南の原っぱにて
静かなる進軍
南方に派遣された兵士達は鉄道で運ばれ南方の大都市ヴォドナに辿り着いた。
この街は低地の国との交易拠点であり経済的に南方の王国軍内に関してはこの地を拠点にしているので国内軍もまたこの地を拠点にして新倉菜月への対処を始めることにした。
国内軍で投入されたのは帰還したばかりの第1軍麾下の第1親衛戦車師団と第1親衛自動車化狙撃兵師団であり彼らが今回対応する事に成っている。
T-90MやBMP-3M、BTR-90は市街地の外に展開してゆっくりと南方へと進軍して新倉の軍の捜索にあたりつつ警戒を強めていた。
もし奴らがまた戦力を回復させていたら?もし奴らが大規模な部隊を展開して郊外に展開していたら?もし奴らが、もし薄汚いファシストと化した彼らが我々へ不意をついて攻勢を仕掛けてきたら?
そんな考えが巡るペトリャコフ大尉は不安に煽られ今すぐにでもズラトポルでの─もし「政治的教育」が有るなら戻った方が良かったのではないかと思い始める程度に恐怖に包まれながらヴォドナ郊外の農村へ向かって進撃していた。
前方のドローン部隊や偵察装甲車部隊からは何も連絡は無く後方の部隊もまた何も連絡を出さなかった為最早平和過ぎてかえって君の悪さをより際立たせた。
「どうしたんです大尉、まさか今更肝を冷やされた訳では無いでしょうね?相手はあんな…言っちゃ悪いがT-72の初期型とかT-64だ、至近距離に近付かせないなら何とか成ります」
「そのまさかと言えばどうする中尉。この気持ち悪さを表現する方法を俺は知らないよ、なんだろうなこの君の悪い街道は。まるでファシストの部隊が待ち伏せして、俺達は蜘蛛の巣の中に入り込んでしまった羽虫のように感じられるんだ」
「気にしすぎですよ大尉、相手が悪のファシストならとっくの昔に飛行機飛ばして俺らを吹き飛ばそうとしてます」
そう宥めるチェフノス中尉ではあったが中尉も少しだけ、根拠は無いが気がかりな点が有った。
南方の貴族達は今や封建制の恩恵を完全に失いながらも地方の影響力は強かった筈。
だが街道には何も敵対的な視線さえなく、軍は左手を森に右手に見える村を見ながら行軍を続けているし鳥は囀り川のせせらぎも車外に顔を出したらエンジン音を消せば聞こえるし動物の鳴き声も聞こえるし─いや待て、何で人の生活音がしないのだ?
「大尉、今すぐ部隊に停止を命令、そして上にも報告と相談をしてください。やはり俺も猛烈に嫌な予感がしてきました、人の気配がまるでしないんですよ。村がすぐそこなのに」
「わかった。今すぐ報告する」
CP、CPと大尉が報告し停止の許可を上に求めていた。
だがその時ドローン部隊から急報が入った。
《こちら北極星0-1、隊列左側面に敵勢力の部隊と思しき動き有り。全部隊停止されたし、RPGを持ってる可能性大》
「ほら来た、やっぱり居ると思ったんだ。さぁ全車今すぐ9時方向に砲を向けろ!仕事の時間だ!!」
「了解!ったく何でこんなにも嫌な…まるでこりゃアフガンに放り込まれた時を思い出すな」
そして限界に達したのか敵部隊が森の中から勢い良くRPGを敵部隊は斉射してきたが命中弾は少なく命中しても爆発反応装甲で阻止され逆に戦車部隊とBMP-3Mの斉射にアッサリと制圧され、降車した歩兵部隊が残党狩りの為に森の中へ突入していく。
「森の中に入った連中大丈夫ですかね、変なトラップとかあるかもしれませんが…」
「すぐ戻るだろう、どうせ森の中から打って出た敵部隊はそんなに多くない筈だ」
「何で分かるんです?」
「フィンランドを生き延びた経験さ、それより反対側がどうなっているか確認する。少し出るぞ」
ペトリャコフは車長用ハッチを開けて反対側を確認した。
ペトリャコフはモッティ戦術を警戒して反対側からも襲撃が無いかどうか確認し来ているなら迎撃しようと考えていた。
だが反対側の村や山林からは何も出てきていない為杞憂に終わった。
「今の偉い奴がそんなに下を締め付けるような命令を出さないからありがたいよ、ある程度俺達にも裁量が有るからこうやって部隊の停止について求める事も出来る」
「そうですね大尉、めちゃくちゃな指導者ならきっと俺達はあの森に突っ込まされて最前列は今頃穴ボコだらけの装甲車や戦車を晒してますよ」
前方には地雷原が敷設されていて何名かは死傷者が出たものの今回の襲撃は完全に失敗し敵勢力は序盤で攻勢を挫かれ無様を晒しただけで終わった。
