3 新米勇者パーティー、壊滅
本人は確かに最弱かもしれない。
だけど武器と防具は最強なのだ。
(さてと、ここからどうしよう)
正直計画は何にもない。
ただ威張って啖呵を切っただけ。
僕は自分から窮地に立たされていた。だって、多分だけど目の前の新米勇者パーティーと戦っても、勝てる目途全く見えない。
「ふざけやがって。おい、プラシア。魔法を掛けてくれ!」
「本当に敵なんですか?」
「おい、プラシア、早くしろよ!」
ジョイはプラシアに怒鳴っていた。
可哀そうだなって思うけど、そんな顔をしちゃいけない。
ほら、今だってこっち見てる。僕の心を見透かそうとしている。
「分かりました。汝に与えしは雷の源、稲妻よ纏え—ライトニング・エンチャント」
プラシアはジョイの手にした剣に、魔法を付与させた。
雷を付与する魔法なんて、普通に高難易度だ。
僕は魔法が一切使えないから、羨ましいなって思った。
ビリビリビリビリ!
ジョイの腕が震えている。
それもその筈、プラシアも付与魔法に剣が耐えられない。
剣身がプルプル震えると、僕は一応警戒した。
「よっしゃ、これで勝てるぜ!」
ジョイは勇猛果敢だった。
自信を疑う気が一切無い。
冒険者には必要な素養らしいけど、何だろう、あまり強そうに見えない。
「おい、ファメラ&ウルーム、俺を援護しろよ!」
ツンツン魔法使い=ファメラと不思議ちゃん弓使い=ウルーム。
二人はジョイに急かされたので、仕方がなく魔法と弓矢を番えた。
僕に狙いを済ませると、ジョイの掛け声に合わせて攻撃を開始する。
「汝に与えしは火の源、放つは火球の礫—ファイアボール!」
「みんな~応えてね~—ウインドアロー!」
ファメラとウルームの遠距離攻撃。
ファメラは正確に魔法を詠唱して、高威力でファイアボールを放つ。
それに対してウルームは適当で、まるで友達感覚で魔法を放った。
「ふん、その程度の攻撃、この僕に効くと思っているのか!」
「思ってねぇよ!」
僕は羽織っていたマントを翻す。
もう一回攻撃を弾いてしまえばいいんだと思った刹那。
真正面から、ファメラとウルームの魔法を囮に、ジョイが突っ込んで来た。
「お前を倒すのは俺だ魔王、とっとと死にやがれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
ジョイは床を蹴り上げ、僕に再び真っ向から挑んできた。
掲げた剣を振り下ろすと、僕の首を取ろうとする。
威勢が本当にいいけど……何だろう、弱そう?
「(ふん)邪魔だ」
僕は飛び掛かって来たジョイのお腹に蹴りを入れた。
まさか当たるとは思っていなかったけど、咄嗟の判断が見事にハマる。
「ぐはっ!」
「あ、あれ?」
ジョイは派手に転んでいた。
全身を床に強く打ちつけると、苦しそうな顔をする。
表情が瞬く間に歪むと、お腹を押さえて倒れ込んだ。
「く、クソがよ……俺の剣が、通用しない?」
「ジョイの剣じゃなくて、連携がでしょ?」
「これじゃあ勝てるものも勝てないよ~」
ジョイは自分の力が通用していないと思い込んでいる。
それじゃあパーティーじゃないよ。
呆れる僕を目の前に、パーティーメンバーからも罵倒される。
本当に新米勇者パーティーみたいで、ちょっとかわいくて可愛そうに見えた。
「ジョイさん、怪我はしていないですか?」
「おい、プラシア。早く回復しろよ!」
「分かってます……あれ?」
プラシアはジョイのことを心配していた。
流石に転んだから、何処か怪我をしているかも。
怒れるジョイを丁寧に包み込みつつ、プラシアは違和感を覚えた。
「怪我を、していないみたいですよ?」
プラシアは首を捻った。
ここまで冷静に状況を分析して来たプラシアだ。
ジョイが一切怪我をしていないことで、ある程度の答えに辿り着いた。
「もしかすると、危害を加える気が無いのかもしれません」
正解。僕は全然危害を加える気がないよ。
だって、まともに戦っても僕が勝てる未来が見えない。
それならせめて、少しの怪我で帰って欲しい。素直にそう言いたいけれど、絶対に聞いてくれないからこそ、こうやって本気で戦ってるんだ。
「危害を加えるつもりがない? それって……はっ、バカみたいね」
「ファメラ~?」
急にファメラはやる気を無くした。
魔法の詠唱を止めると、両手を腰に当てる。
そんなファメラに、ウルームは不思議に思った。
「バカらしいわ。賞金が出るって言っても、戦う意思もない相手と、殺し合いなんてしないわよ」
「う~ん、一応魔王だよ~?」
「そうだとしてもよ。こんなんじゃ、なんの自慢にもならないわ」
ファメラはツンツンしていた。
仮に僕が本当に魔王だとしても、敵意が無い相手と戦っても自慢にならない。
だから見逃してくれるみたいで、本当にツイていた。
「ジョイ、パーティーは解散よ。私は帰るわ」
「な、なに言ってんだ、ファメラ!」
本当に何言ってるんだろうね?
