表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/22

7 管理室にいらっしゃい

無いもの尽くし。

だけどユイガは優しいです。

 僕は罠を無事にスルーした。

 プラシアを連れ、やって来たのはやっぱり通路。

 だと思ったら大間違いで、壁には明らかに部屋へと続く扉が設置されていた。


「到着」


 僕は足を止めた。

 プラシアも足を止めると、隣の部屋を見る。

 そこには壁に添うように扉が設置されているだけで、特に面白味もない。


「ここですか?」


 そうだよね、そうなるよね。だって、他の部屋と大差ないもんね。

 僕も分かってる。全然味がしない。ガムの方が味がする。

 それくらい素朴過ぎて、普通に視界の端にも止まらなくて、見逃しちゃうのは無理ないよ。


「そうだよ、ここだよ」


 だけどそれがいい。凄く都合がいい。

 木を隠すなら森の中とか、そんな言葉があるらしいけど、まさにそれ。

 管理室は、少し通路を外れているけれど、本当に視界の端にも止まらない場所にあるんだ。


「それじゃあ入って入って」


 僕はプラシアを連れて、扉を徐に開けた。

 中に通すと、広がっている部屋の内装に、プラシアは驚いてしまう。


「な、なんですか、この部屋!?」


 驚くの無理はないよね。だって、部屋の中に備え付けられている設備はとてつもない。

 全部ギアッド義兄さんが作ってくれた、超絶特注の魔導具達。

 それこそ見たことも聞いたこともないようなものばかりで、例えば壁には天井に届きそうな大きさのモニターが設置されていた。


「なんですか、この魔導具。ダンジョン内の様子を、映像として出力しているんですか!?」

「正解。流石プラシア、頭いいね」


 プラシアの理解力にドン引き。

 僕はパチパチと唖然として手を叩くだけの人形になる。

 流石にこれの凄さは分かって貰えた。


「もしかして、これを使うことで、四六時中監視が可能なんですか?」

「ねっ、凄いでしょ」

「はい……あの、どんな技術者が背後(バック)に付いているんですか?」


 プラシアはもの凄―く当然すぎな疑問を浮かべた。

 これだけの魔導具を作れる技術者層は居ない。

 それこそ、国が囲いたくなるレベルで、残念だけど僕の口からは教えられない。

 何せ、プラシアは冒険者。口は堅いだろうけど、変に情報の漏洩は怖いんだよね。


「それは企業秘密だよ」


 僕は口元に指を当てた。

 可愛い子ぶって×印を作ってみる。

 するとプラシアはムッとした表情を浮かべた。

 ヤバッ、普通に可愛いんですけど。


「こんな凄い物を見せてくれたのにですか?」

「別に魅せたかった訳じゃないよ?」

「……自慢ですか?」

「違う違う。ここにはね、色々備えてあるんだよ、備えあれば憂いなしってね」


 僕がプラシアをわざわざ管理室まで連れて来たのは、ここが何処よりも安全だから。

 もちろん、自慢したかった訳じゃなくて、ちゃんとした理由がある。

 そう答えると、僕は壁に立て掛けられた棚に寄り、引き出しを一つ開けた。


「確かこの辺りに……えっと、あっ、あった!」


 僕が取り出したのは救急箱だ。

 中身は当然医療品。普段使いするのは僕くらいだけど、一応中身はパンパンに詰まってる。

 あっ、安心して。ちゃんと消費期限は守っているからね。


「プラシア、まだ足は痛むよね?」

「は、はい」

「無理させちゃったね。手当てするよ、だから足を見せて」


 ここまで連れて来たのは、プラシアの治療が目的。

 回復ポーションを使ってもいいけど、せっかくなら簡潔に治したい。

 そう思って救急箱を持って来た僕は、にこやかな笑顔を張り付けた。


「……プラシア?」


 僕はプラシアにお願いした。

 だけど何故か椅子に座ってもくれないし、足を見せてくれない。

 もしかしなくても、変態だって思われたのかな?

 それは……うーん、言い返せないと僕は目を細めたけど、如何やら違うっぽい。


「あの、変なことは、しないですよね?」


 何を期待しているんだろう、そんなことする訳ないよ。

 僕は適当にあしらおうとするけれど、何故かプラシアの顔が赤い。

 本気で何かされると思ったのかな? 心外だな。


「する訳じゃないんか。早く、足を見せて」


 僕は柔らかい口調で怒った。

 プラシアは動揺して、肩がシュンとなった。

 傷付いちゃった? うーん、僕悪くないよね。

 そう思いつつも、プラシアは椅子に腰を落ち着けて、足を見せてくれる。


「あー、まだ腫れてる。早く手当てしないとね」


 プラシアの足はまだ赤い。普通にここまで歩かせたから腫れている。

 背負った方がよかったかな? それくらいならできるけど、変態とかセクハラとか言われるのが怖くてできなかった。いや、手を繋いで時点でセクハラか……ああ、終わった。


 僕は心が死にかけていた。

 それでも手は速やかに救急箱に触れる。

 ふたを開けて中から取り出したのは湿布。

 世間には何故か広まっていないアイテムだった。


「それは?」

「回復ポーションを染み込ませた湿布だよ。これを貼っておいたら、数日もすればよくなるよ」


 回復ポーションは、”飲む”ことで、体を内側から治す。

 本当はその方がいいけれど、訳があって体の外側から治す必要がある場合もある。

 特に捻挫みたいな外傷は、湿布の方が効果的だって、僕は思ったんだ。


「こんな便利なものまであるんですね」

「うん。僕が提案したんだよ」

「えっ!?」

「あっ、作ったのは僕じゃないよ。あくまで企画したのが僕ってだけ」


 僕は何にも持ってない。おまけに弱くてなんにもできない。

 だからせめて頭だけは使おうと思った。


 それでもギアッド義兄さんのように賢くない。

 シャベル義兄さんのようにアグレッシブでもない。

 シュトルム義姉さんのように情報通でもない。

 イレ―ナ義姉さんのように視野が広くもない。

 リミエナみたいに手先が器用でもない。

 

 無い無い尽くしだからこそ、せめてできることをする。

 本当にちょっとしたことだけ。

 これが僕にできる最善で、それが役に立ってくれるなら、家計の役に立つならありがたかった。まぁ、義兄弟姉妹の誰にも必要ないんだけどね。


「はい、これでよし。ごめんね、これくらいしかできなくて」

「いえ、本当に助かりました。ありがとうございます、ユイガさん」

「あはは、どう致しまして」


 建前でも何でもいい。誰かの役に真面目に立てたんだ。

 とりあえず受け身で感謝を受け取っておくと、僕は愛想笑いを浮かべる。

 正直、回復魔法を使った方が速いんだよね。僕ができるのは、所詮この程度だって分かっていながらも、それでもプラシアは最高に優しかった。ああ、沁みる。

少しでも面白いと思っていただけたら嬉しいです。


下の方に☆☆☆☆☆があるので、気軽に☆マークをくれると嬉しいです。(面白かったら5つ、面白くなかったら1つと気軽で大丈夫です。☆が多ければ多いほど、個人的には創作意欲が燃えます!)


ブックマークやいいねに感想など、気軽にしていただけると励みになります。


また次のお話も、読んでいただけると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