プロローグ
部屋に日差しが差しローリエは目を覚ました。
いつもより明るい部屋でまず目に入ったのは黒髪の少女、同室のアルメだった。
「…………おはよう」
何故かまじかで見下ろしてくる同室の少女は、訳あってギルドの職員では無いがローリエと同じ部屋を使っている。
彼女はローリエと同じ故郷を魔獣によって襲われ天涯孤独となってしまった。
そしてローリエの命の恩人でもあり、放心するリーリエを支えこの街まで一緒にいてくれた人物だ。今では一番の友達でもある。
そんな彼女は何故か寝巻きでは無く動きやすい服装にしっかり着替えた状態でローリエの寝顔を何故か驚いた様な表情をして無言で見下ろしていた。
「んにゃに?……かおに何かついてるぅ?」
寝起きで呂律が上手く回らない状態で尋ねながらローリエは目元をゴシゴシとこする。そうしてアルメはやっと我にかえり言葉を発した。
「寝てる時は別人見たいな顔してるよな」
「んー?べつ人?………………あ、美人ってこと」
目をしばしばしながらそう尋ねるとアルメ真顔でこう言った。
「いや、なんか……化け物見たい顔してたよ」
「ばけもの?」
朝から容姿を馬鹿にされて不快である。ローリエはシバシバの目をそのまま顰めてアルメを睨むがすごみが足りなかったのかアルメは気にせず、ローリエのベットから離れた。
「お腹すいたから先にご飯食べてくるね。そういえば、昨夜寝る前に明日は朝早いから嫌だーとか言ってなかったけ……」
どこか少し不機嫌な声色にローリエは何故朝から容姿を馬鹿にされたのかだんだん理解して来た。
あたりはいつもより明るい気がする。
「うーん、これはー」
秒針が刻む音。春も過ぎ夏が近づく季節で鳥の囀りはいつもより大きな気がする。
「ギリギリセーフですかイタっ」
「自分で言うな、あとギリギリアウトだ」
マッハで最低限の準備を終えたローリエ、その寝癖まみれの頭に丸めた新聞が軽く振り下ろされた。
ローリエを叱るのは、このギルドの制服である白いシャツと赤いベストをキッチリと着こなし、黒縁のメガネの奥に鋭い目を持つこのギルドのキーパー役であるラシオンだ。
彼は何故か細身の体躯でありながら、彼よりも体躯の良いギルド長より恐れられている。それはこの鉄仮面ゆえなのか。何者も見通す鋭い目つきからなのかわからないが、しかしローリエには恐ろしい事この上無い人である。
「リーリエ、早番を任される自覚はあるのか?」
「ロ、ローリエですラシオンさん。早番はぶんうふ相応な職務かと思っています」
正直に自身の心内を話したローリエをラシオンは腕を組んで無言で見下ろした。
「……遅れてしまい申し訳ございません」
数秒の圧によりどうにか謝罪の言葉を捻り出したローリエの頭上からラシオンが溜息を軽く吐きローリエの腕を引いて歩き出した。
「今回はこの程度で許してやるが明日から1分ずつ遅刻するたびに反省文を一枚ずつ書かせる」
「なんですか、反省文って」
「……遅れた事の謝罪と何故遅れたのかその原因と改善策を書き提示する」
「もし、十分遅れたらその文章を十ページ分書かないといけないって事ですよね」
「もちろん内容が同じ構成であれば書き直させる」
「ヒィィ〜」
嫌な事を聞いたとローリエが悲鳴を上げるとラシオンは呆れた顔を作り背後に連れたローリエを肩越しに見やる。
「嫌ならちゃんとしろ、例え寝癖がついていようと、例えヨダレの跡がついていようと時間通りにくれば問題無い」
「それは私が問題あります」
「わかっているなら余裕を持って行動しろ」
まるで保護者だ。叱られながらそう思ったローリエは唇を尖らせて連れて行かれるがまま歩いた。
そうして腕を引かれた場所はギルドの水場、井戸水を引いている場所だ。
「早番はここで仕事を開始するんですか?」
「本当にそう思っているのか」
思う訳ない。ラシオンの意図する事は彼がポケットから出したハンカチを水場で濡らし絞る姿を見て気づいた。
「うぇ!ちべたい!」
「口を開くな」
後頭部を抑えられ顔を冷たい井戸水場で冷やされたハンカチで顔を拭かれる。
「じぶんで出来ます!」
「そうか」
そうしてハンカチを顔に押し付けられたままのラシオンの手が止まるローリエは、そのまま両手でハンカチを押さえて自分でゴシゴシと拭き始めると、次は後頭部に刺激が走る。
