不穏なる敵襲
戦争が終わり
リンドルム中央の龍の国王宮内部に乗り込んだ国内軍は王宮全体の制圧に動いた。
スペツナズ部隊が地上から進撃し上空に待機しているヘリ部隊や自爆ドローンの援護を受けつつ迅速に王宮内部に突入し下級妃達は一斉に降伏した。
上級妃達も神堂からの支配が解け正気に戻るも目の前の国内軍の屈強な兵士達の大軍に情けなく彼女達は平原の国国内軍へと降伏し龍の国のシグルーン派の旗を王宮に掲げてこの戦争に完全なる終止符を打ち内戦を終わらせることに成功した。
「さて、全て終わったか。妃達はどれだけ居てどんなギフトを持っているのか気になる所だが馬鹿な事は起こさないでくれよ…」
君塚は今回の収穫についてどのように転ぶか全くわからないものの殺害した妃達や竜族達、そして王国の抵抗勢力達の報告書作成について改めて忙殺されることが確定している君塚であったがそれより今はとある人物を慰めた方が良いかと思っていた。
「母上…我が王宮…どうしてこんなにも…妾は…妾はどうしたら良いか…」
昔遊んでいた庭園は崩壊して屋根は崩れ去り壁には無数の穴が空いていて床は糞尿や残飯、そしてゴミ等で腐臭が漂い汚物をぶちまけられて目を覆いたくなる惨状の王宮にシグルーンはただ無力に泣いていた。
ネズミが走り回りカラスはゴミを撒き散らして庭園の一部を壊して作られた畑と思われるスペースには無数の害虫が湧いていた、それ以外にもバラックで軒を連ねる下級妃達の居住区画は更に悲惨で兵士が突入しようとしたら倒壊したものさえ有った。
大臣を務めていた者が後に自身の執務室へと足を運ぶ と上級妃を弄ぶ為の神堂の趣味の悪い部屋に改造されていた事を知り一週間程発狂していたそうだ。
母であるヘルウィヨトゥルも髪は乱れ口からは呻きながらヨダレを垂らし全身神堂の汚物まみれで廃人化しており、シグルーンの妹の一人や王族の生き残りの下級妃達は全員君塚の部隊に一時的だが収容され、王国崩壊の責任を彼女らは背負わされる運命が待ち受けている。
王宮内に突入した部隊はヘルウィヨトゥルの禅譲に関する書類を発見し神堂が龍の国の王である事を認める文書を押収していた。
だがその文書は「しんどうりゅうがさまがおうさま」や「わたしはあわれなめすどれいになります」等幼稚で稚拙な文章で構成された物であり字も汚く紙にも様々な汚れがあって読みにくい状態であった。
彼女がこの国の女王であった事を誰も信じられずただの精神異常者にしておいた方がよっぽど彼女の尊厳を守れると思えた程龍の国の王宮、いやリンドルム全体が腐臭を放つ死体と化していたのだ。
国内軍が市民に食糧を配給していたが民は骨と皮だけにやせ衰えていて以前のスヴァル革命政府の奴隷達の方がよっぽど栄養状態が良かったように思える程の悲劇がこの都市で起こり続けていたようだった。
食卓にはネズミやスズメの肉、それにカビたパンが有れば上等で雑草粥や木材のスープで何とか飢えを凌いでいた者がほとんどであり先進国をここまで後退させられる神堂の愚かさに兵士達は
「なぁ君塚殿…妾はリンドルムを解放し母上達を助けてしもうた。妾は、妾は正しい決断をしていたのかのう?妾は逃げる選択肢が有った筈じゃ…なのに」
シグルーンは涙が頬をつたって美しい顔立ちが皺くちゃになり始めて悔いを述べていた。
「妾はずっと寝てて、無駄にグスタフを戦わせて、それで。その祖国はこんなにも荒れ果てて、妾はもうどうしたら良いか…」
「シグルーン殿下、お言葉ですがそれが責任と言うものでしょう。シグルーン殿下は逃げられる選択肢はございましたが逃げず立ち向かわれた。なら、これが結果と言うものに成るのでしょう。」
「そうか…」
「ですが希望が無いわけではございません。少なくとも我が国は貴殿の味方でございます、龍の国はこれからは平原の国の友好国として国家を再建する時代に移りました。今日は今日で昨日は昨日です」
「君塚殿…」
「シグルーン殿下は逃げずに立ち向かっただけで立派な君主の器でございますし普通なら逃げ去ってしまうのが賢明な状況です。だが決して逃げない事が愚かな決断ではない、勇敢な決断である事はしっかりご認識くださいませ。貴方は今龍の国の誇るべき勇者であった事を決して忘れずその涙を死ぬまで覚えていてくださいませ」
君塚から差し出されたハンカチで顔を拭い、龍の国の建て直しを覚悟し臨むシグルーンであった。
「後平原の国からの支援は全て有償ですのでその協議も今日から行わなくては成りませんが」
「…我が国でそれらを返済出来るかまた検討せねばのう」
ため息を大きく付いたシグルーンはそっと自国の未来を憂いながら「友好国」である平原の国にどれだけ良いように扱われるかと嘆いていた。
龍の国王宮陥落から3日後のある日
