9 スライムの餌
魔王さん、魔王城の管理も大変です。
ある日の魔王城。
僕は相変らず暇を持て余していた。
それもその筈で、今日も今日とて閉園中だ。
「はぁー、やってくれたな」
僕はついつい溜息を付いていた。
タブレットを手にしたまま、気だるげに歩いている。
マントは管理室に置いて来てしまったので、魔王としての威厳も無い。
完全に中間管理職だった。
「ジョイ、アレはダメだよ」
僕はジョイのことを毛嫌いしていた。
本人はとても頑張っているに違いない。
だけど戦い方もそうだけど、仲間への気遣いが全く無い。
色んな意味で、僕は不満を垂らしていた。
「ファメラとウルームだっけ? あの二人は、結構丁寧に壊してくれたね」
僕は目の前の壁を見た。
そこには火属性の魔法で焼け焦げた跡と、鏃が刺さった跡が残っている。
それでも丁寧に壊された跡で、このくらいなら簡単に直せる。
「ゴォー」
「ゴォー」
「ゴォー」
とは言っても、僕が直す訳じゃない。
僕は何度でも言うけど、雑魚中の雑魚。
魔王役をやらされているだけの、義兄弟姉妹の恥晒し。
そんなことをは百も承知で、こんな時のために、常駐してくれているスタッフが居る。
「今日もお疲れ様。この壁もよろしくね」
僕は足下を歩いていた人形に声を掛けた。
全身が石で出来ている。
顔は無機質で、黒丸が二つで目を表現していて、四角い口が付いている。
発声器官が無いせいで、そんなに喋れない。ずっと「ゴォーゴォー」息継ぎのように喋り続けていた。
「本当、ゴーレム兵って便利だね。僕も作れたらよかったのに」
この子達の名前はゴーレム兵。
言ってしまえば、種族的にはゴーレム。
だけど色んな要素を省いて作り出された、量産可能なゴーレムの兵隊だった。
その中でも、壁をせっせと修復してくれているのは、意志を持たない量産型ゴーレム兵。
役目としては、魔王城の中を毎日テクテク歩き回って、壁や床を直す役割が与えられている。
そのおかげかな。魔王城の中は、偶に冒険者がメチャクチャにして行くけれど、数日後にはピカピカに直っている。これも全部、ゴーレム兵のおかげだ。
「でもゴーレム兵って名前は可愛くないな。ミニゴーレムの方がよくない?」
僕はポツリと呟いた。
正直、数は覚えきれないくらい常駐している。
だからいちいちAとかBとか呼べないけれど、総称はそれくらいの方が愛嬌もあって可愛かった。
「ねぇ、そう呼んでもいいよね?」
僕はミニゴーレム達に声を掛けた。
だけど全然聞いてくれない。
完全に僕のことを見ていない。もしかして、舐められてるのかな? まぁ、舐められているのも仕方がないんだけどね。
「「「ゴォーゴォーゴォー」」」
「聞こえてない……か」
一生懸命働いてくれているミニゴーレム達の邪魔をしちゃいけない。
僕は壁の修復を任せると、この場を後にしようとした。
そんな中、僕が着ている服の袖を引っ張るミニゴーレムの姿があった。
「ん、どうしたの?」
何かあったのかな?
表情からは……まぁ、普通は読めないよね。
だけどこの顔は、緊急事態になったらしい。何かあったのか、僕はミニゴーレムに付いて行く。
「ゴォー」
「なにかあったんだね。案内して」
「ゴォー!」
少しだけ声を高くすると、ミニゴーレムは走り出した。
本当に緊急みたいで、僕も急いで付いて行く。
ミニゴーレム、足が短いからちょっと可愛い。一生懸命走っていて、癒された。
「可愛いなー」
「ゴォー!」
僕はウットリしていると、突然ミニゴーレムが叫んだ。
もしかして、癪に障っちゃったのかな?
心配になる僕だったけど、如何やら違うらしい。
「ゴォーゴォー!」
「見ろってこと? ……ん」
ミニゴーレムは訴え掛ける。
この先を見ろって言っているみたいに聞こえたから、視線を通路の先に飛ばす。
僕は知っているけれど、いつもと様子がおかしかった。
「スライム達……どうしたんだろう?」
ミニゴーレムに連れて来られた先。
そこには青い半液状の物体が床を這っていた。
しかも一つだけじゃない。何匹もの個体が蠢いていた。
冒険者なら絶対に知っている。
超有名な魔物で、名前はスライム。
今更言わなくても分かるけれど、如何して動かないんだろう?
凄く元気がないから、僕は心配した。
「どうしたの? なにかあった?」
僕は声を掛けてみた。
するとスライム達が僕の声を聞いて、スッと寄り添う。
にじり寄られると、体をウネウネさせていた。
「えっ、なに?」
僕はスライムの動きに違和感を感じた。
“何かを求めている”様子で、口元に手を当てる。
何か欲しものがあるのかな? そう思ってしまうと、ミニゴーレムは走り出す。
「ゴォー!」
「あっ、ちょっと待ってよ」
ミニゴーレムは走って行った。
一体何処に行く気なんだろう?
背中を追いかけたいけれど、スライム達に取り囲まれちゃって、僕は動けなくなっちゃった。
「「「プギュー」」」
「プギュウ? もしかして、お腹空いたのかな?」
なんとなくだけど、そんな気がした。
スライム達は普段は何も食べない。
実際、ほとんどの魔物は何も食べないのが普通で、スライム何てその代表例だ。
「うちのスライムも餌は要らないんだけど……」
偶にスライムでも、個体によっては餌が必要になる。
けれど魔王城に居るスライム達は、餌を必用としない。
それでもお腹が空いたような反応をするのには理由があった。
「ゴォー!」
「お疲れ様。って、なに持ってるの?」
そこにミニゴーレムが戻って来た。
だけど手には何かを抱えている。
僕の目の前までやって来ると、スッと差し出した。
「袋? これって、除去剤だよね」
僕は袋を受け取ると、書かれている表面の文字を見た。
これは“除去剤”と言って、簡単に言えば、床や廊下の汚れを取るための道具。
うちではスライム達に食べさせているんだけど、ついに空になったらしい。
「空になってる……そっか。これじゃあスライム達が掃除できないんだね」
スライム達は、魔王城の掃除を任せている。
ミニゴーレム達と違って、明確に意思があるおかげで、僕の言うことを素直に聞いてくれた。
そのおかげかな? 今日も今日とて頑張ってくれていた。除去剤が無いと、広い広い魔王城を綺麗にできないって分かってくれている。
「ごめんね、いつもいつもありがとうね」
僕はスライム達を、ミニゴーレム達の働きぶりに感謝する。
みんなが居なかったら、魔王城は今頃崩壊していた。
そう思えば思う程、感謝のし甲斐しかない。
「それじゃあ取ってこようかな。お店の方にあったよね?」
残念だけど、除去剤は魔王城には置いていない。
何故って言われたらアレだけど、もう全部使い切っちゃった。
そのせいもあり、魔王城の外に取りに行くしかない。
「みんなは少し休んでて。すぐに戻って来るからね」
僕はスライム達に休みを与えた。
とりあえず除去剤を取って来ないことには始まらない。
急ぐ必要は無いけれど、とりあえず魔王城を飛び出した。
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