8 閉園時間になりました
部外者は、魔王城からバイバーイ。
「ユイガさん、私はこれからどうしたらいいですか?」
プラシアは漠然とした質問を投げ掛けた。
困った僕は「うーん」と唸り声を上げてしまう。
「どうもしなくていいよ。ちょっと待ってね」
僕は板状の魔導具を操作していた。
タブレットって言う道具で、表示されているのは、魔王城の内部。
僕は魔王城内部の様子を逐一確認すると、プラシアに言った。
「ジョイ達の姿が無いね。逃げ足は相当早いみたいだ」
魔王城は広い。もしかすると、ジョイ達が迷子になっている可能性もあった。
けれど隈なく探してはみたものの、ジョイ達の姿は何処にもない。
如何やら無事に魔王城を出られたようで、胸を撫でた。
「そうですね。特にジョイさんの逃げ足は速いですよ」
「あはは、天下一品だね」
ジョイは勇者なんかじゃない。寧ろ烏滸がましい。
それくらい仲間のことを大切にしていなかった。
と言うよりも、如何やって魔王城最深部まで辿り着けたのか、そっちの方が気になる。
「でもプラシアは凄いね。ジョイを見捨てないなんて」
「一応、仲間……でしたから」
プラシアの言い方が過去形になっている。
まるで今は“仲間”では無いみたいに聞こえる。
僕は問い掛けることをしない。絶対に野暮だって分かるから。
「ちなみに、勇者パーティーとか言ってたよね?」
「は、はい」
「どういう意味? あんな逃げ腰な冒険者が、勇者には見えないと思うけど」
僕が勝手に勇者パーティーと呼称しているだけかもしれない。
それでも、まんざらでは無い表情を浮かべていた。
僕はプラシアに真相を訊ねると、顔色を悪くする。
「憧れているんですよ、勇者パーティーに」
「そうなんだ。憧れるのはいいことだよ。でもね……」
「言ってあげないでください。必死なんです、ジョイさんは」
憧れることは決して悪いことじゃない。
だけど勇者を名乗るには足りない部分が多い。
その中でも、ジョイには勇者は相応しくない。自称することさえ、烏滸がましい。
って、魔王役の僕が口を出すなんて、それこそ烏滸がましいよね。あはは。
「はい、プラシア。そんな話は止めよっか」
僕はパンと手を叩いた。
気分をスパンと切り返ると、タブレットをスッと指でなぞる。
操作するのは魔王城の仕掛けで、僕は管理室の壁を開けた。
「な、なんですか、急に壁が動きましたよ!」
「出口までの直通経路を用意したんだ。少しくらいは、歩けるよね?」
魔王城の中は仕掛けで一杯だ。
タブレット一つで簡単に操作できてしまうと、普段は公開されていない、裏側の状況まで確認ができる。
形もパズルのようにバラバラにできて、外したり繋いだりもお手の物。
管理室から近くの街まで、直通経路を用意することも難しくはなかった。
「壁に入口を作ったから、そのまま真っ直ぐ階段を下りて行けば、自然と街まで戻れるよ」
「えっ、どんな構造ですか!?」
「あはは、それも企業秘密だよ。でもね、これだけは言っておくよ。普段からこんな真似、して上げられる訳じゃないんだ」
僕は厳しいことを口にする。
今回は特別で、僕はプラシアを助けてあげようと思っただけ。
もちろん好意とかじゃない。単純に、仲間に見捨てられたプラシアを可哀そうに思っただけだ。
だからこれからは“死”と常に隣り合わせであることを思い出して欲しい。
確かに魔王城はテーマパークだけど、人死にが出ない訳じゃない。
寧ろ従業員の魔王群の方が生存能力は高いんだ。
「あの、ユイガさん。ここってもしかして、凄いですか?」
「うん、凄いと思うよ」
漠然とした質問に対して、僕は漠然とした返しをする。
するとプラシアは呆けてしまうと、管理室の中を見回した。
ここだけでもプラシアの興味を惹く物はたくさんある。
だけど企業秘密のものも多いから、あまり見ないで欲しいんだよね。
「あの、他にはどんなものがあるんですか?」
「ダメダメ、教えられないよ」
「むぅー、面白そうですよ」
「面白いとかじゃないよ。あったら便利な物ってだけ……まぁ、偶にゴミもあるけど」
いやいや、大抵はゴミでしかない。
実際、成功のためにはそれ以上の失敗が必要。
ギアッド義兄さんもそう言っていたから、全然間違いじゃないんだけどね、あはは。
「あっ、そうだ。プラシアは今日はもう冒険しないよね?」
「は、はい。足がこの状態なので」
プラシアは足を捻っている。
捻挫したのに冒険なんて無理ゲー過ぎる。
僕はその事実を聞くと、タブレットを操作した。
「ちょっと待ってね。閉園するから」
「閉園ですか?」
「そうだよ。ここはテーマパークだからね。閉園しないと、ずっと冒険者が入って来ちゃうでしょ?」
あくまでも魔王城はテーマパーク。
ずっと冒険者の侵入を許す訳がない。
そんな訳にはいかないからか、僕はマジになって答える。
「それはダンジョンなんですか?」
「テーマパークだよ」
「それはそうなんですけど……あの」
今、プラシアが余計なことを言おうとした。
僕はそんな気がすると、流石にこれ以上のマジレスは止めて貰いたい。
そう思うと、プラシアの手を取る。緊張からかな? 熱が伝わって来るも、僕は笑顔を張り付け、プラシアの背中をソッと押した。
「はい、もう閉園時間だからね。帰って帰って」
僕はプラシアの背中を押した。
まだ帰る気が無いみたいだけど、こんな所にいたらダメ。
プラシアは真っ当な冒険者なんだから、こんなテーマパークで油を売ってる暇は無いんだよ。
「ま、待ってください、ユイガさん。私はまだ!」
「プラシアには用があっても、僕には無いんだよ。じゃあね、プラシア。後で秒に行くか、回復役の人に治して貰ってね」
僕は壁にできた出入り口に、プラシアを押し込んだ。
同時に壁が閉じ始めると、プラシアは強制的に魔王城の外に吐き出される。
きっとこれでよかった筈。僕は勝手にそう思うと、意外に楽しかったと思った。
「うーん、やっぱり誰かと話すのって、面白い!」
僕はタブレットを操作しながら、椅子に座った。
まだ温かいのは、きっとプラシアの肌の温もりが残っているから。
あっ、ヤバい。メチャクチャにキモいこと思ったかも。
僕は顔が真っ赤になると、発狂したくなった。
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