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そして今回の戦争の祝勝会を開く為に王党派の兵士達は勿論高地の国・平原の国両国の兵士達も王宮の再整備を行なっていて区画整理を龍の国の官僚達が実施しリンドルムを復活させる為に工兵部隊が下級妃のバラックのスラム群や庭園を一旦破壊して、龍の国の官僚や民兵達が上級妃達のプレイ部屋と化した大臣クラスの執務室を整理してようやく一段落付いた頃に奇妙な急報が来た。
龍の国に居た全将軍ので集めて君塚は確認した。
「諸君、エリカから今とんでもない報告が届いている」
「いくらファシスト達と因縁が有るとはいえまさか友軍を討つような愚か者は居ないと思うが、今日パウルス元帥率いる第6装甲擲弾兵師団を急襲した者は居ないだろうな?」
すると諸将がどよめきながら互いを睨みつけ、同士討ちをやっていないかどうかについて疑い合い始めた。
「まぁ諸君落ち着け、取り敢えず今エリカの軍が鎮圧に向かってはいるし最悪俺が何とか話を付ける。で居ないことも最初から知っていたが念のため確認しただけだ」
ほっと胸をなで下ろした諸将はその場で緊張は解けたもののその厄介な乱入者に対応させられる羽目に成ったので急ぎ兵を北西部へ向かわせた。
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龍の国北西部に謎の軍閥が武装蜂起したと言う連絡であり、該当地域に展開していた高地の国のパウルス元帥率いる第6装甲擲弾兵師団が後退を余儀なくされる事態に陥ったとのことである。
戦車はT-64やT-72が装備されBMP-1が付随していたとのことであり、レオパルド2A8で撃退は出来るが数が余りにも多く猛烈な敵の砲火に押されてしまった結果対処不可であると見なし主力部隊との合流を行った。
兵士達は急いでこの謎の武装勢力に対して防衛線を敷き平原の国から軍用機が飛来して対応しようとしたが敵性航空機の迎撃を確認され、しかも数だけなら平原の国と高地の国の投入可能戦力を凌いでいるのである。
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高地の国はユーロファイターを120機とトーネードIDSを60機、平原の国はSu-35Sを340機とMiG-35が400機とSu-30SMが320機、それと給油を受けながら飛来したMiG-31BMが100機。
だが敵性航空機はMiG-23MLAが360機、MiG-21bisを480機、MiG-25PDが180機、Su-17M4が140機、Su-25が80機投入されており何処からともなくこれらの戦力が展開されていたのだ。
ヘリコプターもMi-24やMi-8が低空を飛んでいてこれらの対処もしなくてはならなくなっており直ちに平原の国の部隊はこれらの戦力に対して可能な限り全軍を差し向ける事にして最右翼を守る態勢になった。
幸いな事にヴォロノフ元帥率いる第1親衛砲兵軍とサヴィツキー元帥率いる防空軍地上部隊が合流し大規模な砲撃戦と航空優勢の確保は可能な状況は整っていた。
マルゲロフ将軍率いる空挺軍は国内軍の後方へいつの間にか展開していた敵空挺部隊へ兵を差し向け
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(一体誰が何処にこんな戦力を隠し持っていたんだ?突然こんなにも現れるなんて事前の偵察には全く無かったぞ!)
「同志摂政、敵軍の勢いは激しく我が軍の防衛線を突破しようと何度も執拗に突撃をかけてきているそうです。そして彼らもロシア語を話す者達であるとか」
「そうか同志ロコソフスキー、腹立たしいが同志メレツコフや同志ヴァトゥーチンも困り果てているようだが」
「そちらに関しては幸いな事に我が軍の主戦力の戦車より敵軍の戦車部隊の装備が劣っている故何とか持ち堪えている状況です。しかし困りましたな、まさかこんなにも数を揃えて攻勢に出るとは…」
「俺も今絶賛悩んでるよ、全域に電子戦装備を展開したがいつまでこの波が押し寄せて来るか分からんからな」
「ですが私の想像ではございますが恐らくそろそろ息切れしてくるかと。何分奴らは我々のようなデータリンク等の支援を前線に送っていないようですから」
「そのようだな。敵は模範的な縦深攻撃を仕掛けてはいるがどちらかと言えば攻撃が単調でどうしようもない程ワンパターン。まるで聞きかじった素人のドクトリン再現大会だな」
「もう第1梯団の攻勢は終わり第2梯団の突入が行われているでしょう。そうなると予備も投入せざるを得なくなるかもしれないから攻勢は限界が近いかと思われる状況です」
敵師団は果敢に戦闘を挑んで平原の国の師団を次々と消耗させ敵軍は確かに押してはいたが既に第1梯団の戦力は消耗させられ後退、続いて投入された第2梯団は今まさに国内軍と交戦していた。
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「司令部からこの戦況を見ると恐らくだがもうすぐ奴らは息が切れるだろうな。そうしたらこちらから…」
