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何故現代兵器をファンタジー世界へ持ち込んではならないのか?  作者: ウォルギリウス
第一章

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自由な民と聖女について

予定に無い予定

君塚は息つく暇もなく、目の前に湧いた「内憂」への対応を迫られていた。

ロコソフスキー元帥率いる主力軍団は、戦狼の国への抑止力として東方へ展開中だ。

彼らは全員、誇り高きコサック兵のアイデンティティを持っていた。

皇帝ツァーリ」でもなければ、武勇で名を馳せた「頭領アタマン」でもない、目の前の優男――君塚に従うほど、彼らは殊勝な連中ではなかったのだ。

彼らの視線は冷たい。「なんで俺たちが、こんな青瓢箪に従わなきゃならねえんだ?」という侮蔑が肌を刺す。

(……なら、話は簡単だ。コサックの流儀に合わせてやる)

ちょうど警察長官から、凶報が入ったところだ。

『転生者らしき暴徒により、警官隊壊滅。敵は風と雷を操る能力者』

君塚はニヤリと笑い、拡声器を片手に装甲車の上に立った。

「聴け! 勇敢なる兵士諸君! そして、クソ生意気な自由の民、コサックの同志諸君!!」

第一声から、君塚は彼らを煽った。

兵士たちが「あぁ?」と眉をひそめる。

「今、私が君たちのために用意した『祖国』が、クソったれな無法者に荒らされつつある!! つまりだ、君たちの存在そのものを否定する恥さらずが、我が物顔で暴れているということだ!!」

コサック兵たちは顔を見合わせる。「何言ってんだこいつ?」という空気だ。

だが君塚は畳み掛ける。

「たった今、警官隊が全滅した! 敵はたった一人の剣士だそうだ。……おいおい、笑わせるなよ? たかが剣一本振り回す手品師ごときに、我々の庭が荒らされているんだぞ? これは国家への挑戦であり、何より――舐められたまま黙っていられるか、という話だ!!!」

兵士たちの目の色が変わった。

理屈はどうでもいい。「舐められた」という一点において、彼らの闘争心に火がついたのだ。

「敵は風を操り、銃弾を弾くらしい。だが――」

「で? 私たちに何をお求めなんですか『同志閣下』殿?」

古参のコサック兵が一人、野太い声で遮った。

「そのアホをさっさと撃ってこいと、そう仰りたいのですか?」

君塚はその兵士を指差し、怒鳴り返した。

「そうだとも! さっさとそいつの脳天をぶち抜いてこい!! ただし、有視界戦闘は避けろ。そいつは風で貴様らの弾を弾くらしいからな。……まさか、知恵も使えずに突っ込んで死ぬようなマヌケは、我が軍にはいないだろうな!?」

コサック兵はニヤリと笑い、帽子を被り直した。

「……まあ、その辺のアカよりは話が分かるか。よし、野郎ども! 狩りの時間だ!!」


コサック兵たちは手際よく散開し、君塚の指示通りに包囲網を敷いた。

君塚はさらに、アウトレンジからの制圧攻撃を命じる。

演説は成功したが、彼らを無駄死にさせては意味がない。そして何より、将軍ガチャを回して「コサックと相性の悪い将軍」が出てくるリスクを避けるためにも、ここは現有戦力で完封する必要があった。

