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冒険者ギルドにて

通りを歩いてゆくと一際大きな建物が見える。入り口には燦然と冒険者ギルドの看板がかかっている。我が国は識字率は高くないので多くの看板は絵看板である。ここの冒険者ギルドも剣と盾という冒険者ギルドの有名な看板がかかっていた。


実は僕は冒険者ギルドに入ったことはない。騎士団員でも冒険者を兼任している人はいるが、第三騎士団は魔物退治が忙しいので多くの騎士たちは冒険に行く余裕がなかったのである。


しかし入らなければ話が進まない。僕は不安を押し殺してギルドの扉を開けた。

入ったところは食事スペースだった。

そこには様々な種類の老若男女がテーブルについてワイワイガヤガヤと騒がしくやっていたのである。

奥の方にカウンターがあるのが見えたのであまり目立たないように奥の方に進もうとした。

するといきなり座っていた椅子から足が伸びてきた。僕を転ばせようとしたようだ。僕は咄嗟にジャンプしてその足を回避したが、足を出してきた男は僕を見て「その剣は騎士団のだな。お前、騎士団の犬か?」とむき付けに聞いてきた。


「い、いやあ、僕は騎士団員じゃないですよ。この剣は貰い物なので。」

「何しにここに来た?」

「い、いやあ、その、今から冒険者になろうかと。」

「は?その年でか?大人しく農家の跡でも継ぎやがれ。」

そう言うと男は僕から視線を外して酒を飲み始めた。周りの男たちは「ウヒヒヒヒ」というような気持ちの悪い笑い声をあげやがった。


やっとの事でカウンターに着くと愛想笑いを顔に貼り付けたような若い娘さんが座っている。

「ご用件は何でしょう。」

愛想笑いのままそんなことを聞かれるのはちょっと気持ち悪い。

「あの、冒険者ギルドに加入したくて来ました。」

「では登録料は銀貨20枚になります。以前にどこか別の支部で登録されたことはありますか?」

僕は首を振って「初めてです。」と言ったが実際は王立学園に通っていた時に王都で一度登録している。

「では登録の書類ですが、読み書きは大丈夫ですか?」

僕は黙って頷いた。

書類には「名前」の欄にリーナス、職業の欄には剣士と記入した。

愛想笑いの女性は愛想笑いのまま用紙を受け取ると、あの門番にやらされたのと似たような水晶玉を持ち出して来た。

「ギルド証は身分証明証となりますのでこちらのテストが必要になります。」

またあの水晶玉か。ここまで来て断るわけにもいかないだろう。

(南無三!)

僕は水晶玉に手を置いた。

やはり水晶玉は淡く白く輝いてしまった。

受付の女性の愛想笑いが剥がれてしまう瞬間を僕は目にした。

彼女はそれでも周りに聞こえないような小声で「え!え?え。」と騒いでいる。

これはもうバレバレなんだろうなあ。

「あ、あの、ギルドマスターと面会されますか?」

「不要です。」

「あの、えと、このままギルド証を作る場合F級からのスタートになりますが、それで結構でしょうか。」

「それで結構です。」

「で、では、ギルド証を作ってまいりますのでここでしばらくおまちください!」

彼女はあたふたして奥の方に引っ込んでいってしまった。王子の名義ならばB級まで上げたけれど、それは知らぬ存ぜぬで行かないと何のためにこんな辺境まで来たのかわからない。自分は王子じゃないと自己暗示をかけ続けなくては。

