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11、山積み


「どこに隠れたんだ?」

「その想定辞めようよ〜」


魔獣の生首喪失事件が発生し、アルメとローリエは宿舎周り、ローリエ達の部屋の窓下を探していた。

考えうるのはアルメの寝相の悪さで蹴り飛ばされた、だが。


先程からアルメは生首が動きまわった前提で探し回っている。

 

首だけとはいえ、戦利品。赤い目玉を加工して高く売れないかと模索していたらしいアルメは、生首を早々に諦める事はできないようだ。


「無いね、飛ぶにしても塀があるから、敷地の外にはいかないだろうし、転がって誰かが拾った?」

 

「いや、そもそも起きた時窓開いていなかったから」


ローリエがペチペチと敷地を囲う高い塀を叩くと、寝起きの頭が冴えたのか、アルメが前髪をかきあげながらそう言った。

 

「それもそうだね」

何となく、薄々気づいていたローリエも塀から離れる。


「誰かが持って出たのかな、気持ち悪いもんね」

「気持ち悪いのは認めるけど、人の戦利品勝手に持ち出すか?普通は」


それもそうだ、特にここはギルドの宿舎。冒険者ギルドからこの場所に来るには職員専用の通路を通らないと来る事はできない、もし獲った人がいるなら相手は絞られる。


「ギルドにそんな人はいないよー」

しかし、そんな事をする職員は一人たりとも思いつかない。


「確かに、爆睡していたとはいえ、部屋に人が入って来たら気づく」

「確かに、アルメなら気づきそう」

自分は気づく自身はないが、人生経験浅い少女達の頭では結局「やっぱり、生首の状態でも動いたんだ」という結論を言った。


「あーあまだ頭蓋骨で稼げたのに」

小一時間ほど周囲の草むらを掻き分けて探し周り、あたりは目を凝らしても見えないほど暗くなってしまった。

一応、街の街灯で互いの姿を確認できた二人は今日はもうお開きにしようと、人が賑わう酒場に向かった。


「頭蓋骨ってどのくらい値がつくの?」

簡単な業務をしているローリエはまだ、査定作業をしていないため、魔獣の部位がどのぐらいの値段かわかっていない。

 

パンをちぎって口に放り込みアルメに問うと、少ししょぼくれたアルメはこう答えた。


「うーん、小さい獲物だからなー。頭蓋骨って加工しにくい形しているだろう、だから装飾に使われる物で、そこまで需要がないから、大体銀貨一枚くらいかな」


「銀貨一枚」


銀貨一枚は銅貨十枚の価値がある。


一般の市場で使われるのは銅貨が多い、嗜好品で無い商品、主に食料は銅貨二枚〜五枚が相場だ。


つまり魔獣の頭蓋骨はローリエが昼間食べ歩いた食事を二回食べることができる。


「アルメ」

ローリエは親友の名前を口にする。

「何だよ」

不機嫌な親友は眉を顰めたまま返事する。


「私が見つけてあげよう」

「ローリエが」


不機嫌な眉は不可解な物を見るように上がる。


「前に教えたでしょう、私の魔術」

「そういえば、魔術が使えるようになったて」


「そうその魔術、あっ……」

ローリエはそこで思い出す、ラシオンに魔術の訓練を受けているとアルメには伝えたが、ローリエ自身の固有魔術については話していない。


「どうしたの?」

ローリエの表情がいつものどこか抜けた表情になったのでアルメの表情もいつも通りに戻し問いかけると、ローリエは、数度瞬きをして口をモゴモゴと動かした後絞り出すように声を出した。


「……じっ実話ね、教えてもらった魔術師に探し物に使えそうな物があるんだ」

「本当!」


何かを誤魔化している仕草だと思ったアルメだったが、ローリエの出した提案に、アルメは前のめりになる。

しかし、人差し指と親指でコインマークを作るとアルメは固まった。

 

「……お金取るのか、親友から……」


「売れた額の一割でどうよ」

人差し指で一を作ってグッとアルメの眼前に押し出すと、悩んでいたアルメは一文字にしていた口をゆっくりと開いた。


「一割なら……見つけてくれるならありがたいし…………」

「まっかせってよ〜」

ウキウキと席に座り直したローリエは残りのパンを口に放り込んだ。


「なんか急に守銭奴になったけど、何か欲しい物でもできたの?」

「特に欲しいものは……」


ローリエはラシオンに言われた言葉を思い出す。

成人になると、ローリエはギルドの庇護かから完全に独立して、宿舎代や今ギルドから出してもらっている酒場の食事提供にもローリエ自身がお金を出さないといけない。

 

将来を見越して今回で特別任務を受けたのだが……ハッキリ言って。ローリエはやりたく無い仕事だった。


同じ魔術を使う仕事でももっと負担の少ない短時間の魔術行使で利益を得たい物だ。


「ほら成人したらギルドの保護も受けられないじゃん……」

「そうだね」

「だから副業を始めようかと思って」

「副業?」


欲望のままに提案した事だったが、取引が成立したローリエは、フフーンと口端を上げた。


しかし、意気揚々と引き受けたにもかかわらず、副業にまで手が回らい事に気づくのは直ぐの事だった。

 