一方、平原の国に降り立った転生者は、散乱するパトカーと警官の遺体を踏み越え、王都ズラトポルを目指していた。

「へっ、この国の警察なんてザコだな。国盗り成功者の首を取って、経験値を頂くとしますか」

彼は風の結界を纏い、銃弾など通用しない無敵感に酔っていた。

だが、彼の視界には入らない低高度から、死神が飛来する。

Su-17M3。可変翼の戦闘爆撃機が、音速で空気を引き裂きながら爆弾を投下した。

「なっ――!?」

風の結界など、数トンの爆圧の前では薄紙同然だった。

さらに地上からは、BM-21グラートと2S1自走砲による座標砲撃が降り注ぐ。

君塚が国土交通省に作らせた正確な地図と、コサック偵察兵の観測による精密射撃だ。

転生者は、自分の自慢の剣ごと、跡形もなく消し飛ばされた。

戦闘後、国土交通省の職員が即座に現場へ急行し、破壊された道路を一瞬で修復。戦闘の痕跡は綺麗さっぱり消え失せた。

君塚は、警察の名誉を守るため、報告書を改竄した。

『警官隊は勇敢に戦い、敵の消耗を強いた後、正規軍の火力支援によりこれを撃滅した』

……まあ、嘘ではないだろう。


内憂を物理で排除した君塚は、次なる仕事――戦狼の国の捕虜聖女への尋問に向かった。

「座れ。……随分と手荒な真似をされたようだが、最低限の治療は施した」

君塚は事務的な口調で告げ、目の前の少女を見下ろした。


捕虜収容所の尋問室。粗末なパイプ椅子に座らされているのは、戦狼の国の皇族衣装――踊り子のように露出度が高く、派手な装飾の施された服――を身に纏った少女だった。

彼女の名はアセナ。戦狼の国の皇帝の「娘」だと言う。

褐色の肌に銀色の髪、そして宝石のような紫の瞳。その美貌は確かに一国の姫に相応しいが、その瞳には光がなく、どこか諦観の色が漂っていた。


「感謝します、指揮官様。それで……私の『値踏み』は終わりましたか? 私がいくらの金になるか、あるいは……夜伽の相手として使えるか、です」

「ふむ…値踏み…か」

君塚は眉をひそめた。彼女の語る身の上は、ヤドヴィガの母・アガタのそれとあまりに酷似していたからだ。

母娘二代にわたる、家畜のような人生。同情はする。だが、感情だけで動くには背負うものが多すぎる。

「……同情はする」

君塚は正直に言った。

「だが、ここは慈善事業団体ではない。貴女に継承権がない以上、政治的価値は低い。……残念だが、一般捕虜として収容所へ行ってもらう。あと、私は君に対して『そういう要求』はしないさ」

君塚は肩をすくめた。

「私のご主人様ヤドヴィガが、そういうことには少々うるさくてね」

退室しようとする君塚を、アセナの声が引き止めた。

「……待って、ください!」

それは、魂からの叫びだった。

彼女は「聖女」に関する戦狼の国の機密情報――不老固定の肉体、そして『愛』による覚醒と空間転移の可能性――を提示し、取引を持ちかけた。

そして、最大の爆弾が投下される。

「母は……覚醒しました。ですが『魔術刻印』で自我を縛られ、今は皇太子の寝室に繋がれています。……皇太子好みの、強力な聖女を産ませるための母体として」

その言葉が、君塚の逆鱗に触れた。

カジミェシュ8世と同じ外道。人間を産む機械としか見ない蛮行。

君塚は天井を仰ぎ、大きく息を吐いた。損得勘定など、もうどうでもよかった。

「顔を上げろ、アセナ」

君塚は彼女の手を取り、立たせた。

「いや、その名は捨てろ。平原の国の名はあるか?」

「……ナディア。母は、そう呼びました」

「いい名だ。『希望』か」

君塚の瞳に、冷徹な指揮官の光と、義憤の炎が宿る。

「取引成立だ、ナディア。報酬の前払いとして……そのふざけた『戦狼』どもに、教育的指導を行ってやる。皇太子の寝室だと? T-72の125mm砲でノックしてやるには、お誂え向きの場所じゃないか」

ナディアの瞳から、大粒の涙が溢れ落ちた。

それは彼女が初めて見出した、本物の「希望」だった。


尋問室を出た君塚は、待機していたロコソフスキー元帥に向かってぼやいた。

「あいも変わらず、この世界の男という生き物は……しかも高位の男になればなるほど、下半身に脳みそを吸われているのか?」

「同志閣下……流石に公の場でその発言は」

ロコソフスキーが苦笑しながら諌める。

「まあ、この世界の女も大概だろ。見合わん対価を俺に差し出して、こんな面倒な事をさせるなんて……どれ程わがままなんだ?」

「……閣下。それは『騎士道精神』というものですよ」

君塚はロコソフスキーと共に、戦狼の国との国境へ向かった。

やり方はシンプルだ。

第1戦車師団(T-72部隊)を国境沿いに展開し、砲身をすべて皇帝の居城の方角へ向ける。

その上で、君塚は皇帝との会談を要求した。

戦狼の国の皇帝メフメトは、当初は難色を示した。

「ナディアの母親は、皇太子ムスタファに必要な女だ」と。

だが、国境を埋め尽くす鋼鉄の猛獣(戦車)と、上空を旋回する怪鳥(戦闘機)の威圧感は、言葉以上の説得力を持っていた。

「返還か、戦争か。……私が選ぶのではない、陛下が選ぶのです」

君塚の静かな恫喝に、皇帝は折れた。

数時間後。

国境の橋の上で、一人の女性が引き渡された。

「母様!」

「ナディア……!」

ナディアは駆け寄り、母の胸に飛び込んだ。

12年越しの、親子の再会。

幼くして分かたれた親子は母の故郷にて再び出会う。

君塚はその光景を見届けながら、ふと背筋に寒気を感じた。

(……聖女は不老で、肉体年齢が固定される。まるで、男の欲望のためにそう作られたような……)

この世界のシステムそのものに対する、得体の知れない嫌悪感と予感が、君塚の胸に黒い澱のように残ったのだった。

ヒロインが何か追加されちゃった…

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