2 VS勇者パーティー
ユイガ・ボンディング。
それは家族の落ちこぼれ。
最弱の魔王である。
「ヤバいな、どうしよう」
無駄に広いだけの部屋の中。
明らかに雰囲気が異質で、ズッシリと重い。
息苦しくなりそうな程、ボス部屋感の漂う部屋で、僕は慄いていた。
「まさか、本当にここまで来ちゃうなんて」
顔に出したくは無いけど、つい本音が出てしまった。
だって、まさかこんな目に遭うなんて思ってなかった。
もしかして、この部屋までの警備が手薄だったのかな?
嫌だな。僕は率直な感想を心の中で唱えた。
「はぁはぁ……ついにここまで辿り着いたぞ、魔王」
綺麗な金髪の少年剣士が、僕に剣を突き付ける。
息を切らして肩で呼吸をしていた。
相当ダメージを負ったみたいで、纏った鎧がボロボロ。
代わりに体には傷一つ無く、何故か綺麗なままだった。
「えっとー、あのー、そのー」
少年剣士の言い分に、僕は迷っていた。
何て言い返せばいいのか、全然分からない。
ましてや僕の正体が“本物の魔王”だと勘違いしていた。
「うん、よく来たね」
とりあえず適当に返しておく。
言葉に深みも無ければ箔もない。
ましてや、相手を気圧すような圧迫感の一つもない。
「は、はぁ?」
少年剣士は目を見開いた。
眉間に皺を寄せ、唖然としてしまう。
それもそうだよね。だって僕だって同じ顔すると思うもん。
「なによ、アレ。魔王っぽく無いわよ?」
「そうだね~」
「お、おい、油断するなよ。これも俺達を油断させる演技かもしれないだろ」
少年剣士の傍には、少女達が何人も居た。
一人はツンツンした赤毛の魔法使い。もう一人はポワポワした緑髪の弓使い。
二人の想像と判断は凄く正しい。もっともです、僕は本物の魔王じゃないからね。
だから少年剣士君、無駄に詮索して、警戒しないで欲しいな。
「おい、魔王! お前の野望はここまでだ!」
「……」
野望なんて何にもないんだけど。
えっ、もしかして本気で信じてる?
ここまで来た人、国の偉い人達かユーリャみたいなメチャクチャ強い人達しかいないんだけど。
「こういう時、どうしたらいいんだっけ」
僕は記憶の彼方に意識を飛ばす。
確かイレ―ナ義姉さんが作ってくれたマニュアルが、僕のことを助けてくれる筈。
思い出せ、急いで思い出せ。眉間に皺を寄せ、僕は必死に思い出そうとした。
「確かこういう時は……」
「おい、魔王。俺の……新時代の勇者の攻撃を受けてみろ!」
少年剣士は、僕に突き付けて来た剣に魔法を付与する。
ビリビリと電気を纏って輝き出すと、ニヤリと笑みを浮かべる。
床を蹴ると、勢いよくかつ強引に、僕との距離を詰めた。
「死ねっ、魔王ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
距離を詰め、勢いも付けて、飛び掛かって来た。
ビリビリと電気を纏った剣身が僕に襲い掛かる。
触れたらヤバい、当たったら死ぬ。僕はそう思うと、咄嗟に身に付けたマントを払った。
パァーン!
「な、なにぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!?」
マントを払うと、少年剣士の攻撃を弾いた。
剣身に纏っていた電気が、一瞬で散らされた。
本当に凄いなこのマント。リミエナが編んでくれた魔導具に助けられた。
「く、クソがよ!」
少年剣士はあからさまに機嫌を悪くした。
「チッ」と舌打ちをすると、背後に視線を飛ばす。
そこに居たのは、ここまで何もせず、ただ傍観を決め込んだ少女。
柔らかい小麦色の髪、聖職者の服に身を包んだ少女だった。
「おい、プラシア。魔法が効かないぞ!」
「あの、ジョイさん。あの方は、本当に敵ですか? 私達が倒すべき悪なんですか?」
少女聖職者=プラシアは広い視野を持っていた。
僕に対して、一切敵意を向けていない。
それ所か、倒すべき敵である筈の僕に対して、“本当に?”と迷いを見せた。
「プラシア、なに言ってるのよ!」
「そうだよ~。どのみち倒せば賞金が手に入るんだよ~」
少女魔法使いと、少女弓使いは最もなこと言った。
一応、僕を倒せば“賞金が出る”ことになっていた。
正確には少し違うけれど、そう言う意味でも、二人の少女の反応は真っ当だった。
「ここまでの道中で、相当金を吸われたんだ。明日の飯代のためにも、なんとしてでも勝たねぇとダメだ!」
「それはそうですけど……」
少年剣士=ジョイは生活感丸出しだった。
ここで勝たないと未来がない。明日のご飯も食べられない。
分かる、凄く分かる。同情する……けど、僕達だって同じだ。
ここで負けたら、明日のご飯を美味しく食べられない。
「お互いに、負けられない理由がある……か」
皮肉な話だった。
だけどそれも仕方がないことで、お互いに譲れない信念と事情がある。
僕にだって当然あって、そう簡単に死ぬ気は無いし、そもそも死にたくない。
だけど一応僕にだってつまらない立場がある。
ここで負ける訳にはいかない。そう思うと、イレ―ナ義姉さんが叩き込んでくれたマニュアルも忘れる。
ソレっぽい態度でジョイ達勇者パーティーを讃え、相対することを決めた。
僕にどれだけ務まるのかな? 正直、勝てる未来が見えないけど、やるしか道がない。
「はぁ……仕方ないよね」
僕は生きを整えた。
あんな怖い顔をされたら、僕もそれっぽく振舞わさないとマズい。
普通に殺される勢いで、ここは言動で威嚇する。
「新米勇者パーティーよ、よくここまで来たな!」
僕は改めて口調を変えた。
ジョイ達勇者パーティーの新米加減を煽り文句に返る。
目を見開き、魔王っぽい威厳を見せつけた。
「僕が仕掛けた数々の罠を潜り抜け、刺客達を打倒してきたようだが、それもここまでだ」
結構、エグい罠が仕掛けてあった筈なんだけどな。
やっぱり、配備していた魔物の数が少なかったのかな?
そうなんだよね。今、城に常駐している魔王軍の総数、全然足りないんだよね……あはは。
「褒めてやる。だがな、お前達の命は無い。この僕が、お前達を倒すからだ!」
確かにここまで来たのは凄い。
まさか僕が戦う羽目になるなんて想定外。
震える唇を噛み潰すと、頼りない殺気をぶつける。
「さぁ、始めようか。圧倒的な戦力差、その威圧感にひれ伏すがいい!」
僕は両腕を大っぴらに広げた。
胸を貸す気持ちでジョイ達、勇者パーティーを煽った。
これが僕にできる最大限の敬意で、寧ろこれ以上は期待しないで欲しい。
正直僕だって恥ずかしいんだから、早く終わらせて引き篭もりたいって、あまりにも消極的な反応を見せてしまった。
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