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月曜日の憂鬱②



 今は週の開催曜日も決定して、前回のおさらいも一通り終わった所。前の話し合いでは、確か直哉なおやはユーチューブで有名になって、将来的に政治家になるって話だっけと充希みつきが回想を口にする。

 それをすかさず否定する直哉、さすがに全て受け入れはムリ。


 自分の将来が、破天荒に決定されるのは断固拒否しないと。何しろ基哉もとなりはともかく、充希や和也は真面目顔でそんな提案をして来るのだ。

 別に直哉は、自分の中では学びの道を完全に断ち切った訳では決してない。なのに何故か、彼等は学校に行かないのなら就職だなと、そっちのルートばかりを指し示して来るのだ。


 確かに部屋に引きこもって、この10日間真面目に自宅勉強していたかと問われれば返答に詰まる直哉である。だからと言って、いきなりなりたくもないユーチューバーになど就職したくはない。

 そもそも、それでバズって上手く行く未来など全く想像は出来ない。例え充希や基哉がヘルプしてくれても、ハイテンションでの動画撮影など自分には無理!


 ましてやその後に華麗に転身して、政治家の道ってナニって感じ。人の人生で遊ばないで欲しいと思うが、確かに直哉も友人がそれを目指すと言えば楽しそうって思うかも。

 そう思っていたら、各々の座る位置も決まった同級生が輪になって、そろそろ本題を始めようかって雰囲気に。今回の充希は、直哉が勉強机の前に座っているので、大人しく窓際に腰掛けている。


 同席した直哉の母親に座布団をすすめられ、居心地は決して悪くない筈。ちなみに基哉と母親も同じく座布団に腰掛けて、和也のみベッドを椅子代わりにしている。

 それからやっぱり、近くの本棚をあさり始めてあまり集中しているようには見えない。それを無視して、基哉を議長に今日の話し合いが始まった。


「さて、前回のおさらいも終わったし……まずは何から話し合おうかな、ガンちゃん? まぁ建設的な話は後回しにして、最初に井ノ原君の漫画かアニメ関係の軽い話から入った方がいいかな。

 その方が、場も和むし直哉も話に入りやすいだろう」

「ふむっ、まずは場を和ませてから意見交換のパターンて行く訳か。良いかも知れないな、それじゃあ井ノ原から話題を提供してくれ。

 土日の休みを有効活用して、何かネタを集めて来てくれたんだろう?」

「うん、まぁ……幾つかネタになるかなって漫画とかアニメ、一応は土日で目星をつけて来たけどさ。ただし、これが今の直哉君の為になるかって言われると、かなり微妙かも?

 まぁ、話題の提供に関しては頑張る予定だけどさ」


 自信なさげに話す和也だが、話し合いへの参加は頑張るよと取り敢えず前向きな姿勢を表明する。それから、何から話そうかなと自分の中で話題を選択する素振り。

 そんな中、突然家のチャイムが鳴り響いて、直哉の母親がハーイと反応する。今日の会議でも同伴していた直哉の母親は、誰かしらとおもむろに席を立った。


 どうやら来客らしいが、そんな事など関係無いと2階の一室の話し合いは続行される。特に常識派の基哉もとなりは、週に何度も直哉の部屋に集まる現状をあまり良くは思っていなかった。

