を立て
新たな悲劇は加速する




