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4 魔王城の機密事項

魔王が勇者パーティーの回復役に優しくする理由。

それは……優しいから。

「殺す気が無い、ですか?」

「もちろんだよ。殺すなんて真似、僕はよっぽどがない限りしないから」


 まぁ、したくないのが本音で、そもそも僕の実力じゃ逆に殺される。

 表情には出さないけれど、心の中の僕はアホだった。

 少女一人、しかも動けないことをいいことに、余裕な素振りで構えている。


「あの、ここで私が抵抗したら、どうしますか?」

「嫌なこと訊くね。その時は……」


 確かのプラシアが抵抗しないとは思えない。

 いざとなった時の人間って、本当に怖い。

 火事場の馬鹿力って奴だよね? 本当生きてる物って、マジで怖い。

 僕は心底臆病になると、引き篭もりたくなった……けど、できない。


「僕の友達になって貰う、かな? 強制的に」


 僕は脅しのつもりでプラシアに詰め寄った。

 殺意は篭っていないけれど、得体のしれない何かをその目に宿す。

 プラシアは目を逸らせない。代わりにジッと見続けると、クスッと笑う。


「なんですか、それ? 友達にくらい、いつでもなりますよ」


 プラシアは面白かったのか、口元に手を当てて笑っている。

 いやいや、普通に考えて欲しいな。僕、一応魔王城の魔王だよ?

 そんなに舐められているのかな、僕って。


「プラシア、僕は魔王城の魔王だよ?」

「はい、そのようですね」

「そんなに余裕ぶってていいのかな?」

「……確かに余裕はないです。私は、うっ!」


プラシア自身も、余裕がある訳じゃないらしい。

 何故か足を庇っているのが気になる。

 そんな状態で立ち上がろうとしたけれど、苦しそうな声を上げて、膝を付いている。


「大丈夫? さっきから足を気にしてるけど?」

「は、はい。ううっ……」


 やっぱり足を気にしているんだ。

 もしかして怪我でもしたのかな?

 ジョイの愚行の巻き添えを喰らったんだから、その可能性の一つや二つ、全然あるよね。


「足を捻ってしまったみたいで」

「足を捻った? ちょっと見せてよ」

「えっ、あ、あの、キャッ!」


 僕はプラシアのスカートを捲った。

 足首を捻ったってことは、きっと捻挫だ。

 酷くなる前に治療した方がいい。


「ああ、赤くなってる。足首を捻挫したんだね」


 案の定、プラシアの右足首が赤い。

 ジョイに押し倒された時、足首を捻ったんだ。

 そんな仲間を置いて行くなんて、本当にクズだと思った。


「どうしよう、ここにはまともな薬が無いんだよね」


 今僕達が居る部屋は所謂ボス部屋。

 回復ポーションみたいな便利な薬は置いていない。

 僕も今日は手持ちが無くて、今すぐに治療ができない。

 本当情けないよね、僕は心の中で溜息を漏らす。


「ちなみにだけど、プラシアは回復役(ヒーラー)だよね?」

「はい」

「自分の怪我、自分で治せる?」


 プラシアは見た目通り、回復役だった。

 回復薬とは文字通り、回復魔法が得意で、パーティーの要。

とは言え自分の怪我を治せる程、回復役は万能じゃないのも知ってる。

だって、イレ―ナ義姉さんやリミエナが特別なだけだって、充分知ってる。


「いえ、流石にそこまでは」

「難しいよね。えっと、ここは僕が治して……あれ?」


 プラシア自身が治せないなら仕方ない。

 ここは予定外だけど、僕が治してあげよう。

 そう思ったけど、今更気が付く。大事な魔導具を持って来てなかった。


「そっか、戦う予定無いから」


 僕にには最初から戦う気なんて無かった。

 ここに来ただけでゴールの予定だった。

 だから武器は部屋に置いて来ちゃったことを思い出すと、表情が瞬く間に険しくなる。


「ごめん。今の僕じゃ治せない」

「あっ、気にしないでください。これも私の実力不足が招いたんです。私は、知らぬ間に自分の力を過信していたのかもしれません」


 プラシアは自分の責任だと抱え込んだ。

 全然そんなこと無い、初心者にはよくあることだもんね、多分。

 せめて回復ポーションが一つでもいいから残っていればよかったのに。

 ふとそう思い、僕はプラシアに訊ねてみた。

 