「イテテ、無理に引っ張らないでください!禿げちゃう」
「この剛毛なら禿げる事はないだろう。お前、俺よりも癖毛だな」
年頃の娘を相手に言うには余計な二言を添えたラシオンは、赤い剛毛に眉を寄せてながら髪を全て後ろに流した。
「何をしてるんですか」
「一つに括る」
「えー」
「嫌なら明日から自分で全てこなせ」
癖毛であるが故に寝癖はさして気にしない性分なのだが前髪もしっかり後出に縛られた姿を見てローリエは顔を顰めて大人しく返事をした。
「……はい……」
そうして始まった新しい仕事。孤児であるローリエはアルメとこのタイバンの街のギルド職員と冒険者のおかげで村を襲った魔獣の群から命からが助けられ、このギルドでお世話担っている。
初めは台所の皮剥きから始めり。少しずつローリエにできる仕事を貰いながら自分の将来について考える時間をもらった。
ギルドから出て他の場所で働く選択しを取ることも考えたが。結局はお世話になった人たちと一緒にいる事にを選び大変ながらもギルド職員になる事を選んだ。
そうして十五歳。天涯孤独の身になって半年以上が経った今ラシオンの教育のもとローリエはギルドの制服に袖を通す日々を送っている。
「あははは」
「笑いすぎだよ」
「その髪型は変だよ」
ギルドカウンターでローリエを笑うのは朝食を終えて依頼書を持ったアルメだった。
魔術も使えないのに一人で魔獣を狩る変わり者の少女はこの街「タイバン」を拠点に魔獣を狩り。骨や牙などの戦利品で生計を立てている。
一年前はギルドの細々とした仕事をしていたからてっきりギルド職員になるのかと思ったが。魔獣を食べたいからと冒険者になったのだ。その方法も動機も変わっているが話す分には常識人のあべこべな人間だ。
ちなみにローリエより一つ年上でそれもあってか何かと面倒を見てくれる。
「はい、アルメちゃん受領書」
「ありがとうございます」
ローリエの背後の扉から出てきた茶髪の短髪の女性がターリアが、アルメの魔獣討伐の受領完了を伝えた。
最近本格的な受領受付を開始したローリエはまだ日付印と討伐か採取かの振り分けをする仕事をしている。
「アルメ、いつ頃戻ってくる予定?」
「明日の昼だよ」
「そっか」
受領書を受け取ったアルメはカウンターを離れギルドを出る。これから魔獣を狩るための罠を仕掛けるらしい。通常であれば、数人でパーティーを組んで狩るのを一人で罠を使って狩る少女の魔獣との戦いは長い。
「心配だね〜アルメちゃん」
「うん……でもアルメがそうしたいからしょうがないですよ」
「まぁ、でも今まで無傷で帰って来てるから凄いよね。案外安全に魔獣を倒すには効率が良いのかも罠を仕掛けるの」
「そうかもですね」
今はアルメなりに考えて自分のしたい事を形にしている。ここタイバンを拠点に活動しているため。長くとも三日に一度は顔を見ることがあるため。初めは不安だった彼女の行動も、今は不安も薄れて単純に応援できる様になった。
「そう言えば、管理官さんがローリエちゃんに話したい事があるから昼食は一緒に食べるようにだって」
「いっ、本当ですか」
今朝お小言をもらったばかりのためとても嫌だ。それも待ち遠しい昼食時間にだ。
「奢ってもらいなよ、管理官さんローリエちゃんには甘いから少しお願いしたらきっとご飯の美味しいところに連れて行ってくれるかもよ」
小声でそう教えてくれたターリアの言葉にリーリエは本当かと疑問に思う。そんな二人は背後に話題の人物がいる事に気づいておらず。
「仲が良いのは良いが勤務中である事はを忘れるな」
「「!!」」
驚き飛び跳ねる事になった。
「す、すみません!」
慌てて自分に仕事に戻るターリア。ローリエは固り、謝罪の言葉を喉奥から押し上げた。
「ごご、す、すみませっ」
盛大に噛んだローリエを見下ろしたラシオンはメガネを上げる仕草をした。
「昼食は賄いがでる、」
「はい」
「それに緊急時に備えて休憩中でもギルドから通りの違う場所に行くのは推奨しない」
「はい」
「しかし、勤務終了後なら、問題無い」
「はい、ん?」
「食べたい物考えておけ」
そう言って背を向けたラシオンの背は今日も頼り甲斐のある姿をしている。
「はい」