そして敵兵の死体を確認した歩兵達は敵兵が全員服装が農民であり恐らく領主派の民兵である事を想定し反対側の農村を調査した所農村はもぬけの殻であり、たまたま残っていた老人に聞くと民は既に他所へ移され若い男達が緑の服を着た男に連れられて森に潜んでいたと伝えられた。
君塚はその報告を確認した後両師団を下げ後続の部隊を呼ぶ事にした。
そしてこれから起きるであろう南方の広範囲における戦役に対して司令官不足を起こす可能性が有った為急ぎ将軍ガチャを回す事にした。
【じゃじゃーん☆これで君塚っちはまたベテラン軍人が増えていくねぇー!!あんのこんちくしょうをもう一発ギャフンと言わせる為にも今度こそ徹底的に潰そー!おー!!】
「おー。5枚有るから取り敢えず3枚回すけど大丈夫なんだろうな?変なの来ないよな?」
【…当たり結構引いちゃったからまぁあんまり、ね?】
「お祈りタイムか、もし元帥とか言うガバガバ判定でとんでもないの来たら俺はどうしたら良いか…」
そして5枚のチケットを投入してガチャの装置を作動させ人が輩出された。
『SSR将軍 パーヴェル・ロトミストロフ元帥』
『SSR将軍 フョードル・トルブーヒン元帥』
『SSR将軍 レオニード・ゴヴォロフ元帥』
『SSR将軍 ワシーリー・グラゴレフ大将』
『SSR将軍 アンドレイ・クラフチェンコ上級大将』
「…また俺の手に余る人材がごっそり来たな」
【もう驚かなくなっちゃった】
「すまないなニケ、俺ソシャゲではガチャ運無かったのにこういう時だけ運が何で良いんだろ」
【そりゃー君塚っちの日頃の行い?】
「それ言ったら大半の汚職政治家が天国行きだぞ…」
すると勝手にガチャのレバーが押し下げられ勝手に将軍ガチャが回り始めた。
【え?何であれ動いてんの、チケット入れてないのに…】
「え、俺は入れてないぞ」
すると少し高く気品は有るがその中に悪意が固まった声が部屋の中に響き渡る。
《私が回したのですよ役立たずのニケ》
「エリス…何で…」
【一体どう言うつもりよエリス!!これは】
《これはあなた方への妨害行為です、せいぜい噛み締めなさいな》
そして君塚はガチャの結果輩出された人物に頭を悩ませた。
『SR将軍 アンドレイ・ウラゾフ中将』
《それではご機嫌よう!せいぜいその爆弾でギスギスしてなさいな!!》
【くっ…てかそのおっさんで何が爆弾なのか知んないけど吠えづら精々かいてなさいエリス!!】
「参ったな…確かに優秀な司令官は欲したが誰も地雷は欲しいとは言ってないんだが…今すぐウラゾフをここに連れてこさせるか」
そっと顔を覆い呻くように命令を出して今すぐ他の将軍達から引き剥がそうとしていた。
【え、そんなにそのおっさんヤバ目なの?】
「うん。独ソ戦時にやむを得ない事情が有ったにせよソ連を裏切ったから今出てきた奴らとは絶対に顔合わせしたらだめな奴」
【うわ…やってくれたわね本当に…】
とは言うものの元帥位持ち判定でヒットしてスターリンやベリヤが出てきたらどうしたら良いか悩んでいたから最悪は避けれた形ではあった。
そして猿轡を噛まされ麻袋を頭に被せられ手錠をかけられたウラゾフ中将が先に執務室に連行され、他の5人の将帥達と同じ空間とは言え少し異様な雰囲気で着任について話をしていたがやはり我慢出来なかったトルブーヒン元帥が口火を切ってしまった。
「その、同志摂政殿…お答えしにくいのでしょうが、あの麻袋の人物は一体…」
「気にしたら負けだぞ同志トルブーヒンよ、少しだけ面倒な人物が彼だ、シャイな人物で私達の美顔を見るのが恥ずかしいらしい」
「は、はぁ…いやしかし苦しそうにしているようでして…」
「気にするな」
「了解しました同志」
無理やり納得してもらいながら何とか彼らを含めて司令官クラスの兵力の再配置を完了させた。
そして5人が退室して人事が完了した後ウラゾフ中将の麻袋を外して少し面談をする事にした。
「すまない同志ウラゾフ中将、手荒な真似をして申し訳無かった。君の元同僚達から君を保護する事に注力させられてしまったからね」
「げほっ、げほっ、はぁ…同志君塚殿、一体どう言うつもりなのかと思えばそんな事でしたか。ごほっ」
噎せていたウラゾフ中将はいきなり銃殺刑にされる運命かと思い戦々恐々としていたが今回の上司はまだ話が分かる人物である事を理解すると少しだけ胸をなで下ろしたが油断は出来なかった。
「そんな警戒をしないで欲しい。我が軍は今人材不足なのでな、師団以上の司令官を務められる人材なら誰でも登用せねば今を乗り切れないのだ」
