夢から覚める
しかし夢から覚めて
つむぎと美羽は転生前それぞれの地獄を生きていた。
つむぎは前世では開業医である両親からの束縛された人生を歩まされ医学生を目指すも成れず、そして途方もなく彷徨い寒風吹き荒ぶ外で凍死した。
つむぎが最期に願ったのは「愛する人と作る温かい家庭」と「自分を含めて家族全員が誰にも縛られない自由」。
美羽は孤児院育ちで生まれてから両親の顔や名前を知らずに育ち学校に通うも極度に内気な性格である事が災いして友だちも中々出来ず透明人間のように生きてきた。
そのまま高校生に成るも虚無で無価値な人生を歩んでると思い塞ぎ込んでいった。
寂しさを紛らわせるために手を出した市販薬。知識のないオーバードーズは彼女を安らかな眠りではなく永遠の闇へと誘った。
最期に見た夢は好きな人と結ばれてその人と築いた家族で温かな食事を取り、沢山の子ども達と人生過ごしたいと。
そんな二人を神堂龍牙は妃として龍の国に迎え入れたものの妃として迎えられた時の初夜以外では一度でしか閨は共にせず、彼女達がどれだけ転生者や他国の軍隊、反政府軍を撃破しても全く見向きもせずに最上級妃の聖剣や上級妃、そして一部の運の良い下級妃に寵愛を注ぎ時には現地人の庶民の女に手を出していたりととにかく彼女達下級妃は一度お手付きに成った後は女としては無視されていた。
そしてそんな不満を蓄えてしまっている下級妃達は互いに対立しあい聖剣が仲裁に来ることも有ったが後宮内はそれでも対立はやまず日を追うごとに激しさを増すばかりであった。
そんな腐臭が漂う龍の国の後宮の中では特に見た目からして弱者のレッテルを貼られやすい美羽は気弱な性格もあり虐められる対象であった。
何度も執拗に頭部を狙って蹲っている美羽は蹴られていた。
「ごめんなさい……、お願いしますから、やめてください……」
「うるさいわね、このグズが!!大体あんたのせいでまたノルマ未達成よ!!また女転生者ぶち殺して何が【幻想動物園】よ!あんたの狼は噛み殺すか殺されるかの二択しか無いじゃない!!!」
彼女達の上司の下級妃が怒り狂ってしまっていてヒステリックな罵声を美羽に浴びせかける。
「ご、ごめんなさい……ごめんなさいっ……ごめんなさいぃっ……」
また捕縛命令が下っていた女転生者を誤って狼達に食い殺させてしまった件について、上司の下級妃に厳しく咎められていた。
彼女もまた戦闘部門で隊長職に有り転生者のノルマ達成率の良かった隊は神堂の閨に呼ばれて愛され、彼の子を沢山身籠り愛され続ける夢を見ながら至福の一時を過ごせるので血眼に成ってノルマ達成をしようと必至である。そして少なくとも彼女の隊は中くらいの位置であと少し達成率が上がれば神堂の寵愛を受けられるかもしれなかったが、女転生者の捕縛命令が中々こなせず現地人弾圧も王の意思を越えてやり過ぎてしまい叱責される事も有った。
「……はぁあんたもさっさとそのギフトの操縦性を鍛えておきな、全く何であんたみたいな穀潰しがこの隊に居るのか訳分かんないわよ」
「ごめんなさい……」
そして隊長職の彼女は疲れた様子で去るとつむぎは走り寄って美羽に手を差し伸べた。
「大丈夫!?美羽、ケガはない?」
「はぃ……大丈夫です……」
二人は同期であり、部屋も隣人であったからか年の差も関係なくすぐに打ち解けこの地獄の中での絆を紡ぐ親友となった。
美羽の世話を焼くつむぎと甘える妹分の美羽、二人は神堂に愛されず、そして破綻した国家から支給される粗食に耐え忍んで下級妃として苦しみながらも甘んじて過ごしていた。
