闇夜は駆ける
異能バトル回
夕暮れ時のジルフェルダムの街並みの中を君塚は急ぎ王宮に駆け込んでウィレム王に会いに来ていた。
「国王陛下!ご無事でしょうか!?」
ウィレム王は慌てふためく宮廷の中で冷や汗をかきながらも臨時の御前会議を開いていた。
「あ、ああ。儂は無事だ。今龍の国から敵襲が有ってな、現在我が軍と国家人民軍が迎え撃っているので心配無用じゃ」
ウィレム王は動揺を隠そうとするも危機的な状況は変わらず君塚はつい呆れてしまいそうに成るが、国家元首たるもの言葉を選び失言をせぬ様に細心の注意を払う。
もし同盟国でもない、ましてや一度侵攻した事の有る国の重鎮に聞かれたら不味い情報も存在しており彼らに知られたら低地の国は弱みをさらけ出す事に成る。
「ウィレム陛下、最早事態は一刻を争う状況です。先程町中で見て参りましたが、高地の国の軍は指揮官が軍服のまま娼婦の許へ通うほど軍として規律が乱れていて、あれではろくに装備も整備出来ておらず…まともに動く戦車や装甲車も限られるでしょう。そして反撃も出来ずに撃破される可能性がおおいに有ります。陛下、何卒我々に龍の国の戦闘部隊を討たせてください!」
「じゃが君塚宰相殿、おぬしを信ずるには儂はあまりにも…」
呻く様に口籠りながら君塚悠里を信じきれないウィレム王だが、事態は更に悪化し続けていることを認識せざるを得ぬ報せが届く。
「陛下ぁ!!大変で御座います!!高地の国の部隊は敗走し、我が軍は龍の国の軍勢に大敗致しましたぁ!!!」
「な、なんじゃと!?」
ウィレム王は再建した軍隊や月白もねの描いた軍を高地の国の駐留部隊と共に差し向けたのにまさかの惨敗の報告が宮殿の中に木霊する。
「…やはりか、なんと言うかまぁ。」
君塚は想定通りの事の進展に焦りよりも冷静さが勝っていた。
想定の範囲内で御座います陛下。お分かりでしょうか?高地の国の部隊を座して待つのは得策ではございません。月白もねだけでは防ぎきれず王国は焼け灰に帰すしか未来はございません。何卒我らの部隊の展開を許可してくださいませウィレム王陛下」
君塚は迫り、ウィレムは仰け反りながら判断を迫られた。
大臣達は右往左往しつつ彼らの動向にも注目しておりどの様にウィレムが判断を下すのか観察していた。
そしてウィレムは決断する。
「…あいわかった、ならば平原の国の摂政殿。そなたの私兵の展開を許可する。口約束だがこの場で許可を─」
「お待ちください陛下」
ウィレム王を制止するとどこからか取り出した書類の束をを手渡した。
服の内側のポケットの何処にそんな束を納められるのかウィレム王は不思議に思っていたが彼の来ていた服は綾織繭の作成した異次元ポケット付きジャケットであったが故に可能であったのだ。
「口約束には成りませぬ陛下、我々が対処致しますのでその間にご署名お願い申し上げます。それでは一旦部下に命令を発するので失礼します」
君塚は大急ぎで王宮から出ると信号弾を空に向かって打ち上げ、空に向かって叫んだた。
「さぁお前達!!待ちに待った狩りの時間のはじまりだぞ!!!」
大空に待機していた空挺軍のBMD-4Mと空挺軍歩兵達が勢い良く降下を開始し、戦車部隊をこれでもかと積載ポモルニク等のエアクッション揚陸艦がジルフェルダムの沿岸部に上陸した。
白濁汚濁の影響を受けない様に洋上に浮かぶ時間を最小限にして建物を薙ぎ払う様にエアクッション揚陸艦部隊は展開し積荷を降ろし、そして影響を受けないギリギリのラインの場所に展開したキーロフ級やスラヴァ級、ソブレメンヌイ級やウダロイ級が一斉に砲門を開いて火力支援を実施した。
そしてクズネツォフ提督はイサコフ提督と共にその様を見てご満悦であった。
「同志イサコフ、我々の艦隊は最早止められるものは居らんよ。見給えこの火力支援の暴風雨を!しかもジルフェルダムの市街地にはまだ砲弾は落ちてはおらんしな!!ふははは!!これだ、これこそがソビエトの目指すべき海軍の姿だったのだよ!!!!おお、Su-33も続々と離陸しているぞ、わはは!!」