次の日、お昼休憩を終え、ギルドの廊下を歩きながら、どうやって捜索しようかと思考を巡らせていたローリエにラシオンの声がかかる。


「ローリエ」

ラシオンは扉から顔を出しており、開いたドアの向こうから人の声が聞こえる。

何か会議でもしていたのだろうことがわかり、ローリエの脳に様々な可能性が流れた。


「えっ!何かやらかしました!」

「違う」

どうらや、職員の成績会議ではなかったようでローリエはよかったと安堵し、小走りで駆け寄るとラシオンは難しい顔をしていた。


「何かあったんですか?」

「よぉー赤毛のじょうちゃん」


ラシオンの肩口からひょっこり顔を出したのは、先日中庭で会った騎士の人で、ニッと笑ながら手を振られたのでローリエも「あっこんにちは」と手を振ってしまったがすぐにラシオンに手をパシリと掴まれてしまった。


「客に手を振るな」

言われ、ここが応接室であることに気づき、ローリエはアワアワと頭を下げようとするとガハハと笑い声が響いた。


「ラシオン、お前が礼儀を問うのか、コイツはお前相手に嫌気が指しているぞ」

「うるせー、どういう教育したらお前からこんな奴が出来るんだサイモス」


聞こえたのは、役職も地位もないおじさん達の会話で、今度はローリエがラシオンの脇からヒョッこり顔を出して部屋の中を見た。


ギルド長サイモスに騎士の人、それと。


「アシエ!ラシオンを言い負かす案はないのか?」

バシバシと騎士の人の隣に座り背を叩かれているのは、前にローリエとラシオンの前に現れたアシエという騎士の青年だ。


「口だけの人間が何を言っても中身が伴っていないから、話がまとまらないんです……ラシオンにまとめ役を任せるのは時期が早かったんでしょう」


「貴様に言われてたくは無い」


「おっ!のるかラシオン」

「乗りません」


何やら盛り上がっている様子で、ラシオンに手を引かれて一歩、部屋に入ったローリエは面白いことがあるのかと内心興味が湧いてしまった。


「何かの話し合いですか、お祭りとか」


「ハハハ、まぁ祭りは祭りだがな」

サイモスがそう言うので、ローリエは確信を持ち、興味がワクワクに変わっていった。


「魔術師総会本部の魔術士団と、王都の第三騎士団が行う遠征試合の日程が例年より早く行う事になった」


ラシオンが頭上から静かに言い、ローリエに教える。


「なるほど、それでお祭り……どうして日程が変更になったんですか」

 

ラシオンにそう尋ねると答えたのはサイモスだった。

「今年は第二王子が成人されるからな、ご本人様の希望で誕生日に騎士団と魔術士団の試合が見たいそうだ」

「そうなんですか」


雲の上の人の存在が出て来て、話の内容がうまく頭に入らなかったが、偉い人の存在に日程変更の理由がわかった。


「ついでに試合にも出たいそうだ」

そう言ったのは騎士の人、ソファーに身を預けてそう言った顔は、ほぼ初対面でも不服そうであることがわかる。

確かに、前回見た試合は王族のイメージとはかけ離れた泥臭い、物理的に泥だらけになる剣技と魔術師の試合だった。そんな試合に泥を浴びせてはいけない人が出るとなると気を使いそうだ。


「ローリエ」

「はい」


どうらやら、この話し合いはその遠征試合についてであることを完全に理解したローリエは、次はどうして自分がこの場に呼ばれたのか疑問に思うと、ラシオンから名前を呼ばれた。


「今回は会場に王族がいるため、会場の警備体制も強化される」

「は、はい」


会場の見回りなら去年ローリエも携わった。強化と言うことはローリエに甲冑でも着させるのか、それとも力不足で戦力外通知を受けるのか。


ラシオンはローリエの実力をそれはそれは知っているので、ローリエは後者かもしれないと思ったが。


「そのため、明日から二週間総会本部で、魔術訓練を受けてもらう」


どうらや、前者だったようだ、このヘタヘタの体に甲冑を着させられることがないようで少しだけ安堵したが、それはともかく、ローリエは尋ねるずにいられなかった。


「明日、ですか……」


いくらなんでも急すぎだ。つい昨日予定ができたばかりのローリエは、どうにかならないかとあたりを見渡すと。


「試合は一ヶ月後だからな、ボーナス出すから受けてくれないか」


頭を掻きながらそう言ったギルド長。受けてくれないかと言っているが、ローリエの手首を握る手は有無を言わせてないように思う。


「ローリエ、どうする」


有無を言わせてくれないように思うのだ。見上げたラシオンのメガネの向こうの目は。


「……はい」

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