だけどコレは凄いチャンスかもしれない。
勝手に分裂してくれたおかげで、僕は胸を撫でた。
「じゃあね、私は帰るわ」
「じゃあ私も帰る~」
ウルームも戦いから一歩退いた。
面倒臭そうに弓を下ろすと、大きな欠伸を掻く。
「ウルームまで!? なんだよ、絶好の機会なんだぞ」
ジョイは援護を二人も失った。
最初から本気で戦う気もないプラシアしか残っていない。
こんなバラバラな勇者パーティーじゃ、僕じゃなくても誰も倒せない。
「ジョイさん、ここは一度退きませんか?」
「ふざけんなよ。ここまで運よく辿り着いたんだ。ここで負けてられるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
ジョイは援護を完全に失っていた。
それでも勇敢と無謀を履き違えて飛び込んでくる。
本当に威勢だけはいいんだよな……って、舐めてたら僕が死んじゃう。
「死ねっ、魔王!」
「嫌だな」
僕はマントで軽く払った。
ジョイの振り下ろした剣戟を簡単に弾いてみせる。
するとパリィが成功したみたいで、ジョイの体がペッキリくの字に折れた。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「ジョイさん!? うっぶ!」
ジョイは後ろに吹き飛んだ。
そのままプラシアにぶつかって倒れてしまう。
巻き込まれたプラシアが可哀そうだなーと、僕は他人事に思っていた。
「くっ、痛てぇ……おい、プラシア、邪魔だ退けろ!」
「うっ、すみません。ううっ……」
ジョイはプラシアをクッションにした。
それだけでも最低だけど、口がとにかく悪い。
本当に勇者パーティーなのかな? それとも、自称勇者なのかな?
今になって、僕はジョイの品位を疑った。
「おい!」
「な、なんだよ、やる気か、俺とやる気か!?」
俺はユックリと詰め寄った。
マントを大きく使い、威圧感を演出する。
ジョイはそんな見せかけの殺気に気圧されると、足を竦ませ震えていた。
「や、やるのか、いいぜ、俺は負けねぇ!」
ジョイは剣を構えていた。
正眼に構えたつもりみたいだけど、腰が据わってない。
寧ろ抜けていて、足だけじゃなくて重心がブレブレだった。
「いや、あの、その……本気だぞ、俺は本気だぞ!」
本気なのは伝わるよ。でも全然怖くない。
だって、威勢が完全に消えてるから。
流石に僕でも倒せるかも。ジョイの底が知れた瞬間だった。
「ううっ……覚えてやがれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
ジョイは恐怖心を感じた。
殺気の一つも飛ばしていない僕に覚えきってしまう。
尻尾を撒いて逃げ出すと、仲間に置き去りにされ、その上で唯一残ってくれた仲間を置き去りにした。
「じょ、ジョイさん!? うっ、足が」
プラシアは足を捻ってしまったらしい。
まともに立ち上がれずに、床に倒れ込んでしまった。
本当に僕でも分かる。クソ最低な冒険者だった。
「嘘でしょ? 仲間を置いて行くなんて……はっ」
僕は溜息を付いていた。
本当にクソと言うよりもクズだと思ったからだ。
仲間からも見捨てられ、そんな仲間を見捨てる。如何しようもない奴だなって、心底軽蔑する……してもいいよね?
「あ、あの、私をどうするつもりですか? もし殺そうという気なら、私だって」
プラシアは杖を握り締めた。青いクリスタルが輝く聖杖。
イレ―ナ義姉さんも似たようなものを持っていたけれど、それとはまた別物みたい。
自分の身を護るように、杖の先端を僕に突き付けるけれど、その目は訴え掛けていた。
「いや、そんなことしないよ。だって君は、僕に殺意が無いでしょ?」
「えっ?」
僕はプラシアに殺意が無いことを見破っていた。
って言うより、言動からして絶対にあり得ない。
その予想は当たっていたみたいで、プラシアはキョトンとした顔をすると、命懸けの賭けに僕は勝ったと確信した。
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