表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/27

叔父の登場⁉ 迫るまさかの退職勧告!

 出社途中、瑤姫は車窓に映る自分の表情を、無意識に見つめていた。


(……考えないようにしてるのに)


 優しく触れる手。

 囁くような声。

 熱を孕んだ視線に、抗うことなどできなかった。


 あくまでも、契約結婚。

 それでも、あの夜を境に、心が揺れ始めているのは事実だった。


(考えてもしかたない。今日は仕事に集中)


 気持ちを切り替え、スケジュールを確認する。


 新規案件の打合せが、万田から共有されていた。


 万田は前社長の急逝を機に退職したが、真人の本部長就任時に復職。


 現在は真人のブレーン的存在で、接点はあまりなかった。


(なんで私に相談を……)


 真人は同席しない。

 それが一番、違和感があった。


***


  会議室の扉をノックすると、中から万田の声が返ってきた。


「お時間をいただき、ありがとうございます」


 年も社歴も下の瑤姫に、万田は深々と頭を下げる。


「いえ、こちらこそ。まさかあなたに、相談されるとは思いませんでした」

「依頼主が、どうしてもあなたに会いたいと言っていましてね」


(なんだそれ。意味が分からない)


 瑤姫は眉をひそめた。


「じつは、もう来ているんですよ」

「えっ?」


 ——コンコンコン。


 会議室のドアがノックされる。


「よっ! 久しぶりだなぁ、おタマ」


 軽いノリで現れた依頼者に、瑤姫は言葉を失った。


「……叔父さん」


 宗正の弟、二宮 幸臣ゆきおみ


 真面目で責任感の強かった宗正とはちがい、幸臣は「二宮家の数奇者」と呼ばれるほど風変わりな人だった。


 まるでそれを体現しているかのように、相変わらず個性的なファッションをしている。

 よくこんな奇抜な格好で受付を突破できたな、と感心してしまうほど。


「久しぶりの再会に感動してんのかぁ〜?」


 茶化すような幸臣の言い方に、瑤姫はムッとする。


「……なんのご用ですか?」

「そんな怖い顔すんなよ〜! せっかくの可愛い顔が台無しだぞ?」


 幸臣は隣の万田に「オレの姪っ子、カワイイだろ?」とからむ。


 恥ずかしさでカッとなった瑤姫は、バンッと机を叩いた。


 さすがの幸臣も口を閉ざし、姿勢を正す。


「……で? ご用はなんでしょうか?」


 こりずに軽口を叩こうとする幸臣に、瑤姫はギロリと睨みをきかせた。


「分かった分かった! もうふざけない! 真面目に話すから!」


 観念した幸臣が、コホンと咳払いをする。


「いやね。用ってほどの用もねぇんだが、ここ最近、瑤姫の名前があちこちで聞こえてきてよ。ちょっと顔を見に来たってのが本音でね」

「……は?」

「あれこれ噂で聞いたぞ? 十鳥の土地を買収したとか、三島をねじ伏せたとかよぉ」


 耳に覚えのある名前に、瑤姫の表情が揺れる。


「だけど別にお前、会社のためってわけじゃぁねぇんだろ?」


 見透かすような視線と物言いに、瑤姫はビクッと肩を震わせる。


「お前がなにをしたいか、だいたい見当はつく」


 幸臣の声色が、わずかに低くなる。


「だから、言いに来た。——退職しろ」


 会議室に静寂が落ちる。


「……はあ?」


 瑤姫は眉をひそめた。


「転職したのも、あの土地を取り戻すつもりなんだろ? だけどそれは……お前には無理だと思う」


 その一言で、胸の奥に熱がこみ上げた。


(なんで……そんなことまで)


 ドクンッと鼓動が跳ね上がる。


「買収は、お前じゃムリ」


 ガッと血が上り、頭が真っ白になった。


「ここにお前がいる意味は——」


 ガターン‼︎


 椅子が激しく倒れる音が、会議室に響き渡った。


 気がつけば、幸臣の胸倉をつかんでいた。


「黙れ……この下衆が……‼︎」

「おちつけよ、おタマ。ここは会社で、オレは客だぜ?」


 幸臣は表情一つ変えず、瑤姫の両手を引き離す。


「……唐突すぎるぞ、幸臣。段階を踏んでくれ」


 万田が立ち上がり、瑤姫を近くの椅子に座らせる。

 その足元にひざまずき、ガタガタと震える手を握った。


「私たちは、土地をとり戻す手伝いをしたい。その代わり——」


***


 二宮幸臣の来社を知った太乙は、思わず会議室まで足を運んだ。


 会議室のドア越しに、わずかな声が漏れ聞こえる。


 太乙は立ち止まり、息を殺した。


 万田が幸臣を呼んだのには、なにか理由があるのだろう。

 十中八九、太乙にはメリットのない理由だ。


 しかし、瑤姫を巻き込む理由が分からない。

 姪に会うためだけなら、別にここでなくてもいい。


 あれこれ考えていた時——、


「……この下衆が……‼︎」


 怒声が、壁越しに突き刺さった。

 椅子が倒れるような音と、緊迫した気配。


 太乙は急いでドアノブに手をかけた。


 これ以上、瑤姫を一人にしておけない。


***


 会議室のドアが開く。


 姿をみせたのは、太乙だった。


「これはこれは! ダンナ君じゃないか!」


 幸臣が両手を広げながら立ち上がる。


 しかし、太乙は一瞥もくれず、真っ直ぐ瑤姫の元へ向かう。


「どけ」


 万田はスッとかたわらに退く。


「瑤姫、場所をうつすぞ」


 太乙は一声かけて、微動だにしない瑤姫を抱きあげた。


「共謀するなら、勝手にしろ。二度と瑤姫を巻き込むな」


 地を這うような声で言い捨て、太乙は後ろ手にドアを閉めた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