「ええ、もう既に第1梯団の部隊の準備は完了し待機させてあります。かく言う私の部隊も第1梯団として突入予定です」
「そうか、なら安心だ。見ろ、一部の兵が逃げ始めている。しかもAKを投げ捨てながら逃げているから間違いなく敗走しているな」
「はい。第2梯団もそろそろ編成が完了するかと思われる時間ですが…おや」
「ほう…」
ロコソフスキーは驚いたようで、しかし想定の範囲内の出来事を見て敵軍に起きている事態を観察していた。
敵勢力の兵士が秩序を失い雪崩打ったように総崩れを起こした為一気に戦局は連合軍側に傾き武装勢力は散り散りに成り壊走して戦車部隊も戦車を放棄して敗走し逃げ去って行った。
上空もSu-35SやMiG-35、MiG-31BMや高地の国のユーロファイターが次々とMiG-21bisやMiG-23MLAを撃墜し余力で低空のハインドを撃墜していった。
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そして数多くの兵士達が抵抗せず降伏し捕縛され10万人程度居たであろう兵士達は一斉に消え失せて遺されたのは兵器達の残骸と兵士達の屍が捨てられていた有様であった。
「たった1日で全戦力を溶かし切るなんて俺でも出来んような真似だ。一体どんな用兵を学んできたらこんなお粗末な戦術を実施出来るんだ」
運の良い事に敵航空機の一部が脱出等をせず武装を投棄して飛行したままで降伏した事により彼ら
捕虜達は列をなして輸送用車両に載せられており彼らの装備していた車両や重火器について早速関係各所と会議を行う事に成った。
「と言うわけで妾達の主権領域に於いて発生した今回の謎の軍閥からの襲撃については妾達は確かに貴国ら連合軍に完全に対処を任せておったのは確かじゃ」
「殿下ご自身がそれを認識されているなら我々としてもありがたい。では今回の件について我々高地の国がテロリストの武装を差し押さえさせてもらいます」
今回の戦役について委任されている高地の国のエリカの代理人、リッベントロップが今回の敵戦力の装備を差し押さえようとしていた。
龍の国にこれ以上つけ上がられても困るし装備を得て下手に強力な軍隊を持たれても国益を損なうしそもそも龍の国ではこのような装備は維持出来ず結局無意味に龍の国の国力を損なうだけと判断されていたからだ。
しかしシグルーンは少し不機嫌そうにしていた。
「じゃがあれらの兵器は我が国の…何れかの軍閥、つまり元を正せば我が国の資産であったか若しくは降した反乱軍の資産であるならば我が国に帰属するのが」
「シグルーン殿下、ですが貴国の国力で維持は出来ないかと思われますがそれでも持たれる気でございますか?」
「ああ、無論じゃ。運用は出来なくとも少なくともそれらを解析して我が国の技術発展に用いることは可能じゃからのう。なぁグスタフよ」
「そのまま再現は出来なくとも我が国の技術発展には寄与できるかと存じます
「ですが…」
リバースエンジニアリングしようとしている龍の国と出来ればそれを阻止したい高地の国の交渉は暗礁に乗り上げつつあった。
そろそろ話の終着点を見つけたかった君塚は仕方ないので平原の国にとっての妥協点を提示する事にした。
「ではリッベントロップ外相、それらは我が国がお預かりしましょう。我が国と同じような系統の装備を我が国が預かるのは何もおかしな話にはならないかと思いますから。シグルーン殿下もそれでよろしいでしょうか?」
一旦全て自分預かりにすることを提案した。
平原の国の王国軍がシグルーン派への手厚い支援に対して不満を表明しており王国軍の将校は近代的な装備の配備を要求していた。
例えば国内軍の予備装備に成っているMiG-29SMTやSu-27SM3、T-72B3やBTR-80を分けるように主張していたが王国軍の忠誠について不信感を抱いている君塚は反乱を恐れた為、倉庫に保管されている装備は彼らには一切渡していなかった。
「それにこちらの装備達に関しては龍の国の資産として所有権を確定し、その上で龍の国政府から資産を購入したと言う形で平原の国は引き取ります。であればシグルーン殿下もご納得いただけるはずですが」
「…分かった。ならば良かろう君塚殿、その分今回の有償支援の返済額は減るのだな?」
「はい、さようでございます殿下」
「あい分かった。ならば妾からは何も言うことは無い、妾も龍の国復興をせねばならぬ故君塚殿に引き取ってもらった方が良かろう」
「ありがとうございますシグルーン殿下、これで我が国の王国軍も喜ぶでしょう」
そして兵器達の行方について一応決定が行われて大量のBMP-1やT-64、T-72Aがトラックで平原の国本国へ運ばれて行った。
だがまだ君塚は知らない。
この戦闘を引き起こした転生者が今平原の国に向かって司令官クラスの部下達を伴い落ち延びていることを知る由さえなかった。
また戦争が始まる




