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4、図書館


この国に点在する大きな街は、人口の密度も相まってか大きな壁で囲われている。


小さい規模の村などは人が少なく、あまり魔獣を引き寄せにくいため村の中心にある防御壁によって魔術的に魔獣から守る事ができるが、人が集まり暮らす場所は、魔力が停滞しやすく魔獣を集めやすいため、魔力の流れを緩和するための魔術語が刻まれた壁で囲われており、その形は街によって様々だ。


タイバンの街から比較的近い位置にある海辺付近の街、カイカームは街全体が観光業を盛んに行っているため、壁ではなく外観を意識した白い柱が逆さまの王冠の様な形でその機能をなしていると聞く。


残念ながらタイバンは観光業を積極的に行っていないためか、無機質な白い壁にびっしりと魔術語が書かれた飾り気もない見た目だが、タイバンの街には国一の魔術師組織の建物が街のシンボルとして存在している。

街を護る外壁よりも白く高い放物線の柱が均等に並んでおり、その真っ白な壁には汚れ一つ無い。

入り口の部分だけその放物線がくり抜かれた様に開いており、中はそのまま長い通路が続いている。


「ここに来るの二回目です」

「昨年の王国騎士団との遠征試合での事だろう」

ギルドの勤務後、ローリエはラシオンに連れられてタイバンの魔術師組織、「魔術師総会」の本部に訪れていた。

ラシオンは総会内にある魔術学園の卒業生らしく、その伝手で本部内の魔術書を閲覧する許可を貰っているらしい。


「在学中か魔術塔の魔術師じゃ無いと持ち出し不可だが、申請すれば閲覧は可能だ」

「すみません……わざわざ」


ギルド長から言われた内容は全く理解できなかったローリエは、後日新ためてラシオンから説明があった。

曰く「昨日の話は、ギルドとして魔術を使える者が一人でも欲しいと言うのが結論だ。冒険者をまとめる上でもあるが、タイバンは魔術師総会との連携業務も多い、ある程度の知識は身につけておいた方が効率がいいからな」


「私、魔力そんなに無いと思いますけど……」

「いや人並み以上にはある、魔術師を名乗るには心許ないが自衛のために、幾つか使えるようになるのも良いかもな」


ラシオンの頭の中には、これから行われるローリエの指導方針が固められていたが、そうとも知らないローリエは、前回来た場所とは違う場所に連れられ、忙しなく首を動かし周囲を見渡す。


「ローリエ、こっちだ」


ラシオンが曲がり角の向こうにいる事に気づかず通りすぎたローリエは、慌ててラシオンの元に向かう。


「よそ見し過ぎだ」

「すいません」

ラシラスに駆け寄り、再び連れられて歩き始める。大きな建物である事はわかっていたが迷路の様に広い。

「迷子になりそうですね」

「よそ身をしなければ問題無いだろう」

「そうですけど白い柱に壁だけの風景なんて、初めて来た人は迷子になりますよ」

「迷子防止に手でも繋がないといけないか?」

ラシオンにそう言われ、言い訳がましく言ってしまった事を恥ずかしくなったローリエは口をグッと口を結んだ。


「ここだ」

「大きな扉ですね」

白い風景が続く廊下の突き当たりに現れたのは光沢のない灰色の扉だった。三メートルほどの大きさで扉には金のプレートが貼り付けてあり第四図書室と書かれていた。

「初級から上級までは、基本どの図書室にもあるが、番号によってそれぞれの特色に別れている」

「特色?」

そう聞いて、少しドキリとしたローリエ。自身の頭の中の魔術陣の事はラシオンには伝えていないがローリエが自覚していない魔力量もラシオンは知っている。実力のある魔術師は少し触れたり、また触れずともその人の魔力がわかる魔術師もいると聞いた事がある。

「何故離れる?」

扉を開くラシオンの背からスッと一歩下がった、しかしラシオンにはその一歩すら気づいてしまうようで目ざとく振り返った。


「は、離れてません」

「およそ十センチ離れている」

(なんだその具体的な数字は)

窓の反射で光メガネがラシオンの纏う雰囲気を尚のこと際立たせる。

「入るぞ」

「はい」

内心が見透かしされているのではと思い、ローリエは大人しく開かれた扉の中に入った。


「うあ〜」

扉の向こうに広がっていたのは見たことも無いほど一面本だらけの世界だった。

思わず間抜けな声を出しまったローリエの背後でラシオンは説明をする。


「およそ五千冊の魔術書を蔵書されている」

「えっここって第四図書館ですよね、じゃ1、2、3もあるって事ですよね」

「全てがここと同じ蔵書数では無い、第四図書館は総会本部無いでも最多だ」

「ほへ〜」


この大量の本の中から一体どれだけの本を読まさせられるのか……壁や天井、一面に広がる本の大群にローリエは尻込みしてしまった。


「こっちだ」

口を開けて天井を見上げていたローリエにラシオンの呼びかけがかかる。ラシオンは本の群れの中を迷い無く進み、その背をちょこちょことローリエは追った。やはり元在学生と言うこちもあり、必要な書物がどこにあるか知っているのだろう。