 さすがに議会も3日目なのだ、そろそろきっちりとした筋道を定めないと。




 そんな感じで話し合っていると、何故か更にこの場のカオス度を増すイベントが巻き起こった。それは充希や基哉にも予想すら出来なかったようで、で驚き顔の2人である。

 直哉の母親が部屋へ連れて来たのは、やはりかつての4年6組の同級生だった。しかも基哉と同じく、学級委員長を受け持っていた頭脳明晰(めいせき)な女生徒である。


「は~い、みんなっ……何か内緒で集まってるって聞いて、それならって寄ってみたんだけど。元4年6組のピンチって、ガンちゃんもがラインで呟いてたし。

 そんな訳で、私も放課後に時間が空いてたから参加する事にしたの。邪魔とは言わせないわよ、私もチームの一員に加えて頂戴っ!」

「おわっ、佐原さはらか……えっ、どうやってこの場所を嗅ぎつけたんだ?」

「まぁ、俺がグルーブラインで週末に呟いたのは確かだな。朋子ともこもそれを読んだのか、それにしても真っ先に反応するとは思わなかったが。

 いやしかし、直哉なおやの案件までどうやって辿り着いたんだ?」


 詳細はラインに載せなかったのに、どうやってこの会合を聞き及んだのだろうか。充希は呆れた表情だが、朋子はこの場の雰囲気に直面しても涼しげな顔付きだ。

 面識のない和也が、どちら様と素っ頓狂とんきょうな質問を投げかける。


 それに応じて、ようやく扉の前で仁王立ちの朋子は一度頷いてから部屋へと入り込んで来た。それから4年6組の危機だと聞いて来たわと、自己紹介を簡潔に述べる。

 名前は佐原さはら朋子ともこで、前述した通りに元は充希や基哉の同級生である。今は聖和華せいわか女学院に通っている、現役女子高生だそうな。


 聖和華せいわか女学院は地元ではかなりの知名度で、入学するのも割と大変だ。偏差値もそうだけど、女子高だけあって妙なブランドまで付与される始末。

 それはともかく、この地元からも割と近いので基哉の七都万ななつま高校よりは通いやすい。広島市の端にあるこの町は、中央へのアクセスはやや大変なのだ。


 その後ろからは、直哉の母親がちょっと留守にするわねとコメントが飛んで来た。どうやらお客さんの増加に、お持て成しのケーキの買い足しに出掛ける模様。

 お構いなくと愛想よく口にする朋子だが、自らは遠慮せず直哉の部屋に入り込んで既に腰掛けていた。その無遠慮な仕草は、少女のパワフルさを想起させる。


 事実、元4年6組の頃の朋子は物凄くアグレッシブな性格であった。それを知る充希や基哉は、ちょっと警戒するように着席した朋子を眺めている。

 何と言うか、可愛いけど引っき癖のある小猫に対するような。


「おおっ、見た事のある制服だと思ったら……あっ、俺は井ノ原(いのはら)和也(かずや)と言う名前で、岩尾っちと同じ東雲一高に通ってます。今学期から岩尾っちのクラスメイトで、その縁でここにいる感じ?

 いやしかし、何とも予期せぬビックリな展開かも」

「自己紹介をどうも、井ノ原君……ところで大まかな話の流れは、ある筋から聞き及んで把握しているわ。どうぞ話を進めて頂戴、今日から私も都合がつけば参加する予定だから。

 何しろ4年6組の危機だもの、当然放っておけないわよね」

「いや、朋子……どっからこの場所を聞いて来たんだ、本当に」


 それにはノーコメントを貫く、元4年6組の同級生である。和也は素直に、この初対面の女の子の可憐さに感心していた。メッチャ好みだが、当の彼女は真っ直ぐ充希を目指してその隣に腰を下ろしている。

 その座った姿勢も、りんと背筋が伸びていて美しい。長く伸ばした黒髪と合わさって、何とも和風の魅力を醸し出している。ただし、くっ付かれた充希みつきは割と迷惑そう。


 確かにアクはやや強そう……過去に何かあったのか、充希は彼女を苦手にしている印象を受ける。そんな朋子は澄まし顔で、会議の続きを皆にうながしている。

 相変わらず当人の直哉は置いてけ堀だが、何と言うかそれが通常化しているカオス振り。そして基哉は、仕方なく今までの流れをもう一度朋子に説明し始めた。



 その中心にいる筈の、当人の直哉は部屋の主なのに肩身がとっても狭そう。それを含めて常態化している最近の浦浜家の一室だが、これもそろそろ迷惑を考え始めた方が良いかも。

 そんな事を考える基哉は、この中では一番まともな精神の持ち主なのかも。週に何度も集まって、お茶とケーキをおよばれするのもそろそろ限界な気がする。


 しかも、いつの間にやら人数も増えて仲間が4名になっている始末。最初は充希だけ呼んだ筈なのに、どう転べばこうなるのだろうか?

 それでも丁寧に説明を終えた基哉に、朋子はなる程と頷いて要領を得たって顔付きに。それから少し考えて、部屋の主に対して言葉をつむぎ始めた。


「なるほどね、事情を無視して強引に復学しろってのも確かに乱暴な話よね。それが出来たら、ニートの数がこんなに膨れ上がってないんだし。

……えっと、最新のデータで何人だったかしら?」

「ニートの定義で若干のブレがあるけど、まぁ一般的には70万人以上はいるって話だ。失業者とか無業者のくくりにすると、この数はもっと多くなるかな。

 高校性の直哉を含まない小中学校の『不登校』のくくりだと、35万人程度だったかな。ニートの定義は15歳以上だから、この数を足すと広島市の人口を超えちゃうかもな」

「なるほど……それでガンちゃんは、直哉君だけでなく全てのニートの救済方法を模索しようって、この定例会議を立ち上げた訳よね?

 さすがだわ、特にニー党の話には感銘を受けたわ」





 ――そのセリフに、本気なのかと周囲の視線が朋子に集まるのだった。







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