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10、発生


その黒い騎士服は、シワ一つなく。襟元には金色で縁取られたしこの国の国旗が刺繍してある。

「アシエ……」

 

王国第三騎士団の制服を身に纏ったその人をラシオンはそう呼んだ。

 

「久しぶりだなラシオン」

 

アシエは、腰に刺した立派な剣に手を休め胸を張った立ち姿は自身に満ち溢れている。

 

そして、ローリエは慄いた。自分とは違う世界の人間だ。慄きながら後に下がり音を立てずねラシオンの背に隠れた。


「何故隠れる」


しかし、目をつけられてしまった。

ラシオンを盾にしているのに、視線が刺さるのは何故なのだろう。


「ラシオンさんあの人怖いです」

「人外離れた脳筋だからな、お前の勘は間違っていない」


「聞こえているぞ」


コショコショ話をしているはずなのに聞こえてしまったようだ。


「……お前、名前は」


二人の青年は、互いの名前を知っているのだから聞かれたのはローリエだ。聞かれたのだから答えようと口を開いたら、すかさずラシオンに片手で塞がれてしまった。


「お前が覚えられる名前じゃない」


「お前に聞いていない!」


「サボった挙句にナンパとは……これ以上…お前の評価を下げられると、今後の仕事に支障をきたしそうだ」

 

「五月蝿いぞ!ラシオン……ナナナンパなんてしていない!」


動揺しすぎである、腰に差した剣の柄に何故手をかけるのか……ガチャガチャ音を立てないでほしい。


「もういい!人の親切を無下にしよって!」

「……」


完全に怒ってしまった様子でアシエと言われた青年は早歩きで中庭の方向に戻って行った。


「ローリエ、あれが親切に見えるか?」

「いや、状況の理解ができていないので何とも……」

それは小さな嵐だっただろう、しかしわずかな時間でも衝撃はあり、嵐が去った後にはラシオンの腕に両手でしがみつくローリエがいた。

 

「おーい!ラシオン!」

「はー」

ギルド長の声、そして頭上からラシオンのため息が聞こえる、どうらや嵐はまだ来るらしい。

「お疲れ様です」

ローリエは堂々たる休日の立場から、気負いもなくそう言った。



………………


 

タイバンの街に来てからローリエは休日を知り、丸一日何もしなくても良い日が設けられる感覚は、悪くないと思った。

 

村で祖母と暮らしていた時は、畑仕事に家畜の世話で毎日同じ日常を過ごしていた。

毎週日曜に教会で子供達に勉強を教える人が来るらしいが、ローリエは半端に参加している程度で、基本は祖母から夕食後に読み書きを教えてもらっていた。



「今日は休日かいローリエちゃん」

 

小腹が空いて、街をふらふらと歩いていたローリエに八百屋の奥さんが話かけた。

 

「はい!わかりました?」

「わかるわよ〜可愛らしいワンピースを着てるもの」


ローリエが着ているワンピースは初めてのお給金で買ったよそ行き用だ。

淡いグリーンのワンピースで、裾には小さな黄色い花が散らばっており一目で気に入り、休日の度にこの服を着ている。


「いっつもヨレヨレの職員服だもんなぁ」

「よ、ヨレヨレ……」


そう言って奥さんにペシリと頭を叩かれたのは、ローリエより年下の八百屋の息子さん、ギルドの買い出しで顔見知りになり、すっかり遠慮なしに物を言うようになった。

ちなみに、八百屋(ここ)の旦那さんの事は八百屋さんと呼んでいる。


今日は休日で、買い出しの予定はない。

ローリエは、二言三言立ち話をしたのち八百屋を後にし、ヨレヨレと言われてしまった自分のギルド職員制服を思い出す。


白いシャツと赤いベストそして黒いズボン、ここに来て働き初めて一年と少しだろうか。

ヨレヨレなのは制服かそれとも自分か…そんなことが浮かぶくらい、ヨレヨレな自覚はあるローリエだった。


ヨレヨレを回復するため、ローリエは食べ歩きを開始した。

タイバンの街は、魔術の発展により、かなり大きな街になっているらしい。しかし観光名所と言われる場所は乏しく、観光客よりも魔術師総会本部にある学園に魔術を学ぶため他の街からの学生や他国の留学生が街に訪れるようで、街を歩けば、魔術師らしいローブ姿の人とよくすれ違う。


そんなタイバンの街にある冒険者ギルドから、街の出入り口までの通りには出店が並んでるおり、地元の人々や学生で賑わっている。


「何買おっかな〜」


休みのたびにこの出店通りに訪れるが、季節によって商品の内容も変わるので、ローリエは未だ、開拓の最中だ。


「はぁ〜」

そんなこんなで休日、休みになれば仕事のことはスッカリ忘れるローリエだが。やはり明日に近づくにつれて気分は落ちる。

「長いため息」

「あ、アルメおはよう」

「おはよう」


時刻は午後5時。ルンルンで食べ歩きを楽しんだローリエは、街が夕日に染まる時間に帰宅した。

 

宿舎の部屋の扉を開けると、丁度アルメが起きたらしい。


短く黒い髪には寝癖があるが、アルメが手櫛で軽く整えただけで跳ねた部分が治り、自分の髪より扱いやすいようで実に羨ましい。


「前から思っていたけど、体に悪そうだよねこの時間に起きるの」

「寿命は縮んでいるだろうね、確実に……」


真顔でそう言うので、実際に自覚する不調があるのだろう。現に朝からこの時間まで寝ていたのに、完全に疲れは取れていないようだ。


「疲れた」

「起きたばかりなのに」


伸びをしてそう言ったアルメはそう言い立ち上がり「お腹空いた」と言いながらフラフラと扉に向かった。

「あれ?」


入れ替わりアルメの向いにある自身のベットに腰掛けて、友人を見送ったローリエは何気なくアルメがさっきまで寝ていたベットに目を向けると、朝ローリエを驚かせた魔獣の生首がなくなっていた。


「アルメ、添い寝していた生首無くなってるよ?」

「添い寝してな……」


その事を本人に伝えると、緩慢な動作で振り返り親友はフリーズした。


「無い、ないないない!」

と思ったら、ヨレヨレだった彼女の動きはスイッチが入った様にセカセカとベットまで戻ると、布団をめくり、枕を投げて、ベット下を覗きこんだ。


「何で!寝る時までここにあったのに!」

「うん、見てた……」


不意にベット下を覗き込んでいたアルメが振り返りローリエを見た。

目が合ったローリエ、まさか疑われているのか思い首をブンブン大きく振ったが、アルメの発した言葉は予想もしてない言葉だった。


「動いた?……」

「えっ……」


疑われるよりもずっと嫌な想像をローリエはして、腰掛けていたベットから立ち上がった。

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