「ちなみに、ポーションは?」

「それが、その……」


 プラシアは腰のベルト、取り付けていた鞄に手を回す。

 ウエストポーチのようで、中には瓶が入っている。

 だけど全部割れてしまっていて、液体が漏れ出ていた。


「粉々だね」

「はい。ジョイさんとぶつかった時でしょうか?」

「あの時か……」


 本当にロクでもない自称勇者だなって、僕は改めて卑下する。

 ジョイのせいで、回復ポーションが全部割れてしまうなんて。

 とっても可愛そうに思った僕は暗い顔をすると、逆に気を遣わせちゃったみたいで、プラシアは話をスッとすり替えた。


「それにしても、このダンジョンは凄いですね」

「うん、頑張ったからね」


 僕はプラシアの雑談に付き合ってあげた。

 足の痛みを堪えるプラシアに、せめてできることをして上げようと思った。

 それが会話の相方。僕にはそれが限界だった。


「大変ですよね、このダンジョン。魔王城でしたよね?」

「うん。僕達の家だから、シッカリ手入れをしないと、壊されたくないでしょ?」

「それもそうですよね。魔王さんの……あれ?」


 僕達はこの城に住んでいる。

 だから冒険者とか雇っている魔物達に壊されるのは腹立たしい。

 シッカリと手入れを怠らないのは、まさしくそのためだった。


「もしかして、魔王さんは?」

「魔王じゃないよ。今は休憩中、僕のことはユイガって呼んでよ」


 僕は自分の本名を明かした。

 だって今は休憩中。これ以上、冒険者が魔王城に足を運ぶことは、しばらくない。

 だから全然公開してもいい情報で、僕は笑って答えた。


「ユイガさん?」

「そう、僕の本名。魔王はただの役だよ」


 僕は所詮、偽物の魔王。

 本物だった義父さんには遠く及ばない。

 だから弱い僕が魔王役を引き継ぐなんて、もの凄く烏滸がましいんだ。


「役ですか? あれ、可笑しいですね。ここはダンジョンで、魔王城で」

「それは合ってるよ」

「ですよね。でもユイガさんには殺意が無くて……あれ? まるでこれじゃあ」

「お芝居、みたいでしょ? どうだった、参加型演劇は」


 僕は真っ当に魔王役を演じきれたかな?

 それっぽく振舞って、プラシア達を楽しませることができたかな?

 色んな意味で不安になるけれど、僕だってまさかこんな目に遭うとは思わなかった。

 プラシア達勇者パーティーを相手にするとは思ってなかったけど。

 僕は薄ら笑いを浮かべる中、プラシアはキョトンとした顔をする。


「ユイガさん、ソレってつまり」

「あれれ? もしかしてプラシア、ここが本当に魔王城だと思ってるの?」


 僕は不意に疑問に思った。

 確かに世間一般的には、ここは魔王城。

 そう言う名前のダンジョンとして、名が通っている。


 だけどこの魔王城を、普通のダンジョンだと思ったらダメ。

 寧ろ冒険者なら、もっと疑って掛かるべき。

 何せこのダンジョンに入るためには、幾つもの関門が待っていた。


「はい。冒険者ギルドからはそう聞いていますよ」

「そっか。それじゃあ残念だね、お疲れさま、プラシア」

「えっ、ど、どう意味です?」


 プラシアが困惑するのも無理ないよ。

 だって魔王城は、冒険者達の想像通りのダンジョンじゃない。

 危険極まりない。名前からしても悍ましい。

 勇者を自称する冒険者達がワンサカやって来る、とんでもなくレベルの高い……


「レベルの高い、テーマパークなんだ(・・・・・・・・・)よね(・・)


 僕はぶっちゃけちゃった。

 正直、プラシアには言っても他言しない。

 なんとなくそんな信頼を勝手に寄せると、僕は「あはは」と笑っていた。

少しでも面白いと思っていただけたら嬉しいです。


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また次のお話も、読んでいただけると嬉しいです。

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