「つむぎちゃん……私達、どうしてこんなことに成ってるんだろ……」
「美羽、大丈夫よ。きっと神堂様の上級妃にさえなれたら私達はもっと……こんな今よりもっとマシな暮らしに成るしもっと幸せになれる筈だから、耐えるしか無いわ」
そんなある日珍しく上司の隊長を飛び越えて神堂から直々に呼び出された二人は特別な任務を言い渡された。
「おう来たか、それじゃお前たちに仕事を与えるからよく聞け。」
人を人とさえ思わない横柄な態度で下級妃に話しかけていた神堂。
「今平原の国って所に破門って言う何だかよく知らねぇがよ、なんでも良いから好きなだけ攻めていいってお墨付きが出たそうだ。で、この際だから転生者のあの国の摂政の首取ってこい。な?簡単なお使いだろ?」
神堂は出来るかどうか全く考えずに、彼女達に暗殺任務を事もなげに言い放った。
「絶対にあいつは転生者だ、戦車持ってるらしいしなぁ……もしそいつ殺して俺の所に首持ってきたらよ、そしたらお前たちは晴れて上級妃だ。約束するからさっさと彼奴等始末してこい。あと、女王と摂政さまの護衛の聖女は生け捕りな。俺があの女どもを味見するから。それと戦争起こす為にカジ何とかっておっさん達も救出しろ、アイツらがぜってーこの先火種に成っから!!」
そう言った慢心と油断に満ちた彼の判断に当時の彼女達は疑問を抱けずそして戦争を起こす為にカジミエシュを救出し戦争を起こした結果、彼女達は膨大な君塚の軍に敗北し無様にも捕らえられた。
しかし、人生とは万事塞翁が馬。二人とも降伏した先で君塚のおかげで人間らしい普通の食事を与えられ居場所も与えられ、人間らしい普通の日常を過ごして本来の人間性を取り戻していき彼に対して忠誠心と愛が芽生えていた。
自分達の罪に対して怒り狂う狂気の民衆にも立ち向かい自分達の為なら命さえ顧みない、そんな輝かしい英雄の姿がそこには有った。
彼女達の瞳を焼き切るような鮮烈な光が。
チョロい?いいえ、愛です。そう二人は答えられる自身が有った。
君塚はつむぎと美羽の書いた王都ズラトポル内に潜入した龍の国から派遣された下級妃3人組に関しての報告書を読み名前や容姿、ギフトについて確認していた。
「ありがとうつむぎ、美羽。二人のおかげでこの3人の何とかなるかもしれないな、特にこの能力解除は鞭を打った相手の能力解除なら遠距離から仕留めれば何とか成るだろう。他にも他者模倣も脅威だろうな、ヤドヴィガ殿下に化けられたら俺は撃てるか怪しい。もし得られるなら欲しいものだが……」
二人は少し前に下の名前で呼んでほしいと願い出ており君塚はそれを承諾して二人を親しい部下として扱っている。なので極力セクハラとかそう言う関係は避けようとは努力している。
凛とした佇まいのつむぎはそっとメガネの位置を直した。
「お褒めに預かり恐縮でございますご主人様。ですが私は今回の報告書を美羽から聞いた物事を纏めただけですので、何卒美羽にも褒美をお与えくださいませ。」
「ふえっ!?つむぎちゃん!??」
「それにその似顔絵は美羽の幻想動物園のスキルであり、使役したネズミの視界から正確に映像を模写する事が可能でしたからこの似顔絵が描けました。これも美羽ならではの特技でしたから可能だったのです」
「あうう。恥ずかしいってつむぎちゃん……」
特に美羽の【幻想動物園】で召喚したネズミが見た映像をつむぎがスケッチした似顔絵は写真のように精巧だった。
これなら市街地に居る王国軍でさえ彼女達の容姿や特徴を把握できるだろう。
「分かった。ならなんでも良いから今欲しいものを言ってくれ、美羽。俺に出来ることなら喜んで手配しよう」