「…なら先程の将軍達にでも頼られればよろしいではないですか、私のような裏切り者に一体何を任される予定でしょうか?」
少し息を吸い、そしてエリスのせいでとある組織出身の兵士達が今君塚の部隊に加えられてしまったのである。
「とある兵士達を君に任せたい、モスクワの救世主殿。私は彼らを不遇な目に遭わせて無意味に戦力を減らす程余裕がある訳ではなくそして兵士達もまたそれを望んではいないだろうから君にそれらを任せる予定なのだ」
「問題の兵士を私に率いろと仰せですか閣下、成る程私向けの仕事ですな。ではその部隊の司令官としての任務、承りました」
「ですが同志閣下、問題とは一体どのような問題を持った部隊なのでしょうか?」
「君の元部下であったり色々有ってロシアやソビエトを裏切った事が有る兵士達で構成された部隊だ。本来ならゴルバトフ将軍に任せる予定だったが…しかし君が来て話が全く変わった、その部隊を率いてこの国の防衛の一翼を担い給え。それが君の使命だ」
そして少し考えた後、ウラソフ中将は君塚へ向き直した後襟元を整えてから制帽を被り直して立ち上がり敬礼した。
「それではこのアンドレイ・ウラソフ、不肖ながら大命仰せ仕りました。これより任務に就きます」
「安心したよ同志、なら私は君向けの任務を早速言い渡そう。少し我が軍は海外へと平和維持部隊として兵士達を派遣していて彼らと君が率いる部隊を交代させ常駐させたい」
「了解いたしました同志」
そしてウラソフ将軍は君塚から部隊のメンバーのリストや装備の確認用リスト、そして隊員達の経歴書等の書類を渡された上で退室した。
「平和維持部隊にロシアの裏切り者を派遣なんて何の悪いジョークだ。しかも高地の国からあんな奴らが派遣されてるし戦争犯罪部隊の言い間違いでしか無いぞ」
まぁうちの場合は高地の国とは違って一重に人材不足が原因だがな、と一人ごちていた。
翌朝新たに編成された第20師団を率いてウラソフ将軍は龍の国に入り現地の部隊と交代して平和維持部隊として駐屯し政府に反旗を翻している地方政権の討伐を行った。
「ふむ、成る程。あの腐った修正主義者は新たに兵を派遣して今南方へと進出を開始していると。ありがとう同志グレチコ元帥、下がっても良いぞ」
「はっ!」
国内軍が南方へ兵力を展開しつつ有る現状に少しだけニーナは焦っていた。
ニーナとしては南方へ兵力を展開されるのは想定内ではあったがここまで早いとは思わなかった為動揺はしていた。
だが別にそこまで気負わなくても良い事態でもあった、もし君塚軍が南方へ展開するなら思うつぼであり南方の無駄に広い湿地帯と村落、そして寂れた地方都市を使い防御陣地を築いてその隙に弱い王国軍を叩く。
すると恐らく君塚悠里のせいで家族が死んだことを遺族は恨み、奴に弓引く事は容易に想像出来る。この世界の民はあまりにも愚か故騙すことは容易く、そしてすぐ目の前に居る無関係な他者へ八つ当たりする。
「…まぁ何とか成る程度でしかないな。君塚悠里よ、もし私へ向けての軍ならもう少し足りんような気がするぞ?どうする、このまま」
このままこの大いなる沼地にて飲み込んでやろうか?
一方南部の国内軍は完全に再編され第1親衛戦車師団と第1親衛自動車化狙撃兵師団は撤収しトルブーヒン元帥率いる第3軍が派遣された。
装輪装甲車や歩兵戦闘車が多く所属している部隊であり、派遣された南部の市街地戦を想定しての部隊を中心としていてゴヴォロフ元帥とチュイコフ元帥が麾下の部隊の司令官に任命されていた。
そして戦端は意外にもアッサリと開かれる。
王国軍の南方軍管区所属第七師団が軍事演習中に国内軍に襲撃を受けたと言う報告が届きトルブーヒン元帥の部隊は部隊の所在を確認して、更に君塚も急ぎ王国全土の部隊の所在を確認していた。
上空にはMi-24が舞い踊り塹壕内の王国軍を大隊規模で壊滅させていく、正面からT-72が迫りトーチカや野砲部隊を次々と破壊して戦線を食い破って行く。
上空ではSu-24が爆弾を投下して後方の榴弾砲部隊を破壊されPM1910を据えていた機関銃陣地も破壊され尽くして持っていたナガンライフルは対して役に立たなかった。
後退するよりも敵軍の浸透の方が早く次々と降伏か玉砕か、或いはただ死ぬだけしか許されなかった。
王国軍の兵士は叫ぶ
何故我々が味方に撃たれているのだ、国内軍は我々の味方ではなかったのか
我らを歴史はきっと許すだろう




