6 罠だらけで気を付けて
ちな、下心はないです。
そんなつまんないもの、ユイガ君は興味無いです。
足を捻ったプラシアと手を繋ぎ、ボス部屋を後にした僕。
通路に出ると、流石にジョイ達が待ち伏せしている……何てこと、あり得なかった。
「ユイガさん、何処に向かっているんですか?」
通路に出た僕が真っ先に向かうのは、何よりも安全な場所。
だけど何処とは伝えていないからか、プラシアは目的地を訊ねる。
「管理室だよ」
「管理室?」
管理室。まぁ、管理室なんだよね。
それ以外に説明できなくて、僕は困っちゃった。
「魔王城はテーマパークだよ? 普段僕は、ボス部屋じゃなくて、管理室にいるんだ」
魔王城はテーマパーク。当然管理室は必要で、誰かが見張っていないといけない。
もちろん、外から冒険者がやって来た時がほとんどだけど、魔王城での仕事は、大抵そこだけで完結する。
何せ、魔王役の僕がわざわざ出て行かなくても、雇っている魔王群はみんな優秀。
寧ろ僕みたいな雑魚が一緒に居たら、間違いなく迷惑だって、気付いていた。情けないな、僕は、「あはは」と笑うことしかできない。
「管理室で普段なにをされているんですか?」
「色々かな」
「色々、ですか?」
漠然とした質問には、漠然とした答えを返す。
何せ本当に色々で、基本的には……と、僕は短く説明しようとした。
だけど目の前の通路を見ると、足をピタリと止める。
「おっと、一回ストップ」
「と、止まるんですか?」
プラシアは何故か足を止めた僕に訊ねた。
この通路になにかあるのか、それとも先に待っているのか、興味を持ってくれる。
「あの、先に行かないんですか?」
「うん、行ったら死ぬよ?」
「し、死ぬ!?」
物騒な言葉で僕はプラシアを驚かした。
もちろん脅しなんかじゃなくて、本当に死んじゃう。
だから気を付けないとダメで、一旦足を止めたんだ。
「冗談ですよね?」
「冗談じゃないよ。罠を潜り抜けて来たんでしょ? だったら気が付いている筈だよ」
魔王城の中は入り組んでいる。
迷路みたいな使用になっているのは残念だけど最初から。
僕だって時々迷うことがあるくらい広くて、プラシア達が初見で気が付ける筈もない。
ましてや目の前の通路は、プラシア達使っていないみたい。
「もしかして、罠が仕掛けてあるんですか?」
「あはは、当然仕掛けてあるよ。仕掛けてない場所、無いんじゃないかな?」
魔王所の中には罠がたくさん。仕掛けてない場所はない。
僕が覚えている限りで、確か百個は設置してあった筈。
正直、全部の仕様は覚えていないけれど、本当に危険だから気を引き締めないとダメだ。
「ちなみに、即死ですか?」
「そこ重要? あっ、そっか。他人の怪我は治せる……いやいや、そこは自分の心配しようよ」
“即死”とか如何でもいいよね?
だって、プラシアを始めとした回復役は、自分の怪我は治せない。
治すにしても相当魔力を使うから、心配するなら自分の身を案じて欲しい。
必死でその想いを伝えると、クスッと笑われてしまった。
「ふふっ、やっぱり優しいですね、ユイガさんは」
「優しい方がいいでしょ? 世間体もさ」
僕はもしかしたら優しい方かもしれない。
それは義兄弟姉妹からも何度も言われてきた。
だから僕みたいな中途半端が、魔王役なんてやったらダメ。
あー、如何してなっちゃったのかな? 本当あの時の僕に言ってやりたい。
「それもそうですね。ですが……」
「ん?」
プラシアも肯定してくれた。嬉しい。
楽観的な態度を取る僕だけど、プラシアは持っていた杖を僕の喉元に突き付ける。
突然のことに動揺すると、僕はキョドっちゃった。
「な、なに? もしかして、やる気? 今ここでやるの?」
流石にここなら僕でも勝てる。
だけど戦いたくはないなー、何て、甘い考えだった。
でも、足を怪我しているプラシアなら、ちょっと押せば倒れちゃう。
罠だらけの通路で勝ち目なんてある訳がないからか、プラシアはすぐに杖を下ろした。
「冗談ですよ」
「冗談って、面白くない冗談は止めてよ」
「ふふっ、そうですね。今後が気を付けます」
いやいや、今後とかないから。
命は一つしかないんだよ……まぁ、僕達はそう簡単には死なないけど。
一人でボケとツッコミを成立させた僕は、プラシアの手を引く。
「それよりこっちに来て」
「えっ、ユイガさん?」
僕はプラシアを誘導した。
目の前の通路は凄く危ない。
だけど一つだけ豆知識がある。通路の隅っこ、薄っすらと白い白線が引いてある。
はい、なんのためでしょうか? 正解は……
「この白線の外側を歩けば、罠は作動しないから」
「そうだったんですか! 知りませんでした」
「あっ、他の冒険者には言っちゃダメだよ。ここだけの秘密ね」
「はい、秘密ですね、二人だけの」
何が嬉しいのかな? うーん、分からないな。
でも、プラシアはきっと口が堅い筈。
僕はそう信じると、プラシアを連れて通路を突き進む。
すると本当に罠が一つも作動しなくて、プラシアは驚いている。
「本当ですね。罠が作動していません」
「あはは、ちゃんと設計してるからね(ギアッド義兄さんが)」
僕は全く罠の配置には関わってない。
だから、完全に他人事になっていた。
「あの、本当に作動するんですか?」
「作動するよ。試してみる?」
僕はポケットの中からメダルを取り出した。
金色のメッキコーティングが施されたメダル。
ミミックの中によく入っているアイテムで、価値はあるけれど、原価は実は凄く安い。
「そのメダルって……」
「ほいっ!」
僕は通路に放り投げた。
するとメダルが通路の床にコツンと当たる。
鈍い音が聞こえた瞬間、床からグサリと鋭い針が突き出た。
バシュン!
天井まで針が伸びていた。
結構出るんだなーって、僕はギアッド義兄さんの技術に改めて感心させられた。
「キャッ!」
「いや、凄いよね、この罠」
プラシアは悲鳴を上げた。普通に可愛かった。
だけど抱き着くのは止めて欲しいな。
最低かもしれないけど、こんな狭い白線の外側で抱き着かれたら、僕に全体重が乗る。
うーん、正直……やっぱり止めとこう。
「分かったでしょ、プラシア。ちゃんと作動するって」
「は、はい。他の罠と似ていて違いますね」
「あはは、そうだね。それじゃあ行こうか」
僕はプラシアを連れて、一旦管理室に向かった。
通路に張り巡らされた大量の罠を掻い潜る。
いや、僕でも死ぬかもしれないって恐怖がすぐ隣にあると、やっぱり緊張感が違うなって、僕は思っちゃった。
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