少し冷めた目で見ていたイサコフは
「良かったですね同志クズネツォフ提督、私はこれがどれほど効力射であったかの方が気になりますがな。それと後続の部隊がいつ接岸可能に成るかもですが」
と次のエアクッション揚陸艦艇部隊の上陸について思案を巡らせていた。
摂政軍の大攻勢に合わせて下級妃達は散らばり降下してくる空挺軍を迎え撃とうとしたが爆装したSu-35SとSu-30SMの航空部隊が正確に爆弾を投下して下級妃達を一方的に撃破していく。
「ど、何処へ逃げれば良いの!?何でこんなにも私達は攻撃されているの!??何で異世界なのに戦闘機が居るのよぉ!!!!」
「泣く暇が有るなら散らばりなさい!でないとそこに爆弾落とされるわよ!!」
「てか何で私達の方が追い詰められてるのよぉ!!!」
そしてウィレム王は老体にムチを打ち書き終えた書類を携えて君塚に軍事通行権の許可をした書類を手渡した。
「はぁ、はぁ、君塚殿、こちらが書類じゃ。確認、確認を頼む…はぁ、げほ、はぁ…老体に鞭打たせおって…全く」
「申し訳ございません陛下、しかしこれで一旦は時間は稼げるでしょう。取り敢えずジルフェルダムは1週間程はもつでしょうからご安心ください陛下…それと月白殿は何処に?彼女が神堂の目的であった筈です」
月白もねの不在に気付いたウィレムはふと見渡して見たが彼女は何処にも居なかった。
「む?そう言えば襲撃後彼女をみておらぬな…じゃがあの娘は愚かでは無いから風車の有る地帯には居らぬであろう。市街地を探されてみてはいかがであろう、彼女がそこまで遠くに行くとは思えぬでな」
「具体的に何処に居るか見当は付きますか、陛下?」
「…すまぬ、儂には分からぬ。このような事を想定しておらなかった儂の落ち度じゃが、どうか彼女を守ってやってくれぬか?図々しいがこれも我が国を守り平原の国との政治的互助関係の構築の為と思ってくれぬか…?」
ウィレム王の願いに政治的観点から少し考えた後、君塚は答えた。
「勿論です陛下、平原の国名にかけて私が必ず守り抜きます。どうか吉報をお待ちください」
そして君塚はナディアに命じた。
「すまないナディア、暫くウィレム陛下のお側に居てくれるか?彼をこの王宮に迫る下級妃から守り抜いてくれ!!」
「かしこまりました!!」
「行くぞソコロワ中尉!!敵はもう目の前だ!付いてこい!!」
「は!同志摂政閣下!!お供します!!!」
ナディアは即座に火球を展開して警戒態勢に移行した。
ナディアにウィレム王の身柄を託した後ソコロワ中尉を連れ自身もPKPを携えて市街地に突入していった。
ナディアは君塚のお供が出来なかった事に残念な気持ちに覆われあと少し自分が強くなれればお供も出来たのではと悔いていた。
神堂は自軍の明らかな劣勢にイライラしていた。
低地の国は以前から下調べを済ませていて駐屯している高地の国の部隊は脆弱である事を女性支配で虜にした現地の娼婦から聞かされていて兵力や装備、隊員の性癖等も確認した上で侵略していた。
現に高地の国の国家人民軍は壊滅しており、月白真奈の火炎万丈で既に戦車や装甲車が彼らの棺桶に成っていて低地の国の兵士達は白濁汚濁の白濁液により消されていた。
「くっそ…あのおっさんの鉄砲玉がもう来やがったのか、てか何でアイツは来てんだよ!俺はもねを取りに来たって言うのによぉ!!」
だが想定外なのはこのように平原の国摂政軍の砲爆撃が続いている状況である。
下級妃部隊は混乱しており統制や指揮は取れず各個撃破されている状況が続いており侵攻部隊はこのままでは壊滅するのは時間の問題であった。
「ちっ…仕方ねぇ。おい美嶺!真奈!!取り敢えずこのまま王都まで突っ込むぞ!!!ここで皆仲良く吹き飛ばされるのを待つのはごめんだ!!!生きてぇなら俺に続け!!!」
月白真奈は飛んできたミサイルや砲弾で遊んでいたが「はーい」と返事をしてから遊ぶのをやめて姉の側に近付いた。
神堂は月白姉妹に命令を下し下級妃には自身に続くように命令してジルフェルダムへの突入を厳命した。