とにかくギルド証が出来上がるまでぼーっと待たざるを得ない。

さっき変な笑い方をしていた連中をチラッと見たらそそくさと視線を逸らされてしまった。


そうしていると、さっきの受付の女性が戻って来て言った。

「申し訳ありません。等級についてはやはり模擬戦をせよというギルドマスターの御命令がありまして。構わないでしょうか。」

「構いませんよ。」


ギルドの裏手には小さな練習場がある。

そこに案内された僕は模擬戦用の模造刀を選ぶように言われた。

そこで俺が剣を選んでいると、向こうから別の男が来た。さっき僕に足をかけて転ばせようとした奴である。

そいつは僕を見て言った。

「やはりお前は騎士団の犬だろう。俺が叩きのめしてこの街から追い出してやる。」

「はあ、お手柔らかに。」

「俺様はB級だからな。この間も騎士団の犬をこの模造刀で屠ってやった。謝るなら今のうちだぜ。」

「はいはいごめんごめん」

「ムキーっ!バカにしやがって、この疾風のジョン様を本気で怒らせたようだな。」

僕にはどうしようもないのであの受付の女の子を見ると、彼女は無言で腕を上げて「はじめ」の号令をかけた。


疾風のジョンはその名に違わず速攻で僕に襲いかかって来た。結構四方に攻撃を散らしている。頑張っていると言えるだろう。

もちろん、速いとは言っても余裕でかわせるレベルである。

疾風のジョンは全ての攻撃がかわされたことに驚いている。

「ま、まぐれでもかわせてよかったな。でも次はない。うぉおりゃあ!」

疾風のジョンの攻撃はさらに速くなったがその分、攻撃は単調になっているので受け流すのは簡単である。

「どうだい?この辺が限界なのかな?」

僕が煽ると疾風のジョンは「舐めるなあ!」と叫んでもう無茶苦茶に突いてきた。

速いけれど攻撃は雑である。

全力で剣を振り回したためだろう、疾風のジョンは肩で息をしている。

もう隙だらけのジョンの首筋にそっと模造刀を沿わせてやった。

「そこまでっ!」

受付の女の子の声が響いた。

いつのまにか白い髭を生やしたジジイがいた。そいつは「さすが。B級を瞬殺か。」と独り言を言っていたが、あの受付嬢に「よし、決めた。E級スタートじゃ。あのトムのパーティの監視役をやらせろ。」と言って向こうに行ってしまった。

あの女の子はE級と言われた時には驚いた顔をしていたがトムのパーティと聞いた瞬間にニヤッと悪い笑みを見せていた。


カウンターに戻ってきてから「トムのパーティってなんだ。」と聞くと、受付嬢は「私はクララよ。これからあなたの専属受付になるからよろしくね。混んでいても『クララさんをお願い』と言ってくれると優先させてもらうわ。それで、トムのパーティだけれど、明日、E級昇格をかけてダンジョンに潜るからそのかんしをしてほしいの。」

「護衛するのか?」

「まあ死にそうな時は助けてもらえると嬉しいわ。でも基本はE級以上でやってゆけるのか判定して欲しいのよ。」

「もし不合格なら?」

「残念だけれど引退ね。」

「それは責任重大じゃないか。」

「ええ。でもE級の人には初心者パーティが今後やって行けるかどうか判定してもらうのがこのギルドでの通例なの。」

「わかった。それならば善処する。」

「よろしく頼んだわよ。」


「ところでクララ。」

「いきなり名前呼びはドキドキしちゃうわね。」

「ビジネスの関係だ。この辺りに良い宿はないか。」

「このギルドを出てさらに中心部に行ったら色々な宿があるわ。王族が泊まる宿もあるし駆け出し冒険者が使う宿もあるわよ。」

「駆け出しが泊まる宿でいい。」

俺は王族が泊まる宿というフレーズにドキドキしたことを悟られないように冷静に答えた。

「じゃあ灰色のじゅうたん亭ね。結構清潔だし食事も美味しいわよ。」


俺は教えられた「灰色のじゅうたん亭」に向かった。

扉を開けるとフロントがあり、小柄な女の子が座っていた。

「いらっしゃいませ、お泊まりですか?お食事ですか?」

「ああ、一人部屋を頼む。」

「では食事なしの素泊まりで一泊銅貨五枚、食事付きで銀貨一枚です。」

「じゃあ食事付きで。とりあえず一週間頼めるか。」

「はーい、毎度あり!」

俺はレストランの時間と場所を聞いた後、部屋に向かった。質素だが思ったより清潔な部屋だった。ベッドに倒れ込むと瞼が重くなってきたのであった。

「これは晩御飯は食べずに寝てしまいそうだな。」

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