君塚は少しだけ姿勢を下げ、美羽と同じ視線にして美羽のご褒美を与えようと君塚は聞いた。
顔を近づけられた美羽は戸惑い、慌てふためきながら主たる君塚への褒美を咄嗟に何が今欲しいか考えていた。
「ええっと、その、ご主人様……あのその……うぅ」
つむぎは親友の美羽に対して応援していた。
「大丈夫よ美羽。ご主人様を信じましょう」
美羽は自身の生涯と魂を賭けて決心し、思いを水の流れに乗せるように言った。
「ご、ご主人様!どうかっ、どうか私達と、ずっと側で一緒に居てください!!」
「……は?ん??」
君塚は少し間をおいて、そして間の抜けた声を出した。
あまりに小さくささやかで、しかし澄み渡る程綺麗で無垢で尊く、そしてその意味を理解すればする程重い願い。
そして気を取り直して、言葉だけを受け止めて脳内で何とか自分なりに処理した君塚は呆れたように、しかし優しく答えた。
「…今更何を言っているんだ美羽。俺達はもう家族だろ?なら美羽は勿論つむぎにも嫌と言われてもずっと一緒に居るさ。そうだろ、つむぎ?」
「……!!」
「はい!勿論です!!」
つむぎも美羽も歓喜の笑顔が弾ける華の如く大輪に咲き誇り、主への契約は一方的だが来世も、そのまた来世も結ばれたのだ。物理でもなく魂と呼ばれる概念での話だが帰るべき主と二人は出会い、こうして結ばれる。
そしてそんな二人を見ながら一切その事に気付かず、肩をすくめながら自分なりに解釈した内容で話す。
「それに君達に対してはニケから託された以上俺にこそ責任が有るからどっかのアホみたいな薄情な真似はしないよ。と言うか、拾った以上捨てる無責任な飼い主に成れるほど愚者に成り下がれんしな」
「ええと……私達、ペット相当なのですか?」
「例えだよ、美羽。この世の中に有る語彙で相応しいそれを選択しただけさ。不快なら訂正するが」
「いえ、大丈夫です。……良かった、でも」
「……でも?」
「もっと早くお会いしたかった、と思いまして」
「そうか、そりゃ嬉しいね。そこまで可愛らしいお嬢さん達に慕われるのは男冥利に尽きるんで」
美羽はそうだけどそうじゃないと思うもこれでも良いかも胸が温かくなる感じがした自分と心が2つある自分に対して歯がゆい思いをしていた。
つむぎはどうしてそうなるのか疑問符が湧いてくるも今の主人のおかげで今の人生がある事を感謝し恩返しを生涯かけて行う事を心の中で誓っていた。
【ヤッホー呼んだ君塚っちー?】
「呼んどらんよ、この空気の読めないクソたわけ」
【ちぇっ、じゃあ近いうちにまったねー☆】
騒がしく成る奴はあっさり帰ったため今日は静かに過ごせると君塚は思った。
「さて、だが能力が分かったおかげで少しばかり楽に対処出来そうだな…特にこの能力解除の鞭。こいつを手に入れたら多分対ファンタジーも楽に撃破が出来そうだよな。」
能力解除の鞭は命中すると対象の能力を問答無用で即座に解除可能であり、早撃ち勝負に勝てたら基本は勝てる。そんな能力で自身が鞭の先端に触れているなら相手の異能の影響を完全に排除出来る事はかつて同じ隊に居て戦闘に同行したことが有るつむぎが既に確認済である。
そして他者模倣は何でも誰でも模倣可能だが性格が比較的怠け者である事を知り、恐らく最短経路で目標を達成しようとするだろうからこちらは誘導しやすく進路を定めやすい性質と判断した。
彼女達の目標も既に美羽がキッチリ把握しており王宮の金庫室にある金塊でありこれの奪取を厳命されていたようである。
故に平原の国は、強盗達に立ち向かう。
それが夢よりも幸福な現実だったなら