「ちぇっ、りゅー君のバカ。何で無能どもを連れて生きたがるのか分かんないよ…私だけでこいつら全部やれるのに」
「まぁまぁ美嶺おねーちゃん、王子様には何かきっと良い考えが有るんだよ!だからさ、ジルフェルダムまで駆けっこしよ☆」
「わかったわ真奈、それじゃおねーちゃんと一緒に追いかけっこしよっか!」
一方ジルフェルダムでは
「…罠は全て起動するのは確認出来ました。そして私のキャンバスを燃やしたあの男の手下達も誰か確認も出来ました。…前世から変わらずあの男の下で媚びへつらい、そして情けなく腰を振るしか能のない売女どものせいでこんな事に成ったなら、一部は私の責任ですよね。なら…」
描いたカラスやフクロウで敵襲の詳細な情報を確認した月白もねは臨戦態勢に移行した。
巨大な絵筆を展開し最大出力で描画する準備を整えて君塚の部隊を掻い潜り突入してくる愚かな侵略者に刃を向けた。
「よし、ジルフェルダムにもうすぐ辿り着くわ!!」
「これでようやく月白もねの捜索が出来─」ガコンッ
「へっ?なにこれ─」ガコンッ
まず都市の外縁部に仕込んだ扉を開き都市に突入した運の悪い下級妃達を上空5000mの高さに転移させ無力化した。
「やぁんおねーちゃん助けて〜キモいもねおねーちゃんが作ったキモいおっさんが襲ってくる〜」
「片手間で燃やしながら言うセリフかなそれ?あっりゅー君危ない!!」
「のわっ!?…えらい歓迎ぶりだな。えぇ?もねよぅ…屈服させるのが楽しみに成ってきたじゃねーか…」
次に街に突入した月白姉妹や運の良かった下級妃達は次々と現れる兵士達や刃の対処を求められこれに適応出来なかった者達は須らく討ち取られた。
次は動物を放った。
羆や狼、或いはネズミの大群などを放ち神堂の下級妃達を襲わせて足止めを行っていた。
更には水竜を具現化して月白姉妹に襲わせたがアッサリと撃破されていしまった。
そんな中ようやく市街地に潜入したスペツナズ部隊がもねに合流した。
「!?貴方達は?」
「ああ!怪しまないでください!!月白もねさんですね?我々は君塚摂政から派遣された部隊です。護衛致しますので我々と共に王宮へ、同志君塚がお待ちです」
「…王宮へ行けばウィレム陛下にご迷惑が…」
「ですが我々の拠点は王宮です。もし貴女が此処に居ればまず間違いなく各個に撃破され貴女は連れ去られて我々も犬死しなくてはなりません。どうか我々と共に─」
「見つけたぞ!!」
神堂がもねを見つけた瞬間あった。
「!! 神堂、龍牙ぁぁぁぁあ!!!」
もねは悪鬼の如き形相で神堂を激しく睨みつけ咆哮を挙げる。
「探したぞもねぇ…さぁ、これで姉妹全員揃ったな?これで俺はコレクションをコンプリート出来るって訳だ…」
欲望を冷静な面持ちで曝け出した神堂はその獣欲にまみれた眼差しでもねの身体を舐め回すように眺めていた。
「ねぇりゅー君、りゅー君が欲しいって言うから仕方なく来てるけどぉ…でもあの娘はさぁ、要らないんじゃないかなぁ?おねーさんあんまりあの娘にいい思い出無いもの」
美嶺は嫌悪する表情でもねを見つめていた。
転生しても自分よりも遥かに優秀な妹に対して怒りと嫉妬を抑え込むのに必死だった。
「王子様〜『あれ』はどうしても要るの〜?ねぇ何でなの〜?あんな、あんなキモい姉なんて居なきゃ良かったのにさぁ…アンタのせいで皆おしゃかにされたんだからさぁ!!!」
真奈は前世の関係からもねを恨んでいた。
もねのせいで全て壊されてしまったのに今更また現れてきて今度は今の寵愛も奪われるのでは無いかと恐怖していた。
「もね様!どうかお逃げください!!我々が時間を稼ぎます!!」
「クソっ!何でこんなタイミングで面倒な事が起きるんだよ!!」
A-545の銃口をを一斉に向けて構えたスペツナズ隊員達。
ギフトを展開して兵士達や月白もねと相対する月白姉妹。
そしてその月白姉妹の後ろに居る神堂龍牙。
君塚はその戦場へと一目散に駆け抜けていく。
混沌と悪趣味な欲望の混じり合う地獄へと。
難産回でもあった