「どんな魔術書を読むです?」

「一冊一冊は読ませない、効率が悪いからな」

「良かった」

自身で言うのもなんだが人より集中力があるわけでない、一冊読むのに数週間はかかる自信しかなかったがそうならなそうなで安堵した。

「今回はお前の固有魔術を調べる」

「固有魔術?」

聞き馴染みの無い言葉に目を丸すると、ラシオンは本棚からそれぞれ一冊ずつ本を取り出してローリエに待たせた。

「重っ」

分厚い本はたった三冊でもそれなりに重さもある。これは一冊読むのに数週間では無く数ヶ月かかるなと思い。この本の中からどれだけの枚数を読む事のなるのかと、見えないノルマに不安が再熱した。

そんなローリエの内心を知らないラシオンはさらに本を抜き取って五冊の本を抱えた。


「魔力は個人によって量だけでなく質も異なる。

そのため、同じ魔力量を持っていても、魔術との相性によって発現する現象には差が生じる。


「はーー……」


目を点にした少女を前にラシオンは本を抱えな直し、片手でメガネを上げた。

「簡単に言えば固有魔術は得意な魔術……とでも言おうか、あくびをしながらでも出来るそれほど相性の良い魔術……」

「なるほど」

先程よりも理解したのかローリエは大きく頷いたがラシオンは疑いの目を向けずにはいられなかったが、実際に使える様になれば自然と理解出来る様になるだろうと話を進める事にした。


本を持って移動してした先は机と椅子が並べられたスペースでここで座って魔術書を読む事が出来るらしい。

空いている時間なのか人はまばらでラシオンは柱の影になっている席に本を置いた。


「手を貸せ」

「はい」

ローリエはいわれるがまま手を差し出しすとラシオンの手がそれを下から包んだ。

「何をするんですか?」

「今は頭で理解するより、体で感じとった方がわかりやすいだろう」

「体で……」

「ローリエ、これが魔力の動きだ」

ラシオンがそう言うと、彼の袖口から見える腕に血管のような模様が淡く光り、浮かび上がる。

そしてその光は暖かい彼の手を伝い、ローリエの手の平から腕へとその模様を伝わらせた。

「魔力を使用するさい、通常はこの様に流れを視認する事は出来ない。俺が体内の魔力を視認出来る様に魔術で色をつけている」


今まで感じ取れなかった体の中に流れる魔力を実際に見せられ自覚した。

そしてそれと同時にローリエの耳に沢山の音が流れ込んだ。


『どこに行った?』『俺のレポートがない!』『あの人何してるんだろう……』『コイツ嫌いだな』『素敵な人』『また会えるかな』『無理』『嫌だな』『面倒くさい』『この先生話が長いんだよなぁ早く次の演習に入りたいのに』『無い無い無い!どうしよぉ』『期限に間に合わないかも』『誰だよこんなに詰め込んだの……』『小さい手だな』


「ローリエ?」

名を呼ばれてハッとする。今のはなんだろうか。

「魔力の消費が確認出来た……何をした?」

「はぇ、わかりません」

「体外的な事象は確認出来ていない…俺からの魔力干渉から逃れるための防御も見られなかた」


どうらやローリエが何か魔力を使用した様でラシオンはその考察をしているようだ。そっと手を離されたと思えば頬を挟まれてグッと顔が近づいた。

「うっちょ」

あまりにも近い距離、祖母相手でもこんなまじかで顔を合わせた事はない、やがてコツンとオデコがあたる。

「…何か異変はないか」

まじかで響く声に流石に意識して耳が火照るのを感じた。

「色んな声が聞こえたような……」

「聞こえた?身体強化と類似魔術か」

少し赤らんだ耳をラシオンは躊躇なくフニフニと触る。

(何だコレ!?)

流石に居た堪れなくなったローリエはラシオンの体を押して離れる。

「……すまない過剰な接触だった」

そう言うが全く顔色も気まずげな挙動もし召さないラシオンに、ローリエは口を引き結んだ。

「今使用した魔術の感覚を詳しく話せ」

椅子を引かれて座るように促される。ローリエはすでに疲労を感じているが、机に積まれた本を見てさらに体が重くなった。

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