表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/31

御曹司に空港で拾われました!? 契約結婚、はじまります!

  二宮 瑤姫たまきは、サンフランシスコ国際空港の発着案内板を見て、スーツケース片手に呆然とした。


(ウソでしょ⁉︎ 羽田行き、欠航⁉)


 頭の中で警報が鳴り響く。


 今日中に飛ばなければ、面接に間に合わない。

 創業百年の不動産会社へ転職すべく帰国するはずが、このままではホームレス行きだ。


(どうしよう、どうしよう! 別の便……いや、どれも満席! なんでホテル代ケチったの、私のバカ!)

 

 スーツケースを転がしながら、その場をぐるぐる回る。


 焦燥感で頭が真っ白になりかけたとき、不意に懐かしい日本語が飛びこんできた。


「……羽田行き、欠航……プライベートジェット……帰国は予定どおり……」


 ハッと顔をあげると、目の前に長身の男がいた。


 瑤姫より二十センチ以上高い身長、鍛えあげられた肩幅。

 体に吸いつくようなブラックスーツが、スタイルのよさを際立たせている。

 

 その隙のない佇まいは、一目で只者ではないことを物語っていた。


(この人なら……!)


「待って!」


 反射的に、男の腕を掴んでいた。


「私もそれに乗せて! お願いします!」


 一瞬、男の目が細められる。

 驚いたのか、それとも呆れているのか。

 

 次の瞬間、無言で瑤姫の手を振り払った。


「……ふざけるな」


 低く鋭い声。


 それでも瑤姫は怯まなかった。


「お願いします! 今日飛ばないと、人生が終わるんです!」


 男は冷たく見おろしながら、冷徹に一言。


「知るか」


 男はそのまま歩き去ろうとする。

 

 このままでは、チャンスを逃してしまう——。

 

 瑤姫は躊躇もなく、地面に飛び込んだ。


「お願いします! 一生のお願いです!」

「おい、やめろ!」


 男の足にすがりつく。


「絶対に今日、日本に帰らなきゃいけないんです!」

 

 男は苛立ったように足を振り払おうとするが、瑤姫は必死だった。

 

 すると、周囲の視線が集まり始める。


「彼女、相当困ってるみたいじゃない?」

「同じ国の人なんでしょ? 助けてあげたら?」


 四方から責めたてられた男は、観念したかのように両手を挙げて、深いため息をつく。


「……分かった。助けてやる。だから離せ」

「本当ですか!? ありがとうございます!」


 瑤姫は素早く立ち上がり、男の両手をがっしりと握る。


「ありがとう! みなさんもありがとう!」


 周囲の拍手が鳴りやまぬうちに、今度は瑤姫が男に手をひかれ、その場を離れた。


***


 連れていかれた先は、プライベートジェット専用ラウンジ。


(本当に乗せてもらえる……!)


 安堵のため息をつき、瑤姫は男に向き直る。


「あらためて、助けていただきありがとうございます! あの、お名前をお聞きしても?」


 青筋を浮かべる男は、無言で名刺をさし出した。


四条しじょう 太乙たいいつ……?」


(四条……? 面接を受ける会社と同じだ。しかも、取締役⁉)


 名刺と太乙の顔を交互に見ていると、冷たい視線が飛んできた。


「言いたいことがあるなら、さっさと言え」

「……あの、実は、御社に転職したくて、明日が面接なんです……」

「……受かると思うか?」

「……ですよね」


 肩を落とす瑤姫。


「履歴書を見せてみろ」

「えっ?」

「持っているだろ」

「あっ、はい!」


 慌てて鞄から履歴書を取り出し、深々と頭を下げながら渡す。


 ドキドキしながら太乙の様子を伺っていると、たちまち眉間に皺が寄る。


 履歴書は無言で突き返され、それ以降、太乙が口を開くことはなかった。


***


「四条さん! このご恩は一生忘れません! 本当にありがとうございました!」


 瑤姫は高級車に乗り込んだ太乙に、精いっぱいの感謝を伝える。

 

 だが、返事はない。


 バタン。


 ドアが閉まり、黒塗りの車は音もなく走り去っていった。


「……そっけなーい」


 転職先の取締役に無礼をはたらき、履歴書もつき返されたが、落ち込んでいるひまはない。


(ま、いっか! 今は面接に集中!)


 瑤姫は気を取り直し、大きく息を吸い込む。


「よーし! 面接、がんばるぞー!」


 そう意気込んだ瞬間、スマートフォンが震えた。


(えっ、誰だろう?)


 画面を見ると、知らない番号。

 不審に思いながらも通話ボタンを押す。


「……はい」

『二宮瑤姫さんでしょうか? 採用面接について、お伝えしたいことがあります』


 心臓がドクンと高鳴った。


(えっ、まさか、もう不採用⁉)


 太乙の顔が脳裏をかすめる。


 しかし電話の内容は、面接時間の変更だった。


 電話を切り、時間を確認する。


「いや、残り時間、三十分もないけどー⁉」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