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(5)――「宿泊って……」

「欠航?」

 そういえば帰りの時間を聞いていなかった、ということに気づいたのは、夕方頃だった。

 慌ててバスを降りた場所へ戻った僕たちだったが、担当者からは無情にも帰りの便の欠航を知らされたのである。

「こちらの不手際で、申し訳ありません」

 頭を下げ謝罪した担当者は、ですが、と続ける。

「ご安心ください。ここには街で管理している空き家が複数ございます。本日ご来訪いただいた皆様がお泊りいただけるだけの数を有しておりますので、本日はそちらにご宿泊いただければと思います」

「宿泊って……」

「地図はお持ちですか? ああ、ありがとうございます。眞内様方は、こちらの家をご利用くださいませ。宿泊に必要なものは揃っておりますので、ご安心ください」

 僕は絶句した。

 日帰りだと思っていたから、泊まりの用意なんてしていないこともあるが。

 これでは、麻耶とひとつ屋根の下で過ごすことになってしまうのだ。

 仮にも彼女は、婚約している彼氏が居る身だ。いくら幼馴染とはいえ、男の僕と一晩共にするのはよろしくない。

「あ、ここって眺めが良かった辺りじゃん。やったね、蛍介」

 しかし麻耶はといえば、危機感のきの字もない状態だった。

「あのなあ、麻耶……」

「お泊り会なんて子どもの頃以来だね。楽しみ~」

「……」

 これだけ無警戒だと、身を固くした僕のほうが馬鹿らしくなってきてしまった。いや、これは幼馴染としての信頼の証なのだろうか。

 もちろん、彼女になにか不埒な真似をするつもりなんて毛頭ない。そもそも、こうして麻耶と二人ででかけていること自体、恐らくは彼氏さんから許可をもらってきているのだろうし。それなら、僕から言うことは、もうないのかもしれない。

 それなら、まあ、良いか。

 僕は肩を竦めて、地図を確認した。割り当てられた家までに向かう道中、ちょうど商店街通りがある。

「それじゃあ、夕飯を適当に買って、ここに行くか」

「うん!」

 そうして食料を買い到着した空き家というのは、至極一般的な一軒家だった。小ぢんまりとし過ぎず、大き過ぎることもない平屋である。

「テレビの電波は届かないけど、DVDがたくさんあるね。うわ、これ懐かしい! ねえ蛍介、今晩これ観ようよ」

 買ってきた食料品を冷蔵庫に仕舞う僕の背に、リビングからは麻耶の楽しそうな声が聞こえてきた。

 これはそう、家族旅行みたいなものだ。

 そう考え、僕は意識的に肩の力を抜く。

「待って、僕もなにがあるのか知りたい。それから決めよう」


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