7 管理室にいらっしゃい
無いもの尽くし。
だけどユイガは優しいです。
僕は罠を無事にスルーした。
プラシアを連れ、やって来たのはやっぱり通路。
だと思ったら大間違いで、壁には明らかに部屋へと続く扉が設置されていた。
「到着」
僕は足を止めた。
プラシアも足を止めると、隣の部屋を見る。
そこには壁に添うように扉が設置されているだけで、特に面白味もない。
「ここですか?」
そうだよね、そうなるよね。だって、他の部屋と大差ないもんね。
僕も分かってる。全然味がしない。ガムの方が味がする。
それくらい素朴過ぎて、普通に視界の端にも止まらなくて、見逃しちゃうのは無理ないよ。
「そうだよ、ここだよ」
だけどそれがいい。凄く都合がいい。
木を隠すなら森の中とか、そんな言葉があるらしいけど、まさにそれ。
管理室は、少し通路を外れているけれど、本当に視界の端にも止まらない場所にあるんだ。
「それじゃあ入って入って」
僕はプラシアを連れて、扉を徐に開けた。
中に通すと、広がっている部屋の内装に、プラシアは驚いてしまう。
「な、なんですか、この部屋!?」
驚くの無理はないよね。だって、部屋の中に備え付けられている設備はとてつもない。
全部ギアッド義兄さんが作ってくれた、超絶特注の魔導具達。
それこそ見たことも聞いたこともないようなものばかりで、例えば壁には天井に届きそうな大きさのモニターが設置されていた。
「なんですか、この魔導具。ダンジョン内の様子を、映像として出力しているんですか!?」
「正解。流石プラシア、頭いいね」
プラシアの理解力にドン引き。
僕はパチパチと唖然として手を叩くだけの人形になる。
流石にこれの凄さは分かって貰えた。
「もしかして、これを使うことで、四六時中監視が可能なんですか?」
「ねっ、凄いでしょ」
「はい……あの、どんな技術者が背後に付いているんですか?」
プラシアはもの凄―く当然すぎな疑問を浮かべた。
これだけの魔導具を作れる技術者層は居ない。
それこそ、国が囲いたくなるレベルで、残念だけど僕の口からは教えられない。
何せ、プラシアは冒険者。口は堅いだろうけど、変に情報の漏洩は怖いんだよね。
「それは企業秘密だよ」
僕は口元に指を当てた。
可愛い子ぶって×印を作ってみる。
するとプラシアはムッとした表情を浮かべた。
ヤバッ、普通に可愛いんですけど。
「こんな凄い物を見せてくれたのにですか?」
「別に魅せたかった訳じゃないよ?」
「……自慢ですか?」
「違う違う。ここにはね、色々備えてあるんだよ、備えあれば憂いなしってね」
僕がプラシアをわざわざ管理室まで連れて来たのは、ここが何処よりも安全だから。
もちろん、自慢したかった訳じゃなくて、ちゃんとした理由がある。
そう答えると、僕は壁に立て掛けられた棚に寄り、引き出しを一つ開けた。
「確かこの辺りに……えっと、あっ、あった!」
僕が取り出したのは救急箱だ。
中身は当然医療品。普段使いするのは僕くらいだけど、一応中身はパンパンに詰まってる。
あっ、安心して。ちゃんと消費期限は守っているからね。
「プラシア、まだ足は痛むよね?」
「は、はい」
「無理させちゃったね。手当てするよ、だから足を見せて」
ここまで連れて来たのは、プラシアの治療が目的。
回復ポーションを使ってもいいけど、せっかくなら簡潔に治したい。
そう思って救急箱を持って来た僕は、にこやかな笑顔を張り付けた。
「……プラシア?」
僕はプラシアにお願いした。
だけど何故か椅子に座ってもくれないし、足を見せてくれない。
もしかしなくても、変態だって思われたのかな?
それは……うーん、言い返せないと僕は目を細めたけど、如何やら違うっぽい。
「あの、変なことは、しないですよね?」
何を期待しているんだろう、そんなことする訳ないよ。
僕は適当にあしらおうとするけれど、何故かプラシアの顔が赤い。
本気で何かされると思ったのかな? 心外だな。
「する訳じゃないんか。早く、足を見せて」
僕は柔らかい口調で怒った。
プラシアは動揺して、肩がシュンとなった。
傷付いちゃった? うーん、僕悪くないよね。
そう思いつつも、プラシアは椅子に腰を落ち着けて、足を見せてくれる。
「あー、まだ腫れてる。早く手当てしないとね」
プラシアの足はまだ赤い。普通にここまで歩かせたから腫れている。
背負った方がよかったかな? それくらいならできるけど、変態とかセクハラとか言われるのが怖くてできなかった。いや、手を繋いで時点でセクハラか……ああ、終わった。
僕は心が死にかけていた。
それでも手は速やかに救急箱に触れる。
ふたを開けて中から取り出したのは湿布。
世間には何故か広まっていないアイテムだった。
「それは?」
「回復ポーションを染み込ませた湿布だよ。これを貼っておいたら、数日もすればよくなるよ」
回復ポーションは、”飲む”ことで、体を内側から治す。
本当はその方がいいけれど、訳があって体の外側から治す必要がある場合もある。
特に捻挫みたいな外傷は、湿布の方が効果的だって、僕は思ったんだ。
「こんな便利なものまであるんですね」
「うん。僕が提案したんだよ」
「えっ!?」
「あっ、作ったのは僕じゃないよ。あくまで企画したのが僕ってだけ」
僕は何にも持ってない。おまけに弱くてなんにもできない。
だからせめて頭だけは使おうと思った。
それでもギアッド義兄さんのように賢くない。
シャベル義兄さんのようにアグレッシブでもない。
シュトルム義姉さんのように情報通でもない。
イレ―ナ義姉さんのように視野が広くもない。
リミエナみたいに手先が器用でもない。
無い無い尽くしだからこそ、せめてできることをする。
本当にちょっとしたことだけ。
これが僕にできる最善で、それが役に立ってくれるなら、家計の役に立つならありがたかった。まぁ、義兄弟姉妹の誰にも必要ないんだけどね。
「はい、これでよし。ごめんね、これくらいしかできなくて」
「いえ、本当に助かりました。ありがとうございます、ユイガさん」
「あはは、どう致しまして」
建前でも何でもいい。誰かの役に真面目に立てたんだ。
とりあえず受け身で感謝を受け取っておくと、僕は愛想笑いを浮かべる。
正直、回復魔法を使った方が速いんだよね。僕ができるのは、所詮この程度だって分かっていながらも、それでもプラシアは最高に優しかった。ああ、沁みる。
少しでも面白いと思っていただけたら嬉しいです。
下の方に☆☆☆☆☆があるので、気軽に☆マークをくれると嬉しいです。(面白かったら5つ、面白くなかったら1つと気軽で大丈夫です。☆が多ければ多いほど、個人的には創作意欲が燃えます!)
ブックマークやいいねに感想など、気軽にしていただけると励みになります。
また次のお話も、読んでいただけると嬉しいです。